76 / 79
元教え子親子と親密になり恋仲になっていく受けの話
しおりを挟む
「帰らないで」
家庭訪問に訪れたお宅で、生徒が受けを引き留めた。
教室でも大人しい子で、自分の意見を言わず発言も少ないため、新学年になって二ヶ月以上が過ぎるがどのような子なのか掴めずにいた。
「でも長くいたらお父さんも困るよ」
父子家庭とは聞いていた。
母親は病で倒れ帰らぬ人となったのは入学前。
五年生の男児にとっては寂しい環境なのだろう。
担任でも引き留めたくなるほどと同情心が芽生え、最後ということもあり、夜までお邪魔した。
「お父さん、料理が上手なんですね」
「いやいや、まだまだです。どうしても忙しくて平日は弁当ばかりでこの子に可哀想なことをしていると分かっているんですけどね」
有名な商社に勤めているという父親はきっと仕事で帰りも遅いのだろう。
その中で再婚もせずに子供を一人で育てているとは尊敬しかない。
振る舞って貰った夕食を相伴し、帰路に就く。
それからだ、この親子と良く話をするようになったのは。
生徒は大人しく問題も起こさないが、常に気にかけるようになり、父親にもまめに連絡を入れるようにした。
学校に併設の学童にいる間はよく顔を見に行き、最後の一人になると話し相手にもなった。
慌てて迎えに来た父親とも言葉を交わせば、他の生徒よりも親密になってしまうのは仕方ない。
家庭環境を知る校長からは「ほどほどに」と注意を受けたが、在学中はなにかと気にかけた。
だから、六年の担任にはならなかったが卒業式では誰よりも泣いてしまった。
生徒は小学校の近くにある中学には進まず、少し離れた私立の中学へと通い、しばらく姿を見ることはなかった。
再び親子と対面したのは、梅雨に入ったばかりのターミナル駅だった。
天気予報では梅雨の晴れ間と謳っていたにも拘わらず、夕方には雲行きが怪しくなり、すぐに豪雨がアスファルトを弾き川を作り上げた。
傘を持たずに出てきた受けは途方に暮れた。
「あれ、先生じゃん」
声をかけてきたのは元生徒だった。
会わないうちに背が急激に伸びたのか、目線が上がる。
それを褒めると、思春期の照れくささに頭の後ろを掻いて不貞腐れた顔をされた。
小学校では一度としてみない表情に、大きくなったんだと嬉しくなった。
「どうしたの?」
「傘を忘れて……電車も止まって帰れなくてね。梅雨の晴れ間と言っても傘は鞄に入れるべきだったな」
苦笑すれば元生徒が親指で改札の反対を指した。
「父さんが迎えに来るから良かったら乗ってってよ」
「いやそんな、申し訳ないだろうそれは」
「別に良いって。父さんも先生に会いたがってたから」
卒業してからこの親子と接点がなくなったため、会うのは一年ぶりとなる。
穏やかでウィットに富んだ会話をする父親と話すのは楽しく、卒業した家庭ということもあり頷いてしまった。
外国産の車に乗り込めばすぐさま父親が「ご無沙汰してます、偶然とは言え会えて嬉しいです」と顔を綻ばせてくれたのに安堵し、後部座席から頭を下げた。
「家はどちらですか?」
住所を言えば最新型のカーナビに入力し、すぐに顔を曇らせた。
「先生、今○○道が閉鎖されているのでここからお送りするのは難しいですね」
豪雨のせいで通行止めとなっているらしい。
送迎を辞退して車から降りようとする受けを元生徒が引き留めた。
「うちに泊まって明日の朝帰れば良いよ。父さんもいいだろ?」
「ああ、当然だ。お世話になった受け先生なら大歓迎だ」
「いえそんな……」
「気になさらないでください」
車はすぐに出発して勤務先の小学校とは別の方向へと進む。
突いたのは豪奢な一軒家だった。
以前はマンション住まいだったはずと首を傾げていると、傘を差してくれた父親が玄関へと促した。
「卒業と同じタイミングで引っ越したんですよ。通勤は少し不便になりましたが、息子と心機一転頑張ろうと思いまして」
親子二人にしては大きく立派な家だ。
もしかしたら再婚の話があるのかもしれない。
社会的地位もあり見目も性格も良ければ子供がいても結婚したいと願う女性はいるだろう。
だがプライベートに踏み込んではいけないと頷いて背きゅりいてぃが厳重な玄関を入った。
外観と見合ったスタイリッシュな室内はまるでモデルルームのようで、どこも綺麗だ。
広いのにどこも掃除が行き届き、一人暮らしの自室の汚さが恥ずかしくなる。
「冷えたでしょう。良かったら先にお風呂を使ってください」
元生徒のために湧かした風呂に入るのは気が引けたが、「オレ、二階のシャワー使うから」と階段を上がっていかれては頭を下げるしかなく、広い浴槽に浸かると梅雨冷えした身体がじんわりと温まった。
賃貸アパートの小さな浴槽では味わえない開放感に少し逆上せそうになるほどゆっくりと広さを味わって、それから身体中を綺麗にした。
脱衣所に出ればすでにタオルと着替えが用意されていた。
「長々とすみません、着替えもありがとうございます」
「むしろ良いタイミングです。丁度できたので熱い裡に食べましょう」
前回はイタリアンだったが今回は和食だ。
しかも成長期の男子の好物ばかりだ。
中学生が家にいれば当然のメニューにまだ26になったばかりの受けも嬉しくなる。
すぐに元生徒も下りてきて一緒に父親の手料理を堪能した。
「オレ勉強あるから部屋に戻るけど、先生はゆっくりしてね」
無口で俯きがちなあの生徒がはっきりとした言葉をかけてくれたのに感動して、父親に促されるまま場所をソファに移し、高そうなワインが注がれたグラスを片手に話をした。
「もう中学生なんですね……頼りなかった元生徒くんがあんなに大人びたことを言うなんて」
「先生が見守ってくださったおかげです。どうしても一緒に居る時間が少ないので喋るのが苦手な子になってしまったと悩んでいましたが、先生が話を聞いてくれるのが嬉しかったようですね、家でも会話をしてくれるようになりました」
「そんな……たいしたことはしてません」
褒められて少し役に立てたのが嬉しくて、ワインが進む。
父親の手製というベーコンが巻かれたチーズは少しスモークされていて、美味しかった。
父親の仕事の話を聞き、子供との過ごし方を聞き、自分も少しだけ学校の愚痴を零せば、いつの間にかワインは三本開いてしまい、強かに酔う。
「大丈夫ですか?今日はこれでお開きにしましょう」
父親が受けの身体を支え客室へと運んでくれる。
「すみません……」
「飲ませてしまったのは私です、気にしないでください」
その優しい声音に心が和らぐのを感じた。
大きなベッドで横になった受けに父親は柔らかく軽い布団を掛けてくれた。
「ゆっくり休んでください、おやすみなさい」
「……おやすみ……なさ……」
受けはすぐに睡魔に襲われ、瞼を閉じ深い眠りの海へと潜り込んだ。
「なんだよ、先生寝ちゃったのか……睡眠姦?」
「まだ時期尚早だ、もっと時間と手間をかけないと……だろう?」
それ以来、受けのスマホに親子から連絡が入るようになった。
珍しい食材が手に入ったと父親からくれば家にお邪魔し、面白そうなイベントがあると元生徒に誘われれば一緒に参加してそのあと家にお邪魔して遅くまで酒を飲みながら喋ったりゲームをしたり。
気がついたらプライベートの時間の大半を親子と過ごすようになった。
会えば泊まるのが当たり前になり、平日の仕事に疲れた後の一人で過ごす時間が淋しさを伴うようになってしまった。
元生徒とこれほど親密になっていいのかと自粛しようにも居心地の良さが教師としての厳格さに目を背けさせる。
元生徒もエスカレーターで高校へと進学し、なぜか一緒に進学祝いをして、また泊まってしまう。
高校生になったからとその日は元生徒も遅くまで起きていた。
父親が洗い物でキッチンに立っていると、息子が少し難しい顔をして近づいてきた。
「ねえ先生、友達からこんなのが届いたけど……どう返事したら良いのかな?」
こんなのと見せられたスマホの画面には、男同士が愛し合う姿が映されていた。
しかし卑猥さはそこにない。
美しい男同士がキスを交わし、とても相手を慈しんでいるのがこちらにまで伝わってくる映像だった。
ゴクリと唾を飲んだ。
教師として手本になる回答をしなければ……。
「……君がこれを見て嫌だったらちゃんと相手に伝えて止めさせれば良いが、同性が好きな人もいる、その人が好きだからと言う人もいる。偏見を持ってはダメだよ。相手を馬鹿にするのも」
「そうだよな。でもさ、性別とか気にしないで好きになれるって、凄いことだよな。オレもそんな風に好きな人に会えるのかな」
若者特有の潔癖さを表さなかったことに安堵し、けれど真っ直ぐにそう言う元生徒の言葉がじわりと胸に染み込んでいく。
「そうだね、そういう人に出会えるのは稀だろうけど、憧れるね」
「先生はどうなのさ」
「学校と家の往復でまず出会いがないよ」
笑ってまたワインを口に含んだ。
白のスパークリングワインはスッと喉を通り抜け、元生徒の言葉と一緒に身体に広がっていく。
(性別が気にならなくなるくらい好きになる……か……)
そういえば大学を卒業してから忙しくて恋なんてしていないなと思い出す。
「さすがにもう寝る時間だ。早く寝なさい」
「はーい」
時計を見ればもう十時を過ぎている。
高校生になればやりたいことも増え、もっと夜更かしもしたいだろうに、元生徒はスマホの画面をすぐにスリープにしてリビングを出た。
「何か相談されていたようですね、すみません」
「いいえ。たいしたことはありませんよ」
「先生がいてくださって本当に助かります。親に言いづらいことが増えたようで、昔のようになんでも相談してくれなくなったんですよ」
「そうだったんですか……」
「先生には信頼を寄せているんですね。少し……羨ましいです」
父子家庭だ、頼って貰えないのを自分の力不足と感じているのだろうか。
「お父さんはちゃんと父親をされています。ただ彼が親離れの時期になったんでしょう。オレも同じ頃は両親と離すのが少し照れくさくて、素直になれなかったな」
「先生は若いのにしっかりしてるから反抗期なんてないと思ってました」
「反抗しまくりましたよ。そんなたいした人間じゃないです」
なんてことない会話をしているだけなのに、優しい眼差しで見つめられじわりと身体が熱くなるのを感じる。
顔も熱い。
(……あの動画のせい……なのかな?)
