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133『紙飛行機西へ』
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鳴かぬなら 信長転生記
133『紙飛行機西へ』信長
眼下に大森林が広がる。三国志と扶桑を隔てる緩衝地帯。境目の大樹林だ。
その向こうには東西に長城が横たわり、所どころの木の間隠れに長城の物見櫓が窺える。
このまま進んでは、長城どころか、三国志の北半分からは視認されてしまう。
茶姫の働きで商人たちの行き来は回復したが、潜在的には敵同士、まして我々(信長・市・茶姫)は曹操から敵認定される身。このまま越境するわけにはいかない。
「お兄ちゃん、どこから潜り込むつもり?」
「西へ抜ける」
「西、卯盃(ぼうはい)か?」
「さらに西、天山山脈と崑崙山脈の間だ」
「テンザンサンミャク? コンロンサンミャク?」
「信長くん、それって、ゴビ砂漠ではないのか!?」
「ゴビサバク?」
市の地理的知識は三国志止まりのようだ。かく言う俺も平手の爺から聞いた西遊記レベルの知識だがな。
「忠八がルート検索をしてくれたのが、このルートなんだ」
俺も、詳しいルートを知っていたわけではない『飛行ルートはプログラムしてあります、水平飛行になればモニターに表示されます』という言葉に従って風まかせにしているだけだ。これまでの仕事ぶりから言っても奴のやることに間違いはない。忠八は、どちらかと言うと光秀タイプの辛気くさい奴なのだが、サルに対するに近い信頼を感じるのは、俺も少しは練れてきたのかもしれない。
ビューーーン
紙飛行機も人目を避けようと思ったのか、猛烈に速度を上げる。
よくできた紙飛行機で、高速だが安定した姿勢のまま西に飛び続け、やがて高度を取って巡航速度に戻った。
「あ、長城が途切れてきた……」
「陽関だ……」
「羊羹!?」
思わず虎屋の羊羹を思い浮かべてしまったぞ。
「王維の詩にある『西の方 陽関を出れば 故人無からん』の陽関だ」
「えと、ちょっと難しんだけど」
「万里の長城の西の果て。陽関という街。そこを過ぎると、ずっとゴビ砂漠が続くのみ。さすがの三国志もここで絶え、その先は言葉も通じぬ西域の世界だという意味だ。逆に東に戻れば、蜀の成都に出られる。そうだったな茶姫?」
「ああ、そうよ」
「なんだ、成都の隣なんだ」
「1000キロはあるぞ」
「1000キロ!?」
「ああ、安土から白河の関ほどだ」
「白河の関ぃ……奥の細道かぁ( ゚Д゚)!?」
「そのくらい時間と距離をかけて、ほとぼりを冷ましてから三国志に戻れということでしょうね……」
「忠八が練りに練ってくれたルートとプランだ、焦らず確実に進んで行くしかない」
「でもでも、手配書とか回ってるんでしょ? 茶姫・ニイ・シイの三人で人相書きとか出てて『賞金首』とか『Wanted!』とか書かれてるんでしょ!?」
「それは、なにか対策があるんでしょ、信長くん?」
「あ、ああ、いちおう天照が、こんなものを寄こして……」
「え、鍋? にしては取っ手が無い」
「真ん中に穴が……中から見ると尖がってるわね」
「シホンケーキの型なんだそうだ」
「シフォンケーキでしょ?」
「天照はそう言ってた」
「古い神さまだから訛ってんのね」
「これを持っていけば、次第に育っていって、美味いシホンケーキ、いやシフォンケーキが焼けるようになるそうなんだ」
「それから、これをくれたぞ」
「え?」
「指輪?」
「ああ、一言主(ヒトコトヌシ)って神が籠められていて、役に立ってくれるそうだぞ」
「あ、なんでも一言で済ましちゃうって日本一ボキャ貧の神さま!」
「大丈夫なのか信長くん?」
「ああ、コスプレの神でもあるって言ってたから、役には立つんだろう」
「前回はお爺ちゃんの神さまだったし、大丈夫かなあ」
グラリ
「「「わあ」」」
グラリと傾いたかと思うと、紙飛行機は左に旋回しつつ、砂漠に着陸。忠八の力作だけあって、旋回は急だったものの、穏やかに着陸して、俺たちはタクラマカン砂漠に対曹操リベンジ戦の第一歩を記した。
「ペッペッ、口の中に砂が入ったぁ!」
「口を開けっ放しにしているからだ」
「水を飲め」
「うん」
「あ、一口だけだ! この先、どこで給水できるか分からんからな」
「え、でも、ヨーカンとかって街の近くなんでしょ?」
――いいや、そうでもないわよ――
声が遠い……と思ったら、茶姫は砂山に上り、手をかざして地形観察をしている。
ザクザクザク……
砂山に並んで、同じように周囲を見渡す。
「だいぶ西に流された、陽関のヨの字も見えない」
「ちょっと、大丈夫ぅ?」
「ふくれるな、陽関が見えないということは、陽関からもこちらが見えないということだ」
「そうね、我々が降り立ったのは誰も見ていないということよ」
「よし、今のうちにコスプレしておくぞ」
「変装って言いなさいよ、遊びに来てるわけじゃないんだから」
「遊びも大事だよ、シイ、余裕を持たなきゃ長旅はもたない」
俺は、左手を掲げて、指輪に命じた。
「ヒトコトヌシ、この旅に相応しいコスに着替えさせろ!」
ボボボーーン
三連発の音とエフェクトがして、俺たちは瞬間で姿が変わったぞ!
