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吾妻晶と清野早苗(第3話)
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久しぶりの枝内部である。「春の領域」へ行くついでに、晶と早苗は色々と見て回ることにした。
枝ーといっても、そこは大地を支える大樹《ユグドラシル》なだけあって、巨大なトンネルといっていいほどの大きさを誇っていた。外部から光を取り込むために、巨大な天窓や強化ガラスの窓がつけられており、そこから大樹の外の様子を窺うこともできる。とはいえ、安全確保のため、外を見る場所は窓から少し離れている。魔力によるコーティングがされているので、簡単に破られる代物ではないが、万が一のことも考慮されており、一般人は近づけないように柵がされている。見える範囲は柵の内側だけである。したがって、大樹の真下を見ることはできない。見ることができるのは、あくまでも空と砂漠の遠くの方、地平線の彼方くらいだけだ。
言われている通り、外は見渡す限りの砂漠だった。ところどころ、大型移動施設ー巨大な昆虫の姿をした移動都市だーが行きかう光景が見られるだけで、砂以外は何もない世界だ。
現在の世界は、砂漠化した大地の至る所に大樹が点在し、その周りに重力制御魔法の結果誕生した浮島、そして昆虫や動物の姿に似せた移動都市が活動している。
当然ながら、大樹にも浮島にも移動都市にも人々は住んでいる。どの場所に住むかは個人の自由だ。一応住民登録は必要ではあるが、「国家」というものが存在していた前文明時代と比べて、かなり移動の自由が保障されている。国境という概念もない。ただ、各チームごとの「属領」といういわゆる縄張りに近い概念のものはある。とはいえ、それは明確に場所が定められたものではなく、そこは前文明時代と一線を画しているといえる。
外の世界は、実際には砂漠ばかりではなく、はるか彼方には海も存在するらしいが、生憎普通の住民たちにとって、そこまで行くだけの移動手段も理由もなかった。もちろん、それは晶や早苗ほか、チーム《ユグドラシル》の面々にも当てはまる。晶と早苗は、海というものを直接見たことはなく、あくまでも前文明時代が残した記録映像でしかその存在を知らない。
晶は、枝の窓の外を覗き込みながら、前文明時代、果たしてこの砂漠は昔からそうだったのかー?
などと物思いにふけっていると、ある建物が目に留まった。
ここはー。
前文明時代の日本という国の「神社」という建物だ。そして、そこには、なんと蟲達がいた。
「あれは・・・益蟲達か」
蟲とは言え、人に害をなすものではなく、それどころか人々と親し気に会話したりしている。何となく、前文明時代の日本に例えれば、「物の怪」と戯れる人々といった感じに見えた。
容姿は様々だ。人間と見分けがつかないもの(魔力の波動で蟲か人間かは判断できる)や前文明時代が残した神話や伝説に出てくるような、架空の動物たちによく似たものなど、多様多種な蟲が神社に集まり、神社の巫女と楽し気に会話している。
「楽しそうだねえ、蟲さん達」
晶の視線に早苗も気が付いたのか、その光景を微笑ましく見守っていた。
たまにはこういうのも悪くはない。どうも害蟲駆除ばかりやっていると、先入観で蟲を見てしまいがちとなるが、人間にも善悪があるように、蟲にもまた善悪がある。人間とも共存していける種族もいるのだ。
「そうだ、晶君」
「ん?」
早苗が何か思いついたらしく、晶の着物の裾を引っ張りながら、
「ここで舞をしてみない?」
「・・・は?」
どうやら、ここで花見の時にやるつもりだった舞をやりたいらしい。
「ここでか?」
「うん」
早苗はすでに扇を取り出して踊る気満々だった。期待に満ちた目で晶を見つめる。
まあ、断ったところで引き下がるような早苗でもないし、それに、ここに集まっている蟲達にならウケるかもしれない。もっとも、神社で勝手に舞をやっていいのかくらいは近くにいる巫女さんに確認した方がいいだろう。
軽くため息をついて見せるが・・・実は晶自身も乗り気だったりする。
「そうだな、「春の領域」に行く前に軽く練習でもするか」