いやそんなはずはない。
だというのに、意識してしまう。
僅かに俯けば空になったグラスにスパークリングワインが注がれ、彼も当たり前のように自分のグラスに注いだ。
「あっ、すみません」
「良いんですよ、一人だと呑まないので。先生が来て下さった日は楽しいお酒になるんです」
まるで自分が特別であるかのような物言いに、またじわりと熱くなる。
冷ますためにワインを口にして、他愛ない話を振る。
どんな話でも笑顔で聞いてくれ、悩みであれば回答へと導き、くだらない話なら面白そうに笑ってくれる。
(もしかして……)
元生徒が自分の部屋に上がってから1時間ほど二人の時間を過ごし、それから何度も使わせて貰っている客室に下がった。
「はぁ……意識しすぎ」
いつもなら酩酊感の心地よさにそのまま眠ってしまうはずなのに、今日は違った。
しばらく相手をしてやってない分身が自己主張を激しくする。
キリッと唇を噛み、自分用にと用意されたパジャマのウエストから手を潜り込ませた。
元気になってしまったそこを擦る。
「うっ……んんっ」
聞かれないよう声を抑えて集中すれば、浮かんでくるのは父親の整った顔だ。
それがあの映像と合わさり、自分を優しく抱きながらキスしてくる画へと変わっていく。
ドクンと分身が膨らんだ。
「うそ……んんっ」
手までもが早くなっていく。
自分の手なのに、それがいつも器用に料理を作り、嫌味なくサーブしてくれる大きな手に握られる錯覚に陥る。
啄まれる唇、絡まる足。
またドクリと大きくなった。
「ぃ!……あ……」
どろりと白濁が手と下着を汚した。
罪悪感のまま、ベッドサイドに置かれたティッシュで汚れを拭き取り、出したのにまだ熱い身体を抱き締めた。
「そんな……」
元生徒の言葉が脳裏に浮かぶ。
「まさか……」
ギュッと目を瞑り、丸まるように眠った。
「父さん策士すぎだろ」
「ふっ、お前に言われたくはないな」
「まあね。これからが楽しみだね」
「そうだな」
あれから受けは僅かにできた時間の度に父親のことを思い出しては顔を熱くした。
挙動不審になり、忘れようと仕事にのめり込んでも一人の部屋に戻れば思い出しては分身を慰めてしまう。
気付かずに彼に好意を抱いていたのだろうか。
悶々として、いつものように週末の誘いの連絡が来ても返事ができなかった。
既読スルーは罪悪感が押し寄せ、また落ち込んだ。
「先生、どうしたの?」
学校の最寄り駅についたとき、背中から声をかけられた。
「返事くれないなんて初めてだったから心配したよ」
君のお父さんを好きだと気付いてしまって、会うのが怖いんだ。
そう口にできたら良いが、受けには勇気がなかった。
俯いて立ち尽くす。
二人を邪魔そうに見て改札に入っていく人々の視線すら気付く余裕がない。
「なんかあるならオレ聞くよ。オレじゃ頼りないなら父さんでも良いし」
ビクリと肩が跳ねた。
こんな感情を抱いて会っていいのだろうか。
今までと同じように振る舞えるだろうか。
……無理だ。
きっと挙動不審になって理由を聞かれる。
「……ちょっと忙しくてね、ごめん」
受けは初めて嘘をついた。
「そっか、オレの方こそごめん。先生忙しいもんな。でも暇になったら連絡して。オレ先生に相談したいことがあるから」
「ああ……落ち着いたら」
冷静になれたらきっと、大丈夫だ。
元生徒と別れ、人がごった返す改札へと入っていくが、彼に似た顔と対峙したせいか、頭の中は父親のことでいっぱいになってしまった。
自分がどうしたいのか分からず時間ばかりが過ぎ、秋が終わろうとしていた。
急に冷たい風が吹くようになりなかなか身体が付いていかなくなる頃、少し風邪気味で仕事終わりの疲れを纏って改札をくぐった。
足取りがいつもより重く、階段を上がるのが億劫と見上げれば肩を叩かれた。
「先生、偶然ですね」
「あっ……お父さん……」
驚きに肩が跳ね、そのままバランスが崩れた。
「おっと……先生、大丈夫ですか?」
転ばないよう支え、大きな手が額に触れる。
「熱いじゃないですか。もしや体調が良くないのですか?」
「あ……平気で……」
驚きに上がった動悸が鼓膜まで響く。
「とてもそんな風には見えません。お一人暮らしでしたね、具合が悪くなっては大変です、今日は我が家で休んでください」
「いえ、そんなっ……これ以上ご迷惑をおかけするわけには……」
「何を仰ってるんですか。先生にはたくさん助けていただきました、ぜひ次は私に助けさせてください」
断る言葉を必死に思い浮かべようにも、腰に回る腕に意識がいってしまい何も浮かばない。
強い力で促され、駅前で列を成しているタクシーに押し込まれる。
「急に寒くなりましたからね、体調を崩しても仕方ないですよ」
「……お恥ずかしい限りです」
社会人なら体調管理も仕事のうちと怒られるだろうが、父親は俯く受けの頭を優しく撫でた。
「病気をしない人間なんていません。特に先生はたくさんの生徒の子供を相手にしなければなりませんから、気を抜くことができないんでしょう。家に帰っても一人では色々難しいこともありますからね」
優しくしないで欲しい。
その優しさに触れてしまうと、押さえ込もうと必死な感情が溢れ出してくる。
頭を撫でる手の優しさに縋ってしまいたくなる。
認めるしかなかった、彼のことが好きだと。
けれどそれは叶わない恋心だ。
女性と結婚経験のある彼が、同性である自分を見てくれるなどあり得ない。
子供の担任だったから……飲み友達だから優しくしているに過ぎない。
期待してはダメだと自分に言い聞かせても、膨れ上がった期待も恋心も窄まってはくれない。
じわりと涙が滲んだ。
眦に溜まりほろりと零れた。
すぐさま親指の腹で拭われる。
「頑張りすぎないでください。でなければ心配で何も手に付かなくなってしまう」
優しさと包容力がじわりと受けを包み込み、心地よさに沈んでしまいそうだ。
家の前に着くと、父親は受けに肩を貸し家に入った。
「おかえり……先生どうしたんだよ!」
「体調が良くないようだ。手伝ってくれ」
親子で受けを客室へと運び服を脱がす。
「先生ガリガリじゃんか、良くなったらオレが栄養のあるもん作るから」
「そうだね。今日は消化の良い物にしよう。その前にパジャマに着替えようか」
サッと汗を温かいタオルで拭い、すぐさまパジャマを着せてくる。
布団を掛けられ、食事を用意するからと父親が部屋を出た。
安堵した次に残念に思ってしまう。
嘆息がひどく熱い。
「熱を測ろう、先生。薬って飲んだの?」
「……家に帰ってからと思って……」
「そっか。じゃあ食べたらうちにある薬持ってくるよ。それ飲んだらゆっくり休んで」
元生徒も紅潮する頬を撫でる。
父親とは違う柔らかく滑らかな感触と優しい仕草にとろりと身を預けてしまいそうになる。
ピピッと電子音が鳴り、元生徒がパジャマの襟から手を入れた。
指先が胸の尖りを掠める。
ビクッと身体が震えた。
父親に恋心を抱いているのではと思うようになってから、ネットで同性同士の恋愛について調べた。
身体を重ねる際にそこを弄られ悶える動画を偶然見てから、こっそりと自分で試し……彼に弄られることを想像しながら蜜を吐き出してしまった。
以来、定期的に弄るようになった場所は敏感になり、たったこれだけの刺激でも身体を震わせてしまう。
恥ずかしくて、また熱が上がった。
「38.1℃って微熱レベルじゃないよ。病院行った方がいい」
「だ……大丈夫、大丈夫だ。薬を飲めば治るから……」
「でも……辛かったら言って。すぐに父さんに車出して貰うから」
「ありがとう。迷惑をかけてごめん」
「いいって。オレ、小学校の時、気にかけてくれる。
「ありがとう」
体温計を持つ手をギュッと握った。
微笑みかけると精悍になっていく途中の愛らしさと格好良さの混じった顔が赤くなった。
「べっ……別に……当たり前だし」
ぶっきらぼうな言い方すら愛おしいと感じてしまう。
おでこに冷却ジェルを貼って顔を赤くしたまま部屋を出て行った。
もう守ってあげなければならない子供ではないんだと、じんわりと認識する。
当然だ、もう高校二年生。
間もなく成人と言われるとしになる元生徒をいつまでも子供扱いするのは失礼だ。
「いつの間にあんな大きくなったんだろう」
親にも似た気持ちを抱いてしまう。
愛らしい顔で目に涙を浮かべて「帰らないで」と引き留めたあの日を思い出す。
その頃の面影はもうどこを探しても見つからないが、変わらない優しさに触れて、熱いものが込み上げてきた。
少し腫れぼったさを感じる瞼を閉じれば、辛いわけでもないのに涙がスッとこめかみを通って流れていく。
ノックの後、扉が開いた。
「食事ができました、起き上がれますか?」
サイドテーブルにトレイを置き、父親がベッドの傍にある椅子に腰掛けた。
「……なにか嫌な事がありましたか?」
少し硬い指の腹が涙の跡を拭うように辿る。
「いえ……悲しいというのではないんです」
「熱のせいかもしれませんね。息子に聞きました、熱が思った以上に高いですね。辛かったらすぐに仰ってください」
父親は受けの身体を起こすとベッドヘッドに凭れさせ、土鍋から椀に粥をよそった。
卵とネギが散った粥からは香ばしい匂いがする。
父親が匙にそれを掬い、数度息を吹きかけてから受けの口まで運んだ。
「じっ……自分で食べます」
「熱があるんですから、こういうときは甘えてください。さあ、冷めないうちに」
匙の先が唇を軽く突く。
恐る恐る口を開けばとろりとした粥が流れ込んできた。
久しぶりに味わう彼の料理にもっと寄越せとばかりにグーッとお腹が鳴る。
恥ずかしい受けに反して、父親は甘くに笑った。
「嬉しいな、そんなに気に入って貰えると。貴方のためならいくらでも作りますよ。今は粥だけですがいっぱい召し上がってください」
「すみません……」
匙が近づけば口を開けと雛になった気分だ。
掴まれた胃袋は嬉しい嬉しいと流れ込んでくる粥に喜んでいる。
前回の泊まりから随分と時間が空いてしまったのもある。
本能のまま、給餌され時間を掛け食べていった。
土鍋が空になると、薬が差し出される。
「これを飲んでも熱が下がらなかったら病院に行きましょう。効くまではゆっくりと休んでください」
錠剤をこくりと水と一緒に飲み込み、またベッドに横たえられる。
「おやすみなさい。辛かったらすぐに呼んでくださいね」
ふわりと微笑まれ、様々な感情が胸に溢れかえった。
受けは素直に目を閉じ眠った。
夜中に喉の渇きを覚え、目を覚ました。
ベッドライトが灯された部屋は常夜灯よりも明るくて、何度か瞬きをしてから身体を起こそうとした。
「どうしましたか?」
父親の声だ。
ベッド傍の椅子に腰掛け、英語だらけの本を捲っている。
「……付いていてくださったんですか?」
「読まなければならない本があるので気にしないでください。なにか欲しいものがあるんですか?水ですね、ちょっと待ってください」
サイドテーブルに置かれた水差しで満たしたコップが差し出された。
「いきなりですと咽せますからゆっくりと飲んでください」
「……あまり……優しくしないでください」
もっと貴方のことが好きになってしまいます。
言葉を水と一緒に飲み込んだ。
「私が先生に優しくしたいんです」
「優しくしていただく理由がありません……こんなによくしてもらっていうのも申し訳ないのですが……」
「理由はあります。貴方を愛しているからです」
さらりと流された言葉が心に届くまで時間を要した。
あまりにも自然で、反応できずじっと父親を見た。
変わらず優しい眼差しだ。
大きな手が汗に濡れた頬が撫でられる。
タクシーでしていたのとは違う、妖しさを纏って。
「あ……」
「一生懸命に子供たちに向き合う貴方に好意を抱きました。長い時間を一緒に過ごすようになってから、その明るさと真っ直ぐさと愛らしさに惹かれました。先生、愛してます」
衒いもなく恥ずかしいことを口にする彼から目が離せなくなった。
「私もです」と伝えていいのか分からず、口を何度も開いては閉じる。
「この向けてもご迷惑ではないですか?」
ずるい。
強引に突きつけてくれれば良いのに、受けに逃げ道を作ってくれる。
そんな大人の余裕が憎らしくて、また心惹かれていく。
緩く首を振った。
「ありがとうございます。今は何も考えず休んでください。もう一度熱を測りましょう。下がっていると良いのですが……」
パジャマのボタンを外し、体温計を脇に挟んでくる。
この家に来なくなって痩せていく一方の身体がベッドライトに浮き上がる。
エアコンと加湿器で心地よい空気に触れても寒さを感じないため、されるがままになった。
ピピッと電子音が鳴ると温度を確かめるためにまた手がパジャマの中に入る。
「んっ!」
曲がった指の関節が胸の尖りに当たり、思わず声が上がりそうになった。
だが父親は気付かないのか、体温計に表示された数字を真剣な眼差しで見る。
「ああ良かった。37.7℃まで下がってますね。安心しました」
また頬を温かい手で包まれる。
ダメだ、もう隠せない。
児童の保護者とは一定の距離を保たなければならないのに、そのルールを踏み越えて接したのは、自分も好意があったからに違いない。
再会してから四年の時を親密に過ごしすぎてそれが恋情へと形を変えてしまったのだろう。
ギュッとパジャマの前を握った。
俯きたいのに、大きな手がそれを許してくれない。
熱に潤んだ目で父親を見た。
「好き……です」
それが精一杯だった。
親指が涙袋をそっと撫でた。
「相愛と思っていいのでしょうか」
「……はい」
恥ずかしくて瞼を閉じる。
そこもまた親指が優しく撫でる。
「私を貴方の恋人にしていただけますか?」
「…………はい」
「ありがとう、先生……ああ、恋人を先生と呼ぶのはおかしいですね。受けさん、愛してます」
精悍な顔が近づき、唇が鼻の天辺に押し当てられた。
「え……?」
ちゅっと音を立て離れ、掌も去って行く。
温かかった頬にエアコンの風が吹き抜け、淋しさを与えてくる。
「今タオルを持ってきます。汗を拭きましょう」
「あ……すみません」
寝汗で濡れてる自分が恥ずかしかった。
湯気の立つ洗面器にタオルをくぐらせてからパジャマの上が脱がされた。
「少し寒いかも知れませんがすぐに終わらせますので」
「いえ……寒くはないです」
「そうですか。でもまだ熱がありますからね。早いほうが良いでしょう」
父親はタオルを絞ると背中から受けの身体を拭っていった。
