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138『信長版西遊記・玉門関・3』

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鳴かぬなら 信長転生記

138『信長版西遊記・玉門関・3』信長 



 アビラウンケンソワカ アビラウンケンニワカ ナムキミョウチョーライ オンマニパドメフム ナムアミナムアミ……


 玉門関の南曲輪は様々な念仏や題目、加持祈禱の渦だった。

 玉門都尉に足止めされた旅の坊主たちが、黄風大王の退散や調伏を祈願して念仏や祈願の真っ最中。

 名刹のお上人めいた高級坊主から、乞食同然の破坊主、ソプラノの尼僧 テルテル坊主にクソ坊主

 ありとあらゆる坊主が一心不乱に経を唱えているのは壮観だが、効き目などあるはずもない。

 玉門関西方の空は鈍色に曇って、曇りの上に刷毛でかき回したようなマーブル模様がうねって勢いを増している。

「すぐそこまで、迫っているか……ッパ(-_-;)」

「このままじゃ、やられるブヒ(;'∀')」

「ニコニコニコ……」

 沙悟浄は焦り、八戒は唇を震わせ、オブジェの三蔵はアルゴリズムで微笑むばかり。

『そこな御坊も早くいたされよ!』

 ガチャピーン!

 番卒はイラついて指さすと曲輪の門を向こう側から閉めてしまった。

「閉められてしまったッパ!」

「ブヒブヒ!」

「ブヒもなし」

「洒落てる場合か、ブヒ!」

「迎え撃つぞ、ウキ!」

「「どうやって!?」」

「デフォルトの美少女だったら何もできなかっただろうが、今は西遊記だ」

「これって、コスプレだし、ブヒ」

「見ろ、あのマーブル模様、おどろおどろしいが、あれは砂漠の砂が舞い上げられて、それらしい容になっただけだ。いわば砂嵐のコスプレ。コスプレ対コスプレ! やってやれないことはない!」

 俺は、頭の緊箍児(きんこじ=頭の金輪)に触れながら馬上の三蔵法師に寄る、一言「…………」呟いて鞍のピンを引き抜いた。

「え、取り外し式だったのブヒ!?」

「乗れ! 三人で立ち向かうウキ!」

「「おお!」」

 三蔵を下ろした玉龍(三蔵法師の馬)は三人を乗せ南曲輪の石畳を蹴ると、砂漠の空に舞い上がった!

「馬になにを言ったのよ?」

 八戒が素に戻って俺を睨む。

「ふふ『俺は桶狭間で奇跡の勝利を勝ち取った信長だぞ』ってな」

「ああぁ、そういう成功体験の自己模倣は失敗の元なんだぞ!」

「八戒、市に戻ってるカッパ!」

 沙悟浄が注意して、八戒に戻る市。

 本当は、なにを言ったか?

 それは内緒だ。

 織田上総介、これでも男の純情を知るにやぶさかではないんだぞ。

 頭の緊箍児は……憶えているか? 天照が付けてくれた一言主だ。元々は指輪の姿だったが、悟空になるにあたって緊箍児に化けている。

 男の純情と無口なコスプレの神に……まあ、ここまで付き合ってきた読者なら悟れ。



「沙悟浄! 月牙鏟(げつがさん)を振るえ!」

「承知!」

 月牙鏟とは沙悟浄の得物で、片側に半月の鎌、反対側にスコップみたいなのが付いていている長物の武器だ。

 妖怪の武器だけあって、それを振るえば、そのキャラに見合った能力を発揮する。

 馬上のまま沙悟浄が月牙鏟を旋回させると、玉門関を中心に半径二キロにわたって霧雨が降る。

 霧雨はマーブル模様の砂粒を取り込んで、瞬くうちに地上に落ちていく。

「え、これで済んだの、ブヒ?」

「いいや、地上に落ちたら本性を現す。叩き潰すぞ!」

「「承知!」」

 眼下を見下ろすと、砂漠にミミズが潜っているのではないかと思うようなのがグニュグニュ蠢き、すぐにゴリラほどの魔人になった。

「黄風大王の本性だ! 下りてやっつけるぞ!」

「「おお!」」

 
 水を吸って重くなった黄風大王は動きも鈍く、三人が三方から打ちかかると、三合で爆発飛散した。


「おお、導師の方々、ありがとうございました!」

 玉門都尉が一人ずつ手を取って礼を言ってくれる。

「いやいや、我らが立ち向かえたのも、お師匠が南曲輪で御祈祷してくださったからでござる。妖魔も退散したようなので、我々は先に向かうでござる」

「そうですか、それでは、この鑑札をお持ちください。ゆく先々の関や駅逓で水や食料、宿の斡旋などをしてくれます」

「おお、それはかたじけない。それでは、これにて」


 思いがけず、便利な鑑札をもらい、南曲輪でニコニコと合掌し続けている三蔵を馬に乗せ、敦煌を目指した。

 

 
☆彡 主な登場人物

織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
平手 美姫       信長のクラス担任
武田 信玄       同級生
上杉 謙信       同級生
古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵       孤高の剣聖
二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
雑賀 孫一       クラスメート
松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
今川 義元       学院生徒会長
坂本 乙女       学園生徒会長
曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)
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