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83『絶崖の聖杯・1』
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RE・友子パラドクス
83『絶崖の聖杯・1』
かすかに気配が残っている、T町三千人のテレポの形跡が……。
人間の中には、超能力と言うほどではないが、例えば、道を歩いていて――向こうから誰かがやって来る――程度の勘の働く者が1/1000ほどの確率で存在する。その二三人の思念が、テレポさせられた先を暗示していた。
T町からははるか東方、地球の裏側、トルコのカッパドキアの一点を意識の最後に残していたのだ。
他の人間は、どこに行くのかも分からずに、なにが起こったのかも分からないままテレポさせられていた。
むろん、それもゲームのバックログを読むようなわけにはいかない。滝川と友子の電脳、それにポチとハナ二人の能力をシンクロさせて、ようやくのことだった。
「ちょっと、きつかったみたいだな……」
ポチとハナは、手をつないだままベッドの上で寝てしまっている。
「地球儀回ったまま」
二人の上には、意識を集中させるために使った地球儀が、カッパドキアを示して回ったままになっている。
「あれをどけると、疲れが取れないまま目を覚ましてしまう。いずれ、自然に停まる」
「そうね、カッパドキアには二人で行きましょ」
滝川と友子は、カッパドキアのそこにテレポした。
カッパドキア……古代のカルスト大地に作られた、古代交易の中継点として栄えた都市の跡である。
背の低い灌木の群れがチラホラあるだけで、住居に適した木材が無く、古代のカッパドキアの人々は、石と日干し煉瓦で家や城壁を作っていたが、ペルシアの進出と共に寂れ、岩山に穴を穿ち、それをもって住居としていた。
それは、古代的というよりは、宇宙の別の星にある遺跡を思わせるものがあった。実際にスペースファンタジーのロケに使われることも多く、そういうところは観光地化され、様々な国の観光客で賑わっていた。
二人がテレポしたのは、そんなカッパドキアの辺境で、日ごろは人の立ち入ることも希な渓谷地帯であった。
「地質的に不安定なところね」
「カルストだからな。石灰岩が多くて浸食がすすんでいる……あ、危ない!」
友子も同時にジャンプして、隣の岩山に着地した。滝川だけが上空を漂い、崩れたばかりの岩庇を見つめている。
「なにしてんの、こっちにきたら?」
「おかしいと思わないか。いくらカルストとは言え、あんなに大きな岩庇が、いきなり崩れたんだ……」
「……かすかに感じる。あの岩庇の上に大勢の人間が乗っていたんだ」
「その重みで……トラップ?」
「そこまでは、分からないわ。気配を徹底的に消している」
「三千人分もの気配を?」
「多分、聖骸布の力ね」
「こう痕跡もなにもなくっちゃ、分からないなあ……」
……二人は途方にくれた。
感覚を研ぎ澄まし、あたりの気配を伺ったが、ウサギなどの小動物や昆虫の気配まで拾ってしまい際限がなかった。
「……微かだけど、カツブシみたいな微粒子を検知したわ」
「こんなところに乾物屋があるはずもない……」
二人はカツブシの正体をさぐりに、岩山をいくつか飛び越えた。
「なんだ……」
それは、カラカラに乾き、ミイラになったヤギの死体だった。
「今日は、ここで野宿だな」
「待って……T町では、ここへの残留思念が残っていたわ。それは感覚の鋭い人が何人かいたからよ。それが感じられないということは……追跡できないように始末した?」
「殺せば、死臭がする。おれ達の嗅覚はハゲタカの百倍はある」
「あ……」
「水道局長の殺され方……」
「ミイラ化すれば、死臭はしないわ!」
「でも、水道局長とヤギのミイラじゃ、微妙に成分が違う」
「そうね、服や持ち物も同時に乾燥させるから、その成分が違うのよ!」
二人は、水道局長のデータを基に、あたりを検索した。
「あった、三時の方角!」
行ってみると、ワンピースを着せられたヤギとキツネのミイラだった。
「敵も読んでいるなあ」
「こうなりゃ、中型動物のミイラ、全部当たるしかないわね」
五体目でビンゴだったが、ミイラがない。
「ミイラをテレポさせたんだ!」
「だとしたら、手の打ちようがないわね」
「もし、おれ達が、これをやるとしたら、どうする?」
「原子分解する。それだと絶対に分からないから」
「聖骸布は、トモちゃんが一部を引き裂いたんで、完全な力がないんだ。だとしたら……」
「テレポさせやすいのは……」
「元の場所よ!」
二人は、もう一度T町にテレポし、それを……発見した。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
