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100『指南街 窯変』
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鳴かぬなら 信長転生記
100『指南街 窯変』織部
焼き物が窯の中の火の具合や灰の被り方で、思わぬ景色に変わることを窯変(ようへん)という。
備前焼や信楽焼など、釉薬を用いない酸化焔焼成が有名だが、信長の窯変天目茶碗のように釉薬を用いたものでも窯変を起こす。
万に一つほどは、茶碗の中に宇宙を見る如き深さを感じさせるものがあって、信長のコレクションの中にも震えが出るほどの名品があった。数ある信長のコレクションのどれであったかは言わない。言ってしまえば、この織部の目にかなった器として名が出てしまう。名が出てしまえば、次に転生した時に人の手に渡るか、知ってしまった信長が手放さなくなるだろうからな。
その窯変に似ている。劉度(リュドミラ)の胡旋舞がだ。
元々は、故郷のウクライナで、流浪の楽団や村人に教わった見様見真似の自己流であったらしい。容姿にコンプレックスのある劉度は、村の祭りで人並みに踊れれば人が振り向いてくれるかと、なかば自己流。
劉度に人の半分も愛嬌があれば、名うての踊り子として幸せな人生が送れたかもしれない。
じっさい、指南街の古屋敷の庭や跡地で踊らせてみると、窯変と言っていいほどのパフォーマンスを見せてくれる。
プロポーションもルックスも悪くない、ただただ愛想が無いという一点で、この隠れ美少女は損をしてきたのだ。
それに、劉度には、度外れたスナイパーの才能もあった。人も国も、そのスナイパーの才能しか見てこなかった。
惜しい、こんなことなら、ガードなど宮本武蔵にやらせるんだった。
いや、こうやって三国志に連れてきたからこその窯変。
そのジレンマに爪を噛みながら撮影を見ていると、ひとりの女が塀の破れから飛び込んできた。
「陳麗、撮影中よ!」
明花がたしなめると、手をワイパーのように振りながらまくし立てた。
「曹素の部隊が酉盃までやってきた! そのうち、この指南街にもやってくるよ!」
根は明るい性格のようだが、迫った危機に頬が引きつって神経質の三文字を擬人化したような様子だ。
「くそ、みんな、ここまでだ!」
手慣れた手つきでカメラを仕舞うと、孫権は助手の女をわたしの前に突き出した。
「越後屋さん、この人を扶桑に避難させて!」
「え、この助手を?」
「帽子とメガネをとって」
え、ええ!?
目を剥いて驚いたのは大橋だ。
たしかに、帽子とメガネをとった助手は、キリリとした美人だけども……いや、この迫力は?
「曹茶姫さんです、曹素は茶姫さんを捕まえにやってきているんだ。一刻を争う、この場から扶桑に連れて行ってあげて!」
「茶姫さん、無事だったのね!」
「ああ、孫権が骨を折ってくれてね。事情を説明してからのつもりだったけど、そうもいかなくなってきた。お願いできないだろうか越後屋……いや、古田織部殿」
「わ、分かりました!」
美しいものにしか関心のないわたしだが、いや、美しさが分かるからこそ、孫権が智謀と力技で組み立てた茶姫脱出劇の最後の一筆を美しく捌いてやらなければと思った。
「ならば、わたしも行くぞ!」
「いや、リュドミラは孫権と大橋さんに預ける。どうか舞姫としての芽を育ててやってくれ。孫堅が写真を撮りたいと思った心も本音だろうからね」
「分かってるなあ、越後屋さん、いや織部さんもぉ(^▽^)」
「劉度さんのことは任せてください!」
大橋も胸を叩いてくれる。
「しかし、わたしは織部のガードだ!」
「大丈夫、いつかリュドミラのすごい胡旋舞が見られるかと思ったら、それだけで、この身が惜しい。無事に茶姫さんを送り届けたら、戻って来るよ」
「じゃ、紙飛行機を飛ばしておくよ」
「ありがとう! じゃあ、行きましょう、茶姫さん!」
「ああ、すまない!」
キリリと礼を言うと、茶姫は三人の娘に体を向けた。
「明花、静花、陳麗、世話になった!」
「いいえ、わたしたちこそ。いま、こうして命のあるのは茶姫さまのお蔭です」
「茶姫さまに助けていただかなければ、明花姉さんともども、あの森の中で骨になっているところでした」
「陳麗、そなたにも世話になった。陳麗が着替えを持ってきてくたからこそ抜け出すことができた」
「そんな、曹素の兵隊でさえ手を出さなかった陳麗に、もったいないお言葉です」
「では、天下が落ち着いたら、また会おう!」
「「「茶姫さま!」」」
茶姫さんを伴って指南街の路地を拾って走る。追手が迫っている時は人の脚がいい。
茶姫さんと二人、旧知の友のように足並みが揃う。
言わずとも思いが揃ったのは、茶姫さんも、この織部も戦国を生きる武人という属性が強いからだろう。
指南街を北に抜けたところで、頭の上を航空迷彩柄の紙飛行機が追い越していった。
紙飛行機は白しかないはず……どうやら、紙飛行機まで窯変してしまったらしい。
☆彡 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生
古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵 孤高の剣聖
二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
今川 義元 学院生徒会長
坂本 乙女 学園生徒会長
曹茶姫 魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
100『指南街 窯変』織部
焼き物が窯の中の火の具合や灰の被り方で、思わぬ景色に変わることを窯変(ようへん)という。
備前焼や信楽焼など、釉薬を用いない酸化焔焼成が有名だが、信長の窯変天目茶碗のように釉薬を用いたものでも窯変を起こす。
万に一つほどは、茶碗の中に宇宙を見る如き深さを感じさせるものがあって、信長のコレクションの中にも震えが出るほどの名品があった。数ある信長のコレクションのどれであったかは言わない。言ってしまえば、この織部の目にかなった器として名が出てしまう。名が出てしまえば、次に転生した時に人の手に渡るか、知ってしまった信長が手放さなくなるだろうからな。
その窯変に似ている。劉度(リュドミラ)の胡旋舞がだ。
元々は、故郷のウクライナで、流浪の楽団や村人に教わった見様見真似の自己流であったらしい。容姿にコンプレックスのある劉度は、村の祭りで人並みに踊れれば人が振り向いてくれるかと、なかば自己流。
劉度に人の半分も愛嬌があれば、名うての踊り子として幸せな人生が送れたかもしれない。
じっさい、指南街の古屋敷の庭や跡地で踊らせてみると、窯変と言っていいほどのパフォーマンスを見せてくれる。
プロポーションもルックスも悪くない、ただただ愛想が無いという一点で、この隠れ美少女は損をしてきたのだ。
それに、劉度には、度外れたスナイパーの才能もあった。人も国も、そのスナイパーの才能しか見てこなかった。
惜しい、こんなことなら、ガードなど宮本武蔵にやらせるんだった。
いや、こうやって三国志に連れてきたからこその窯変。
そのジレンマに爪を噛みながら撮影を見ていると、ひとりの女が塀の破れから飛び込んできた。
「陳麗、撮影中よ!」
明花がたしなめると、手をワイパーのように振りながらまくし立てた。
「曹素の部隊が酉盃までやってきた! そのうち、この指南街にもやってくるよ!」
根は明るい性格のようだが、迫った危機に頬が引きつって神経質の三文字を擬人化したような様子だ。
「くそ、みんな、ここまでだ!」
手慣れた手つきでカメラを仕舞うと、孫権は助手の女をわたしの前に突き出した。
「越後屋さん、この人を扶桑に避難させて!」
「え、この助手を?」
「帽子とメガネをとって」
え、ええ!?
目を剥いて驚いたのは大橋だ。
たしかに、帽子とメガネをとった助手は、キリリとした美人だけども……いや、この迫力は?
「曹茶姫さんです、曹素は茶姫さんを捕まえにやってきているんだ。一刻を争う、この場から扶桑に連れて行ってあげて!」
「茶姫さん、無事だったのね!」
「ああ、孫権が骨を折ってくれてね。事情を説明してからのつもりだったけど、そうもいかなくなってきた。お願いできないだろうか越後屋……いや、古田織部殿」
「わ、分かりました!」
美しいものにしか関心のないわたしだが、いや、美しさが分かるからこそ、孫権が智謀と力技で組み立てた茶姫脱出劇の最後の一筆を美しく捌いてやらなければと思った。
「ならば、わたしも行くぞ!」
「いや、リュドミラは孫権と大橋さんに預ける。どうか舞姫としての芽を育ててやってくれ。孫堅が写真を撮りたいと思った心も本音だろうからね」
「分かってるなあ、越後屋さん、いや織部さんもぉ(^▽^)」
「劉度さんのことは任せてください!」
大橋も胸を叩いてくれる。
「しかし、わたしは織部のガードだ!」
「大丈夫、いつかリュドミラのすごい胡旋舞が見られるかと思ったら、それだけで、この身が惜しい。無事に茶姫さんを送り届けたら、戻って来るよ」
「じゃ、紙飛行機を飛ばしておくよ」
「ありがとう! じゃあ、行きましょう、茶姫さん!」
「ああ、すまない!」
キリリと礼を言うと、茶姫は三人の娘に体を向けた。
「明花、静花、陳麗、世話になった!」
「いいえ、わたしたちこそ。いま、こうして命のあるのは茶姫さまのお蔭です」
「茶姫さまに助けていただかなければ、明花姉さんともども、あの森の中で骨になっているところでした」
「陳麗、そなたにも世話になった。陳麗が着替えを持ってきてくたからこそ抜け出すことができた」
「そんな、曹素の兵隊でさえ手を出さなかった陳麗に、もったいないお言葉です」
「では、天下が落ち着いたら、また会おう!」
「「「茶姫さま!」」」
茶姫さんを伴って指南街の路地を拾って走る。追手が迫っている時は人の脚がいい。
茶姫さんと二人、旧知の友のように足並みが揃う。
言わずとも思いが揃ったのは、茶姫さんも、この織部も戦国を生きる武人という属性が強いからだろう。
指南街を北に抜けたところで、頭の上を航空迷彩柄の紙飛行機が追い越していった。
紙飛行機は白しかないはず……どうやら、紙飛行機まで窯変してしまったらしい。
☆彡 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生
古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵 孤高の剣聖
二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
今川 義元 学院生徒会長
坂本 乙女 学園生徒会長
曹茶姫 魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
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