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 夏になると一輝は仕事が忙しいようだ。そう言えば去年も目の下にクマを作りながらデートに迎えに来ることがあったなとぼんやりと思いながら、碧は上達し始めた家事を、家庭教師とともにこなしていく。

 初めは半日つきっきりだった家事も今は要領が良くなっていき、料理を教わるばかりとなった。

 午前中に夕食の準備までを終え後は一輝が帰ってくる時間までずっと絵を描くのがルーティンとなり、穏やかな新婚生活を続けている。

 結婚式からずっと、毎日のようにキスをしてもらえるのが嬉しくて、地に足がついていない状態だ。いつも心がどこかフワフワしているように感じる。

 薬の量が減ったせいかなと勝手に納得しているが、おかしいのはそればかりではなかった。

 一輝がいない時間、アトリエに籠るときなにかしら彼がいつも身に着けているものを持ってきてしまう。その日のうちにそっと返すのだが、なにかしら手元に置かないと落ち着かなくなっている。

 一輝の匂いが一番強い寝室で、一輝の服を集めてその中で眠りたい衝動に駆られるのだ。

 これは噂に聞くところの「フェチ」なのだろうか。だとしたら自分は間違いなく一輝フェチだ。同じデザインの時計が並んであっても、一輝が身に着けていたほうに魅力を感じてしまう。それを握りしめると言いようのない安心感に駆られるのだ。

 自分はどこかおかしいのだろうか。

 だが一輝には相談できなかった。

 こんなにも一輝の物を欲しがってしまうなんて、恥ずかしくて口にできない。

 キスをして欲しいというのが精いっぱいだ。

 お願いをすればどんな時でもどんな場所でもキスをしてくれるようになった。

 それだけで満足しないと。

 薬を飲まなくなったら……碧の病気が完全に治ったら全部してくれるという言葉を信じて、今は薬を減らしながら穏やかな生活を続けることに専念している。

 以前とは違うちょっとおかしい行動を取る自分に目を瞑りながら。

 ようやく満足のいく下書きが完成した絵に、色を重ねていく。

「一輝さんは少し日に焼けた色が似合うから、こっちのほうが良いかな」

 ソファでうたた寝をする一輝の絵だ。

 微妙な色合いを出すために何色も重ねてバランスを見ていく。以前連れていってもらった光の魔術師と呼ばれた画家の風合いを思い出しながら色を試してみる。濃過ぎると品がなくなるし、薄すぎると健康さを失ってしまう。その微妙なバランスを探していく。

 それだけで一日が過ぎ、去年は知らなかった一輝の誕生日に贈りたくて彼が帰ってくる前に隠す毎日だ。

 今度の週末は人物画を取り扱った作品展に行きたいとおねだりしてみよう。一輝が疲れていなければ、だが。

 ついでにクローゼットから勝手に拝借した一輝の服も戻し、何事もなかったように夕食の準備をする。と言っても電子レンジで温めるだけだが。

 今日も遅いのだろうか。

 出かけるときにはなるべく早く帰ってくると言っていたが、繁忙期にそれを守らせるのは酷だとわかっている。だから少し寂しくはあるが、我慢して一輝の帰りを待つ。

 今日は薬の日だから、早く帰って来るのかな。

 碧は薬の管理を、以前は執事に任せ、今は一輝に委ねている状態だ。自分でしてしまうとどうしても忘れがちになると言われ、飲み忘れないようにするには、スケジュールを機械で教えてくれる一輝に委ねるしかなかった。しかも今は二日置きという半端な間隔になっているから、余計難しくなっている。

「ただいま……」

 疲れた声が玄関からやってきた。

「お帰りなさいっ!」

 碧は慌てて玄関まで出迎える。

 無理して帰ってきてくれたのだろう、疲労の色が全身にまとわりついている。

 心配になるが、それでも一輝が早く帰ってきてくれたのが嬉しくて飛びついた。

「お仕事お疲れさまでした」

 一輝に靴を脱ぐ間も与えず目を閉じ顔を唇を差し出す。

 今では習慣となったお帰りのキスのおねだりだ。

「ただいま」

 笑みを含んだ声の後に優しい感触が欲しい場所に落ちてくる。

 結婚式の夜に知ったキスの感触が碧は大好きになっていた。息が触れるくすぐったさも、一輝の唇の柔らかさも、どれもが甘くて胸がギュッと締め付けられた後、フワフワした幸せな気持ちになる。一度知ってから、一輝が傍にいるといつもして欲しくなるのだ。ドキドキよりも、ただひたすら幸せだけを味わえるから。