滝川 修 城南大の学生を名乗る退役義体兵士
83『絶崖の聖杯・1』
かすかに気配が残っている、T町三千人のテレポの形跡が……。
人間の中には、超能力と言うほどではないが、例えば、道を歩いていて――向こうから誰かがやって来る――程度の勘の働く者が1/1000ほどの確率で存在する。その二三人の思念が、テレポさせられた先を暗示していた。
T町からははるか東方、地球の裏側、トルコのカッパドキアの一点を意識の最後に残していたのだ。
他の人間は、どこに行くのかも分からずに、なにが起こったのかも分からないままテレポさせられていた。
むろん、それもゲームのバックログを読むようなわけにはいかない。滝川と友子の電脳、それにポチとハナ二人の能力をシンクロさせて、ようやくのことだった。
「ちょっと、きつかったみたいだな……」
ポチとハナは、手をつないだままベッドの上で寝てしまっている。
「地球儀回ったまま」
二人の上には、意識を集中させるために使った地球儀が、カッパドキアを示して回ったままになっている。
「あれをどけると、疲れが取れないまま目を覚ましてしまう。いずれ、自然に停まる」
「そうね、カッパドキアには二人で行きましょ」
滝川と友子は、カッパドキアのそこにテレポした。
カッパドキア……古代のカルスト大地に作られた、古代交易の中継点として栄えた都市の跡である。
背の低い灌木の群れがチラホラあるだけで、住居に適した木材が無く、古代のカッパドキアの人々は、石と日干し煉瓦で家や城壁を作っていたが、ペルシアの進出と共に寂れ、岩山に穴を穿ち、それをもって住居としていた。
それは、古代的というよりは、宇宙の別の星にある遺跡を思わせるものがあった。実際にスペースファンタジーのロケに使われることも多く、そういうところは観光地化され、様々な国の観光客で賑わっていた。
二人がテレポしたのは、そんなカッパドキアの辺境で、日ごろは人の立ち入ることも希な渓谷地帯であった。
「地質的に不安定なところね」
「カルストだからな。石灰岩が多くて浸食がすすんでいる……あ、危ない!」
友子も同時にジャンプして、隣の岩山に着地した。滝川だけが上空を漂い、崩れたばかりの岩庇を見つめている。
「なにしてんの、こっちにきたら?」
「おかしいと思わないか。いくらカルストとは言え、あんなに大きな岩庇が、いきなり崩れたんだ……」
「……かすかに感じる。あの岩庇の上に大勢の人間が乗っていたんだ」
「その重みで……トラップ?」
「そこまでは、分からないわ。気配を徹底的に消している」
「三千人分もの気配を?」
「多分、聖骸布の力ね」
「こう痕跡もなにもなくっちゃ、分からないなあ……」
……二人は途方にくれた。
感覚を研ぎ澄まし、あたりの気配を伺ったが、ウサギなどの小動物や昆虫の気配まで拾ってしまい際限がなかった。
「……微かだけど、カツブシみたいな微粒子を検知したわ」
「こんなところに乾物屋があるはずもない……」
二人はカツブシの正体をさぐりに、岩山をいくつか飛び越えた。
「なんだ……」
それは、カラカラに乾き、ミイラになったヤギの死体だった。
「今日は、ここで野宿だな」
「待って……T町では、ここへの残留思念が残っていたわ。それは感覚の鋭い人が何人かいたからよ。それが感じられないということは……追跡できないように始末した?」
「殺せば、死臭がする。おれ達の嗅覚はハゲタカの百倍はある」
「あ……」
「水道局長の殺され方……」
「ミイラ化すれば、死臭はしないわ!」
「でも、水道局長とヤギのミイラじゃ、微妙に成分が違う」
「そうね、服や持ち物も同時に乾燥させるから、その成分が違うのよ!」
二人は、水道局長のデータを基に、あたりを検索した。
「あった、三時の方角!」
行ってみると、ワンピースを着せられたヤギとキツネのミイラだった。
「敵も読んでいるなあ」
「こうなりゃ、中型動物のミイラ、全部当たるしかないわね」
五体目でビンゴだったが、ミイラがない。
「ミイラをテレポさせたんだ!」
「だとしたら、手の打ちようがないわね」
「もし、おれ達が、これをやるとしたら、どうする?」
「原子分解する。それだと絶対に分からないから」
「聖骸布は、トモちゃんが一部を引き裂いたんで、完全な力がないんだ。だとしたら……」
「テレポさせやすいのは……」
「元の場所よ!」
二人は、もう一度T町にテレポし、それを……発見した。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
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