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96『豊盃羽沙壽(ほうはいぱさじゅ)』
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鳴かぬなら 信長転生記
96『豊盃羽沙壽(ほうはいぱさじゅ)』織部
これはパサージュだ!
大橋(だいきょう)に「情報量と物量では豊盃ね」と誘われて豊盃に来ている。
三国志の三都と言えば、魏の洛陽、呉の建業(南京)、蜀の成都だが、豊盃の賑わいはその上をいく勢いだ。
三国志北辺の主邑で、古くから西域や扶桑との交易で栄えていた商業都市だ。街の運営は商人たちの代表が担っており、封建諸侯が君臨することもないので、自由闊達な空気が漲っている。
堺のように――大名であっても護衛以上の家来を連れてはいけない――という不文律があり、三国は、街の空気を尊重し、兵たちが狼藉を働くことを戒めている。
信長が妹の市と共に偵察に入ったころ、魏の曹素が慣例を破って大部隊で入城してきたことがある。輜重という輸送部隊ではあったが、物々しく装備を見せびらかしての行進だったので、大いにヒンシュクをかった。
町の中心を豊大街(ほうたいが)という。
広場を中心に東西南北に大路が伸びて、その大路の両側に大小の酒店・飯店・公司・劇場などが並んでいる。
大橋がその南大路に面して建つ四階建ての豊盃楼(豊盃ビル)を買い取って、ケーキを切るようにビルの中央を切り取り、切り取ったところにガラス屋根を付けてパサージュにしたのだ。
パサージュは商店街に近いものだが、建物の中にある点が商店街とは異なる。
南北の入り口には『豊盃羽沙壽(ほうはいぱさじゅ)』と当て字のデコレーション。
「いきなりフランス語で書いても分かってもらえないですからね」
とにこやかに先導してくれる大橋。ガラス張りの屋根からは細工ガラスや色ガラスを透過した柔らかい光が差し込んでいる。
「とってもオシャレですね……店の数も多いようですが、全部、大橋さまのお店なのですか?」
「いいえ、テナント。わたしのお店は……ほら、あそこ」
パサージュの中央部分は、さらに高い吹き抜けになっている。東西の小路にも入り口があって、この中央部分でクロスして他よりもガラス屋根が高く、ちょっとした広場になっている。行き届いたことに舞台が設えられている。
大橋の店は、その広場に面した角店だ。他の三つの角店は本屋と飲茶店と喫茶店、繁盛しそうな場所だ。
『グランポット アンティケール』
大橋骨董店を意味するフランス文字の看板が出ている。
「「「お早うございます、大橋さま」」」
飾りつけや陳列をやっていたスタッフが手を停めて挨拶する。わたしも、リュドミラの頭を押えながら挨拶。
「こちら、お仕事のパートナーの越後屋さんと、劉度さん」
劉度はリュドミラの略なんだろうが、わたしは越後屋かぁ(^_^;)。
「「「よろしくお願いします!」」」
「こちらこそ、ほら、劉度も」
「よろしく」
「いろいろチェックしてるので、どうぞ自由に見てくださいな」
「お言葉に甘えて……」
ざっと店内を見渡し、ゆっくりと商品を見る。
まだ半分近くが荷ほどきされていない様子だけど、梱包の仕方や荷主の名前から想像がつく。
骨董ばかりではなく、レトロ調の小間物なども充実していて、ダテに角店を構えたのではないことが窺える。
同種の店舗に比べて、少々値の張るものが多いが品物は確かだ。
パサージュの造りも、お洒落であか抜けている。スタッフも、チーフの女性は屋敷で見かけた小女の一人。このパサージュでは本気で商売をやるつもりのようだ。
しかし、手堅く商売をやるということは、あまり冒険的な商品にはお目にかかれないのかもしれない。
「そういうことは、皆虎の市でやります。骨董のいいものは、なかなか表のルートからは入ってきませんからね」
未開封の伝票を見ていると、後ろから大橋さんが注釈をつける。
「ここではお金儲けと情報集め、それから……」
「それから?」
「フフ、内緒です」
いたずら好きの少女のように、鼻にしわを寄せて奥の事務所に入って行った。
さて、もう少しパサージュの中を歩いてみようか。
店の外に出るとリュドミラが、難しい顔でパサージュの天井を見つめている。
「始末したい奴がいたら、ここに連れてくるといい。狙撃するにはもってこいの構造だぞ……」
難しい顔をほぐしてわたしの顔を見る。
ちょっと、怖い……
☆彡 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹(三国志ではシイ)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生
古田 織部 茶華道部の眼鏡っこ
宮本 武蔵 孤高の剣聖
二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ
今川 義元 学院生徒会長
坂本 乙女 学園生徒会長
曹茶姫 魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
96『豊盃羽沙壽(ほうはいぱさじゅ)』織部
これはパサージュだ!
