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吾妻晶と清野早苗(第6話)

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 二人の「野外公演」は、大絶賛の末に無事閉幕した。

 春奈や多くの蟲達に見送られつつ、神社を後にする。いつか「春の領域」まで来る機会があれば、また寄ってみることにした。

 気のいい連中に見送られながら、再び枝内部を散策することにする。枝の中では、巨大な天窓があるエリアに差し掛かった。

 葉の場所にもよるが、葉の上の居住エリアで暮らしている晶たちにとって、空が見えるというのは普通のことであり、別段珍しいわけではない。ただ、枝の住民たちにしてみれば、空を見上げることができる場所が限られており、この場所のように枝の上部側をくりぬいて特殊強化ガラスがはめ込まれた天窓地帯しか太陽や月を見る機会はない。

 この特殊強化ガラスはちょっとやそっとのことでは破ることはできない。物理強度だけの問題ではなく、魔法耐性もある素材が使われている。ゆえに、簡単には外部の害蟲も入ってくることができないのだ。

 普段から見慣れている空だが、ここから見上げれば、また違った風情も楽しめるのだろうかー。

 などと、晶が物思いにふけっていると、

「あれ、ここに学校があるよ」

 早苗の指さした方向には、確かに旧文明時代を彷彿とさせる作りの学校と呼ばれている建物があった。

「そういえば、清野は学校に通っているんだったな」

 前文明時代とは異なり、現在の社会において、集団教育は一部の例外を除いて行われてはいない。しかも、前文明時代において通学は半ば強制的なものだったらしいが、今は完全に個人の選択制だ。要するに、希望者だけが学校に通っているというわけだ。

 一応、前文明時代に倣ったカリキュラムなどもあるらしく、義務教育というよりは「前文明時代の生活体験」をしたい生徒達が通う形となっている。

 早苗は、生まれつき環境適応力が高く、どんな環境であってもすぐに適応し、周囲の人間とも馴染むことができた。その彼女からしてみれば、学校という施設は面白いらしい。

 まあ、どんな場所にでも馴染んでしまうからな、清野はー。

 晶は、早苗から学校での様子をしばしば聞かされていたが、はっきり言って彼には何がいいのかさっぱり理解できなかった。いいというか、自分にはそういう生活が耐えられないと思ったものだ。

 わざわざ時間を浪費して、やることと言ったら座学と運動・・・何かの強制収容所かと思ったくらいである。しかも、前文明時代の人間はこの施設で十数年を過ごすというのだ。

 さらにわからないのが、年齢によって通う場所が変わるということだ。具体的には小学校、中学校、高校、大学・・・といった具合に。このうち、高校、大学に関しては一応「本人の希望」ということにはなっているが、「進路」なるものにより半強制的に通うことになるらしく、自分の「希望」の高校や大学に入るために、ひたすら勉強をさせられるというのだ。しかも、ほとんどの場合座学の良しあしで「偏差値」なるものが決められ、それによりどこを目指すのかというのが決まってくるらしい。

 つくづく自分には合わない制度だと思った。前文明時代に生まれなくてよかったーと心底感じた晶であった。

「晶君・・・」

「パス」

「まだ何も言ってない!」

 早苗が「何か」を言いかける前に、その話題を「パス」することにする。早苗が少し膨れるが、関係ない。

「学校行こうよ、楽しいよ晶君」

 ・・・思った通りの内容だった。以前から、早苗に体験入学を勧められているのだ。もちろん、毎回断っているが・・・。

「オレには合わない、ああいう雑多な人間が集まるような場所は」

 溜息交じりに晶は答えた。実際、彼は雑多な人間が集まるような場所はあまり好きではない。ましてやそこで共同作業や競争などは向いていない。

「うう~、楽しいと思うんだけどな~」

 納得いかない感じの早苗だが、行く気がまるでわかないので仕方がない。

「それより早く「春の領域」へ行くぞ。さっきの神社で、けっこう時間を食ったしな」

 これ以上この話を続けられてはかなわんと、さりげなく「春の領域」を持ち出して話題を変更する。

「それもそうだね」

 早苗も渋々従う。

 ーー

 そんな2人の姿を、はるか後方から見つめる存在があった。神社の辺りからあとをつけてきたようだ。変わった追跡者の存在に、まだ2人は気が付いていなかった。

「ふふふ・・・」

 何者かが不敵に笑う。

 果たして2人の後を追うこの存在は何者なのかー。

 それはこれから明らかとなるだろう。

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