上 下
70 / 110
書籍化記念

柾人が嫉妬をした夜は4

しおりを挟む
 だが柾人が望んでいるのはそれではない。

「私が、朔弥を守りたいんだ、私の手で……。君を邪な目で見る男にこれ以上近づけるわけにはいかない」

「……まだあのことを気にしているんですか? もう自分の身を守れないほど子供じゃありませんよ」

 出会ってから五年、朔弥ももう立派な社会人だ。週に一度、道場に通い護身術を習っていて、『あの頃』と違うのは柾人が一番近くで見て知っている。それでも自分の手で朔弥を守りたい。

「君に出会ったときからずっと、私は朔弥を守りたいと思っているんだ」

 淋しそうにバーカウンターに腰掛けていたあの頃から。

 ちっとも振り向いてくれない恋人に縋るような目を向け、僅かでも気に掛けてくれないだろうかと、悲しい色をその顔に宿していた頃から。

 思い出して、今の朔弥の顔が見たくなった。

 自制が効いた恋人は仕事中では絶対にアルコールを口にしない。どんなに勧められても呑めないの一点張りで決して口にはしない。今日もどれほど相手先に勧められても、ソフトドリンクを目の前に置いていたのを思い出す。

 細い頤を摘まみ、顔を上向かせる。

 眼鏡に隠された大きな目が優しい笑みにアーチ型になり、柾人をじっと見つめ返す。付き合い始めた頃と変わらぬ愛らしさに、自然と唇を寄せてしまう。

 赤味の強い薄い唇を塞ぐと、心の苛立ちをそのままに舌を潜り込ませた。

「ん……」

 鼻を抜ける甘い音に勢いづく。

 近頃は忙しすぎて、軽いキスばかりだ。

 同じ家にいても、二人とも仕事を持ち帰り寝る時間を惜しむようにパソコンに向かうので、恋人としての時間を過ごせずにいた。甘い唇を味わえば、触れられなかった反動のように貪らずにはいられない。

 舌をねじり込ませ、甘露のような舌を舐り続ける。

「ぁ……んんっ、まぁぉさ……」

 呼吸の合間に零れた蕩けた声を吸い上げ、何も言えないように深く重なる。上顎を、頬の内側を舌で擽り、震える細い腰をきつく抱きしめる。

 鼻を抜けた甘えるような音に気持ちが上昇するのを感じ、細い指が柾人の背中に回れば愛おしさが急加速する。どれだけ貪っても足りない。もっともっとと舌を巡らせ口内を貪れば、腕の中の愛しい身体は数度震え、クタリと力を失った。

「……はげし……すぎます」

「すまない。けれど、足りないんだ朔弥が」

 やはりこの子を家に閉じ込めておけば良かった。愛しいからこそ、他の男に触れられるのは許せない。彼がどう思っていても、恋人として唯一の家族として共にいる柾人は容認できない。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。