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76『聖骸布の謎・1』
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RE・友子パラドクス
76『聖骸布の謎・1』
「靖国神社では、大変な目に遭ったね」
理事長先生がねぎらってくれる。
「いいえ、おかげで放火も未然に防げましたし、紀香も生まれて初めて入院体験できましたし」
「白井さん、ほんとうに軽い怪我で済んでなによりだ」
「ハハ、バカは怪我の治りも早いんです」
元来義体である。ナノリペアであっと言う間に治せるのだが、切られたところを大勢の人に見られているので、人間より少しだけ早い三倍の回復力で治した。病院には「お医者様のお陰です」と持ち上げ、その医者は、医学雑誌から取材を受け、臨床医としては珍しく学会で紀香の治療について発表することになっている。
「警察と消防署と靖国神社から表彰されることになりそうだよ、他のみんなもね。でも鈴木さん、よく男が放火しそうだということが分かったね。一番遠くにいたのに」
「なにかインスピレーションのようなモノでした。きっと彼岸花の兵隊さんたちがついていてくれたのかもしれません」
「……かもしれんなぁ。あんなに鮮やかに、沖縄戦のことを見せてくれたんだからね」
理事長先生には、そう思ってもらうことにした。義体の力であると言うわけにはいかない。
「ま、それはそれとして、理事長先生。この部屋のカーテン替えましょう。事務長さんからも言ってましたよ。一番エライ人の部屋が、一番みすぼらしいって。新しいカーテンはロッカーの中ですよね。失礼して替えさせて頂きます」
「どうも歳なんで、新しいものは、なんだか落ち着かなくてね」
「椅子や、ソファーは張り替えてるじゃないですか」
「ああ、張り替えだけで本体は昔のままだからね」
「この部屋の本体は、理事長先生です。その本体を生かすためです」
紀香がうまいことを言う。
「ハハ、一本取られたね。じゃ、男子諸君にでも……」
「いえ、わたしたちがやります。お任せを。友子、脚立とってきて」
「はい、先輩」
シオらしく友子は、廊下から脚立を運び入れた。
「こりゃ、手回しがいい」
理事長先生も降参のようだ。
「先生、新しいカーテン、業者さんは昔といっしょですよ。ほら!」
裾のロゴを見せた。
「ああ、特注品なんだねぇ。事務長さんも気を遣ってくれて……」
二人のカーテンの掛け替えは曲芸だった。友子が付け終わると、ヒョイとジャンプ。その間に紀香が脚立をスッと移動させ、その上に器用にお尻から着地。いちいち上り下りしないので、カーテンは一分余りで付け終わった。
「では、この古いのは演劇部で保管させていただきます」
「ああ、どうぞ。マッカーサーの机も演劇部だったしなあ」
「では、失礼いたしました」
「どうも、ご苦労様」
こうやって、友子は学校で一番古い布きれ、それも乃木坂界隈でも一番古いそれを手に入れたのだ。
「どう、これくらい古ければ使えそう?」
「なんとか、やってみよう……」
妙子には、部活は休みと言って、部室に紀香と二人きりになって、あることを企んでいた。
友子が、聖アンナ教会のシスター・アンナ藤井に変身し、空に逃げる三人組が持っていた聖骸布を掴み、その端っこが引きちぎれたときに、聖骸布の情報を取り込んでいたのだ。
それは、義体である友子のCPUをもってしても、1/10しか取り込めないほど膨大なものであった。あとは取り返した1/4から得た情報でやっと半分近く。それを、この乃木坂界隈で一番古い布地である理事長室のカーテンに再現してみようというのだ。
「マッカーサーの机の力も借りよう」
畳1・5畳分ほどのマッカーサーの机に広げ、友子は、自分の目をプリンターモードにして聖骸布を焼き付けていった。
「うわ!?」「すごい!?」
聖骸布のレプリカからは、とんでもない情報が読み取れた!
