6 / 464
ユグドラシルの双子の主・和泉鏡香(第6話)
しおりを挟む
ーー和泉鏡香視点ーー
開けた場所に、巨大な枯れ木ーー。
今回、私が退治しに来た害蟲は、実は以前うちのチームで逃がしてしまった個体だ。駆除寸前まで行き、ほぼ力を失っていたが、チームメンバーたちのスキをついてこの森まで逃げてきたーというわけだ。
この世界には、蟲と呼ばれる存在がいる。それは、一般に認識されている昆虫とはまた違った存在だ。もちろん、昆虫のような姿をした個体も多いが、中には植物だったり、人間や他の動物に近い形態だったり、はては知性まで獲得した個体もいる。
蟲をより正確に定義するのなら、「怪異」というべきだろう。それ自体が、この世界の魔力の影響を受けて様々な怪奇現象を引き起こす。その「怪異」が擬生物化したものーとでもいうべきか。
その中に、明らかに人々や周囲の生態系に悪影響を及ぼす種が存在する。それを害蟲ー我々はそう呼んでいる。その中でも特に厄介なのが、悪意をもって(要するに高い知性を有している個体)人々や周囲の生態系に害をなす存在で、わがチーム《ユグドラシル》は、そういった輩を駆除するために活動している。
もちろん、全ての蟲が必ずしも害のある存在というわけではない。害蟲とは正反対に、人間や他の生態系にプラスの影響をもたらす種もいる。それらを益蟲と呼ぶ。この益蟲も、高い知性を持つものがおり、場合によっては人々と生活しているというパターンもある。
今回の対象は、明らかに害蟲だ。かなり大型の個体だったが、おそらく先の戦いでかなりダメージを受けて弱っており、サイズは縮んでいるはず。今は、せいぜいリスなどの小動物くらいの大きさだろうか。
事実、害蟲の残留魔力というか、気配というべきか、それらは以前と比べてかなり小さくなっている。ただ、ここに潜んでいるのはわかる。この枯れ木ー内部はかなり空洞になっている。その中に逃げ込んだようだが・・・。
枯れ木というのは、実は多彩な生態系が暮らす一種の集合住宅みたいなものだ。キツツキのように、巣穴をこしらえてヒナの子育てに活用したり、内部の昆虫を餌にする生物もいれば、カミキリムシや一部の蛾のように、産卵のために活用する昆虫もいる。当然、内部ではこれらの幼虫が木を食い荒らしていたりするが、さらにこれにハチ類が寄生したりするなど、人間が思っている以上に枯れ木というのは生物にとって生活の場になっているのだ。
話が逸れたが、例え小さくなったとはいえ、相手は害をなす存在であることに変わりはない。ここで駆除しなければーー。
と、その時だった。枯れ木の空洞部分から、突然激しい魔力の波動が放たれたのだ!それに合わせて、空洞部分から黒い煙が立ち昇るかの如く、例の害蟲が現れた。なんと、かつての大きさを取り戻している。
実は、蟲の多くは小さな個体が集合することで巨大な一個の生物に見せかけて生活している。こうすることにより、個体としては弱いものの、集合体として活動することで生存競争において優位に立つことも可能だ。生存競争は蟲の世界にもあるということだ。
そして、さらに厄介なのが、個体としてはほとんど魔力を帯びていない蟲でも、一個の集合体として巨大になることで、人間顔負けの魔力を有する場合もあるということだ。ただ、今回のように知性を持たない蟲の場合は、意識手にではなく、本能的に魔力を活用する。
まさかーー。
おそらくこいつは、私から逃れている最中に、この森にいる近くの蟲たちを取り込み、自身のダメージを回復していたのだろう。弱体化し、ほぼ無力化したように見せかけたのは、人間ほどではないにしろ、それだけこいつが頭がいいやつだということを示していた。魔力を抑えてこの枯れ木の中に潜み、我々が近づいてきたのを確認して、取り込んだ蟲たちを、自身の「核」(蟲の中枢に当たる部分)から解き放ち、その巨体を再現したーーそんなところか。
とはいえ、私は《ユグドラシル》の双子の王ー和泉鏡香だ。この程度の蟲であれば襲るるに足りずーー。
「これは、ここで決着をつけるべきですね」
今度こそ完全に駆除しないと、また逃げられると探すのが面倒だ。
私は軽く微笑むと、戦闘準備に入ることにーー。
「待つのじゃ、和泉」
背後で、モリガンが制止する。
「?」
いったいどうしたのかと尋ねようとしたところ、
「この森は、いずれ全てわしの縄張りにするつもりじゃ。ならば、この侵入者を撃退するのも、この森の主であるわしの務めということになるじゃろう」
モリガンが今にも襲い掛からんとする蟲を前に躍り出る。
「モリガンちゃん・・・」
「お主は黙ってみておれ、わしとてこの領域最大の魔女じゃ。この程度の蟲など、すぐに屠ってやるわ」
自信ありげにモリガンが言い放つ。悪戯っ子が見せるような笑みを浮かべつつ、モリガンは術式の展開を行い始めた・・・。
開けた場所に、巨大な枯れ木ーー。
今回、私が退治しに来た害蟲は、実は以前うちのチームで逃がしてしまった個体だ。駆除寸前まで行き、ほぼ力を失っていたが、チームメンバーたちのスキをついてこの森まで逃げてきたーというわけだ。
この世界には、蟲と呼ばれる存在がいる。それは、一般に認識されている昆虫とはまた違った存在だ。もちろん、昆虫のような姿をした個体も多いが、中には植物だったり、人間や他の動物に近い形態だったり、はては知性まで獲得した個体もいる。
蟲をより正確に定義するのなら、「怪異」というべきだろう。それ自体が、この世界の魔力の影響を受けて様々な怪奇現象を引き起こす。その「怪異」が擬生物化したものーとでもいうべきか。