ここに連れてこられたときと同じように優しい手付きに、ほうっと息が漏れる。
タオルが冷えないよう、何度も湯にくぐらせては拭くのを繰り返す。
背中から腕、そして前へと回り……。
「ぁ……んっ」
「受けさんはここが敏感なんですね。先程は素知らぬふりをしましたが……恋人となった今では気付かぬふりはできません」
もう一度タオルが胸の尖りの上を通った。
「うっ……」
「可愛い声だ。もっと聞きたい、聞かせてください」
父親の指がそこを弾く。
「んっいけません……元生徒くんに聞かれます」
「大丈夫です、この部屋は防音になってますから」
「あっ……そんな……だめ……ですっ」
「奥ゆかしいんですね。でも今だけは許してください」
タオルをサイドテーブルに置いて両方の尖りを弄り始めた。
上下に弾かれ先を摘ままれ……繰り返されると腿の内側に自然と力が入ってしまう。
同時に堪えようとしても鼻から抜ける音が甘さを帯びてしまう。
自分でしたときと違い痛みはないのに、甘い痺れが広がっていく。
「なんて可愛い声だ、もっと感じて」
「……あっ……そんな……ああっ」
「そう、それでいい。もっと気持ちよくなって私にすべてを預けて」
胸の刺激だけで受けは身悶える。
父親の右手が尖りをグリグリと押し込んでもみしだくと、肌を辿って布団の中へと入り、下腹部を撫でた。
「だめですっ……だめっ……あ!」
形を変えた分身を下から撫でられ、受けは足に力を入れてしまう。
「私の手でこうなってしまったんですね……そんなところも可愛いです。責任を取らせてください」
父親は受けの後ろに座ると、抱き締めてきた。
タオルで拭われた頬にキスをして、また手を動かす。
左手は先程と同じように胸の尖りを……そして右手は下着の中へと潜り込み、直に分身を撫でた。
「いっ……ああっ、いけませ……んんっ」
「いけないことはなにもない。貴方の恋人がしていることです、感じてください」
恋人と低く甘い声で耳元に囁かれてはもう、抗えな預け荒い息を繰り返した。
「感じている受けさんはとても可愛い。顔が見れなかったのは残念ですが……次は堪能させてください」
次があるのか……。
ぼんやりとベッドに横たえられ、下腹部と力を失った分身を清められた。
服を整えられ、布団を被せられる。
チュッと今度は唇にキスが落とされた。
「元気になったらデートをしましょう。約束、してくれますか?」
精悍な顔が近くにあるのが恥ずかしくて目を伏せて小さく「はい……」と返事をした。
「楽しみにしています。愛していますよ、受けさん」
もう一度キスをして、洗面器を手に立ち上がった。
それを見送って重くなった瞼を閉じた。
「恋人昇格おめでとう」
「なんだ、まだ寝ていなかったのか」
「勉強してたし……気になったから」
「どうだ、受けは。可愛かったか?」
「めちゃくちゃ可愛かった」
「そうか。では私も後で映像を見るとしよう」
「オレも早く先生の恋人になりてー」
「成人して彼が受け入れてくれたら、だ。それまでは勉学に励むんだ」
「……分かってるよ」
「心変わりは大歓迎なんだがね」
「するわけねーだろ、くそ親父っ」
翌朝もまだ微熱が残る受けは、そのままベッドに寝かされた。
当然とばかりに父親がベッド傍の椅子に座っている。
「あの……お仕事は……」
「可愛い恋人が病魔に苦しんでいるんだ、一人にするなんてできないだろう。有休はたっぷりあるし、心配することはない」
甘く笑い、また頬を撫でてくる。
本当にこの人と恋人になったんだ……実感がないのに、その甘酸っぱい響きが受けの胸を締め付ける。
「……昨夜は……その……お手を煩わせてしまって……」
「むしろ煩わせて欲しいんだ君のことならなんでもしたいんだ、させてくれると嬉しいんだが」
断れない物言いにまた頷いてしまう。
こんなに甘えてしまっていいのだろうか。
連泊してるのに元生徒は学校に行く前と帰ってきてすぐに顔を出してくれる。
少しだけ背伸びした物言いが大人の階段を駆け上がっているようで、見ているとくすぐったい気持ちになる。
けれど、彼には隠さなければ。
以前、偏見はいけないなどと言ってしまったが、父親とこんな関係になってしまっては保身と取られてしまうかもしれない。
親子の中が悪くなってしまっては頑張っている父親に申し訳ない。
「あまり家にお邪魔しないようにします」
「どうしてかな。理由を教えてくれると嬉しいんだが」
受けは考えていたことを伝えた。
父親は穏やかな顔で話し終わるまで口を挟むことなく聞いてくれた。
受けの意見をしっかり受け止めようとしているようで、擽ったい。
「なるほど。受けさんが気にするのであれば仕方ない。けれど、息子の誘いを断ることになれば、あの子も傷つくだろう」
「そう……ですね」
「気にしないでというのは難しいのなら、息子に誘われたときは、彼の部屋で過ごすのはどうだろうか。私がいなければ問題ないだろう」
確かにその通りだ、父親を意識してしまうときっと隠せない。
「大学受験も近づいているから頻度は多くないと思うんだ。私たちの時間は、別に作ろう」
それが最善だろう。
どうしても元生徒を裏切りたくはない。
ずっとしたってくれ、今も屈託なく接してくれる彼を傷つけたくはない。
しょんぼりしていると、大きな手が髪を、頬を、唇を撫でた。
「来週末はデートをしよう。あの子は修学旅行でいないから、場所はこの家でも良いかな?」
「……はい」
三日間世話になって、また日常生活に戻ったが、以前と違うのが自分でも分かる。
心が浮き立ち、雲の上を歩いているようだ。
次に親子の家を訪れたとき、元生徒の姿はなかった。
「いらっしゃい、受け」
「……お邪魔します」
いつもと同じはずなのに、名前を呼ばれ甘い眼差しを受けてしまうと恥ずかしくていつもの自分ではなくなってしまう。
落ち着かない心のまま上がり、いつものようにリビングへと通される。
父親の手料理をご馳走になり、いつものように一緒に酒を呑んで……でも今日はそれで終わりではない。
「先にシャワーを浴びるかい?それとも一緒がいいかな?」
「……先に……」
「行っておいで」
甘い雰囲気に変わってしまうと落ち着きをなくしてしまう。
受けはもう何がどこにあるか熟知している一回のバスルームに駆け込み、服を脱ぐと少し熱めにシャワーを浴びた。
心音がうるさい。
身体を清めもしもと勉強した準備を施し、バスルームを出た。
いつもなら用意されているパジャマが定位置にない。
代わりにタオルとバスローブが置かれてある。
顔を真っ赤にしてそれを纏い出ると、リビングに顔を出した。
「あの……」
こんな格好で良いのだろうか。
だが受けの姿を見て父親はフッと笑った。
「思った通りその色は君によく似合っている。あの部屋で待っていて、すぐに行くから」
ドキリと心臓が跳ね上がる。
本当にするんだ……。
こんなにも緊張してこの大きなベッドに腰掛けるのは初めてで、どうしていいかも分からない。
いや、それどころかこんなにも緊張してバスルームから出てきたのすら初めてではないか。
あまりの緊張に倒れそうになる。
「待たせて悪かったね。……そんなに緊張されては、悪いことをしているような気分になる」
「す……みませ……」
スプリングを鳴らして父親が隣に座った。
「受けは……こうされるのは嫌かな?」
チュッと合わさるだけのキスをする。
緩く首を振った。
「ではこれはどうかな?嫌ならすぐに教えてくれ」
そうやって一つ一つ確認し口付けが深くなっていく。
巧みな大人の技に緊張どころか身体まで溶け、彼の首に腕を回してなければ座っていられないほどとなる。
父親の膝に乗せられまたキスをする。
ガウンの緩い襟の間から手が入り、あの日と同じように胸の尖りが弄られる。
あの日と違い、受けは甘い声を抑えはしなかった。
キスの合間に請われ、感じれば「嬉しい」と言ってくれるから。
元生徒がいない安心感に次第に大胆になっていく。
ガウンの紐を解かれ前がはだけても啼いてはキスするのを繰り返した。
弄られすぎて尖りが赤く熱を持つまでになると、身体をベッドに横たえた受けに覆い被さってきた。
チュッチュッと左右の尖りにキスをして、舌で可愛がられる。
何もかもが気持ちよくて、父親の舌で身悶えた。
分身が涙を零して濡れると、父親は身体を起こした。
ベッドサイドに用意された瓶を手に取る。
「これから一つになる準備をするが、決して痛いことはしないと違う。だから私にすべてを預けてくれるかい?」
蕩けた意識のまま頷き、彼を見守る。
瓶の中身をたっぷりと掌に零すと、蕾に塗り始めた。
擽るように優しい指の動きだが、誰にも触られたことのない場所はギュッと窄み、動画で見るようなスムーズとは程遠い。
「奥ゆかしいね、そういう所も可愛い」
父親はチュッと立てた膝頭にキスをすると、身体を倒し分身を口に含んだ。
「だめですっやめて!……んっああっ!」
同じ男だからか、口淫は巧みで離れてと懇願していた口からはすぐに甘い声が流れ始め、少し濡れている髪を掴んでは引き剥がしたいのか押しつけたいのか分からず悶える。
分身へ意識が集まる隙を縫うように、指が蕾の緩やかな抵抗をかいくぐって挿ってきた。
「あっ!」
驚くとするに抜かれ、分身への刺激が激しくなる。
何度も繰り返し違和感が和らぐと、指は緩やかに抽挿を繰り返し、指を増やし、中を暴いていった。
痛みはなく、むしろ達きたいのに分身の根元を堰き止められ達けないのが辛くて、腰を揺らめかせては懇願を繰り返した。
父親の指がある一点をノックした。
「ひっ……な、なにこれ……あっ!」
身体に電流が走り、パンパンに膨れ上がった分身から白濁が少量飛び出した。
父親は口淫を強くし、そのポイントを擦りながら分身の根本を解放した。
「ひっ……だめっだめ……あっ!」
父親の口の中に蜜を放って、放心した。
こんなにも深い愉悦が存在するなんて知らない。
受けは荒い息を繰り返して天井を見つめた。
「大丈夫?嫌じゃなかったか?」
聞かれてもぼんやりとして答えられない。
その表情に父親は甘い笑みを浮かべ、蕾に挿れたままの指を動かした。
執拗に感じる場所ばかりを苛まれ、達ったばかりでまだ浮上も冷静になる時間も訪れないまま追い上げられる。
時間を掛け中を解し続ける。
「ここが受けのスイートスポットだ。ちゃんと覚えるんだよ、いいね。感じたくなったらここを自分で擦るんだ」
なにを言われているか分からないまま頷いては甘く啼く。
瓶の中身をたっぷりと塗り込められ、次第に熱くなり指を抜く頃には自ら腰を振るようになった。
「もう充分かな。では一つになろう、受け」
父親のを受け入れても、痛みはなかった。
むしろ感じる場所を逞しいもので擦られ、弄られないまま白い蜜を飛ばした。
「ああ……嬉しいな。私のを気に入ってくれたんだね。もっと感じて」
抽挿が大きくなり激しくなり、受けは与えられる愉悦に溺れていった。
中に飛沫を浴びても感じ、体位を変えても感じ……初めて男を受け挿れたというのにどろどろに溶かされてしまった。
「感じている君は本当に可愛くて……どれほど私を虜にするつもりだ……ああ、また欲しくなってしまった。もう一度良いかな?」
頷けばすぐに愉悦を与えられ、いつ終わりいつ眠ったかも分からなかった。
翌朝は腰の重さに起き上がることができず、甲斐甲斐しく世話をしてくれる父親に甘えては、二人の興奮が高まると時間も気にせず一つになった。
そんな週末を過ごしてからというもの受けは父親に会いたくて会いたくてならなくなった。
連絡を取っては仕事帰りや休日に待ち合わせをして、彼が取ったホテルで愛し合った。
受けが済むアパートは防音がなく、自分の声が聞かれるのが怖くて、とてもじゃないが招けなかった。
息子からも時折連絡が来たが、本格的に受験勉強に励んでいるようで、家にお邪魔するのは時々となった。
約束通り、彼の家に行けば元生徒の部屋へと入り、悩みを聞いたり勉強の分からないところを教えたり……スキンシップをされたりと擽ったい時間を過ごす。
「オレ、大学に入ったらずっと好きだった人に告白するんだ」
その夢を語られたとき、驚いた。
「好きな子がいるんだ……どんな子?」
「優しくて綺麗で、メチャクチャ可愛い人」
「凄いのろけだ」
笑って、いつの間に恋をするほど大人になったのかと驚く。
もう背は受けよりも高く手足も長い。
あどけなさもすべて剥ぎ取り精悍さが増した顔は、異性のみならず同性の受けですらドキリとすることがある。
「受け入れて貰えると良いね」
「……断られたらどうしよう」
「君みたいに格好良ければ早々振られないよ。自信を持てば良い」
「……先生だったら、どう?」
やはり恋をすれば人は臆病になるのか。
本命ではない人間にこんなことを尋ねてしまうくらい。
「嬉しいだろうな。だからまずは大学に合格するために頑張ろう」発破をかけその恋が成就することを願う一方で、淋しさが胸に住み着く。それに目を反らし、父親に抱かれては悦b抱き合うのになれていけば、父親に正義を教え込まれた。
発破をかけその恋が成就することを願う一方で、淋しさが胸に住み着く。
それに目を反らし、父親に抱かれては悦び、愛し合う術を教え込まれれば素直に飲み込んでいった。
脇目も振らず頑張った元生徒は、見事第一志望に合格した。
これには手放しで慶び、年甲斐もなく抱きついてしまったほどだ。
桜の花びらが散り若葉で埋め尽くし始める頃、大学生になった元生徒から連絡があった。
どうしたのだろうと家を訪ねた。
「先生さ、あの話覚えてる?合格したら告白するって」
「当然だよ。どうだったんだ?」
なぜかチクリと胸に痛みが走った。
真剣な顔が不幸な結果の予感を漂わせているからだ。
元生徒は厚みのある唇をギュッと引き締めた。
その表情があまりにも痛ましくて、座っている彼を抱き締めた。
「先生……」
「無理して言わなくていいよ。分かってるから」
「……本当に?」
「ああ。だから安心して……」
泣いていいよと続けようとして彼に抱かれた。
いつの間にこんなに力が強くなったんだと驚くほど強く。
「嬉しい……ありがとう、先生。オレ、めちゃくちゃ嬉しい」
顔が近づいて、唇に柔らかいものが触れる。
「えっ」
「振られるんじゃないかってスゲー怖かった……好きだ、先生」
答える前にまた唇を塞がれ、舌が潜り込んできた。
「んんっ」
やめて、離れて!
