19 / 464
ユグドラシルの双子の主・和泉奏多(第11話)
しおりを挟む
ーー吾妻晶視点ーー
「これで終わりだ」
奏多さんはそう言い放つと、蟲にとどめを刺すべく魔力を集中し始めた。さすがに彼の魔力は桁違いだ。これならば、まともに食らえば、例えこの巨大な蟲でもひとたまりもないだろう。
おそらく奏多さんは、屋敷や蔵、周囲の林への影響を最小気に抑える形でこいつに引導を渡してくれるはずだ。そのために、魔導書を多数配置し、相手の行動範囲を狭めたのだから。
これで、こいつともようやくおさらばできる。
さすがに、いつまでもこんなのと暮らすわけにもいかない。そもそもオレの張った結界は、いつ内部から壊されてもおかしくない状況だった。
奏多さんの全身から魔力が放たれる。その魔力の圧倒的な波動を実感し、これですべてが終わると確信した膨大な魔力が、ほとんど棒立ち状態といってもいい蟲と文字「達」を貫き、消滅させていく。これには相手の複写も間に合わないだろう。そもそも、魔導書の文字による反発力のおかげで、思うように複写もできない状態に追い込まれているはずだ。
全身を消し去ってしまえば、そもそも「核」の位置がわからずとも倒すことができる。これで完全に決まりだ。
蟲の体を構成していた文字「達」が、膨大な魔力の輝きの前にかき消されていく。すると、上部-少し右側あたりに、ひときわ黒く目立つ毛玉のようなものの姿が見て取れた。これが、やつの本体であり、「核」だった。
とはいえ、もはや関係はない。蟲の本体は、奏多さんが放った魔法の前になすすべもなく消滅させられた。
「ふう」
思わず、安堵のため息がこぼれ出た。これで、この屋敷や近くのコミュニティに影響が出ることはない。
もっとも、今回の一件で、我が家の蔵書のうち、魔導書以外の本の文字が失われてしまったということについては、読書家としては嘆くべきなのかもしれないが・・・やはりこの事件を解決してくれた奏多さんには感謝の念しかない。
「やりましたね」
オレは奏多さんの方に駆け寄ると、
「ありがとうございました、オレ一人ではもうどうすることもできませんでしたよ」
実際に、オレ一人ではせいぜい相手の動きを封じ込めておくくらいしかできなった。
「いや、それを言うなら僕の方こそ、君の結界術がなければ、こいつを今まで封じ込めておくことはできなかっただろうし、周囲への被害を未然に防いでくれていたのは何よりもありがたかった」
逆に、今度は奏多さんからお礼を言われてしまった。
「もし、こいつがここを離れて他のコミュニティに向かっていたら、まず間違いなく被害は拡大していただろうしね。君の力がそれを防いだんだ」
なんだか照れくさい限りである。
「しかし・・・それにしても魔導書の文字それ自体に反発するとは、なんか蟲の世界ってよくわからないですよね」
「そうだね」
と、同意する奏多さん。
「長いこと害蟲駆除やっているけど、僕にもいまだにわからないことだらけだ」
別に謙遜しているというわけでもないようだ。今回のケースは、彼にとってもレアケースだったということか。
「とにかく、今回の一件はこれで終わりだね。もう二度とこういうことが起きないように、一応屋敷に蟲除けの札でも貼っておくかな」
「ありがとうございます」
「おっと、その前に」
奏多さんは、蟲を倒した後も空中に浮かんだままの魔導書を操作し、そのまま地面へと降ろした。
「まずは、後片付けしないとね」
「そうですね」
魔導書のことをすっかり忘れていたが、持ってきた魔導書の回収や蔵の中の確認など、まだまだやることがある。それらを全て片付けてからこの一件は終了だ。
オレは、とりあえずさっきの魔導書を書斎に戻すため、屋敷へと向かうことにした。蔵の中については後回しとなりそうだー。
「これで終わりだ」
奏多さんはそう言い放つと、蟲にとどめを刺すべく魔力を集中し始めた。さすがに彼の魔力は桁違いだ。これならば、まともに食らえば、例えこの巨大な蟲でもひとたまりもないだろう。
おそらく奏多さんは、屋敷や蔵、周囲の林への影響を最小気に抑える形でこいつに引導を渡してくれるはずだ。そのために、魔導書を多数配置し、相手の行動範囲を狭めたのだから。
これで、こいつともようやくおさらばできる。
さすがに、いつまでもこんなのと暮らすわけにもいかない。そもそもオレの張った結界は、いつ内部から壊されてもおかしくない状況だった。
奏多さんの全身から魔力が放たれる。その魔力の圧倒的な波動を実感し、これですべてが終わると確信した膨大な魔力が、ほとんど棒立ち状態といってもいい蟲と文字「達」を貫き、消滅させていく。これには相手の複写も間に合わないだろう。そもそも、魔導書の文字による反発力のおかげで、思うように複写もできない状態に追い込まれているはずだ。
全身を消し去ってしまえば、そもそも「核」の位置がわからずとも倒すことができる。これで完全に決まりだ。
蟲の体を構成していた文字「達」が、膨大な魔力の輝きの前にかき消されていく。すると、上部-少し右側あたりに、ひときわ黒く目立つ毛玉のようなものの姿が見て取れた。これが、やつの本体であり、「核」だった。
とはいえ、もはや関係はない。蟲の本体は、奏多さんが放った魔法の前になすすべもなく消滅させられた。
「ふう」
思わず、安堵のため息がこぼれ出た。これで、この屋敷や近くのコミュニティに影響が出ることはない。
もっとも、今回の一件で、我が家の蔵書のうち、魔導書以外の本の文字が失われてしまったということについては、読書家としては嘆くべきなのかもしれないが・・・やはりこの事件を解決してくれた奏多さんには感謝の念しかない。
「やりましたね」
オレは奏多さんの方に駆け寄ると、
「ありがとうございました、オレ一人ではもうどうすることもできませんでしたよ」
実際に、オレ一人ではせいぜい相手の動きを封じ込めておくくらいしかできなった。
「いや、それを言うなら僕の方こそ、君の結界術がなければ、こいつを今まで封じ込めておくことはできなかっただろうし、周囲への被害を未然に防いでくれていたのは何よりもありがたかった」
逆に、今度は奏多さんからお礼を言われてしまった。
「もし、こいつがここを離れて他のコミュニティに向かっていたら、まず間違いなく被害は拡大していただろうしね。君の力がそれを防いだんだ」
なんだか照れくさい限りである。
「しかし・・・それにしても魔導書の文字それ自体に反発するとは、なんか蟲の世界ってよくわからないですよね」
「そうだね」
と、同意する奏多さん。
「長いこと害蟲駆除やっているけど、僕にもいまだにわからないことだらけだ」
別に謙遜しているというわけでもないようだ。今回のケースは、彼にとってもレアケースだったということか。
「とにかく、今回の一件はこれで終わりだね。もう二度とこういうことが起きないように、一応屋敷に蟲除けの札でも貼っておくかな」
「ありがとうございます」
「おっと、その前に」
奏多さんは、蟲を倒した後も空中に浮かんだままの魔導書を操作し、そのまま地面へと降ろした。
「まずは、後片付けしないとね」
「そうですね」
魔導書のことをすっかり忘れていたが、持ってきた魔導書の回収や蔵の中の確認など、まだまだやることがある。それらを全て片付けてからこの一件は終了だ。
オレは、とりあえずさっきの魔導書を書斎に戻すため、屋敷へと向かうことにした。蔵の中については後回しとなりそうだー。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
【短編】婚約破棄したので、もう毎日卵かけご飯は食べられませんよ?
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ふふん♪ これでやっとイチゴのタルトと、新作の二種類の葡萄のトライフル、濃厚プリンが食べられるわ♪)
「もうお前の顔を見るのもウンザリだ、今日限りで貴様とは婚約破棄する!」
(え?)
とあるパーティー会場での起こった婚約破棄。政略結婚だったのでアニータはサクッと婚約破棄を受け入れようとするが──。
「不吉な黒い髪に、眼鏡と田舎くさい貴様は、視界に入るだけで不快だったのだ。貴様が『王国に繁栄を齎すから』と父上からの命令がなければ、婚約者になどするものか。俺は学院でサンドラ・ロヴェット嬢と出会って本物の恋が何か知った! 」
(この艶やかかつサラサラな黒髪、そしてこの眼鏡のフレームや形、軽さなど改良に改良を重ねた私の大事な眼鏡になんて不遜な態度! 私自身はどこにでもいるような平凡な顔だけれど、この髪と眼鏡を馬鹿にする奴は許さん!)
婚約破棄後に爆弾投下。
「我が辺境伯──いえトリス商会から提供しているのは、ランドルフ様の大好物である、卵かけご飯の材料となっているコカトリスの鶏生卵と米、醤油ですわ」
「は?」
これは鶏のいない異世界転生した少女が、あの手この手を使って再現した「卵かけご飯」のお話?
【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした
仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」
夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。
結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。
それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。
結婚式は、お互いの親戚のみ。
なぜならお互い再婚だから。
そして、結婚式が終わり、新居へ……?
一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる