上 下
11 / 464

ユグドラシルの双子の主・和泉奏多(第3話)

しおりを挟む
ーー晶視点ーー

 害蟲駆除専門の方が来てくださったのは幸いだった。

 何せ、オレの能力では蟲が外に出ないように屋敷に結界を張るのが精いっぱいで、倒すのは無理だからだ。

 もちろん、武術系の術の心得がないわけではない。並の蟲ならオレでも何とかなる。ただ、こいつは本の「文字そのもの」を食って、今や蔵の中から溢れんばかりの存在となっている。そりゃ、書籍に書かれた文字数ともなれば莫大なわけで、それらを吸収して力を蓄えているのだから、とてもオレの手には負えないだろう。

 姉さんと爺さんには親戚の家に避難してもらったが、オレがいつまでこいつらを抑えていられるか内心焦りを感じていたところだ。

 というわけで、ここは素直に、専門家である和泉さんの手を借りることにしよう。

「こちらです、和泉さん」

 蔵のある庭へと案内しようとする。

「奏多でいいよ、晶君」

「では・・・奏多さん、こちらです」

 オレは和泉さんー奏多さんを庭へと案内した。

 ーー

 庭から蔵のある林の方に案内する。自分でいうのもなんだが、この屋敷は結構広い。蔵がある場所も、実は母屋から結構離れている。もっとも、今は蔵の中に蟲を封じ込めているため、母屋から離れているのはある意味好都合かもしれない。

 林の半ばで蔵にたどり着く。かなり古い蔵で、外壁の塗装が一部剥げていたりする歴史を感じさせるといえばそうだが、屋敷自体はそれほど朽ちてはおらず、蔵だけが古めかしいというのも違和感があったりする。

 だからと言って今のところ補修する予定はないのだが。

「この蔵に例の蟲を閉じ込めています。二重結界にしているので、簡単には出られないかと思いますが・・・」

 ただ、相手がどれだけの力を蓄えているかで状況が違ってくるはず。封じ込めてから1週間近くが経過した。この間、こいつは自身が食らった文字により、さらに巨大化や群生化している可能性もある。そうなれば、この結界と手無事では済まないだろう。

「これは・・・結界が一部弱まっているね」

 事実、今結界を確認してみると、あちこちにひびが入っているようだった。おそらく、蔵の中の蟲の魔力が増大化して、蔵の外に張り巡らせた二重結界にも影響が及んでいるためだろう。

 このままでは、あと数日以内に結界が破られる可能性が高い。今のうちに何とかしなければ、この屋敷どころか、付近にも影響が及んでしまう・・・。

「このまま結界を破られるようなことがあれば、周囲のコミュニティにも悪影響が出ます。とはいっても、オレにできることと言ったらせいぜい閉じ込めることくらいで、この有様ですよ」

 自嘲気味に説明する。自分の無力さというものを痛感するばかりだ。

 確かに結界術というのは、守りや抑制においては高い効果をもたらす。ただ、相手を倒すための力ではないため、根本的な解決策とはなりえない。状況にもよるが、結局は一時しのぎとなってしまうのだ。

「いや、これだけの結界を作ることができて、しかもこのレベルの蟲を閉じ込めておけるのは大したものだと思うよ」

 専門家の奏多さんに褒められるのなら、少なくとも結界術に関しては自身をもっていいのだろうか。そんなことを考えていると、

「あとは僕たちの仕事だ。とにかく、このレベルにまで成長したこいつを見過ごすことはできない。結界のひびから漏れてくる魔力の波動から考えても、こいつは明らかに害蟲だ。あとは僕に任せてくれないか」

と、奏多さんは自信ありげな笑みを浮かべつつ、再び蔵の方を見やった。どうやら、これから害蟲駆除が本格的に始まろうとしているようだ。

「あの、差し支えなければですが」

 オレは、害蟲駆除が実際にどのようにして行われるのか、ふと気になった。

「オレも害蟲駆除しているところを見学してもいいですか、後学のために。もちろん、危険なことは承知していますが・・・」

 今回のような事態が再び起きないとも限らない。というか、高い確率でまた起きるような予感がある。その時、奏多さんが再びこの場に現れるとは限らないのだ。そうなれば、結局は自分の手で解決するしかない。

 力を身につけなければ。そのために、彼の力を見極めてみたいと思った。

「オレ自身は、足手まといにならないように自分の身は自分で守りますから、もしよければお願いします」

と、奏多さんにお願いすることにしたー
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~

一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】 悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……? 小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位! ※本作品は他サイトでも連載中です。

仔猫殿下と、はつ江ばあさん

鯨井イルカ
ファンタジー
魔界に召喚されてしまった彼女とシマシマな彼の日常ストーリー 2022年6月9日に完結いたしました。

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...