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172『赤壁の織部と武蔵』
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鳴かぬなら 信長転生記
172『赤壁の織部と武蔵』織部
「外していいか?」
労務者用の出店から買ってきた弁当を見せると、前を向いたまま武蔵が訊ねる。この赤壁の築堤工事は規模が大きく珍しくもあるので、旅行者や近在の者たちが少なからず見物に来ていて、我々も大っぴらに偵察することができる。
「ああ、いいよ。ほら、弁当食べて一息入れたら帰るとしよう」
「よいしょっと……」
カラコンを外すのに「よいしょ」は大げさなんだが、武蔵には随分なストレスなんだ。
学院に転生してきた者はいずれもすこぶる付の美少女なんだが、武蔵は、ちょっと例外。
双眼が鋭すぎる。三白眼だし。
それで、三国志の偵察に当って、人前に出る時はカラコンをさせている。
カラコンをした顔は鏡にでも映さなければ自分では見えないのだが、最初に着けた時の衝撃が大きく、今では装着しただけで人格が変わる。
「まずは弁当を食べよう、工事関係者用の弁当だけど、さすがは江南、おいしいよ」
「おお、二段重ねか」
「武蔵の二刀流にも通じておもしろいじゃん」
「うん、大刀を振りかぶった後に小太刀が見事に切り上げてくるようで小気味いい」
「盛り付けにさえ気を配れば夏場の茶会に使っても面白いかもね」
「織部はなんでも茶の湯にするんだな」
「ハハ、利休パイセンほどじゃないけどね。カタチのいいもの、美しいものが好きなだけさ」
ピ~~ヒャララ タタタンタン♪
「……楽団が来ているのか?」
ほとんど市になりかけている出店群から陽気な笛や鼓の音がする。
「ああ、売り切れの店が景気づけにやってるんだな」
手すさびの楽団は、時どき笛の音が跳んでしまうが、昼時のBGMには申し分ない。
「三国志のカタチは見定められたのか?」
「見るべきものは見た。折々に紙飛行機で報告もしたしな。それをもとにどう判断し行動するかは学院と学園の生徒会。信玄や謙信パイセンの仕事だよ」
「さっきの書籍範と曹操の会話はどう見る?」
剣聖らしく、構わずに切り込んでくる。
「文字通りなら、曹操が平和主義と互恵の精神に目覚めて長江の治水工事をかって出たというところだろうね」
「そうだなぁ……この武蔵にも文字通りに見える。あれは、勝負に片が付いて刀を収める。いや、収め終わった時の顔だ。だとしたら、曹操の性根は共存共栄の平和主義になる」
「ああ、堤防も魏の方を低くしている。使っているのは呉の兵士と労務者がほとんどだ」
ドドドド ガガガガガ カーンカーン ブルルルルー
午前の作業終了の太鼓はとっくに鳴っているのだが、兵士や労務者の半分は作業を続けている。作業が強制されたものではなく、自分たちの仕事だと自覚しているからなんだ。
戦国大名は、人を能動的に働かせる術に長けていた。ちょっと懐かしい風景ではある。
「遅れた者たちの弁当はどうなってる?」
「いろいろだ、当番を決めて確保している組もあるし、節約して賄いで済ませている者もいる」
「統一はしてないんだな」
「競わせて選択肢を増やしている。安くて美味いものを作れる奴は、その才覚で儲けられる仕組みだ」
「なるほど……」
「手抜きや仕掛けはやりにくいだろう」
「無いだろう、手抜きや仕掛けをすれば色が濁る」
「孔明が豊盃寺の三蔵法師を訪ねている。あれは、どう見る」
「三蔵法師を見極めに来たんだろうなぁ、あの大説法会や大行進、本者か一発屋のまがい者か。玉門関からこっちを見てもあの三人はよくやっている。三蔵法師も一言主が成りきっているし危なげが無い」
「そうだな、ここに至るまで俺たちの出番は無かったしな」
「報告も一通り済ませたし、弁当を食べたら帰還の連絡だけやって帰ることにしよう……って、もう食べたのか!?」
「織部が遅すぎる」
「待ってくれ」
「ゆっくり食べろ。俺も、ちょっと様子を見てくる」
そう言うと再びカラコンを装着して土手を駆け下り、出店が並んでいる方に走っていく。
なにやら俄か楽団に話したかと思うと、豊盃でも聞いた陽気な曲が流れ、人の輪ができたかと思うと、その真ん中で武蔵が踊り出した。
そのあと相談して、武蔵はもうしばらく三国志に残ることにした。
わたしは、連絡の紙飛行機を飛ばすと、街道に戻って扶桑への帰路についた。
☆彡 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵 孤高の剣聖
二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
雑賀 孫一 クラスメート
松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
今川 義元 学院生徒会長
坂本 乙女 学園生徒会長
曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