 そんな碧に一輝はいつでも応えてくれるのも嬉しい。

 キスをするたびに本当に夫婦になれたんだと実感しては、また舞い上がって踊りだしたくなる。

 奥さんという甘い言葉が胸をくすぐってくる。

「もう夕飯の準備ができてます」

「良かった……もうお腹が空いて倒れそうだ」

 今日習ったばかりの料理が並べられたテーブルに最後の仕上げとご飯をよそい、汁物を置く。

 一輝が着替えをするのを待って一緒に食べ始めた。

 二人だけの食卓だが、それでも実家にいたころは一人で食べることが多かったから嬉しい。ただ、今日なにがあったかを訊かれるのが少し辛い。碧の毎日にそれほど代わり映えがないからだ。

 今日も家庭教師に料理を習い、絵を描いて終わっただけだから、特筆すべき出来事がなにもない。しいて言えば、茄子の素揚げができるようになったくらいか。

「揚げ物もできるようになったなんて、凄いじゃないか」

 たったそれだけなのに、こちらが照れてしまうほど一輝は褒めてくれる。

「でもほとんど先生にやってもらいました」

「油が跳ねたら怖いからね。先生と一緒でも出来たのはすごいと思うよ」

 小さなことでも褒められるから次も頑張ろうという気持ちになる。そして話題に挙げればそれを食べてくれ、美味しいと言ってもらえるのも嬉しい。だから結婚式の日までひたすら落ち込んでいたことなどもうすっかり忘れてしまっていた。あの写真のことも。

 食べ終わった食器を食洗器に入れ、薬を飲んで風呂に入り終われば、後は二人だけの穏やかな時間の始まりだ。

 疲れている一輝がソファに座りながら持ち帰った資料を読んでいる横で、一輝に貰った画集の一冊をめくりながら張り付く。身体のどこかが触れ合っていればそれで満たされる。本当はギュッと抱き着きたいのだが、仕事の邪魔をしてはいけないとそれだけは我慢する。終わったら一輝から抱きしめてくれるから、その時間が来るのをひたすら隣で待ち続ける。

