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本編100

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「……父さんはどうしてお父さんの前から消えたの?」

 ソーマが成人して竜王を譲渡した途端、会いに行きたいほど想っていたのに。むしろその日をずっと待ち望んでいたように感じられた。

「言えなかったんだ、自分が竜だということを。嫌われたくなかった……だからお前を身籠って、それが見つからないように離れたんだけど、やっぱり駄目だね。本当はずっと傍にいたかったから」

 離れたことを、隠し事をしたことをすぐに後悔した。だが男が妊娠するなんて想像もしない人間に、お前との子を身籠ったとは言えないし、悪い冗談と流されかねない。

 その時のユリウスは臆病だった。

 コルネリウスの測りかね、そして逃げた。自分が竜と知られないために。

「大切な人に隠し事をした罰だね、これは。だから甘んじて受けるんだ」

「でもお父さん、僕のことを受け入れてたよ」

「今はね。でもコルネリウスがお前の存在を知ったのは、つい最近なんだ。それまでも、言えなかった。後悔しているよ」

 父でも後悔をするのか。それが不思議で少しだけ安堵する。

 ユリウスはソーマをじっと見て、そして笑った。

「たっぷり愛してもらったみたいだね、ソーマの気が安定している」

「それはっ!」

 元竜王となるとそういうものまで見えるのだろうか。今まで何をしていたかは、ソーマが肩を露にして寝台に臥せっているから一目瞭然だろうが、気の安定とはなんだろう。ソーマは出口を探すために少しだけ父に感情を吐露する。

「…………ねえ父さん、僕どうしたらいいのかな?」

「どうしたら、とは?」

「ザームエルとゲオルクのこと……どうしたらいいんだろう」

「随分と曖昧な質問だね。ソーマは二人とどういう関係になりたいんだ?」

「二人のこと、特別だって思ってる。こういうことしてるからかもしれないけど、それでもなにかあったらすごく心配してしまうくらいには大切な存在なんだ」

「ソーマ、よく聞くんだ。ここで人間の親なら悩んで向き合えと進言するだろうが、僕たちの場合は違う。結論を早く出さないと後悔するよ」

「どうして?」

「人間と竜は、同じ時間を歩めないからだ。彼らの寿命は短い。のんびりしていたら、彼らはすぐに年老いて死んでしまう」

「ぁ……」
 脳裏に、馬車に乗せてくれた老人を思い出す。若い頃に父に会ったという老人は間もなくその人生を全うするであろう容姿で、対して目の前にいるのは何十年経っても変わらない容姿をした竜族だ。それは自分たちにも当てはまる。いつか年を取る二人に対して、まだ生まれたばかりと言っても過言ではないソーマは、きっとこのままだろう。そして二人の死を見送り、その後も何百年と生き続ける。

 彼らのいない世界で。

 よっぽどのことがない限り死ぬことのない自分は、結論を出せないままでいたら、ただ後悔を抱きながら生きていくしかないのだ。もういない二人に何もできないままでいたという想いを胸に。
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