そう言いたいのに、若さが持ちうる衝動で貪られていく。
手が身体中をなぞり、そして性急に服を乱された。
父親と同じ大きな手が肌をまさぐり、そして胸の尖りを抓んだ。
「あっ……そこは……ああっ」
摘まんで転がされると勝手に甘い声が上がってしまう。
父親に可愛がられすぎてシャツが擦れるのすら辛いと、軟膏を塗って絆創膏を貼って凌がなければならないほど、過敏になってしまった。
少し乱暴に捏ねられては、痛みと一緒に電気が走り抜けていった。
「あっあっ……やっ!」
「可愛い……ここが先生の悦い場所なんだ……ふっくらしててもっと弄って欲しがってる」
興奮に上がる息の合間で言うと、元生徒は尖りを甘く噛んだ。
「ひっ……やぁ……」
舌と歯での刺激に身悶えてしまう。
節操のない身体は昂ぶり服の下から存在感を主張してしまう分身を彼の身体に押しつけた。
早く入れて欲しいとき、そうやって父親にねだってきたからだ。
「嬉しい……先生も感じてるんだ。もっといっぱい感じて」
執拗な愛撫に身悶え、抵抗もできずに服を剥ぎ取られていく。
だめだ、いけない。
分かっているのに、抵抗ができない。
「初めてが床の上は嫌だよな。先生、立てる?ベッドまで運ぶよ」
ひょいっと受けの身体を抱き上げ、ベッドに下ろすとまた覆い被さって胸を嬲られて、我慢できずに蜜を放った。
「すげー……先生が達ってくれた……嬉しくて死にそう」
仕方ない。
先月は互いに年度末ということもあり会えないままだった。
一人でしてはいけないと父親と約束した受けは、ずっと辛かったのだ。
僅かな刺激でも感じてしまうほど身体は疼き、今も収まらない。
元生徒が枕の下から潤滑剤を取り出した。
「先生とするときにって買っておいて良かった。これをたっぷり塗れば痛くないから」
自然と足を開き、指を迎えいれる。
「あっ!」
「勉強の合間にいっぱい調べたんだ。男だったらここが気持ちいいって……先生、どう?」
元生徒の指が感じる場所を擦ってくる。
気持ちよくて腰を揺らめかせては、はしたない声を上げていく。
「すっげ……感じてる先生ってこんなに色っぽいんだ……指が三本挿るようになったら、オレのを挿れていい?」
「はや……ほし……」
「うん、分かってる。だからちょっと待ってて」
性急に指で解されるが、1年以上も父親に慣らされた身体は一月相手にして貰えなかくてもすぐに綻び、愉悦を追いかけていく。
たっぷりと潤滑剤を中に塗られ指の抽挿がスムーズに鳴ると、元生徒は下肢を露わにした。
ゴクリと唾を呑む。
自然と足を開く。
「挿れるね、いい?」
「んっんっ!……あ……っ」
ゆっくりと挿ってくるそれを締め付けて彼に抱きついた。
いけないと頭の隅で警鐘が激しく鳴る。
父親だけでなくその息子とまでこんなことをするなんて。
けれどもう自分を止められなかった。
奥まで挿ったそれは中が慣れるのを待ってから緩やかに抽挿し、次第に激しくなる。
父親にはない激しさが嬉しくてしがみ付くように抱きついたまま甘く啼き続けた。
一緒に蜜を吐き出し、大きくなった身体が倒れてきたとき、ギュッと胸が締め付けられた。
「好きだ……ずっと……子供の頃から先生が好きだったんだ。今こうしてるの、すげー嬉しい」
拒まなければならないのに、その言葉にまた愛おしさが溢れていく。
こんなに必死に好かれて拒むなどできない。
心の奥底で歓喜している自分を隠したくて、逞しくなった肩に顔を埋めた。
「先生も言って……お願い」
「……好きだ」
言ってはいけないと分かっていても、伝えずにはいられなかった。
「嬉しい……愛してる、先生」
好きと自分に向かう衝動を飾ることなくぶつけられ、受けは身悶え続けた。
父と息子、二人と関係を持ってしまったことは受けを苦しめた。
二人に伝えなければならないのに、怖くてできない。
彼らが愛したのはこんなにも節操のない人間だと知られたくなくて、けれど向けられる気持ちをどうすることもできなくて、眠れぬ夜が続いた。
仕事でも失敗を繰り返し、校長からしばらく休んではと打診を受けるほどだった。
このままじゃいけない。
けれど怖い。
それぞれと会っては愛を囁かれ身体を重ねる。
淫らに求めては落ち込み、抜け出せない背徳の中で窒息死しそうだった。
「先生……大丈夫?どっか辛いなら言ってよ」
「大丈夫だ……大丈夫」
自分に言い聞かせるように繰り返しても罪悪感が溢れ出てくる。
「本当に?今日はこうしてるだけでいいし、寝てくれても構わないから」
ベッドに腰掛けた元生徒の膝の上に横座りし抱き締められながら、言ってしまおうかと逡巡する。
けれど彼を傷つけたくない。
ずっと慈しんできた彼の真っ直ぐな感情を大事にしたい。
最初は襲われて関係を持ったに近かったが今は違う、父親に向けるのと同じ気持ちが彼へと向かっていく。
では父親に告げるか。
それもできない。
慈しんでくれた彼を失いたくはない。
すべてを包み込んでくれる甘い腕を失いたくない。
身勝手だ。
こんな状態で二人とも傷つけずにずっといるなんて無理だ。
分かっているのに逃げるように誘う。
「抱いて……おねがい」
「オレはすげーしたいけど……先生はそれでいいの?」
「……早く君を感じたい」
ずるい大人になってしまった受けは感情にそっと蓋をして身を委ねた。
いつもながら真っ直ぐに欲しがられて身体は悦び、心がが満たされる。
それも抱かれている間だけと分かっていても欲してしまう。
中で元生徒の蜜を二度受け止め、満ち足りた吐息を吐き出したとき、ノックがして扉が開いた。
「ちょっといいかな?」
父親だった。
受けは咄嗟に布団で自分の身体を隠そうとしたが、すぐに元生徒によって奪い取られ下に落とされた。
ガタガタと身体が震えた。
あれほど火照った身体が一気に凍り付き冷たい汗が背中を流れていく。
終わりだ。
ずるい自分はきっと、愛してくれたこの親子を失うのだ、醜い裏切りの代償に。
「ごめんなさい……ごめんなさいっ」
「何に謝っているのかな、受けは」
「ごめんなさい……二人と……関係を持ちました」
断罪される。
父親のみならず息子とまで付き合ったのだ、二人から罵られるだろう。
その瞬間を待っているのに、いつまでも二人から荒い言葉は放たれない。
それどころか、震える受けを父親は抱き締め、流れる涙を元生徒が拭う。
「泣かないでよ、先生。そんな顔されたらさ、また勃つから」
「君に泣かれると弱い。すぐにでもキスしたくなる」
なぜそんな優しい言葉をかけるんだ。
裏切ったのは自分なのに。
「私たちと愛し合ったのがそんなに辛いのかい?」
「ごめっ……なさ……」
「ねえ先生教えて。オレのことも父さんのことも好きなの?」
力なく頷いた。
いけないと分かっていても二人を愛してしまった。
どちらも選べないほど深く。
「死にそうな表情をするほど思い悩んで苦しんだんだね」
「……ごめんなさい」
「別に謝って欲しいわけじゃないから。ねえ、先生。オレと父さん、どっちを選ぶ?」
ハッと顔を上げた。
どっちも選べないから苦しみ、どちらも手放せないから心が疲弊した。
けれどどちらかを選ばなければならないのだとしたら……自分はきっと死ぬしかない。
「それとも二人とも選ぶかい?」
「え……」
「先生がいいなら、オレはいいよ」
「私もだ」
「でもっ!こ……こんなの……間違ってる……」
「インモラルでも構わない、君に愛されるなら。それに、私たちが互いに納得すれば問題ないだろう。世間のモラルなど気にする必要もない」
いいのだろうか。
受けは二人に視線を向けた。
視線での問いかけに、二人は似た甘い笑みで応えてくれる。
恐る恐る腕を伸ばした。
指先がそれぞれの肌に触れたときビクリと震え、一度ギュッと握り込んでからもう一度、今度はしっかりと二人の手を掴んだ。
「お願いです……お願いです……どちらも選ばせてください」
ポロポロと涙が零れた。
「受け、愛しているよ。私たちを選んでくれてありがとう」
父親が抱き締め頬に口付ける。
「オレが先生を振るとか無理だから。いっぱい俺たちに愛されて」
元生徒も抱き締め頬に口付ける。
嬉しくて嬉しくて、受けは子供のように声を上げて泣いた。
そして落ち着くと、ずっと使わせて貰った客室に運ばれた。
「オレのベッドじゃ、三人は無理だから」
元生徒が背後から受けを抱き、露わになった肩に口付けの跡を残していく。
今まで残すのを禁じてきた恨み返しとばかりに余すところなく付けていく。
肩だけでなく首筋にもうなじにも。
父親はいつもの始まりの挨拶と濃厚な口付けに受けを溺れさせては、感じやすくなった胸の尖りを苛んでくる。
元生徒とは違う甘くじれったい刺激に悶え、早くと自分から腰を彼に押しつけねだった。
本当に二人に愛されて良いのか、二人を愛していいのかを身体で確かめたくて、性急に欲する。
「そんなに私を欲しがってくれると、手加減ができなくなるが、いいかい?」
「手加減、しないで……いっぱい愛して……あっ」
片足を持ち上げられ、立ったまま正面から父親のが挿ってきた。
爪先で立ち、その首にしがみついて愉悦を味わう。
肩甲骨の尖りを元生徒に噛まれ、それにも甘い声を上げる。
「どこもかしこも敏感で可愛い、先生」
「ああ、受けは本当に愛らしい。このままずっと私たちに愛されなさい」
「いっぱい愛すから、オレ達のこともいっぱい愛して」
当たり前だ、この想いが許されるなら、どれだけ二人を想っているかを彼らに知ってほしくなる。
「あいしてる……から、ずっと……だいて……あっい……くっ!」
感じきった受けは、場所をベッドへと移し交互に愛され注がれて、どこまでも満たされてから、意識を手放した。
久しぶりに訪れた深い眠りに自然と口角が上がっていた。
その後、二人に懇願されて同居することになった受けは、客室を自室にして三人での生活を始めた。
三人で温泉に行ったり、ちょっと際どいプレイをしたり、時折ケンカなんかもして、満たされた日々を送るのだった。
そして、実は親子が家庭訪問以降から着実に受けを手に入れるために画策し、この家も彼と住むために建てたことや、客室に仕掛けた隠しカメラで受けの艶姿を記録してはコレクションしていることは、最後まで受けは知らないままである。
おしまい