晶は、懐から笛を取り出した。
こうして、2人は蟲達を前に一曲披露することとなったー。
枝ーといっても、そこは大地を支える大樹《ユグドラシル》なだけあって、巨大なトンネルといっていいほどの大きさを誇っていた。外部から光を取り込むために、巨大な天窓や強化ガラスの窓がつけられており、そこから大樹の外の様子を窺うこともできる。とはいえ、安全確保のため、外を見る場所は窓から少し離れている。魔力によるコーティングがされているので、簡単に破られる代物ではないが、万が一のことも考慮されており、一般人は近づけないように柵がされている。見える範囲は柵の内側だけである。したがって、大樹の真下を見ることはできない。見ることができるのは、あくまでも空と砂漠の遠くの方、地平線の彼方くらいだけだ。
言われている通り、外は見渡す限りの砂漠だった。ところどころ、大型移動施設ー巨大な昆虫の姿をした移動都市だーが行きかう光景が見られるだけで、砂以外は何もない世界だ。
現在の世界は、砂漠化した大地の至る所に大樹が点在し、その周りに重力制御魔法の結果誕生した浮島、そして昆虫や動物の姿に似せた移動都市が活動している。
当然ながら、大樹にも浮島にも移動都市にも人々は住んでいる。どの場所に住むかは個人の自由だ。一応住民登録は必要ではあるが、「国家」というものが存在していた前文明時代と比べて、かなり移動の自由が保障されている。国境という概念もない。ただ、各チームごとの「属領」といういわゆる縄張りに近い概念のものはある。とはいえ、それは明確に場所が定められたものではなく、そこは前文明時代と一線を画しているといえる。
外の世界は、実際には砂漠ばかりではなく、はるか彼方には海も存在するらしいが、生憎普通の住民たちにとって、そこまで行くだけの移動手段も理由もなかった。もちろん、それは晶や早苗ほか、チーム《ユグドラシル》の面々にも当てはまる。晶と早苗は、海というものを直接見たことはなく、あくまでも前文明時代が残した記録映像でしかその存在を知らない。
晶は、枝の窓の外を覗き込みながら、前文明時代、果たしてこの砂漠は昔からそうだったのかー?
などと物思いにふけっていると、ある建物が目に留まった。
ここはー。
前文明時代の日本という国の「神社」という建物だ。そして、そこには、なんと蟲達がいた。
「あれは・・・益蟲達か」
蟲とは言え、人に害をなすものではなく、それどころか人々と親し気に会話したりしている。何となく、前文明時代の日本に例えれば、「物の怪」と戯れる人々といった感じに見えた。
容姿は様々だ。人間と見分けがつかないもの(魔力の波動で蟲か人間かは判断できる)や前文明時代が残した神話や伝説に出てくるような、架空の動物たちによく似たものなど、多様多種な蟲が神社に集まり、神社の巫女と楽し気に会話している。
「楽しそうだねえ、蟲さん達」
晶の視線に早苗も気が付いたのか、その光景を微笑ましく見守っていた。
たまにはこういうのも悪くはない。どうも害蟲駆除ばかりやっていると、先入観で蟲を見てしまいがちとなるが、人間にも善悪があるように、蟲にもまた善悪がある。人間とも共存していける種族もいるのだ。
「そうだ、晶君」
「ん?」
早苗が何か思いついたらしく、晶の着物の裾を引っ張りながら、
「ここで舞をしてみない?」
「・・・は?」
どうやら、ここで花見の時にやるつもりだった舞をやりたいらしい。
「ここでか?」
「うん」
早苗はすでに扇を取り出して踊る気満々だった。期待に満ちた目で晶を見つめる。
まあ、断ったところで引き下がるような早苗でもないし、それに、ここに集まっている蟲達にならウケるかもしれない。もっとも、神社で勝手に舞をやっていいのかくらいは近くにいる巫女さんに確認した方がいいだろう。
軽くため息をついて見せるが・・・実は晶自身も乗り気だったりする。
「そうだな、「春の領域」に行く前に軽く練習でもするか」
晶は、懐から笛を取り出した。
こうして、2人は蟲達を前に一曲披露することとなったー。
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