 色々なキャンペーン資料をめくりながら、時折一輝が髪を撫でながら微笑みかけてくる。たくさん喋らなくてもそれだけで碧は幸せに満たされるのだった。

「お待たせ、待たせて申し訳ない」

 それを合図に一輝が唇にキスをしてくれる。

 碧は途中だろうが気に入った絵のページだろうが、その言葉で本を閉じテーブルに置くと彼の膝に乗り、首に手を回す。そこからはキスの時間だ。

 碧が満足するまでたくさんキスをしてもらう。

 だが七月に入ってから少しずつこのキスの時間で身体の奥がむずむずとするようになった。

 内側からくすぐられるような感覚を覚えてしまうのだ。どうしてだろう。くすぐったくて腰をうねらせたくなる。それを我慢しながら大好きなキスの時間を堪能する。

 一輝の唇を啄んでは少しだけ離し、もう一度触れる。その繰り返し。

 大好きな人の体温を感じるだけで心が満たされていく瞬間だ。

「今度の週末、どこに行こうか」

 週末が近くなると一輝がいつも訊いてくる。碧の希望を優先してくれるのが嬉しい。

「人物画の絵が見たいです」

「わかった、探しておくね」

「ありがとうございます。一輝さん大好き」

 ありがとうのキスをして、また眠くなるその瞬間までひたすら一輝の唇を貪った。

 そして訪れた週末、いつもよりも早起きをした碧は、自分の身体に違和感を感じた。下半身が妙にうずうずしている。なんだろうと思いながらトイレに行き下着を下ろしてみた。

 トイレに行くときくらいしか意識しない分身がパンパンに腫れ上がって大きく膨らんでいる。

「なにこれ……」

 こんなの、今まで見たことがない。

 もしかして、今まで家族に言われていたという病気はこれだったのか。

「やだ……治ったんじゃないの?」

 触ると余計に膨れ上がるそれが怖くて、碧は泣きそうになりながら「早く薬を飲まないと」とそれを探そうとし、保管場所は一輝しか知らないのに気付き、慌てて寝室へと戻る。

「一輝さんっ、起きて!」

 仕事の疲れが残りぐっすりと眠っている一輝を揺すって起こす。

「お願い……起きてぇ」

「ん……どうしたんだい、碧くん」

 ぐったりしながら薄目を開ける一輝に、涙ながらに訴えた。

「薬、グルゴーファ出して。身体が変なの!」

「……どこがっ!」

 ガバリと起き上がった一輝に、腫れ上がったものを見せる。

「どうしよう……早く薬を飲まないと爆発しちゃうよぉ」

 病気が良くなったと浮かれていたのが間違いだった。本当はちっとも良くなっていないどころか、薬を減らしたせいで変調が出るなんて……。こんな身体では新婚旅行や幸せな結婚生活なんて夢のまた夢だ。

 碧は啜り泣きながら一輝にしがみついた。

「どうしよう……病気治ってなかった」

「あ……その、なんだ。落ち着いて、とりあえず泣き止もうか、碧くん」

「でもっ!」

「大丈夫、大丈夫だからね。これは病気のせいじゃないから」

「……そうなの? でもこんなに大きくなるなんておかしいよっ!」

 自分を落ち着かせるための嘘ではないかと訝しむ。排泄するための場所がこんなに腫れ上がるなんておかしすぎる。

 そう訴えるのに、一輝はなぜかそこから目を反らしてばかりだ。そして大きく息を吐き出すとやっと碧の顔を見てくれた。

「これはね、朝勃ちといって、男の子なら当たり前に起こる生理現象なんだ」

「せいりげんしょう?」

「そう。碧くんは今まで病気のせいで、男の子が思春期に通る道をやっと歩き始めただけなんだ」

「……皆こんなになっちゃうんですか? それじゃみんな死んじゃうの?」

「死にはしないよ。大丈夫」

「……良かった。……でもこれどうしたらいいの?」

 分からないことだらけで、不安と恐怖が押し寄せてくる。パニックになった碧は自然と一輝にしがみつき助けを求める。このままにしたら絶対おかしいことになりそうで怖い。恐怖に一旦引いた涙がまたポロポロと零れ落ちてくる。

「助けて……一輝さん……」

 大きく温かい胸にしがみつきながら、触り心地の良い一輝のパジャマに涙を染み込ませていく。

「…………っ。どうするか教えるから、パジャマと下着を脱いでベッドに横になって」

「は…いっ」

 鼻を啜って、一輝の言う通りにする。パジャマのボタンを外し脱ぎ捨てた後、肌着も取る。

「あ、それは……」

「なに?」

「いや、なんでもない。下も脱いでね」

 言われた通り全裸になり、自分のスペースになっているベッドの左側で仰向けに横たわった。まだ腫れ上がったままのそこは、横たわったせいで腹にくっつきそうになっている。

 一輝は碧を安心させるように隣で横臥になり、碧の髪を撫でながら反対の利き手でそこに触れる。

「んっ!」

「大丈夫、肩の力を抜いて私に任せて。酷いことはなにもしないから」

 そうだ。一輝が碧に酷いことをするはずがない。深呼吸をして、自分を落ち着かせる。

 大きくて熱い手が碧の分身をそっと撫でた。

「ぁっ……」

 たったそれだけなのに、どうしてだろう勝手に声が出てしまう。恥ずかしくて口元を覆うと手の甲にキスをしてきた。

「声が出てしまうのは当たり前のことだから我慢しなくていいんだよ」

「ほんと…?」

「あぁ。だから目を閉じてリラックスしていなさい」

「は……いっぁぁ」

 上下に撫でるだけだった手が碧の物を握りこむ。それだけでズンッとなにかが背筋を駆け上がった。反射的に一輝の手を掴んでしまう。

「大丈夫だよ、怖くない」

 耳元で囁いてくる優しい声。碧は深呼吸を繰り返しながら何度も大丈夫と自分に言い聞かせた。

 大きな手が大きく上下に動きながら、先端を指の腹で刺激してくる。

 キスの時の、あの身体の中からくすぐられる感覚がどんどん大きくなり、なぜかもっとして欲しいように腰が勝手にモジモジとしてしまう。なにかを掴んでないとおかしくなりそうで、シーツを力強く握る。

 段々と声も抑えられなくなる。

「ぁぁっ……ぁん」

「それでいいんだよ、碧くん。大丈夫、私に委ねるんだ」

「ゃぁっ……かずきさん、変。なんか、変だよぉ」

 腹の奥がむず痒いままそれが大きくなり、今までにない排尿感を感じる。

 こんなところでしてしまったらベッドを汚してしまう。

「ダメっ、止めて。出ちゃう……ぁぁっ」

「いいんだよ、そのまま出してごらん。そのためにしているんだからね」

 大丈夫と何度も囁かれながら、手の動きが早くなっていく。括れた場所を強く擦られながらの動きにもう碧は我慢できなかった。

「ゃぁぁぁっ……んっ……」

 ドクッドクッと導かれるまま、一輝の手の中に出してしまう。

 その瞬間、碧の身体はホワリとなにかに包まれたような、宙に浮くような不思議な感覚が襲ってきて、身体中から力が抜けていく。

(なに……これ……)

 まるで宙を漂っているような錯覚に陥る。すべてから解放されたような、不思議な感覚だ。

 すごく気持ちよくて、ずっとこのままでいたい。

 だがすぐに自分が一輝の手を汚してしまった事実に思い至り、慌てて体を起こした。

「ごめんなさいっ、一輝さんの手……」

 排尿してしまったのかと思ったが、なぜか白っぽい液体がその手の中にある。

「なに、それ……」

「……男の子はね、ここをさっきみたいにされると、こういう白い液体を出すんだ。当たり前のことだよ、驚かなくて大丈夫」

 素早くそれをベッド横のチェストの上に置いてあるティッシュで拭き取る。

「ほら見て、もう元に戻っただろう」

 言われてそこに目を向ければ、いつもの状態になっている。

「よかった……一輝さんありがとうございます」

 いつものルールでその唇にキスをする。

「っ……いや、夫婦だからね。当たり前のことをしただけだよ」

「当たり前なんですか?」

 夫婦なら、相手がこうなってしまったら出すお手伝いをするのが当たり前なのか。

 そこでふと思い至った。

「なら、一輝さんのは僕がしないといけないんですねっ! 今までしてなくてごめんなさいっ!」

「いや……あの……」

「一輝さんのは大丈夫なんですか?」

 慌てて一輝のパジャマのズボンに手をかけ下ろす。

「ぁ……一輝さんのもなってる」

 本当に男ならなるものなのか。ちょっと安心しつつ、それに触れた。

「んっ! あ…碧くんいいんだよ私のは」

「でも、夫婦だったら当たり前なんでしょ。一輝さんのは僕がするから……教えて」

 多分上手にできないと思うから、教えてもらいながらやってみよう。一輝は片手で碧の物を掴んだが、自分のよりもずっと大きいそれを片手で包むことが出来なくて両手を添える。

 さっきしてもらったようにゆっくりと手を上下してみた。

「これで合ってますか?」

 上目づかいで訊ねてみる。だが、一輝は眉間にシワを寄せてばかりで返事をしてくれない。

 やっぱり下手だったのだろうか。

 そこから手を放す。

「下手でごめんなさい……」

 なにをやってもやっぱり上手くできない自分が情けなくなる。一輝や兄たちみたいにもっといろんなことを器用にこなせたらいいのにと悲しくなり、また涙が滲んでくる。

「いや、違うんだっ……その……気持ちよくて声が出せなかっただけだ」

「本当に?」

「本当だよ、だからもう一回やってくれるか。今度はちゃんと教えるから」

「はいっ!」

 一輝に教えてもらいながら手を動かしていく。

「そうだよ……上手だよ碧くん」


 ゆっくりとした動きを徐々に早くしていく。それだけ。それだけなのになぜだろう、碧まであの腹の奥がくすぐられるような感覚が蘇ってくる。そこを手で弄られた時、腰が勝手に動いてしまうような疼きが沸き起こるのだ。今一輝がそれを感じているのだろうと思うだけで、どうしてだろう碧の身体までが熱くなってくる。それに合わせるように碧の治まったはずのものが形を変えていく。

「あれ、……どうして?」

 なぜ一輝のをしているだけのに、自分までおかしくなるのだ。

 もしかしたら朝というのは形がおかしくなりやすいのだろうか。

「……一緒にしようか」

 いつもキスをするときのように膝に乗るよう言われ、素直に従う。一輝が角度を微妙に調整し、二人のものが重なり合うようにすると、二人のものを同時に掴んで手を動かし始めた。

「ぁ……ゃぁぁっ」

 さっきと違う感触にまたゾワゾワと身体から変なのが沸き上がってくる。横になっている時と違い、急に上体に力が入らなくなる。肩を掴みながら一輝の首元に顔を押し付けなんとかその感覚を堪えようとする。そうじゃないと勝手に腰が動いてしまいそうだ。

 頬とあそこで一輝の硬さを感じながら、的確に煽ってくる手の動きに翻弄されていく。

 しかも起きたばかりのパジャマは一輝の匂いがする。大好きな人の匂いに包まれていると余計に身体の奥の熱が膨張してくる。

 未熟な碧はもう我慢できなかった。

 一輝の手の動きに合わせながら本能のままに腰を動かしていく。

 先走りに濡れた手が滑らかな動きになる。

 また違った感触の到来に、碧は肩を掴む手に力を入れながら動きを早くする。

「ひっ……ゃぁっ、また変なのが出ちゃう!」

「そういう時はね、達くっていうんだ」

「ぁぁっ、いくっ! も、ゃぁぁぁっ! ……ぁっ……んっ」

 白い液体の放出に合わせて、大きく前へ腰が突き出される。

 またあの感覚だ。

 吐き出した後、フワフワして天に昇るような心地になる。初めは急激すぎてゆっくり味わえなかった感覚を、二度目の余裕でじっくりと堪能する。

(きもちいい……)

 キスとは違う気持ちよさにたっぷりと浸り、フワフワした気持ちのまま、この気持ちよさをもっと味わいたくなった。

 こんなに気持ちいいことがあるなんて知らなかった。

 またしたらもっと気持ちよくなるのだろうか。

 キスをしながらだったらどうなるんだろう。

 その誘惑にフラフラと、まだ硬いままの一輝のものと力を失った自分のを握ってる大きな手を上から包み込み、続きを促しながらもうすっかり慣れたキスを自分からした。

 すぐにはあの気持ちよさが来ないけど、一輝の唇を啄む感触を味わう。

「ぁ……」

「んっ……煽らないでくれ」

「ゃだ……きもちいい……やめちゃいやっ」

 離れていこうとする唇を追いかけて重ねていく。

(やっぱり……きもちいい…もっと欲しい)

 それが快楽とも知らず、無知な碧は無邪気に欲望のまま欲しがった。

 しかもねだれば与えられることが分かっているだけに、我慢をしようという発想すらなかった。

 ただ貪欲にさっき味わった気持ちよさを追いかけ、もっと気持ちよくなるために唇をも味わい続ける。

 一輝の手が今までにないくらい早くなる。

 腰を動かしながら、またやってくるその瞬間を待ち続けた。

 大きな手が強く握り込むと、碧と一輝のくびれ同士が擦れ合う形になり、碧も腰の動きを大きくしながらしきりに唇を啄んだ。

(またっ!)

 さっきよりも少ない量を吐き出していく。

「んっ……ぁ……っ」

と同時に熱いものが碧の腹部にかかった。

(一輝さんも出ちゃったんだ……)

 唇を離し白い液体で汚れた自分の腹部に目を移す。自分がさっき放ったのよりも多い量のそれがねっとりとした緩やかさで流れ落ちようとしている。

 碧は指で掬い取り、まじまじと見つめる。

「こらっ碧くん、それっ!」

「ねぇこれなに? どうしてオシッコじゃないのが出るの?」

「それは……今度教えるよ」

「どうして今じゃダメなの? あと、どうしてここを擦ったらこんなに気持ちいいの?」

 純粋な疑問をぶつけていく。なのに一輝は言葉を濁すばかりだ。

「いつ教えてくれるの?」

「碧くんが夫婦ですることを全部した後。約束する!」

「……わかりました。絶対ですよ」

「絶対、約束するよ」

 どこまでも自分を甘やかしてくれる一輝に、嬉しくて抱きついた。そして約束の証としてキスをする。

 何度してもキスは気持ちいい。

 でも今まで味わったことのない快感を、それを知ってしまった碧は素直に求める。

「さっきの、もう一回して」

 いつもするように一輝に抱きつきながら、欲望のままにねだるのだった。
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