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10『友子のダイハード』

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RE・友子パラドクス

10『友子のダイハード』 




 純子の家は品がいい。

 周囲は高級住宅街と言っても、住宅が高級なのであって、住んでいる住人の品位まで保証するものではない。たいがい一代成金の芸能人や、会社の経営者、儲け主義の医者などが多く、自然と、それが家の佇まいにも現れ、家を実際以上に大きく見せたり、国籍不明だったり、建築年代不明であったりで、野心的建築家の住宅展示場を思わせた。

 純子の家は違った。できるだけ小さく見えることをコンセプトにしているようで、建物にも外構にも大理石などという賤しげなものは使われておらず、屋根も三州瓦と、実用的で品がいい。

 一筋離れた道路から紀香と友子は建物とその周辺を観察した。

「お手伝いさんはいないようね」

「早く帰らせたようね……パソコンに、お手伝いさんの勤務記録……いつもより早く帰らせてる……ここんとこずっとだ」

「家政婦会の記録じゃ、二人……まっとうな人たちね」

「リビングに、ご両親、二階に純子ちゃんがいる……柚木先生の記憶通り、真面目で大人しそうな子ね」

「電池切れかけのトモちゃんて感じ」

「いやみですか……どうやら客待ち。それもたちの悪い……」

「じゃ、わたしたちも中に」



 セイ!



 ほんの一飛びで家の敷地、庭の監視カメラにはダミーの映像をかまし、客間のサッシを解錠して中に潜り込む。

「……来るのは三下。そいつらノシてもラチがあかない。今日は、ちょっと工作して、情報集めることに専念しましょう。わたしは純子ちゃんのとこに行く。ちょっとお出かけすることになるかも知れないけど、よろしく先輩」

「まあ、トモちゃん自身の性能テストだと思って、あまりやりすぎないよう……ム、来たようね、ゲスト」

 まもなく車の気配がして、二人の男が入ってくるのが分かった。上司の知恵がいいのか、車はレンタカーだった。友子はゆっくりと純子の部屋に入った。

「こんにちは……」

「あ、あなたは……?」

 純子は思ったほどには混乱はしなかった。友子が自分と同じ乃木坂学院の制服を着ていたこともあるが、どうやら、元来見かけによらず腹の据わった子なのかもしれない。万一純子がパニックをおこしても大丈夫なように目のビームを「精神安定」にしておいたが、その必要もなさそうだ。

「初めまして、わたし長峰さんと同じクラスに転校してきた鈴木友子。あなたのことが気になってお邪魔したの。よかったら、わけを話してもらえるかしら」

「ありがとう……でも、お話はできないわ」

「どういうわけで、話せないのかな?」

「……そういう約束だから」

 その時、純子の心に浮かんだことから、おおよその事情は承知した友子だが、自分から言うことは控えた。部屋のドアに鍵がかかっていなかったことで、純子の決心が分かったから。



「長峰さん。今日は、話し合いじゃない。お約束を実行しにきたんです」



 三下Aが、目だけは笑わない笑顔で言った。

「約束した覚えなんか無い。また、そちらの言う実行もさせない。ワッセナー条約にも外為法にも抵触はしていない。偽装していたのはそちらの……ウグ」

 純子の父が言い終わる前に、三下Bが胸ぐらを掴んだ。

「よせ、俺たちは、あくまで契約の履行にきたんだ。では、念のため、契約書の写しを置いていきます。私どもは、仲介業者として、御社の取引先がワッセナー条約にも外為法にも違反していたこと、それに御社がそれに最初から気づいていたこと……」

「嘘だ。わたしは何も知らなかった!」

「証拠はそろっています」

「みんなでっち上げだ」

「法廷では有効な証拠になります。違約金の三十億は期日までにお振り込みねがいます」

「そんなもの!」

「あ、それと、お嬢さんの留学。期日も過ぎていますので、今日お連れいたします。ご心配なく。C国は民主的な国です。そこで心ゆくまでご勉学にいそしんでいただきます。おい」