その中に、明らかに人々や周囲の生態系に悪影響を及ぼす種が存在する。それを害蟲ー我々はそう呼んでいる。その中でも特に厄介なのが、悪意をもって(要するに高い知性を有している個体)人々や周囲の生態系に害をなす存在で、わがチーム《ユグドラシル》は、そういった輩を駆除するために活動している。
もちろん、全ての蟲が必ずしも害のある存在というわけではない。害蟲とは正反対に、人間や他の生態系にプラスの影響をもたらす種もいる。それらを益蟲と呼ぶ。この益蟲も、高い知性を持つものがおり、場合によっては人々と生活しているというパターンもある。
今回の対象は、明らかに害蟲だ。かなり大型の個体だったが、おそらく先の戦いでかなりダメージを受けて弱っており、サイズは縮んでいるはず。今は、せいぜいリスなどの小動物くらいの大きさだろうか。
事実、害蟲の残留魔力というか、気配というべきか、それらは以前と比べてかなり小さくなっている。ただ、ここに潜んでいるのはわかる。この枯れ木ー内部はかなり空洞になっている。その中に逃げ込んだようだが・・・。
枯れ木というのは、実は多彩な生態系が暮らす一種の集合住宅みたいなものだ。キツツキのように、巣穴をこしらえてヒナの子育てに活用したり、内部の昆虫を餌にする生物もいれば、カミキリムシや一部の蛾のように、産卵のために活用する昆虫もいる。当然、内部ではこれらの幼虫が木を食い荒らしていたりするが、さらにこれにハチ類が寄生したりするなど、人間が思っている以上に枯れ木というのは生物にとって生活の場になっているのだ。
話が逸れたが、例え小さくなったとはいえ、相手は害をなす存在であることに変わりはない。ここで駆除しなければーー。
と、その時だった。枯れ木の空洞部分から、突然激しい魔力の波動が放たれたのだ!それに合わせて、空洞部分から黒い煙が立ち昇るかの如く、例の害蟲が現れた。なんと、かつての大きさを取り戻している。
実は、蟲の多くは小さな個体が集合することで巨大な一個の生物に見せかけて生活している。こうすることにより、個体としては弱いものの、集合体として活動することで生存競争において優位に立つことも可能だ。生存競争は蟲の世界にもあるということだ。
そして、さらに厄介なのが、個体としてはほとんど魔力を帯びていない蟲でも、一個の集合体として巨大になることで、人間顔負けの魔力を有する場合もあるということだ。ただ、今回のように知性を持たない蟲の場合は、意識手にではなく、本能的に魔力を活用する。
まさかーー。
おそらくこいつは、私から逃れている最中に、この森にいる近くの蟲たちを取り込み、自身のダメージを回復していたのだろう。弱体化し、ほぼ無力化したように見せかけたのは、人間ほどではないにしろ、それだけこいつが頭がいいやつだということを示していた。魔力を抑えてこの枯れ木の中に潜み、我々が近づいてきたのを確認して、取り込んだ蟲たちを、自身の「核」(蟲の中枢に当たる部分)から解き放ち、その巨体を再現したーーそんなところか。
とはいえ、私は《ユグドラシル》の双子の王ー和泉鏡香だ。この程度の蟲であれば襲るるに足りずーー。
「これは、ここで決着をつけるべきですね」
今度こそ完全に駆除しないと、また逃げられると探すのが面倒だ。
私は軽く微笑むと、戦闘準備に入ることにーー。
「待つのじゃ、和泉」
背後で、モリガンが制止する。
「?」
いったいどうしたのかと尋ねようとしたところ、
「この森は、いずれ全てわしの縄張りにするつもりじゃ。ならば、この侵入者を撃退するのも、この森の主であるわしの務めということになるじゃろう」
モリガンが今にも襲い掛からんとする蟲を前に躍り出る。
「モリガンちゃん・・・」
「お主は黙ってみておれ、わしとてこの領域最大の魔女じゃ。この程度の蟲など、すぐに屠ってやるわ」
自信ありげにモリガンが言い放つ。悪戯っ子が見せるような笑みを浮かべつつ、モリガンは術式の展開を行い始めた・・・。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
【短編】婚約破棄したので、もう毎日卵かけご飯は食べられませんよ?
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ふふん♪ これでやっとイチゴのタルトと、新作の二種類の葡萄のトライフル、濃厚プリンが食べられるわ♪)
「もうお前の顔を見るのもウンザリだ、今日限りで貴様とは婚約破棄する!」
(え?)
とあるパーティー会場での起こった婚約破棄。政略結婚だったのでアニータはサクッと婚約破棄を受け入れようとするが──。
「不吉な黒い髪に、眼鏡と田舎くさい貴様は、視界に入るだけで不快だったのだ。貴様が『王国に繁栄を齎すから』と父上からの命令がなければ、婚約者になどするものか。俺は学院でサンドラ・ロヴェット嬢と出会って本物の恋が何か知った! 」
(この艶やかかつサラサラな黒髪、そしてこの眼鏡のフレームや形、軽さなど改良に改良を重ねた私の大事な眼鏡になんて不遜な態度! 私自身はどこにでもいるような平凡な顔だけれど、この髪と眼鏡を馬鹿にする奴は許さん!)
婚約破棄後に爆弾投下。
「我が辺境伯──いえトリス商会から提供しているのは、ランドルフ様の大好物である、卵かけご飯の材料となっているコカトリスの鶏生卵と米、醤油ですわ」
「は?」
これは鶏のいない異世界転生した少女が、あの手この手を使って再現した「卵かけご飯」のお話?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる