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師匠と弟子が玩具を使って愛し合った話
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とある世界のとある国。師匠と弟子が恋仲になった。しかしその国では同性同士で肌を重ねることは禁忌とされていた。二人は悩み、けれど互いに向ける恋心を抑えることはできなかった。
師匠と弟子はある日、二人で出かけ、そこで玩具が売られているのを見付けた。
二人は玩具を使って愛し合うことを思いつき早速買った。
その夜、二人は何度も口付けを交わした。間に「玩具」を入れて。
玩具は照りつける太陽が厳しいこの国では珍しい白磁で、唇は赤く胡桃型の目をしてとても綺麗な容姿をしていた。
師匠は弟子にしたいことを玩具にして、それを見せつけた。
唇を食み、胸の尖りを取れるほどに弄り、身体中に口付けの跡を残しながら指で蕾を溶かしていった。
その様を弟子は唾をゴクリと飲み下し、頬と欲望を紅潮させながら見つめ続けた。
玩具が遂情するまで中を刺激し続けた師匠は、弟子を見つめたまま、欲望を解けたそこへと挿れていった。
「ずっとお前にこうしたいと思っていたんだよ。私のことを嫌いになったか?」
「いいえ、いいえ。もっと見せてください」
二人の間で玩具は甘い音楽を奏で続ける。師匠の動きが速くなれば音程も上がり、曲調も加速していく。
しかし師匠はすぐには弟子が思い描いた結果にはならなかった。
動きを速めては突然やめて中の心地よさを味わい、玩具が焦れて自ら動き始めると腰を押さえ動けなくさせた。
ねだる音が泣き声に変わるのを待ってまた動き、甘い音楽が絶頂にさしかかる頃に再び動きを止めては、涙まじりの音へと変わるのを待つ。その繰り返しに玩具は毀れたようにひたすらねだる音を奏で続けるようになってから、欲しがった者を与える動きを始め、仕様である白濁を飛ばしてからようやく、その中に子種を注ぎ込んだ。
一部始終を見ていた弟子は、玩具が音も奏でられずカタカタと小刻みに振動するまでになった様に羨望の眼差しを向ける。
「私を嫌いになったか?」
玩具の様子をじっと見つめる弟子に声をかけた。
「……こんなにも愛されているのですか。ひたすらお師匠様を求めるだけの存在になるのですね」
弟子は玩具に口づけた。舌を絡め先を甘く噛み、上顎を舐める。
「さあ、お師匠様に今のをするんだ」
玩具は弟子の動きをなぞって師匠の口内に愛を伝えた。
師匠は笑い、返事を返した。玩具は今度は弟子に向き直り返事を伝える。
次に弟子が玩具を弄り始めた。背中から抱きしめ、形のよい耳を舐ってはその周囲に愛の証を散りばめる。手は玩具の分身を擦り蕾を掻き混ぜる。大きく割り開かれた玩具は師匠から受けた愉悦を引きずったまま始まった執拗な愛しかたに、再び甘い音楽を奏で始めるが、先程よりもテンポは速く、あっけなく白濁を飛ばすのではないかと思われた。
師匠はその様を寝台の足元にある椅子でじっくりと足を組んで眺めた。
しかし、玩具はすぐに白濁を飛ばせなかった。パンパンに膨らんだのを待って、あれほど執拗に扱いていた手が離れたからだ。
なぜと振り向いて問おうとする唇を塞ぎ、空いた手で胸を捏ね始めた。蕾の中を掻き混ぜる動きも緩まり、時折抽挿を繰り返すだけになる。
玩具はとうとう口付けを振り切り、挿れてくれとせがみ始めた。弟子は自分の上を跨ぐようにすると、玩具に欲望を咥えさせ、自らも爆発しそうなそれを咥え蕾を苛み始めた。我慢させ続けられた玩具はすぐに白濁を飛ばすと、弟子は唾液で濡れた欲望を蕾に宛がい、四つん這いになった玩具を突き上げていった。そのすさまじさに逃げようとする玩具を抱き締め、毀してしまうのではないかと思うほど乱暴に、がむしゃらに腰を動かし続けた。
師匠はその必死な様に頬を熱くし、蕩けるような眼差しで弟子を見た。
突き破れるのではないかと思うほど最奥を突かれた玩具はまたしても白濁を飛ばし、その締め付けに弟子もまた欲望を弾けさせた。
「がむしゃらに私を欲しがっているのだな、お前は」
「こんな子供じみた動きではお師匠様を毀しかねます。私はそれが怖いのです」
「その熱情を私は嬉しいと思っているのだよ」
荒い息を繰り返す弟子の頬を撫でた師匠は、ここまでならば許されると、初めて愛おしい弟子に口付けをした。
弟子も抱き締めていた玩具を離して師匠から与えられる口付けを存分に貪る。
二人の身体の間で丸まるように荒い息を紡いでいた玩具は、しばしの休憩を与えられたが、次は四つん這いのまま二人の欲望を咥えることとなった。二人は相手を慈しむ口付けを玩具の上で続け、ひたすら腰を動かしていった。
終わる頃には玩具は子種まみれになり、ガタガタと動けなくなってしまった。
「ああ、お前のおかげで我らは愛し合うことができた。さあ、綺麗にしてやろう」
二人は浴室で玩具を綺麗に洗い、香油を塗って上等な服を着せてから豪勢な食事を与えた。上質な寝具に寝かしつけ、黄金色に輝く髪を撫でる。
「辛いところはないか。何かあればすぐに言ってくれ、薬を持ってこよう」
玩具は胡桃型の目を見開き、首を振って寝具に深く潜り込んだ。
師匠と弟子はその姿を見て微笑み、玩具を大切に使った。
師匠と弟子は夜ごと愛し合うようになった。
玩具もそのたびに使われるが、次第にそれが嬉しいと感じるようになった。
自分は玩具だ、心など持ってはいけないと彼らに売った店の主は言ったが、これほどまでに大事にされては心が動かないはずがない。
二人がどこまでも愛し合っていると知っている玩具は、二人の役に立てる自分が嬉しくて誇らしくなった。
毎日香油を塗られ、美味しい食事を摂らせて貰った玩具は、買ったばかりの頃よりも美しくなり、二人の目を楽しませた。
玩具は家を出てはいけない約束となっていた。白磁の肌が僅かでも焼けるのを二人は厭っていたからだ。
しかし働き過ぎた師匠と弟子が相次いで熱で倒れてしまい、玩具は二人のために買い物に行こうと、この家にやってきて初めて外に出た。
灼熱の陽光が降り注ぐ大地は白いローブを頭から被っても肌が溶けてしまうかと思うほど熱かったが、玩具は二人のために市場へと向かった。
しかし、何も買えなかった。
玩具は金を持っていなかったのだ。けれど二人のために果実を手に入れたくて困っていると、見事な衣装を纏った男が代わりに買ってくれた。
お礼を言えば男は師匠の家の奴隷かと玩具に訊ねた。
「いえ、奴隷ではありません。玩具です」
玩具は自分の立ち位置をよく知っていた。奴隷のように仕事を賜っているわけではない。ただ二人が愛し合うためだけに存在しているだけだ。玩具は少しだけ寂しそうに笑う。本当は二人から愛されたいと願っているから。
叶わない願いが浮かべさせた表情に、男は目を光らせた。
「あの家でお前はどんなことをしているんだ?」
男がなぜ自分のことを訊ねてくるのかを訝しんだが、恩があるから言葉を濁しながら答えていく。
「お二人がなさろうとすることのお手伝いをしています」
「二人は何をしようとしているのだ?」
「……私には分かりません。学がありませんから」
優しい顔をした男が次第に怖くなったが、逃げ出すこともできない。手の中にある果実を早く二人の食べさせたいが、男が細い腕を掴んで放してはくれない。
「そろそろ帰らなければ、お二人が困ってしまいます。放してください」
「もう少し君と話がしたいな。美しい奴隷を買ったから二人で何をしているのか話題になっているのだよ。しかも一歩も家に出さないほど大切にする奴隷など……何の手伝いをしているのか」
男の中に蔑みを見付けて玩具は怯んだ。口を耳に寄せて訊ねてきた。
「お前は閨の相手をしているのか? ああ、別にそれがいけないと言っているのではない。奴隷ならば主人を慰めるのは当たり前の事だ。我々と違って奴隷の性別が何であろうと罪に問われない。しかし、もし二人が愛し合うのを隠すためにお前をただ置いているのであれば……裁かなければいけないな」
玩具は怯み、男の手を振り切って家に走って戻った。
玩具が消えたことに二人は気付いて探していた。