家庭訪問に訪れたお宅で、生徒が受けを引き留めた。
教室でも大人しい子で、自分の意見を言わず発言も少ないため、新学年になって二ヶ月以上が過ぎるがどのような子なのか掴めずにいた。
「でも長くいたらお父さんも困るよ」
父子家庭とは聞いていた。
母親は病で倒れ帰らぬ人となったのは入学前。
五年生の男児にとっては寂しい環境なのだろう。
担任でも引き留めたくなるほどと同情心が芽生え、最後ということもあり、夜までお邪魔した。
「お父さん、料理が上手なんですね」
「いやいや、まだまだです。どうしても忙しくて平日は弁当ばかりでこの子に可哀想なことをしていると分かっているんですけどね」
有名な商社に勤めているという父親はきっと仕事で帰りも遅いのだろう。
その中で再婚もせずに子供を一人で育てているとは尊敬しかない。
振る舞って貰った夕食を相伴し、帰路に就く。
それからだ、この親子と良く話をするようになったのは。
生徒は大人しく問題も起こさないが、常に気にかけるようになり、父親にもまめに連絡を入れるようにした。
学校に併設の学童にいる間はよく顔を見に行き、最後の一人になると話し相手にもなった。
慌てて迎えに来た父親とも言葉を交わせば、他の生徒よりも親密になってしまうのは仕方ない。
家庭環境を知る校長からは「ほどほどに」と注意を受けたが、在学中はなにかと気にかけた。
だから、六年の担任にはならなかったが卒業式では誰よりも泣いてしまった。
生徒は小学校の近くにある中学には進まず、少し離れた私立の中学へと通い、しばらく姿を見ることはなかった。
再び親子と対面したのは、梅雨に入ったばかりのターミナル駅だった。
天気予報では梅雨の晴れ間と謳っていたにも拘わらず、夕方には雲行きが怪しくなり、すぐに豪雨がアスファルトを弾き川を作り上げた。
傘を持たずに出てきた受けは途方に暮れた。
「あれ、先生じゃん」
声をかけてきたのは元生徒だった。
会わないうちに背が急激に伸びたのか、目線が上がる。
それを褒めると、思春期の照れくささに頭の後ろを掻いて不貞腐れた顔をされた。
小学校では一度としてみない表情に、大きくなったんだと嬉しくなった。
「どうしたの?」
「傘を忘れて……電車も止まって帰れなくてね。梅雨の晴れ間と言っても傘は鞄に入れるべきだったな」
苦笑すれば元生徒が親指で改札の反対を指した。
「父さんが迎えに来るから良かったら乗ってってよ」
「いやそんな、申し訳ないだろうそれは」
「別に良いって。父さんも先生に会いたがってたから」
卒業してからこの親子と接点がなくなったため、会うのは一年ぶりとなる。
穏やかでウィットに富んだ会話をする父親と話すのは楽しく、卒業した家庭ということもあり頷いてしまった。
外国産の車に乗り込めばすぐさま父親が「ご無沙汰してます、偶然とは言え会えて嬉しいです」と顔を綻ばせてくれたのに安堵し、後部座席から頭を下げた。
「家はどちらですか?」
住所を言えば最新型のカーナビに入力し、すぐに顔を曇らせた。
「先生、今○○道が閉鎖されているのでここからお送りするのは難しいですね」
豪雨のせいで通行止めとなっているらしい。
送迎を辞退して車から降りようとする受けを元生徒が引き留めた。
「うちに泊まって明日の朝帰れば良いよ。父さんもいいだろ?」
「ああ、当然だ。お世話になった受け先生なら大歓迎だ」
「いえそんな……」
「気になさらないでください」
車はすぐに出発して勤務先の小学校とは別の方向へと進む。
突いたのは豪奢な一軒家だった。
以前はマンション住まいだったはずと首を傾げていると、傘を差してくれた父親が玄関へと促した。
「卒業と同じタイミングで引っ越したんですよ。通勤は少し不便になりましたが、息子と心機一転頑張ろうと思いまして」
親子二人にしては大きく立派な家だ。
もしかしたら再婚の話があるのかもしれない。
社会的地位もあり見目も性格も良ければ子供がいても結婚したいと願う女性はいるだろう。
だがプライベートに踏み込んではいけないと頷いて背きゅりいてぃが厳重な玄関を入った。
外観と見合ったスタイリッシュな室内はまるでモデルルームのようで、どこも綺麗だ。
広いのにどこも掃除が行き届き、一人暮らしの自室の汚さが恥ずかしくなる。
「冷えたでしょう。良かったら先にお風呂を使ってください」
元生徒のために湧かした風呂に入るのは気が引けたが、「オレ、二階のシャワー使うから」と階段を上がっていかれては頭を下げるしかなく、広い浴槽に浸かると梅雨冷えした身体がじんわりと温まった。
賃貸アパートの小さな浴槽では味わえない開放感に少し逆上せそうになるほどゆっくりと広さを味わって、それから身体中を綺麗にした。
脱衣所に出ればすでにタオルと着替えが用意されていた。
「長々とすみません、着替えもありがとうございます」
「むしろ良いタイミングです。丁度できたので熱い裡に食べましょう」
前回はイタリアンだったが今回は和食だ。
しかも成長期の男子の好物ばかりだ。
中学生が家にいれば当然のメニューにまだ26になったばかりの受けも嬉しくなる。
すぐに元生徒も下りてきて一緒に父親の手料理を堪能した。
「オレ勉強あるから部屋に戻るけど、先生はゆっくりしてね」
無口で俯きがちなあの生徒がはっきりとした言葉をかけてくれたのに感動して、父親に促されるまま場所をソファに移し、高そうなワインが注がれたグラスを片手に話をした。
「もう中学生なんですね……頼りなかった元生徒くんがあんなに大人びたことを言うなんて」
「先生が見守ってくださったおかげです。どうしても一緒に居る時間が少ないので喋るのが苦手な子になってしまったと悩んでいましたが、先生が話を聞いてくれるのが嬉しかったようですね、家でも会話をしてくれるようになりました」
「そんな……たいしたことはしてません」
褒められて少し役に立てたのが嬉しくて、ワインが進む。
父親の手製というベーコンが巻かれたチーズは少しスモークされていて、美味しかった。
父親の仕事の話を聞き、子供との過ごし方を聞き、自分も少しだけ学校の愚痴を零せば、いつの間にかワインは三本開いてしまい、強かに酔う。
「大丈夫ですか?今日はこれでお開きにしましょう」
父親が受けの身体を支え客室へと運んでくれる。
「すみません……」
「飲ませてしまったのは私です、気にしないでください」
その優しい声音に心が和らぐのを感じた。
大きなベッドで横になった受けに父親は柔らかく軽い布団を掛けてくれた。
「ゆっくり休んでください、おやすみなさい」
「……おやすみ……なさ……」
受けはすぐに睡魔に襲われ、瞼を閉じ深い眠りの海へと潜り込んだ。
「なんだよ、先生寝ちゃったのか……睡眠姦?」
「まだ時期尚早だ、もっと時間と手間をかけないと……だろう?」
それ以来、受けのスマホに親子から連絡が入るようになった。
珍しい食材が手に入ったと父親からくれば家にお邪魔し、面白そうなイベントがあると元生徒に誘われれば一緒に参加してそのあと家にお邪魔して遅くまで酒を飲みながら喋ったりゲームをしたり。
気がついたらプライベートの時間の大半を親子と過ごすようになった。
会えば泊まるのが当たり前になり、平日の仕事に疲れた後の一人で過ごす時間が淋しさを伴うようになってしまった。
元生徒とこれほど親密になっていいのかと自粛しようにも居心地の良さが教師としての厳格さに目を背けさせる。
元生徒もエスカレーターで高校へと進学し、なぜか一緒に進学祝いをして、また泊まってしまう。
高校生になったからとその日は元生徒も遅くまで起きていた。
父親が洗い物でキッチンに立っていると、息子が少し難しい顔をして近づいてきた。
「ねえ先生、友達からこんなのが届いたけど……どう返事したら良いのかな?」
こんなのと見せられたスマホの画面には、男同士が愛し合う姿が映されていた。
しかし卑猥さはそこにない。
美しい男同士がキスを交わし、とても相手を慈しんでいるのがこちらにまで伝わってくる映像だった。
ゴクリと唾を飲んだ。
教師として手本になる回答をしなければ……。
「……君がこれを見て嫌だったらちゃんと相手に伝えて止めさせれば良いが、同性が好きな人もいる、その人が好きだからと言う人もいる。偏見を持ってはダメだよ。相手を馬鹿にするのも」
「そうだよな。でもさ、性別とか気にしないで好きになれるって、凄いことだよな。オレもそんな風に好きな人に会えるのかな」
若者特有の潔癖さを表さなかったことに安堵し、けれど真っ直ぐにそう言う元生徒の言葉がじわりと胸に染み込んでいく。
「そうだね、そういう人に出会えるのは稀だろうけど、憧れるね」
「先生はどうなのさ」
「学校と家の往復でまず出会いがないよ」
笑ってまたワインを口に含んだ。
白のスパークリングワインはスッと喉を通り抜け、元生徒の言葉と一緒に身体に広がっていく。
(性別が気にならなくなるくらい好きになる……か……)
そういえば大学を卒業してから忙しくて恋なんてしていないなと思い出す。
「さすがにもう寝る時間だ。早く寝なさい」
「はーい」
時計を見ればもう十時を過ぎている。
高校生になればやりたいことも増え、もっと夜更かしもしたいだろうに、元生徒はスマホの画面をすぐにスリープにしてリビングを出た。
「何か相談されていたようですね、すみません」
「いいえ。たいしたことはありませんよ」
「先生がいてくださって本当に助かります。親に言いづらいことが増えたようで、昔のようになんでも相談してくれなくなったんですよ」
「そうだったんですか……」
「先生には信頼を寄せているんですね。少し……羨ましいです」
父子家庭だ、頼って貰えないのを自分の力不足と感じているのだろうか。
「お父さんはちゃんと父親をされています。ただ彼が親離れの時期になったんでしょう。オレも同じ頃は両親と離すのが少し照れくさくて、素直になれなかったな」
「先生は若いのにしっかりしてるから反抗期なんてないと思ってました」
「反抗しまくりましたよ。そんなたいした人間じゃないです」
なんてことない会話をしているだけなのに、優しい眼差しで見つめられじわりと身体が熱くなるのを感じる。
顔も熱い。
(……あの動画のせい……なのかな?)