☆彡 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生
古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵 孤高の剣聖
二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
雑賀 孫一 クラスメート
松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
今川 義元 学院生徒会長
坂本 乙女 学園生徒会長
曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ)
133『紙飛行機西へ』信長
眼下に大森林が広がる。三国志と扶桑を隔てる緩衝地帯。境目の大樹林だ。
その向こうには東西に長城が横たわり、所どころの木の間隠れに長城の物見櫓が窺える。
このまま進んでは、長城どころか、三国志の北半分からは視認されてしまう。
茶姫の働きで商人たちの行き来は回復したが、潜在的には敵同士、まして我々(信長・市・茶姫)は曹操から敵認定される身。このまま越境するわけにはいかない。
「お兄ちゃん、どこから潜り込むつもり?」
「西へ抜ける」
「西、卯盃(ぼうはい)か?」
「さらに西、天山山脈と崑崙山脈の間だ」
「テンザンサンミャク? コンロンサンミャク?」
「信長くん、それって、ゴビ砂漠ではないのか!?」
「ゴビサバク?」
市の地理的知識は三国志止まりのようだ。かく言う俺も平手の爺から聞いた西遊記レベルの知識だがな。
「忠八がルート検索をしてくれたのが、このルートなんだ」
俺も、詳しいルートを知っていたわけではない『飛行ルートはプログラムしてあります、水平飛行になればモニターに表示されます』という言葉に従って風まかせにしているだけだ。これまでの仕事ぶりから言っても奴のやることに間違いはない。忠八は、どちらかと言うと光秀タイプの辛気くさい奴なのだが、サルに対するに近い信頼を感じるのは、俺も少しは練れてきたのかもしれない。
ビューーーン
紙飛行機も人目を避けようと思ったのか、猛烈に速度を上げる。
よくできた紙飛行機で、高速だが安定した姿勢のまま西に飛び続け、やがて高度を取って巡航速度に戻った。
「あ、長城が途切れてきた……」
「陽関だ……」
「羊羹!?」
思わず虎屋の羊羹を思い浮かべてしまったぞ。
「王維の詩にある『西の方 陽関を出れば 故人無からん』の陽関だ」
「えと、ちょっと難しんだけど」
「万里の長城の西の果て。陽関という街。そこを過ぎると、ずっとゴビ砂漠が続くのみ。さすがの三国志もここで絶え、その先は言葉も通じぬ西域の世界だという意味だ。逆に東に戻れば、蜀の成都に出られる。そうだったな茶姫?」
「ああ、そうよ」
「なんだ、成都の隣なんだ」
「1000キロはあるぞ」
「1000キロ!?」
「ああ、安土から白河の関ほどだ」
「白河の関ぃ……奥の細道かぁ( ゚Д゚)!?」
「そのくらい時間と距離をかけて、ほとぼりを冷ましてから三国志に戻れということでしょうね……」
「忠八が練りに練ってくれたルートとプランだ、焦らず確実に進んで行くしかない」
「でもでも、手配書とか回ってるんでしょ? 茶姫・ニイ・シイの三人で人相書きとか出てて『賞金首』とか『Wanted!』とか書かれてるんでしょ!?」
「それは、なにか対策があるんでしょ、信長くん?」
「あ、ああ、いちおう天照が、こんなものを寄こして……」
「え、鍋? にしては取っ手が無い」
「真ん中に穴が……中から見ると尖がってるわね」
「シホンケーキの型なんだそうだ」
「シフォンケーキでしょ?」
「天照はそう言ってた」
「古い神さまだから訛ってんのね」
「これを持っていけば、次第に育っていって、美味いシホンケーキ、いやシフォンケーキが焼けるようになるそうなんだ」
「それから、これをくれたぞ」
「え?」
「指輪?」
「ああ、一言主(ヒトコトヌシ)って神が籠められていて、役に立ってくれるそうだぞ」
「あ、なんでも一言で済ましちゃうって日本一ボキャ貧の神さま!」
「大丈夫なのか信長くん?」
「ああ、コスプレの神でもあるって言ってたから、役には立つんだろう」
「前回はお爺ちゃんの神さまだったし、大丈夫かなあ」
グラリ
「「「わあ」」」
グラリと傾いたかと思うと、紙飛行機は左に旋回しつつ、砂漠に着陸。忠八の力作だけあって、旋回は急だったものの、穏やかに着陸して、俺たちはタクラマカン砂漠に対曹操リベンジ戦の第一歩を記した。
「ペッペッ、口の中に砂が入ったぁ!」
「口を開けっ放しにしているからだ」
「水を飲め」
「うん」
「あ、一口だけだ! この先、どこで給水できるか分からんからな」
「え、でも、ヨーカンとかって街の近くなんでしょ?」
――いいや、そうでもないわよ――
声が遠い……と思ったら、茶姫は砂山に上り、手をかざして地形観察をしている。
ザクザクザク……
砂山に並んで、同じように周囲を見渡す。
「だいぶ西に流された、陽関のヨの字も見えない」
「ちょっと、大丈夫ぅ?」
「ふくれるな、陽関が見えないということは、陽関からもこちらが見えないということだ」
「そうね、我々が降り立ったのは誰も見ていないということよ」
「よし、今のうちにコスプレしておくぞ」
「変装って言いなさいよ、遊びに来てるわけじゃないんだから」
「遊びも大事だよ、シイ、余裕を持たなきゃ長旅はもたない」
俺は、左手を掲げて、指輪に命じた。
「ヒトコトヌシ、この旅に相応しいコスに着替えさせろ!」
ボボボーーン
三連発の音とエフェクトがして、俺たちは瞬間で姿が変わったぞ!
☆彡 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生
古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵 孤高の剣聖
二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
雑賀 孫一 クラスメート
松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
今川 義元 学院生徒会長
坂本 乙女 学園生徒会長
曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
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