「なぜ家を出たんだ……ああ、果物を買いに行ったのか。けれど私たちのことは気にしなくて良い。外は危ない人間ばかりだ、決して出てはいけないよ」
師匠が優しく声をかければ、玩具は泣き出した。そして男の話をした。二人は一気に顔を曇らせた。
「そうか、そんなことを訊かれたのか。だが、安心しろ。お前が怖れることは何もない」
弟子は初めて、師匠に向けた伝言でなく玩具に口づけた。
師匠も当然のように玩具に口付け、頭を撫で抱き締めた。
「玩具ではなく、奴隷にしてください。奴隷ならば、お二人を慰めるのは罪にならないと聞きました」
「何を言っている。お前はもう玩具でも奴隷でもないのだよ」
「そうだ。三人で愛し合っているつもりだったが、お前は違うのか?」
師匠も弟子も健気に二人を受け止め従順にその身を捧げては美しく奏でる玩具に、玩具以上の想いを抱いていた。
美しく磨き上げ、上等な服を着せてと、人形のように扱ってきたが、時折見せる玩具の哀しみの籠もった眼差しと、真っ直ぐに向けられる気持ちに気付かない二人ではなく、そのすべてが愛おしいと思っていた。
だから、二人は密かに準備をしていたのだ、玩具を連れて別の国に……三人が愛し合っても罪に問われることのない国へ行こうと。
「きっとお前に声をかけてきたのは、警邏の人間だろう。私たちは知りすぎてしまった、この国の闇を。だからこそ逃げられないよう、何かの罪を被せようとしているのだろう。ああ、熱に伏せっている場合じゃないね。今日の夜に発とう」
そうして三人は夜更けにこっそりと旅立つ準備を始め、用意していた通りに裏の山で火災を起こし、延焼を装って家を燃やした。火災は燃え広がり、騒動の合間に三人は国を出た。幾日も馬車に揺られ辿り着いたのは寒い地方だったが、そこは人が温かく、三人が何をしても気にはしないため、静かに平和に暮らすことができた。
師匠は雪が積もるその地で弟子とともに研究を続け、玩具は二人のために料理をし掃除をして二人の帰りを待ち、夜には変わらず三人で肌を重ねて眠りに就いた。
ただ変わったのは……二人に愛されるばかりか入り乱れとなったが、それでも玩具は幸せで二人に抱き締められながら、彼らに買われた幸運に感謝するのだった。
おしまい
師匠と弟子はある日、二人で出かけ、そこで玩具が売られているのを見付けた。
二人は玩具を使って愛し合うことを思いつき早速買った。
その夜、二人は何度も口付けを交わした。間に「玩具」を入れて。
玩具は照りつける太陽が厳しいこの国では珍しい白磁で、唇は赤く胡桃型の目をしてとても綺麗な容姿をしていた。
師匠は弟子にしたいことを玩具にして、それを見せつけた。
唇を食み、胸の尖りを取れるほどに弄り、身体中に口付けの跡を残しながら指で蕾を溶かしていった。
その様を弟子は唾をゴクリと飲み下し、頬と欲望を紅潮させながら見つめ続けた。
玩具が遂情するまで中を刺激し続けた師匠は、弟子を見つめたまま、欲望を解けたそこへと挿れていった。
「ずっとお前にこうしたいと思っていたんだよ。私のことを嫌いになったか?」
「いいえ、いいえ。もっと見せてください」
二人の間で玩具は甘い音楽を奏で続ける。師匠の動きが速くなれば音程も上がり、曲調も加速していく。
しかし師匠はすぐには弟子が思い描いた結果にはならなかった。
動きを速めては突然やめて中の心地よさを味わい、玩具が焦れて自ら動き始めると腰を押さえ動けなくさせた。
ねだる音が泣き声に変わるのを待ってまた動き、甘い音楽が絶頂にさしかかる頃に再び動きを止めては、涙まじりの音へと変わるのを待つ。その繰り返しに玩具は毀れたようにひたすらねだる音を奏で続けるようになってから、欲しがった者を与える動きを始め、仕様である白濁を飛ばしてからようやく、その中に子種を注ぎ込んだ。
一部始終を見ていた弟子は、玩具が音も奏でられずカタカタと小刻みに振動するまでになった様に羨望の眼差しを向ける。
「私を嫌いになったか?」
玩具の様子をじっと見つめる弟子に声をかけた。
「……こんなにも愛されているのですか。ひたすらお師匠様を求めるだけの存在になるのですね」