この件について栞に思念を飛ばしてみた…………未来からの手応えは無かった。
※マッカーサーの机:乃木坂学院の初代理事長が使っていた机で、戦後マッカーサーが視察に来たときに使ったことに由来する『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』に詳しく書かれている化け物机。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
滝川 修 城南大の学生を名乗る退役義体兵士
76『聖骸布の謎・1』
「靖国神社では、大変な目に遭ったね」
理事長先生がねぎらってくれる。
「いいえ、おかげで放火も未然に防げましたし、紀香も生まれて初めて入院体験できましたし」
「白井さん、ほんとうに軽い怪我で済んでなによりだ」
「ハハ、バカは怪我の治りも早いんです」
元来義体である。ナノリペアであっと言う間に治せるのだが、切られたところを大勢の人に見られているので、人間より少しだけ早い三倍の回復力で治した。病院には「お医者様のお陰です」と持ち上げ、その医者は、医学雑誌から取材を受け、臨床医としては珍しく学会で紀香の治療について発表することになっている。
「警察と消防署と靖国神社から表彰されることになりそうだよ、他のみんなもね。でも鈴木さん、よく男が放火しそうだということが分かったね。一番遠くにいたのに」
「なにかインスピレーションのようなモノでした。きっと彼岸花の兵隊さんたちがついていてくれたのかもしれません」
「……かもしれんなぁ。あんなに鮮やかに、沖縄戦のことを見せてくれたんだからね」
理事長先生には、そう思ってもらうことにした。義体の力であると言うわけにはいかない。
「ま、それはそれとして、理事長先生。この部屋のカーテン替えましょう。事務長さんからも言ってましたよ。一番エライ人の部屋が、一番みすぼらしいって。新しいカーテンはロッカーの中ですよね。失礼して替えさせて頂きます」
「どうも歳なんで、新しいものは、なんだか落ち着かなくてね」
「椅子や、ソファーは張り替えてるじゃないですか」
「ああ、張り替えだけで本体は昔のままだからね」
「この部屋の本体は、理事長先生です。その本体を生かすためです」
紀香がうまいことを言う。
「ハハ、一本取られたね。じゃ、男子諸君にでも……」
「いえ、わたしたちがやります。お任せを。友子、脚立とってきて」
「はい、先輩」
シオらしく友子は、廊下から脚立を運び入れた。
「こりゃ、手回しがいい」
理事長先生も降参のようだ。
「先生、新しいカーテン、業者さんは昔といっしょですよ。ほら!」
裾のロゴを見せた。
「ああ、特注品なんだねぇ。事務長さんも気を遣ってくれて……」
二人のカーテンの掛け替えは曲芸だった。友子が付け終わると、ヒョイとジャンプ。その間に紀香が脚立をスッと移動させ、その上に器用にお尻から着地。いちいち上り下りしないので、カーテンは一分余りで付け終わった。
「では、この古いのは演劇部で保管させていただきます」
「ああ、どうぞ。マッカーサーの机も演劇部だったしなあ」
「では、失礼いたしました」
「どうも、ご苦労様」
こうやって、友子は学校で一番古い布きれ、それも乃木坂界隈でも一番古いそれを手に入れたのだ。
「どう、これくらい古ければ使えそう?」
「なんとか、やってみよう……」
妙子には、部活は休みと言って、部室に紀香と二人きりになって、あることを企んでいた。
友子が、聖アンナ教会のシスター・アンナ藤井に変身し、空に逃げる三人組が持っていた聖骸布を掴み、その端っこが引きちぎれたときに、聖骸布の情報を取り込んでいたのだ。
それは、義体である友子のCPUをもってしても、1/10しか取り込めないほど膨大なものであった。あとは取り返した1/4から得た情報でやっと半分近く。それを、この乃木坂界隈で一番古い布地である理事長室のカーテンに再現してみようというのだ。
「マッカーサーの机の力も借りよう」
畳1・5畳分ほどのマッカーサーの机に広げ、友子は、自分の目をプリンターモードにして聖骸布を焼き付けていった。
「うわ!?」「すごい!?」
聖骸布のレプリカからは、とんでもない情報が読み取れた!
この件について栞に思念を飛ばしてみた…………未来からの手応えは無かった。
※マッカーサーの机:乃木坂学院の初代理事長が使っていた机で、戦後マッカーサーが視察に来たときに使ったことに由来する『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』に詳しく書かれている化け物机。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
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