172『赤壁の織部と武蔵』織部
「外していいか?」
労務者用の出店から買ってきた弁当を見せると、前を向いたまま武蔵が訊ねる。この赤壁の築堤工事は規模が大きく珍しくもあるので、旅行者や近在の者たちが少なからず見物に来ていて、我々も大っぴらに偵察することができる。
「ああ、いいよ。ほら、弁当食べて一息入れたら帰るとしよう」
「よいしょっと……」
カラコンを外すのに「よいしょ」は大げさなんだが、武蔵には随分なストレスなんだ。
学院に転生してきた者はいずれもすこぶる付の美少女なんだが、武蔵は、ちょっと例外。
双眼が鋭すぎる。三白眼だし。
それで、三国志の偵察に当って、人前に出る時はカラコンをさせている。
カラコンをした顔は鏡にでも映さなければ自分では見えないのだが、最初に着けた時の衝撃が大きく、今では装着しただけで人格が変わる。
「まずは弁当を食べよう、工事関係者用の弁当だけど、さすがは江南、おいしいよ」
「おお、二段重ねか」
「武蔵の二刀流にも通じておもしろいじゃん」
「うん、大刀を振りかぶった後に小太刀が見事に切り上げてくるようで小気味いい」
「盛り付けにさえ気を配れば夏場の茶会に使っても面白いかもね」
「織部はなんでも茶の湯にするんだな」
「ハハ、利休パイセンほどじゃないけどね。カタチのいいもの、美しいものが好きなだけさ」
ピ~~ヒャララ タタタンタン♪
「……楽団が来ているのか?」
ほとんど市になりかけている出店群から陽気な笛や鼓の音がする。
「ああ、売り切れの店が景気づけにやってるんだな」
手すさびの楽団は、時どき笛の音が跳んでしまうが、昼時のBGMには申し分ない。
「三国志のカタチは見定められたのか?」
「見るべきものは見た。折々に紙飛行機で報告もしたしな。それをもとにどう判断し行動するかは学院と学園の生徒会。信玄や謙信パイセンの仕事だよ」
「さっきの書籍範と曹操の会話はどう見る?」
剣聖らしく、構わずに切り込んでくる。
「文字通りなら、曹操が平和主義と互恵の精神に目覚めて長江の治水工事をかって出たというところだろうね」
「そうだなぁ……この武蔵にも文字通りに見える。あれは、勝負に片が付いて刀を収める。いや、収め終わった時の顔だ。だとしたら、曹操の性根は共存共栄の平和主義になる」
「ああ、堤防も魏の方を低くしている。使っているのは呉の兵士と労務者がほとんどだ」
ドドドド ガガガガガ カーンカーン ブルルルルー
午前の作業終了の太鼓はとっくに鳴っているのだが、兵士や労務者の半分は作業を続けている。作業が強制されたものではなく、自分たちの仕事だと自覚しているからなんだ。
戦国大名は、人を能動的に働かせる術に長けていた。ちょっと懐かしい風景ではある。
「遅れた者たちの弁当はどうなってる?」
「いろいろだ、当番を決めて確保している組もあるし、節約して賄いで済ませている者もいる」
「統一はしてないんだな」
「競わせて選択肢を増やしている。安くて美味いものを作れる奴は、その才覚で儲けられる仕組みだ」
「なるほど……」
「手抜きや仕掛けはやりにくいだろう」
「無いだろう、手抜きや仕掛けをすれば色が濁る」
「孔明が豊盃寺の三蔵法師を訪ねている。あれは、どう見る」
「三蔵法師を見極めに来たんだろうなぁ、あの大説法会や大行進、本者か一発屋のまがい者か。玉門関からこっちを見てもあの三人はよくやっている。三蔵法師も一言主が成りきっているし危なげが無い」
「そうだな、ここに至るまで俺たちの出番は無かったしな」
「報告も一通り済ませたし、弁当を食べたら帰還の連絡だけやって帰ることにしよう……って、もう食べたのか!?」
「織部が遅すぎる」
「待ってくれ」
「ゆっくり食べろ。俺も、ちょっと様子を見てくる」
そう言うと再びカラコンを装着して土手を駆け下り、出店が並んでいる方に走っていく。
なにやら俄か楽団に話したかと思うと、豊盃でも聞いた陽気な曲が流れ、人の輪ができたかと思うと、その真ん中で武蔵が踊り出した。
そのあと相談して、武蔵はもうしばらく三国志に残ることにした。
わたしは、連絡の紙飛行機を飛ばすと、街道に戻って扶桑への帰路についた。
☆彡 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵 孤高の剣聖
二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
雑賀 孫一 クラスメート
松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
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今川 義元 学院生徒会長
坂本 乙女 学園生徒会長
曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
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