弟子は玩具に口づけた。舌を絡め先を甘く噛み、上顎を舐める。
「さあ、お師匠様に今のをするんだ」
玩具は弟子の動きをなぞって師匠の口内に愛を伝えた。
師匠は笑い、返事を返した。玩具は今度は弟子に向き直り返事を伝える。
次に弟子が玩具を弄り始めた。背中から抱きしめ、形のよい耳を舐ってはその周囲に愛の証を散りばめる。手は玩具の分身を擦り蕾を掻き混ぜる。大きく割り開かれた玩具は師匠から受けた愉悦を引きずったまま始まった執拗な愛しかたに、再び甘い音楽を奏で始めるが、先程よりもテンポは速く、あっけなく白濁を飛ばすのではないかと思われた。
師匠はその様を寝台の足元にある椅子でじっくりと足を組んで眺めた。
しかし、玩具はすぐに白濁を飛ばせなかった。パンパンに膨らんだのを待って、あれほど執拗に扱いていた手が離れたからだ。
なぜと振り向いて問おうとする唇を塞ぎ、空いた手で胸を捏ね始めた。蕾の中を掻き混ぜる動きも緩まり、時折抽挿を繰り返すだけになる。
玩具はとうとう口付けを振り切り、挿れてくれとせがみ始めた。弟子は自分の上を跨ぐようにすると、玩具に欲望を咥えさせ、自らも爆発しそうなそれを咥え蕾を苛み始めた。我慢させ続けられた玩具はすぐに白濁を飛ばすと、弟子は唾液で濡れた欲望を蕾に宛がい、四つん這いになった玩具を突き上げていった。そのすさまじさに逃げようとする玩具を抱き締め、毀してしまうのではないかと思うほど乱暴に、がむしゃらに腰を動かし続けた。
師匠はその必死な様に頬を熱くし、蕩けるような眼差しで弟子を見た。
突き破れるのではないかと思うほど最奥を突かれた玩具はまたしても白濁を飛ばし、その締め付けに弟子もまた欲望を弾けさせた。
「がむしゃらに私を欲しがっているのだな、お前は」
「こんな子供じみた動きではお師匠様を毀しかねます。私はそれが怖いのです」
「その熱情を私は嬉しいと思っているのだよ」
荒い息を繰り返す弟子の頬を撫でた師匠は、ここまでならば許されると、初めて愛おしい弟子に口付けをした。
弟子も抱き締めていた玩具を離して師匠から与えられる口付けを存分に貪る。
二人の身体の間で丸まるように荒い息を紡いでいた玩具は、しばしの休憩を与えられたが、次は四つん這いのまま二人の欲望を咥えることとなった。二人は相手を慈しむ口付けを玩具の上で続け、ひたすら腰を動かしていった。
終わる頃には玩具は子種まみれになり、ガタガタと動けなくなってしまった。
「ああ、お前のおかげで我らは愛し合うことができた。さあ、綺麗にしてやろう」
二人は浴室で玩具を綺麗に洗い、香油を塗って上等な服を着せてから豪勢な食事を与えた。上質な寝具に寝かしつけ、黄金色に輝く髪を撫でる。
「辛いところはないか。何かあればすぐに言ってくれ、薬を持ってこよう」
玩具は胡桃型の目を見開き、首を振って寝具に深く潜り込んだ。
師匠と弟子はその姿を見て微笑み、玩具を大切に使った。
師匠と弟子は夜ごと愛し合うようになった。
玩具もそのたびに使われるが、次第にそれが嬉しいと感じるようになった。
自分は玩具だ、心など持ってはいけないと彼らに売った店の主は言ったが、これほどまでに大事にされては心が動かないはずがない。
二人がどこまでも愛し合っていると知っている玩具は、二人の役に立てる自分が嬉しくて誇らしくなった。
毎日香油を塗られ、美味しい食事を摂らせて貰った玩具は、買ったばかりの頃よりも美しくなり、二人の目を楽しませた。
玩具は家を出てはいけない約束となっていた。白磁の肌が僅かでも焼けるのを二人は厭っていたからだ。
しかし働き過ぎた師匠と弟子が相次いで熱で倒れてしまい、玩具は二人のために買い物に行こうと、この家にやってきて初めて外に出た。
灼熱の陽光が降り注ぐ大地は白いローブを頭から被っても肌が溶けてしまうかと思うほど熱かったが、玩具は二人のために市場へと向かった。
しかし、何も買えなかった。
玩具は金を持っていなかったのだ。けれど二人のために果実を手に入れたくて困っていると、見事な衣装を纏った男が代わりに買ってくれた。