いやそんなはずはない。
だというのに、意識してしまう。
僅かに俯けば空になったグラスにスパークリングワインが注がれ、彼も当たり前のように自分のグラスに注いだ。
「あっ、すみません」
「良いんですよ、一人だと呑まないので。先生が来て下さった日は楽しいお酒になるんです」
まるで自分が特別であるかのような物言いに、またじわりと熱くなる。
冷ますためにワインを口にして、他愛ない話を振る。
どんな話でも笑顔で聞いてくれ、悩みであれば回答へと導き、くだらない話なら面白そうに笑ってくれる。
(もしかして……)
元生徒が自分の部屋に上がってから1時間ほど二人の時間を過ごし、それから何度も使わせて貰っている客室に下がった。
「はぁ……意識しすぎ」
いつもなら酩酊感の心地よさにそのまま眠ってしまうはずなのに、今日は違った。
しばらく相手をしてやってない分身が自己主張を激しくする。
キリッと唇を噛み、自分用にと用意されたパジャマのウエストから手を潜り込ませた。
元気になってしまったそこを擦る。
「うっ……んんっ」
聞かれないよう声を抑えて集中すれば、浮かんでくるのは父親の整った顔だ。
それがあの映像と合わさり、自分を優しく抱きながらキスしてくる画へと変わっていく。
ドクンと分身が膨らんだ。
「うそ……んんっ」
手までもが早くなっていく。
自分の手なのに、それがいつも器用に料理を作り、嫌味なくサーブしてくれる大きな手に握られる錯覚に陥る。
啄まれる唇、絡まる足。
またドクリと大きくなった。
「ぃ!……あ……」
どろりと白濁が手と下着を汚した。
罪悪感のまま、ベッドサイドに置かれたティッシュで汚れを拭き取り、出したのにまだ熱い身体を抱き締めた。
「そんな……」
元生徒の言葉が脳裏に浮かぶ。
「まさか……」
ギュッと目を瞑り、丸まるように眠った。
「父さん策士すぎだろ」
「ふっ、お前に言われたくはないな」
「まあね。これからが楽しみだね」
「そうだな」
あれから受けは僅かにできた時間の度に父親のことを思い出しては顔を熱くした。
挙動不審になり、忘れようと仕事にのめり込んでも一人の部屋に戻れば思い出しては分身を慰めてしまう。
気付かずに彼に好意を抱いていたのだろうか。
悶々として、いつものように週末の誘いの連絡が来ても返事ができなかった。
既読スルーは罪悪感が押し寄せ、また落ち込んだ。
「先生、どうしたの?」
学校の最寄り駅についたとき、背中から声をかけられた。
「返事くれないなんて初めてだったから心配したよ」
君のお父さんを好きだと気付いてしまって、会うのが怖いんだ。
そう口にできたら良いが、受けには勇気がなかった。
俯いて立ち尽くす。
二人を邪魔そうに見て改札に入っていく人々の視線すら気付く余裕がない。
「なんかあるならオレ聞くよ。オレじゃ頼りないなら父さんでも良いし」
ビクリと肩が跳ねた。
こんな感情を抱いて会っていいのだろうか。
今までと同じように振る舞えるだろうか。
……無理だ。
きっと挙動不審になって理由を聞かれる。
「……ちょっと忙しくてね、ごめん」
受けは初めて嘘をついた。
「そっか、オレの方こそごめん。先生忙しいもんな。でも暇になったら連絡して。オレ先生に相談したいことがあるから」
「ああ……落ち着いたら」
冷静になれたらきっと、大丈夫だ。
元生徒と別れ、人がごった返す改札へと入っていくが、彼に似た顔と対峙したせいか、頭の中は父親のことでいっぱいになってしまった。
自分がどうしたいのか分からず時間ばかりが過ぎ、秋が終わろうとしていた。
急に冷たい風が吹くようになりなかなか身体が付いていかなくなる頃、少し風邪気味で仕事終わりの疲れを纏って改札をくぐった。
足取りがいつもより重く、階段を上がるのが億劫と見上げれば肩を叩かれた。
「先生、偶然ですね」
「あっ……お父さん……」
驚きに肩が跳ね、そのままバランスが崩れた。
「おっと……先生、大丈夫ですか?」
転ばないよう支え、大きな手が額に触れる。
「熱いじゃないですか。もしや体調が良くないのですか?」
「あ……平気で……」
驚きに上がった動悸が鼓膜まで響く。
「とてもそんな風には見えません。お一人暮らしでしたね、具合が悪くなっては大変です、今日は我が家で休んでください」
「いえ、そんなっ……これ以上ご迷惑をおかけするわけには……」
「何を仰ってるんですか。先生にはたくさん助けていただきました、ぜひ次は私に助けさせてください」
断る言葉を必死に思い浮かべようにも、腰に回る腕に意識がいってしまい何も浮かばない。
強い力で促され、駅前で列を成しているタクシーに押し込まれる。
「急に寒くなりましたからね、体調を崩しても仕方ないですよ」
「……お恥ずかしい限りです」
社会人なら体調管理も仕事のうちと怒られるだろうが、父親は俯く受けの頭を優しく撫でた。
「病気をしない人間なんていません。特に先生はたくさんの生徒の子供を相手にしなければなりませんから、気を抜くことができないんでしょう。家に帰っても一人では色々難しいこともありますからね」
優しくしないで欲しい。
その優しさに触れてしまうと、押さえ込もうと必死な感情が溢れ出してくる。
頭を撫でる手の優しさに縋ってしまいたくなる。
認めるしかなかった、彼のことが好きだと。
けれどそれは叶わない恋心だ。
女性と結婚経験のある彼が、同性である自分を見てくれるなどあり得ない。
子供の担任だったから……飲み友達だから優しくしているに過ぎない。
期待してはダメだと自分に言い聞かせても、膨れ上がった期待も恋心も窄まってはくれない。
じわりと涙が滲んだ。
眦に溜まりほろりと零れた。
すぐさま親指の腹で拭われる。
「頑張りすぎないでください。でなければ心配で何も手に付かなくなってしまう」
優しさと包容力がじわりと受けを包み込み、心地よさに沈んでしまいそうだ。
家の前に着くと、父親は受けに肩を貸し家に入った。
「おかえり……先生どうしたんだよ!」
「体調が良くないようだ。手伝ってくれ」
親子で受けを客室へと運び服を脱がす。
「先生ガリガリじゃんか、良くなったらオレが栄養のあるもん作るから」
「そうだね。今日は消化の良い物にしよう。その前にパジャマに着替えようか」
サッと汗を温かいタオルで拭い、すぐさまパジャマを着せてくる。
布団を掛けられ、食事を用意するからと父親が部屋を出た。
安堵した次に残念に思ってしまう。
嘆息がひどく熱い。
「熱を測ろう、先生。薬って飲んだの?」
「……家に帰ってからと思って……」
「そっか。じゃあ食べたらうちにある薬持ってくるよ。それ飲んだらゆっくり休んで」
元生徒も紅潮する頬を撫でる。
父親とは違う柔らかく滑らかな感触と優しい仕草にとろりと身を預けてしまいそうになる。
ピピッと電子音が鳴り、元生徒がパジャマの襟から手を入れた。
指先が胸の尖りを掠める。
ビクッと身体が震えた。
父親に恋心を抱いているのではと思うようになってから、ネットで同性同士の恋愛について調べた。
身体を重ねる際にそこを弄られ悶える動画を偶然見てから、こっそりと自分で試し……彼に弄られることを想像しながら蜜を吐き出してしまった。
以来、定期的に弄るようになった場所は敏感になり、たったこれだけの刺激でも身体を震わせてしまう。
恥ずかしくて、また熱が上がった。
「38.1℃って微熱レベルじゃないよ。病院行った方がいい」
「だ……大丈夫、大丈夫だ。薬を飲めば治るから……」
「でも……辛かったら言って。すぐに父さんに車出して貰うから」
「ありがとう。迷惑をかけてごめん」
「いいって。オレ、小学校の時、気にかけてくれる。
「ありがとう」
体温計を持つ手をギュッと握った。
微笑みかけると精悍になっていく途中の愛らしさと格好良さの混じった顔が赤くなった。
「べっ……別に……当たり前だし」
ぶっきらぼうな言い方すら愛おしいと感じてしまう。
おでこに冷却ジェルを貼って顔を赤くしたまま部屋を出て行った。
もう守ってあげなければならない子供ではないんだと、じんわりと認識する。
当然だ、もう高校二年生。
間もなく成人と言われるとしになる元生徒をいつまでも子供扱いするのは失礼だ。
「いつの間にあんな大きくなったんだろう」
親にも似た気持ちを抱いてしまう。
愛らしい顔で目に涙を浮かべて「帰らないで」と引き留めたあの日を思い出す。
その頃の面影はもうどこを探しても見つからないが、変わらない優しさに触れて、熱いものが込み上げてきた。
少し腫れぼったさを感じる瞼を閉じれば、辛いわけでもないのに涙がスッとこめかみを通って流れていく。
ノックの後、扉が開いた。
「食事ができました、起き上がれますか?」
サイドテーブルにトレイを置き、父親がベッドの傍にある椅子に腰掛けた。
「……なにか嫌な事がありましたか?」
少し硬い指の腹が涙の跡を拭うように辿る。
「いえ……悲しいというのではないんです」
「熱のせいかもしれませんね。息子に聞きました、熱が思った以上に高いですね。辛かったらすぐに仰ってください」
父親は受けの身体を起こすとベッドヘッドに凭れさせ、土鍋から椀に粥をよそった。
卵とネギが散った粥からは香ばしい匂いがする。
父親が匙にそれを掬い、数度息を吹きかけてから受けの口まで運んだ。
「じっ……自分で食べます」
「熱があるんですから、こういうときは甘えてください。さあ、冷めないうちに」
匙の先が唇を軽く突く。
恐る恐る口を開けばとろりとした粥が流れ込んできた。
久しぶりに味わう彼の料理にもっと寄越せとばかりにグーッとお腹が鳴る。
恥ずかしい受けに反して、父親は甘くに笑った。
「嬉しいな、そんなに気に入って貰えると。貴方のためならいくらでも作りますよ。今は粥だけですがいっぱい召し上がってください」
「すみません……」
匙が近づけば口を開けと雛になった気分だ。
掴まれた胃袋は嬉しい嬉しいと流れ込んでくる粥に喜んでいる。
前回の泊まりから随分と時間が空いてしまったのもある。
本能のまま、給餌され時間を掛け食べていった。
土鍋が空になると、薬が差し出される。
「これを飲んでも熱が下がらなかったら病院に行きましょう。効くまではゆっくりと休んでください」
錠剤をこくりと水と一緒に飲み込み、またベッドに横たえられる。
「おやすみなさい。辛かったらすぐに呼んでくださいね」
ふわりと微笑まれ、様々な感情が胸に溢れかえった。
受けは素直に目を閉じ眠った。
夜中に喉の渇きを覚え、目を覚ました。
ベッドライトが灯された部屋は常夜灯よりも明るくて、何度か瞬きをしてから身体を起こそうとした。
「どうしましたか?」
父親の声だ。
ベッド傍の椅子に腰掛け、英語だらけの本を捲っている。
「……付いていてくださったんですか?」
「読まなければならない本があるので気にしないでください。なにか欲しいものがあるんですか?水ですね、ちょっと待ってください」
サイドテーブルに置かれた水差しで満たしたコップが差し出された。
「いきなりですと咽せますからゆっくりと飲んでください」
「……あまり……優しくしないでください」
もっと貴方のことが好きになってしまいます。
言葉を水と一緒に飲み込んだ。
「私が先生に優しくしたいんです」
「優しくしていただく理由がありません……こんなによくしてもらっていうのも申し訳ないのですが……」
「理由はあります。貴方を愛しているからです」
さらりと流された言葉が心に届くまで時間を要した。
あまりにも自然で、反応できずじっと父親を見た。
変わらず優しい眼差しだ。
大きな手が汗に濡れた頬が撫でられる。
タクシーでしていたのとは違う、妖しさを纏って。
「あ……」
「一生懸命に子供たちに向き合う貴方に好意を抱きました。長い時間を一緒に過ごすようになってから、その明るさと真っ直ぐさと愛らしさに惹かれました。先生、愛してます」
衒いもなく恥ずかしいことを口にする彼から目が離せなくなった。
「私もです」と伝えていいのか分からず、口を何度も開いては閉じる。
「この向けてもご迷惑ではないですか?」
ずるい。
強引に突きつけてくれれば良いのに、受けに逃げ道を作ってくれる。
そんな大人の余裕が憎らしくて、また心惹かれていく。
緩く首を振った。
「ありがとうございます。今は何も考えず休んでください。もう一度熱を測りましょう。下がっていると良いのですが……」
パジャマのボタンを外し、体温計を脇に挟んでくる。
この家に来なくなって痩せていく一方の身体がベッドライトに浮き上がる。
エアコンと加湿器で心地よい空気に触れても寒さを感じないため、されるがままになった。
ピピッと電子音が鳴ると温度を確かめるためにまた手がパジャマの中に入る。
「んっ!」
曲がった指の関節が胸の尖りに当たり、思わず声が上がりそうになった。
だが父親は気付かないのか、体温計に表示された数字を真剣な眼差しで見る。
「ああ良かった。37.7℃まで下がってますね。安心しました」
また頬を温かい手で包まれる。
ダメだ、もう隠せない。
児童の保護者とは一定の距離を保たなければならないのに、そのルールを踏み越えて接したのは、自分も好意があったからに違いない。
再会してから四年の時を親密に過ごしすぎてそれが恋情へと形を変えてしまったのだろう。
ギュッとパジャマの前を握った。
俯きたいのに、大きな手がそれを許してくれない。
熱に潤んだ目で父親を見た。
「好き……です」
それが精一杯だった。
親指が涙袋をそっと撫でた。
「相愛と思っていいのでしょうか」
「……はい」
恥ずかしくて瞼を閉じる。
そこもまた親指が優しく撫でる。
「私を貴方の恋人にしていただけますか?」
「…………はい」
「ありがとう、先生……ああ、恋人を先生と呼ぶのはおかしいですね。受けさん、愛してます」
精悍な顔が近づき、唇が鼻の天辺に押し当てられた。
「え……?」
ちゅっと音を立て離れ、掌も去って行く。
温かかった頬にエアコンの風が吹き抜け、淋しさを与えてくる。
「今タオルを持ってきます。汗を拭きましょう」
「あ……すみません」
寝汗で濡れてる自分が恥ずかしかった。
湯気の立つ洗面器にタオルをくぐらせてからパジャマの上が脱がされた。
「少し寒いかも知れませんがすぐに終わらせますので」
「いえ……寒くはないです」
「そうですか。でもまだ熱がありますからね。早いほうが良いでしょう」
父親はタオルを絞ると背中から受けの身体を拭っていった。
