ツイノベ置き場

椎名サクラ

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猟師と狸(※悲恋)

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たぬき鍋作ろうと捕まえられたたぬきさん。

プルプルに震えて涙もポロポロ流して、もう見た目哀れすぎ。

囲炉裏のそばにはグツグツに煮えたお野菜たち。

自分もこの中に入れられるのかと絶望しては泣き咽ぶ。

あまりにうるさくて大人しくさせようと摘み上げたら、失禁。

慌てて床を拭いた猟師だが、次第に可哀想になる。

なんせこのたぬきさん、雀取りにかかる程のお間抜けさん。

身体は痩せ細っているし攻撃するなんて考えたこともなさそう。

猟師は諦めて綱を解いたが、たぬきさんお間抜けですぐに逃げようともしない。

こりゃ野生で生きていくのも辛いだろうと家に置くことにした。

たぬきさんはすっかり猟師に懐いて、猟に行くときはお留守番してお家をお掃除。

帰ってきたら猟師にべったり。

ご飯も貰うたびに本当に嬉しそうにして「ありがとう、ありがとう‼️」って神様にするみたいに感謝する。

そんなことをされたら猟師もたぬきさんが可愛くなる。

健気だしいじらしいし、常にそばに置いた季節はだんだんと寒くなって、雪が深くなる。

こうなれば猟に出ることもできないから引き篭もるしかない。

二人は体を寄せ合って寝るのも一緒になる。

甘えたがりのたぬきさんは漁師の腕の中で丸まって寝てしまうほどに心を許してしまう。

座っていれば胡座をかいた膝で丸まる。

干し肉と僅かな野菜で冬を凌ごうとした。

しかしこの年は冬が長く、まだ終わりが見えない頃に食料がなくなってしまった。

猟師は雪山に猟に行こうとしたがたぬきさんは慌てて止める。

でもこのままでは二人が飢えてしまう。

心配するなと銃を手にたぬきさんの頭を撫でて家を出てしまった。

猟師の心配をしながらも待つしかできないたぬきさん。

けれど、たぬきさんのことを知っている遠いお隣さんが猟師が出かけたのを見てたぬきさんを捕まえてしまう。

猟師のおかげで肉がついたたぬきさんは食べるのに丁度よい。

お隣さんはたぬきさんを早々と料理しようと包丁を研ぐ。

ブルブル震えるたぬきさん。

当然失禁するし何だったら脱糞もささすがに脱糞はやめろとお隣さん激怒。

吊したたぬきさんを地面においてお掃除している間に大暴れすれば紐が緩んだ。

たぬきさんは全力で吹雪の中を逃げ出した。

けれど猟師の家がどこかわからない。

足跡を辿ろうにも吹雪で消えてしまった。

猟師に会いたい一心でひたすら走った。

でもこの吹雪は確実にたぬきさんの体力を奪っていく。

もう走ることも歩くこともできなくて雪の中倒れたたぬきさん。

その上を雪が降り積もっていく。

猟師に会いたい、会わせて下さい。

たぬきさんは必死に神様に祈った。

同時に知った、自分は猟師のことが好きなんだと。

神様お願いします、猟師にあってこの思いを伝えさせてください。

雪の中で丸まったまま、ひたすら祈り続けた。

その間も雪は止まず無理そ激しくなる。

たぬきさんの上に布団のように積もっていく雪に凍えながら、手を合わせて暖を取ることもできなくなったたぬきさん。

ついに目を開けていられなくてそのまま閉じてしまった。

その時、たぬきさんの体を誰かが掴みあげた。

お隣さんに見つかってしまった、もうたぬき鍋になるしかないのかと薄れる意識の中で覚悟した。

暖かさに目を覚したたぬきさん。

シャーシャーと包丁を研ぐ音がそばでする。

神様は願いを叶えてはくれなかったんだと絶望してポロポロと泣き出した。

どうしたんだと頭を優しく撫でる大きな手。

相手を見上げた。

たぬきさんはもっともっと泣き始めた。

そこにいたのは猟師だった。

狩った猪を捌くために包丁を研いでいたのだ。

追いかけてきちゃだめだろうとたぬきさんを諌める。

たぬきさんが倒れていたのは森と猟師の家の間だったのだ。

再び猟師に会えて神様に感謝しながらたぬきさんは猟師に抱きついた。

何度も何度も猟師が好きだと伝える。

猟師もたぬきさんを撫でながら好きだと返す。

一人にしないで、ずっとそばにいて、と伝えれば猟師はすべてをそうだな今度は一緒に行こうなとたぬきさんを抱きしめる。

なんで自分は人間じゃないんだろう、人間ならずっと猟師と一緒にいられるのに。

人間なら猟師のためにもっと役に立てるのに。

たぬきさんはメソメソ泣いた。

泣いて神様にお願いした。

叶わないとわかっても祈り続けた。

猟師もたぬきさんの願いが叶うことを神に祈った。

もうたぬきさん意外と一緒にいたいと思えないからだ。

けれど猟師もこんな願いが叶うなんて思ってはいない。

その夜二人は抱き合って眠りに入った。

でも二人が目覚めることはなかった。

お隣さんが食料欲しさに斧で二人を殺してしまったからだ。

それを哀れんだのは森の神だった。

悲しみのあまり雪崩を起こし、猟師の家もお隣さんの家も周囲の村々もすべて雪の中に埋めてしまった。


おしまい
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