お礼を言えば男は師匠の家の奴隷かと玩具に訊ねた。
「いえ、奴隷ではありません。玩具です」
玩具は自分の立ち位置をよく知っていた。奴隷のように仕事を賜っているわけではない。ただ二人が愛し合うためだけに存在しているだけだ。玩具は少しだけ寂しそうに笑う。本当は二人から愛されたいと願っているから。
叶わない願いが浮かべさせた表情に、男は目を光らせた。
「あの家でお前はどんなことをしているんだ?」
男がなぜ自分のことを訊ねてくるのかを訝しんだが、恩があるから言葉を濁しながら答えていく。
「お二人がなさろうとすることのお手伝いをしています」
「二人は何をしようとしているのだ?」
「……私には分かりません。学がありませんから」
優しい顔をした男が次第に怖くなったが、逃げ出すこともできない。手の中にある果実を早く二人の食べさせたいが、男が細い腕を掴んで放してはくれない。
「そろそろ帰らなければ、お二人が困ってしまいます。放してください」
「もう少し君と話がしたいな。美しい奴隷を買ったから二人で何をしているのか話題になっているのだよ。しかも一歩も家に出さないほど大切にする奴隷など……何の手伝いをしているのか」
男の中に蔑みを見付けて玩具は怯んだ。口を耳に寄せて訊ねてきた。
「お前は閨の相手をしているのか? ああ、別にそれがいけないと言っているのではない。奴隷ならば主人を慰めるのは当たり前の事だ。我々と違って奴隷の性別が何であろうと罪に問われない。しかし、もし二人が愛し合うのを隠すためにお前をただ置いているのであれば……裁かなければいけないな」
玩具は怯み、男の手を振り切って家に走って戻った。
玩具が消えたことに二人は気付いて探していた。
「なぜ家を出たんだ……ああ、果物を買いに行ったのか。けれど私たちのことは気にしなくて良い。外は危ない人間ばかりだ、決して出てはいけないよ」
師匠が優しく声をかければ、玩具は泣き出した。そして男の話をした。二人は一気に顔を曇らせた。
「そうか、そんなことを訊かれたのか。だが、安心しろ。お前が怖れることは何もない」
弟子は初めて、師匠に向けた伝言でなく玩具に口づけた。
師匠も当然のように玩具に口付け、頭を撫で抱き締めた。
「玩具ではなく、奴隷にしてください。奴隷ならば、お二人を慰めるのは罪にならないと聞きました」
「何を言っている。お前はもう玩具でも奴隷でもないのだよ」
「そうだ。三人で愛し合っているつもりだったが、お前は違うのか?」
師匠も弟子も健気に二人を受け止め従順にその身を捧げては美しく奏でる玩具に、玩具以上の想いを抱いていた。
美しく磨き上げ、上等な服を着せてと、人形のように扱ってきたが、時折見せる玩具の哀しみの籠もった眼差しと、真っ直ぐに向けられる気持ちに気付かない二人ではなく、そのすべてが愛おしいと思っていた。
だから、二人は密かに準備をしていたのだ、玩具を連れて別の国に……三人が愛し合っても罪に問われることのない国へ行こうと。
「きっとお前に声をかけてきたのは、警邏の人間だろう。私たちは知りすぎてしまった、この国の闇を。だからこそ逃げられないよう、何かの罪を被せようとしているのだろう。ああ、熱に伏せっている場合じゃないね。今日の夜に発とう」
そうして三人は夜更けにこっそりと旅立つ準備を始め、用意していた通りに裏の山で火災を起こし、延焼を装って家を燃やした。火災は燃え広がり、騒動の合間に三人は国を出た。幾日も馬車に揺られ辿り着いたのは寒い地方だったが、そこは人が温かく、三人が何をしても気にはしないため、静かに平和に暮らすことができた。
師匠は雪が積もるその地で弟子とともに研究を続け、玩具は二人のために料理をし掃除をして二人の帰りを待ち、夜には変わらず三人で肌を重ねて眠りに就いた。
ただ変わったのは……二人に愛されるばかりか入り乱れとなったが、それでも玩具は幸せで二人に抱き締められながら、彼らに買われた幸運に感謝するのだった。
おしまい
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