ここに連れてこられたときと同じように優しい手付きに、ほうっと息が漏れる。
タオルが冷えないよう、何度も湯にくぐらせては拭くのを繰り返す。
背中から腕、そして前へと回り……。
「ぁ……んっ」
「受けさんはここが敏感なんですね。先程は素知らぬふりをしましたが……恋人となった今では気付かぬふりはできません」
もう一度タオルが胸の尖りの上を通った。
「うっ……」
「可愛い声だ。もっと聞きたい、聞かせてください」
父親の指がそこを弾く。
「んっいけません……元生徒くんに聞かれます」
「大丈夫です、この部屋は防音になってますから」
「あっ……そんな……だめ……ですっ」
「奥ゆかしいんですね。でも今だけは許してください」
タオルをサイドテーブルに置いて両方の尖りを弄り始めた。
上下に弾かれ先を摘ままれ……繰り返されると腿の内側に自然と力が入ってしまう。
同時に堪えようとしても鼻から抜ける音が甘さを帯びてしまう。
自分でしたときと違い痛みはないのに、甘い痺れが広がっていく。
「なんて可愛い声だ、もっと感じて」
「……あっ……そんな……ああっ」
「そう、それでいい。もっと気持ちよくなって私にすべてを預けて」
胸の刺激だけで受けは身悶える。
父親の右手が尖りをグリグリと押し込んでもみしだくと、肌を辿って布団の中へと入り、下腹部を撫でた。
「だめですっ……だめっ……あ!」
形を変えた分身を下から撫でられ、受けは足に力を入れてしまう。
「私の手でこうなってしまったんですね……そんなところも可愛いです。責任を取らせてください」
父親は受けの後ろに座ると、抱き締めてきた。
タオルで拭われた頬にキスをして、また手を動かす。
左手は先程と同じように胸の尖りを……そして右手は下着の中へと潜り込み、直に分身を撫でた。
「いっ……ああっ、いけませ……んんっ」
「いけないことはなにもない。貴方の恋人がしていることです、感じてください」
恋人と低く甘い声で耳元に囁かれてはもう、抗えな預け荒い息を繰り返した。
「感じている受けさんはとても可愛い。顔が見れなかったのは残念ですが……次は堪能させてください」
次があるのか……。
ぼんやりとベッドに横たえられ、下腹部と力を失った分身を清められた。
服を整えられ、布団を被せられる。
チュッと今度は唇にキスが落とされた。
「元気になったらデートをしましょう。約束、してくれますか?」
精悍な顔が近くにあるのが恥ずかしくて目を伏せて小さく「はい……」と返事をした。
「楽しみにしています。愛していますよ、受けさん」
もう一度キスをして、洗面器を手に立ち上がった。
それを見送って重くなった瞼を閉じた。
「恋人昇格おめでとう」
「なんだ、まだ寝ていなかったのか」
「勉強してたし……気になったから」
「どうだ、受けは。可愛かったか?」
「めちゃくちゃ可愛かった」
「そうか。では私も後で映像を見るとしよう」
「オレも早く先生の恋人になりてー」
「成人して彼が受け入れてくれたら、だ。それまでは勉学に励むんだ」
「……分かってるよ」
「心変わりは大歓迎なんだがね」
「するわけねーだろ、くそ親父っ」
翌朝もまだ微熱が残る受けは、そのままベッドに寝かされた。
当然とばかりに父親がベッド傍の椅子に座っている。
「あの……お仕事は……」
「可愛い恋人が病魔に苦しんでいるんだ、一人にするなんてできないだろう。有休はたっぷりあるし、心配することはない」
甘く笑い、また頬を撫でてくる。
本当にこの人と恋人になったんだ……実感がないのに、その甘酸っぱい響きが受けの胸を締め付ける。
「……昨夜は……その……お手を煩わせてしまって……」
「むしろ煩わせて欲しいんだ君のことならなんでもしたいんだ、させてくれると嬉しいんだが」
断れない物言いにまた頷いてしまう。
こんなに甘えてしまっていいのだろうか。
連泊してるのに元生徒は学校に行く前と帰ってきてすぐに顔を出してくれる。
少しだけ背伸びした物言いが大人の階段を駆け上がっているようで、見ているとくすぐったい気持ちになる。
けれど、彼には隠さなければ。
以前、偏見はいけないなどと言ってしまったが、父親とこんな関係になってしまっては保身と取られてしまうかもしれない。
親子の中が悪くなってしまっては頑張っている父親に申し訳ない。
「あまり家にお邪魔しないようにします」
「どうしてかな。理由を教えてくれると嬉しいんだが」
受けは考えていたことを伝えた。
父親は穏やかな顔で話し終わるまで口を挟むことなく聞いてくれた。
受けの意見をしっかり受け止めようとしているようで、擽ったい。
「なるほど。受けさんが気にするのであれば仕方ない。けれど、息子の誘いを断ることになれば、あの子も傷つくだろう」
「そう……ですね」
「気にしないでというのは難しいのなら、息子に誘われたときは、彼の部屋で過ごすのはどうだろうか。私がいなければ問題ないだろう」
確かにその通りだ、父親を意識してしまうときっと隠せない。
「大学受験も近づいているから頻度は多くないと思うんだ。私たちの時間は、別に作ろう」
それが最善だろう。
どうしても元生徒を裏切りたくはない。
ずっとしたってくれ、今も屈託なく接してくれる彼を傷つけたくはない。
しょんぼりしていると、大きな手が髪を、頬を、唇を撫でた。
「来週末はデートをしよう。あの子は修学旅行でいないから、場所はこの家でも良いかな?」
「……はい」
三日間世話になって、また日常生活に戻ったが、以前と違うのが自分でも分かる。
心が浮き立ち、雲の上を歩いているようだ。
次に親子の家を訪れたとき、元生徒の姿はなかった。
「いらっしゃい、受け」
「……お邪魔します」
いつもと同じはずなのに、名前を呼ばれ甘い眼差しを受けてしまうと恥ずかしくていつもの自分ではなくなってしまう。
落ち着かない心のまま上がり、いつものようにリビングへと通される。
父親の手料理をご馳走になり、いつものように一緒に酒を呑んで……でも今日はそれで終わりではない。
「先にシャワーを浴びるかい?それとも一緒がいいかな?」
「……先に……」
「行っておいで」
甘い雰囲気に変わってしまうと落ち着きをなくしてしまう。
受けはもう何がどこにあるか熟知している一回のバスルームに駆け込み、服を脱ぐと少し熱めにシャワーを浴びた。
心音がうるさい。
身体を清めもしもと勉強した準備を施し、バスルームを出た。
いつもなら用意されているパジャマが定位置にない。
代わりにタオルとバスローブが置かれてある。
顔を真っ赤にしてそれを纏い出ると、リビングに顔を出した。
「あの……」
こんな格好で良いのだろうか。
だが受けの姿を見て父親はフッと笑った。
「思った通りその色は君によく似合っている。あの部屋で待っていて、すぐに行くから」
ドキリと心臓が跳ね上がる。
本当にするんだ……。
こんなにも緊張してこの大きなベッドに腰掛けるのは初めてで、どうしていいかも分からない。
いや、それどころかこんなにも緊張してバスルームから出てきたのすら初めてではないか。
あまりの緊張に倒れそうになる。
「待たせて悪かったね。……そんなに緊張されては、悪いことをしているような気分になる」
「す……みませ……」
スプリングを鳴らして父親が隣に座った。
「受けは……こうされるのは嫌かな?」
チュッと合わさるだけのキスをする。
緩く首を振った。
「ではこれはどうかな?嫌ならすぐに教えてくれ」
そうやって一つ一つ確認し口付けが深くなっていく。
巧みな大人の技に緊張どころか身体まで溶け、彼の首に腕を回してなければ座っていられないほどとなる。
父親の膝に乗せられまたキスをする。
ガウンの緩い襟の間から手が入り、あの日と同じように胸の尖りが弄られる。
あの日と違い、受けは甘い声を抑えはしなかった。
キスの合間に請われ、感じれば「嬉しい」と言ってくれるから。
元生徒がいない安心感に次第に大胆になっていく。
ガウンの紐を解かれ前がはだけても啼いてはキスするのを繰り返した。
弄られすぎて尖りが赤く熱を持つまでになると、身体をベッドに横たえた受けに覆い被さってきた。
チュッチュッと左右の尖りにキスをして、舌で可愛がられる。
何もかもが気持ちよくて、父親の舌で身悶えた。
分身が涙を零して濡れると、父親は身体を起こした。
ベッドサイドに用意された瓶を手に取る。
「これから一つになる準備をするが、決して痛いことはしないと違う。だから私にすべてを預けてくれるかい?」
蕩けた意識のまま頷き、彼を見守る。
瓶の中身をたっぷりと掌に零すと、蕾に塗り始めた。
擽るように優しい指の動きだが、誰にも触られたことのない場所はギュッと窄み、動画で見るようなスムーズとは程遠い。
「奥ゆかしいね、そういう所も可愛い」
父親はチュッと立てた膝頭にキスをすると、身体を倒し分身を口に含んだ。
「だめですっやめて!……んっああっ!」
同じ男だからか、口淫は巧みで離れてと懇願していた口からはすぐに甘い声が流れ始め、少し濡れている髪を掴んでは引き剥がしたいのか押しつけたいのか分からず悶える。
分身へ意識が集まる隙を縫うように、指が蕾の緩やかな抵抗をかいくぐって挿ってきた。
「あっ!」
驚くとするに抜かれ、分身への刺激が激しくなる。
何度も繰り返し違和感が和らぐと、指は緩やかに抽挿を繰り返し、指を増やし、中を暴いていった。
痛みはなく、むしろ達きたいのに分身の根元を堰き止められ達けないのが辛くて、腰を揺らめかせては懇願を繰り返した。
父親の指がある一点をノックした。
「ひっ……な、なにこれ……あっ!」
身体に電流が走り、パンパンに膨れ上がった分身から白濁が少量飛び出した。
父親は口淫を強くし、そのポイントを擦りながら分身の根本を解放した。
「ひっ……だめっだめ……あっ!」
父親の口の中に蜜を放って、放心した。
こんなにも深い愉悦が存在するなんて知らない。
受けは荒い息を繰り返して天井を見つめた。
「大丈夫?嫌じゃなかったか?」
聞かれてもぼんやりとして答えられない。
その表情に父親は甘い笑みを浮かべ、蕾に挿れたままの指を動かした。
執拗に感じる場所ばかりを苛まれ、達ったばかりでまだ浮上も冷静になる時間も訪れないまま追い上げられる。
時間を掛け中を解し続ける。
「ここが受けのスイートスポットだ。ちゃんと覚えるんだよ、いいね。感じたくなったらここを自分で擦るんだ」
なにを言われているか分からないまま頷いては甘く啼く。
瓶の中身をたっぷりと塗り込められ、次第に熱くなり指を抜く頃には自ら腰を振るようになった。
「もう充分かな。では一つになろう、受け」
父親のを受け入れても、痛みはなかった。
むしろ感じる場所を逞しいもので擦られ、弄られないまま白い蜜を飛ばした。
「ああ……嬉しいな。私のを気に入ってくれたんだね。もっと感じて」
抽挿が大きくなり激しくなり、受けは与えられる愉悦に溺れていった。
中に飛沫を浴びても感じ、体位を変えても感じ……初めて男を受け挿れたというのにどろどろに溶かされてしまった。
「感じている君は本当に可愛くて……どれほど私を虜にするつもりだ……ああ、また欲しくなってしまった。もう一度良いかな?」
頷けばすぐに愉悦を与えられ、いつ終わりいつ眠ったかも分からなかった。
翌朝は腰の重さに起き上がることができず、甲斐甲斐しく世話をしてくれる父親に甘えては、二人の興奮が高まると時間も気にせず一つになった。
そんな週末を過ごしてからというもの受けは父親に会いたくて会いたくてならなくなった。
連絡を取っては仕事帰りや休日に待ち合わせをして、彼が取ったホテルで愛し合った。
受けが済むアパートは防音がなく、自分の声が聞かれるのが怖くて、とてもじゃないが招けなかった。
息子からも時折連絡が来たが、本格的に受験勉強に励んでいるようで、家にお邪魔するのは時々となった。
約束通り、彼の家に行けば元生徒の部屋へと入り、悩みを聞いたり勉強の分からないところを教えたり……スキンシップをされたりと擽ったい時間を過ごす。
「オレ、大学に入ったらずっと好きだった人に告白するんだ」
その夢を語られたとき、驚いた。
「好きな子がいるんだ……どんな子?」
「優しくて綺麗で、メチャクチャ可愛い人」
「凄いのろけだ」
笑って、いつの間に恋をするほど大人になったのかと驚く。
もう背は受けよりも高く手足も長い。
あどけなさもすべて剥ぎ取り精悍さが増した顔は、異性のみならず同性の受けですらドキリとすることがある。
「受け入れて貰えると良いね」
「……断られたらどうしよう」
「君みたいに格好良ければ早々振られないよ。自信を持てば良い」
「……先生だったら、どう?」
やはり恋をすれば人は臆病になるのか。
本命ではない人間にこんなことを尋ねてしまうくらい。
「嬉しいだろうな。だからまずは大学に合格するために頑張ろう」発破をかけその恋が成就することを願う一方で、淋しさが胸に住み着く。それに目を反らし、父親に抱かれては悦b抱き合うのになれていけば、父親に正義を教え込まれた。
発破をかけその恋が成就することを願う一方で、淋しさが胸に住み着く。
それに目を反らし、父親に抱かれては悦び、愛し合う術を教え込まれれば素直に飲み込んでいった。
脇目も振らず頑張った元生徒は、見事第一志望に合格した。
これには手放しで慶び、年甲斐もなく抱きついてしまったほどだ。
桜の花びらが散り若葉で埋め尽くし始める頃、大学生になった元生徒から連絡があった。
どうしたのだろうと家を訪ねた。
「先生さ、あの話覚えてる?合格したら告白するって」
「当然だよ。どうだったんだ?」
なぜかチクリと胸に痛みが走った。
真剣な顔が不幸な結果の予感を漂わせているからだ。
元生徒は厚みのある唇をギュッと引き締めた。
その表情があまりにも痛ましくて、座っている彼を抱き締めた。
「先生……」
「無理して言わなくていいよ。分かってるから」
「……本当に?」
「ああ。だから安心して……」
泣いていいよと続けようとして彼に抱かれた。
いつの間にこんなに力が強くなったんだと驚くほど強く。
「嬉しい……ありがとう、先生。オレ、めちゃくちゃ嬉しい」
顔が近づいて、唇に柔らかいものが触れる。
「えっ」
「振られるんじゃないかってスゲー怖かった……好きだ、先生」
答える前にまた唇を塞がれ、舌が潜り込んできた。
「んんっ」
やめて、離れて!