 Aは、三下Bに二階へ上がるように指示した。



「わたし、知らない男の人に部屋を見られるのはイヤなの」



 純子が、制服姿に旅行用のキャリーバッグを持って現れた。

「純子、何してんの! 二階で鍵を閉めてなさいって……」

「大丈夫、この人達の顔も立ててあげなきゃ。ね、そうでしょ。今日手ぶらで帰ったら、あなたたちだってただじゃ済まないんだものね」

「何を!」

 Bの目に、あきらかな動揺が見えた。

「じゃ、行きましょうか」

「フフ、もの分かりのいい、お嬢さんだ」

「おあいにく、顔を立てる以上のことをするつもりはないわ。じゃ、お父さんお母さん、行って来るわね」

「「純子(;゚Д゚)!」」

「用意周到、レンタカーね。闇バイトに借りさせて面は割れないようにしてるんだろうけど、純子を迎えに来るには、ちょっとしけてるわね、車もやり方も」

「すまないね、横浜までの辛抱だ。我慢してくれ」

「だったら、高速で行こうよ」

「高速じゃ、カメラに写るんでね」

「フフ、カメラ写りに自信がないんだ。でも、わたしは高速に乗りたいのッ!」

 ブィン!

 純子が、そう言うと、車は勝手にハンドルを切って高速に入ってしまった。

「ど、どうなってるんだ!?」

「兄貴、ブレーキを!」

「だめだ、ブレーキもハンドルも効かない!」

「アハハ、せっかくの高速なんだから、飛ばさなくっちゃ!」

 ブィーーン!

 車は、急加速して、百八十キロまでスピードが上がった。

「こんなに飛ばしたら、警察が……(;'□')」

「大丈夫、スピードレコーダーやカメラのあるとこじゃ、法定速度で行くから」

 と言う間に80キロまでスピードが落ち、三下A・Bの胸にシートベルトが食い込んで肋骨にヒビが入った。そうやって、加速と減速を繰り返して横浜の波止場に着いた。



 しかし車は止まらない。



 ブィーーンキュルキュル! ズィーーンキュルキュル! ブォーーンキュルキュル!

 岸壁で、完ぺきなカースタントを何度も繰り返した。

「あいつら、張り切りすぎだぜ……」

 C国の大型偽装船のボスは、部下の張り切りように苦笑いした。部下の三下A・Bは、それどころではなかった。肋骨全てにヒビが入り呼吸も困難になってきた。

 純子に化けた友子は、手下たちの首筋を噛んでおいた。手下たちは吸血鬼かと恐れたが、友子は傷口からナノリペアーを二人の体内に注入した。これで、世界中のどこに隠れても居所が知れる。

「お、おたすけ!」「やめてくれぇ!」

「そんなんじゃ、ディズニーランドのジェットコースターも無理ね。いいわ、一瞬減速するから、飛び降りて」

 ヘタレ三下が、命からがら飛び降りると、車は急加速して岸壁を越え、大型偽装船のドテッパラに突っこんだ。激突の寸前に友子は飛び出し、両腕のジュニア波動砲をレベル3でぶちかました。



 ドッガーーーン!!



 人が見たら、車に仕掛けられたTNT火薬かなにかが爆発したと思っただろう。

 波動砲をかました直後、ブリッジにいるボスの顔が目に入った。殺意と憎しみが滾り頭の血管が切れる寸前だ。

――やりすぎた(^_^;)――

 友子は、怒りに開きっぱなしになったボスの口に唾を飛ばしてナノリペアーを送り込んだ。



 友子は、その足で純子の部屋に戻った。



「明日から学校に来ても大丈夫よ」

「トモちゃん、リストカットでもやった?」

 紀香が冷やかす。

「あ、ちょっとこすっただけ」

 友子が、一撫ですると傷はきれいに無くなった。



 明くる日、C国の大型偽装船の爆発事故と、それに積まれていた長峰興産の商品が発見され、大規模な輸出サギがあることがわかり、長峰興産の無実が証明された。船長以下乗組員は取り調べを受けたが、そこにボスの姿は無く、せっかく助けてやった三下A・Bは水死体で横浜港に浮かんだ。

 そして明くる朝、友子の教室には長峰純子の元気な顔があったのだった(^_^;)。



☆彡 主な登場人物

鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎        友子の弟で父親
鈴木 春奈        一郎の妻
白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡         クラスの委員長
王 梨香         クラスメート
長峰 純子        長欠のクラスメート
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