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99『指南街 滅びのロケーション』

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鳴かぬなら 信長転生記

99『指南街 滅びのロケーション』織部 




 指南街は学問の町だ。


 周の文王が、この町に賢哲を見出して以来、この町の者が王や大臣の諮問に預かることが多く、いわば王たちの指南役たちの街ということで通称であった指南街が定着してしまった。

 くたびれてはいるが、街区や町の造りは風水に則って区画、配置され、家々も学者の家らしく南庭に面したところに書院が構えられているらしい。

 しかし、三国最大の魏は学問を権力の装飾程度にしか思っておらず、領地から離れた指南街には関心が無い。

 呉の孫策は大橋のパサージュに出させているように、商業には熱心だが、学問への関心は薄い。

 蜀は小国ながら、三国の中では最も好学の機運が高い国なのだが、酉盃や指南街に至るには函谷関を通らなければならず。また、諸葛茶孔明は、三国志の中では抜きんでた学才の持ち主で、他国から教えを乞う者が来ることはあっても、孔明自身が教えを乞うことは無い。

 

 その指南街の門を潜って唖然としてしまった。



 例えて言えば空の菓子箱。

 整然とした街区は偲ばれるのだが、それは残されてもなお清潔さを保たれている街路のみ。

 過半の家々は毀たれて礎石を残すのみ。あるいは取り壊し予告の立て札のみ真新しく、人の気配の消えた空き家。

 それでも、街の清潔を維持しているのは、僅かに残った住民たちの意地、あるいは心意気と賞賛すべきものだろう。

 我が家に帰って、名代の菓子店の箱を発見し、さては到来物と喜んで蓋を開けてると空っぽで、残った紙ナプキンや個包装のセロハンがきれいに畳まれているのを見出したのに似ている。

「再開発の波が迫っているんです」

 カメラ小僧の孫権が、愛機を構えることも無く、ポツリとこぼす。

 おそらくは、指南街再開発の噂を耳にして、すでに数百、数千枚の写真を撮っているのだろう。

 滅びの象徴としては、こんなにうってつけのロケーションは無いだろう。

「でも、あの築地の向こうに……」

 あとは自分の目で確かめろと言葉を濁す。

 

 その角を曲がると、その一角だけは元のままに残っていた。



「ここを整理したら、この指南街は完全に更地になってしまう」

「それは、いつなのかなあ?」

「この月末には……あとは『指南街』の名前はそのままにショッピングモールができるんだ」

「なるほど、お買い物の力強い指南役というわけね」

 パサージュをオープンさせたばかりで脅威だろうに、珍しもの好きの女学生のように目をクルクルさせる大橋。



 馬車の音を聞きつけたのか、奥まった家から二人の娘が出てきた。



「お待ち申し上げておりました」

「準備は整っておりますので、どちらでもお好きなところで撮影なさってください」

「お世話になります。撮影の準備をしてくれていた明花さんと静花さん、この家のお嬢さんだよ」

「この度は撮影のためとは言え、十二分なお世話を頂き言葉もございません」

「ああ、もう畏まったのは無し無し(^_^;)。えと、こちらは、義姉の大橋。義姉の商売仲間の越後屋さん。モデルの劉度さん」

「孫権、決めつけなくてもいいのよ、気が向いたら、わたしだってモデルになるからね(^▽^)」

「……という訳です(^_^;)」

 アハハハハ

「では、取りあえず中でお休みください」

「書院の方をご休憩と控室にお使いください」

「うん、よろしくね」

 さっそく庭の方から直接書院に向かう。

 書院に姉妹の母親、庭には助手らしい女性が控えていて、娘以上に慇懃に頭を下げた。

 

☆彡 主な登場人物

織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
平手 美姫       信長のクラス担任
武田 信玄       同級生
上杉 謙信       同級生
古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵       孤高の剣聖
二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
今川 義元       学院生徒会長
坂本 乙女       学園生徒会長
曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟

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