そう言いたいのに、若さが持ちうる衝動で貪られていく。
手が身体中をなぞり、そして性急に服を乱された。
父親と同じ大きな手が肌をまさぐり、そして胸の尖りを抓んだ。
「あっ……そこは……ああっ」
摘まんで転がされると勝手に甘い声が上がってしまう。
父親に可愛がられすぎてシャツが擦れるのすら辛いと、軟膏を塗って絆創膏を貼って凌がなければならないほど、過敏になってしまった。
少し乱暴に捏ねられては、痛みと一緒に電気が走り抜けていった。
「あっあっ……やっ!」
「可愛い……ここが先生の悦い場所なんだ……ふっくらしててもっと弄って欲しがってる」
興奮に上がる息の合間で言うと、元生徒は尖りを甘く噛んだ。
「ひっ……やぁ……」
舌と歯での刺激に身悶えてしまう。
節操のない身体は昂ぶり服の下から存在感を主張してしまう分身を彼の身体に押しつけた。
早く入れて欲しいとき、そうやって父親にねだってきたからだ。
「嬉しい……先生も感じてるんだ。もっといっぱい感じて」
執拗な愛撫に身悶え、抵抗もできずに服を剥ぎ取られていく。
だめだ、いけない。
分かっているのに、抵抗ができない。
「初めてが床の上は嫌だよな。先生、立てる?ベッドまで運ぶよ」
ひょいっと受けの身体を抱き上げ、ベッドに下ろすとまた覆い被さって胸を嬲られて、我慢できずに蜜を放った。
「すげー……先生が達ってくれた……嬉しくて死にそう」
仕方ない。
先月は互いに年度末ということもあり会えないままだった。
一人でしてはいけないと父親と約束した受けは、ずっと辛かったのだ。
僅かな刺激でも感じてしまうほど身体は疼き、今も収まらない。
元生徒が枕の下から潤滑剤を取り出した。
「先生とするときにって買っておいて良かった。これをたっぷり塗れば痛くないから」
自然と足を開き、指を迎えいれる。
「あっ!」
「勉強の合間にいっぱい調べたんだ。男だったらここが気持ちいいって……先生、どう?」
元生徒の指が感じる場所を擦ってくる。
気持ちよくて腰を揺らめかせては、はしたない声を上げていく。
「すっげ……感じてる先生ってこんなに色っぽいんだ……指が三本挿るようになったら、オレのを挿れていい?」
「はや……ほし……」
「うん、分かってる。だからちょっと待ってて」
性急に指で解されるが、1年以上も父親に慣らされた身体は一月相手にして貰えなかくてもすぐに綻び、愉悦を追いかけていく。
たっぷりと潤滑剤を中に塗られ指の抽挿がスムーズに鳴ると、元生徒は下肢を露わにした。
ゴクリと唾を呑む。
自然と足を開く。
「挿れるね、いい?」
「んっんっ!……あ……っ」
ゆっくりと挿ってくるそれを締め付けて彼に抱きついた。
いけないと頭の隅で警鐘が激しく鳴る。
父親だけでなくその息子とまでこんなことをするなんて。
けれどもう自分を止められなかった。
奥まで挿ったそれは中が慣れるのを待ってから緩やかに抽挿し、次第に激しくなる。
父親にはない激しさが嬉しくてしがみ付くように抱きついたまま甘く啼き続けた。
一緒に蜜を吐き出し、大きくなった身体が倒れてきたとき、ギュッと胸が締め付けられた。
「好きだ……ずっと……子供の頃から先生が好きだったんだ。今こうしてるの、すげー嬉しい」
拒まなければならないのに、その言葉にまた愛おしさが溢れていく。
こんなに必死に好かれて拒むなどできない。
心の奥底で歓喜している自分を隠したくて、逞しくなった肩に顔を埋めた。
「先生も言って……お願い」
「……好きだ」
言ってはいけないと分かっていても、伝えずにはいられなかった。
「嬉しい……愛してる、先生」
好きと自分に向かう衝動を飾ることなくぶつけられ、受けは身悶え続けた。
父と息子、二人と関係を持ってしまったことは受けを苦しめた。
二人に伝えなければならないのに、怖くてできない。
彼らが愛したのはこんなにも節操のない人間だと知られたくなくて、けれど向けられる気持ちをどうすることもできなくて、眠れぬ夜が続いた。
仕事でも失敗を繰り返し、校長からしばらく休んではと打診を受けるほどだった。
このままじゃいけない。
けれど怖い。
それぞれと会っては愛を囁かれ身体を重ねる。
淫らに求めては落ち込み、抜け出せない背徳の中で窒息死しそうだった。
「先生……大丈夫?どっか辛いなら言ってよ」
「大丈夫だ……大丈夫」
自分に言い聞かせるように繰り返しても罪悪感が溢れ出てくる。
「本当に?今日はこうしてるだけでいいし、寝てくれても構わないから」
ベッドに腰掛けた元生徒の膝の上に横座りし抱き締められながら、言ってしまおうかと逡巡する。
けれど彼を傷つけたくない。
ずっと慈しんできた彼の真っ直ぐな感情を大事にしたい。
最初は襲われて関係を持ったに近かったが今は違う、父親に向けるのと同じ気持ちが彼へと向かっていく。
では父親に告げるか。
それもできない。
慈しんでくれた彼を失いたくはない。
すべてを包み込んでくれる甘い腕を失いたくない。
身勝手だ。
こんな状態で二人とも傷つけずにずっといるなんて無理だ。
分かっているのに逃げるように誘う。
「抱いて……おねがい」
「オレはすげーしたいけど……先生はそれでいいの?」
「……早く君を感じたい」
ずるい大人になってしまった受けは感情にそっと蓋をして身を委ねた。
いつもながら真っ直ぐに欲しがられて身体は悦び、心がが満たされる。
それも抱かれている間だけと分かっていても欲してしまう。
中で元生徒の蜜を二度受け止め、満ち足りた吐息を吐き出したとき、ノックがして扉が開いた。
「ちょっといいかな?」
父親だった。
受けは咄嗟に布団で自分の身体を隠そうとしたが、すぐに元生徒によって奪い取られ下に落とされた。
ガタガタと身体が震えた。
あれほど火照った身体が一気に凍り付き冷たい汗が背中を流れていく。
終わりだ。
ずるい自分はきっと、愛してくれたこの親子を失うのだ、醜い裏切りの代償に。
「ごめんなさい……ごめんなさいっ」
「何に謝っているのかな、受けは」
「ごめんなさい……二人と……関係を持ちました」
断罪される。
父親のみならず息子とまで付き合ったのだ、二人から罵られるだろう。
その瞬間を待っているのに、いつまでも二人から荒い言葉は放たれない。
それどころか、震える受けを父親は抱き締め、流れる涙を元生徒が拭う。
「泣かないでよ、先生。そんな顔されたらさ、また勃つから」
「君に泣かれると弱い。すぐにでもキスしたくなる」
なぜそんな優しい言葉をかけるんだ。
裏切ったのは自分なのに。
「私たちと愛し合ったのがそんなに辛いのかい?」
「ごめっ……なさ……」
「ねえ先生教えて。オレのことも父さんのことも好きなの?」
力なく頷いた。
いけないと分かっていても二人を愛してしまった。
どちらも選べないほど深く。
「死にそうな表情をするほど思い悩んで苦しんだんだね」
「……ごめんなさい」
「別に謝って欲しいわけじゃないから。ねえ、先生。オレと父さん、どっちを選ぶ?」
ハッと顔を上げた。
どっちも選べないから苦しみ、どちらも手放せないから心が疲弊した。
けれどどちらかを選ばなければならないのだとしたら……自分はきっと死ぬしかない。
「それとも二人とも選ぶかい?」
「え……」
「先生がいいなら、オレはいいよ」
「私もだ」
「でもっ!こ……こんなの……間違ってる……」
「インモラルでも構わない、君に愛されるなら。それに、私たちが互いに納得すれば問題ないだろう。世間のモラルなど気にする必要もない」
いいのだろうか。
受けは二人に視線を向けた。
視線での問いかけに、二人は似た甘い笑みで応えてくれる。
恐る恐る腕を伸ばした。
指先がそれぞれの肌に触れたときビクリと震え、一度ギュッと握り込んでからもう一度、今度はしっかりと二人の手を掴んだ。
「お願いです……お願いです……どちらも選ばせてください」
ポロポロと涙が零れた。
「受け、愛しているよ。私たちを選んでくれてありがとう」
父親が抱き締め頬に口付ける。
「オレが先生を振るとか無理だから。いっぱい俺たちに愛されて」
元生徒も抱き締め頬に口付ける。
嬉しくて嬉しくて、受けは子供のように声を上げて泣いた。
そして落ち着くと、ずっと使わせて貰った客室に運ばれた。
「オレのベッドじゃ、三人は無理だから」
元生徒が背後から受けを抱き、露わになった肩に口付けの跡を残していく。
今まで残すのを禁じてきた恨み返しとばかりに余すところなく付けていく。
肩だけでなく首筋にもうなじにも。
父親はいつもの始まりの挨拶と濃厚な口付けに受けを溺れさせては、感じやすくなった胸の尖りを苛んでくる。
元生徒とは違う甘くじれったい刺激に悶え、早くと自分から腰を彼に押しつけねだった。
本当に二人に愛されて良いのか、二人を愛していいのかを身体で確かめたくて、性急に欲する。
「そんなに私を欲しがってくれると、手加減ができなくなるが、いいかい?」
「手加減、しないで……いっぱい愛して……あっ」
片足を持ち上げられ、立ったまま正面から父親のが挿ってきた。
爪先で立ち、その首にしがみついて愉悦を味わう。
肩甲骨の尖りを元生徒に噛まれ、それにも甘い声を上げる。
「どこもかしこも敏感で可愛い、先生」
「ああ、受けは本当に愛らしい。このままずっと私たちに愛されなさい」
「いっぱい愛すから、オレ達のこともいっぱい愛して」
当たり前だ、この想いが許されるなら、どれだけ二人を想っているかを彼らに知ってほしくなる。
「あいしてる……から、ずっと……だいて……あっい……くっ!」
感じきった受けは、場所をベッドへと移し交互に愛され注がれて、どこまでも満たされてから、意識を手放した。
久しぶりに訪れた深い眠りに自然と口角が上がっていた。
その後、二人に懇願されて同居することになった受けは、客室を自室にして三人での生活を始めた。
三人で温泉に行ったり、ちょっと際どいプレイをしたり、時折ケンカなんかもして、満たされた日々を送るのだった。
そして、実は親子が家庭訪問以降から着実に受けを手に入れるために画策し、この家も彼と住むために建てたことや、客室に仕掛けた隠しカメラで受けの艶姿を記録してはコレクションしていることは、最後まで受けは知らないままである。
おしまい
98
お気に入りに追加
368
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
未希のツイノベ置き場
Miki (未希かずは)
BL
Xで書いていたものを、こちらに転載しました。
色んなテーマで書きましたし、すれ違ったり色んな悲しい出来事が起こりますが、全てハッピーエンドですのでよろしければ読んで下さい。
但しSSは、違う場合もあるかも。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる