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ユグドラシルの双子の主・和泉奏多(第10話)

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ーー奏多視点ーー

 再び、晶君は屋敷に戻っていった。もちろん、僕は僕でやれることをやるだけだ。

 この蟲は、魔導書の文字に対して、どうやら強い反発力を感じるようだ。現に、今までは積極的に動き回っていたのが、ろくに身動きできなくなってきている。

 いや、こちらに何とか攻撃しようとはしているようだが、そのたびに「何か」に弾かれているのが見て取れる。多分、魔導書の文字そのものが帯びている魔力に反発され、手出しができないのだろう。

 あとは、相手の動きを完全に封じ込めてしまえれば・・・。

 ・・・。

 少し余裕が出てきたので、今一度地面に広げられた魔導書に目を通してみることにする。魔導書には、それに対応した魔法が発動できるように魔力が込められている。例えば、炎の魔法を使う場合は、炎属性の魔力を帯びており、それゆえ魔力を持たない者でも魔導書さえあれば炎属性の魔法を扱うことができるようになる。当然ながら、他の属性でも勝手は同じだ。

 改めて、地面に置かれた魔導書を確認することにする。今ここに7冊くらいあるが、魔導書の放つ魔力の波動から察するに、炎が2冊、水が1冊、風が1冊、光が3冊といったところだ。光属性の魔導書が多いものの、蟲の反応を見るに、光属性だけに反発しているというわけでもなく、どうやら魔導書の文字それ自体に反発しているということが窺える。

 今、晶君がさらに魔導書を持ってきたとしても、おそらく同じだろう。つまりは、魔法の属性自体は直接関係ないようだ。

 ならばー。

 僕は、7冊の魔導書に浮遊魔法をかけた。地面ではなく、より蟲の近くに魔導書を配置するためだ。こうすることで、さらに蟲の動きを制限できるはずだ。このくらいの簡単な魔法であれば、魔力を持つ者なら子供でもたやすくできる芸当だ。

 もちろん、あまり近づけすぎても危険だ。反発力同士の作用によって、どんな行動に出るのかもわからないからだ。

 僕は、蟲の周囲に7冊の魔導書を浮遊させ、じわりじわりと相手の行動範囲を狭めていった。相手ももがくが、反発力の檻に囚われて、結局は広い範囲を行動できない。例えるのなら、棒立ちに近い状況といったところだろうか。

「奏多さん、お待たせしました!」

 晶君が、さらに数冊魔導書をもって駆けつけてくれた。多分、これだけあればもう十分だろう。

「ありがとう、これだけあれば、何とかできそうだよ」

 晶君が追加で持ってきた魔導書に目を向ける。今度の属性は、炎、雷、氷、土、闇、光、そして、珍しいことに時属性のような上位属性まである。

 僕は、試しに上位属性である時属性の魔導書を開いて、蟲の近くに配置した。やはり反応している・・・そして、反発の具合もさらに増したようだ。どうやら、上位属性の方が反発力は大きいようだ。それ以外の属性ではほとんど差は感じられなかった。

 なかなか面白い特徴の蟲である。こいつが害蟲でなかったら、ぜひとも飼育して研究対象にしたいくらいだ。

 ・・・などと、害蟲駆除チームのマスターらしからぬ考えが頭をよぎってしまった。とにかく、今は目の前のこいつを何とかしなければ・・・。

 残りの魔導書も、同じように蟲付近の空中に浮かべて配置する。これでさらに、相手を締め付けることができる。

 こうなると、蟲の方も出口は上しかなくなる。だが、僕はそれも見越して、既に配置していた魔導書のうち2冊を蟲の上空に浮かべ直した。さすがに、地面を掘って地下に逃げる・・・みたいな芸当はできないようだ。仮にそれができたとしても、その前に僕がこいつを倒すだろう。

 これでもはや、敵は袋のネズミも同然である。

「ここまで相手の活動範囲を抑えられればこっちのものだ」

 あとはこいつを退治するだけだ。周囲の逃げ道を塞がれ、ほぼ圧縮に等しいこいつの「核」なら、探すのにもそんなに手間はかからないだろう。

 もはや、文字を複写する暇さえ与えるつもりはない。一気に消し去るまでだ。相手の「規則制限」は、あくまでも「核」の位置を悟られないことであり、「核」自信を壊されないことではない。弱点がわからないのであれば、結局はことごとく消し去るしかないだろう。

「これで終わりだ」

 僕は、目の前でもがき続ける蟲に言い放つと、こいつにとどめを刺すために、魔力を集中し始めたー。
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