大橋(だいきょう)に「情報量と物量では豊盃ね」と誘われて豊盃に来ている。
三国志の三都と言えば、魏の洛陽、呉の建業(南京)、蜀の成都だが、豊盃の賑わいはその上をいく勢いだ。
三国志北辺の主邑で、古くから西域や扶桑との交易で栄えていた商業都市だ。街の運営は商人たちの代表が担っており、封建諸侯が君臨することもないので、自由闊達な空気が漲っている。
堺のように――大名であっても護衛以上の家来を連れてはいけない――という不文律があり、三国は、街の空気を尊重し、兵たちが狼藉を働くことを戒めている。
信長が妹の市と共に偵察に入ったころ、魏の曹素が慣例を破って大部隊で入城してきたことがある。輜重という輸送部隊ではあったが、物々しく装備を見せびらかしての行進だったので、大いにヒンシュクをかった。
町の中心を豊大街(ほうたいが)という。
広場を中心に東西南北に大路が伸びて、その大路の両側に大小の酒店・飯店・公司・劇場などが並んでいる。
大橋がその南大路に面して建つ四階建ての豊盃楼(豊盃ビル)を買い取って、ケーキを切るようにビルの中央を切り取り、切り取ったところにガラス屋根を付けてパサージュにしたのだ。
パサージュは商店街に近いものだが、建物の中にある点が商店街とは異なる。
南北の入り口には『豊盃羽沙壽(ほうはいぱさじゅ)』と当て字のデコレーション。
「いきなりフランス語で書いても分かってもらえないですからね」
とにこやかに先導してくれる大橋。ガラス張りの屋根からは細工ガラスや色ガラスを透過した柔らかい光が差し込んでいる。
「とってもオシャレですね……店の数も多いようですが、全部、大橋さまのお店なのですか?」
「いいえ、テナント。わたしのお店は……ほら、あそこ」
パサージュの中央部分は、さらに高い吹き抜けになっている。東西の小路にも入り口があって、この中央部分でクロスして他よりもガラス屋根が高く、ちょっとした広場になっている。行き届いたことに舞台が設えられている。
大橋の店は、その広場に面した角店だ。他の三つの角店は本屋と飲茶店と喫茶店、繁盛しそうな場所だ。
『グランポット アンティケール』
大橋骨董店を意味するフランス文字の看板が出ている。
「「「お早うございます、大橋さま」」」
飾りつけや陳列をやっていたスタッフが手を停めて挨拶する。わたしも、リュドミラの頭を押えながら挨拶。
「こちら、お仕事のパートナーの越後屋さんと、劉度さん」
劉度はリュドミラの略なんだろうが、わたしは越後屋かぁ(^_^;)。
「「「よろしくお願いします!」」」
「こちらこそ、ほら、劉度も」
「よろしく」
「いろいろチェックしてるので、どうぞ自由に見てくださいな」
「お言葉に甘えて……」
ざっと店内を見渡し、ゆっくりと商品を見る。
まだ半分近くが荷ほどきされていない様子だけど、梱包の仕方や荷主の名前から想像がつく。
骨董ばかりではなく、レトロ調の小間物なども充実していて、ダテに角店を構えたのではないことが窺える。
同種の店舗に比べて、少々値の張るものが多いが品物は確かだ。
パサージュの造りも、お洒落であか抜けている。スタッフも、チーフの女性は屋敷で見かけた小女の一人。このパサージュでは本気で商売をやるつもりのようだ。
しかし、手堅く商売をやるということは、あまり冒険的な商品にはお目にかかれないのかもしれない。
「そういうことは、皆虎の市でやります。骨董のいいものは、なかなか表のルートからは入ってきませんからね」
未開封の伝票を見ていると、後ろから大橋さんが注釈をつける。
「ここではお金儲けと情報集め、それから……」
「それから?」
「フフ、内緒です」
いたずら好きの少女のように、鼻にしわを寄せて奥の事務所に入って行った。
さて、もう少しパサージュの中を歩いてみようか。
店の外に出るとリュドミラが、難しい顔でパサージュの天井を見つめている。
「始末したい奴がいたら、ここに連れてくるといい。狙撃するにはもってこいの構造だぞ……」
難しい顔をほぐしてわたしの顔を見る。
ちょっと、怖い……
☆彡 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹(三国志ではシイ)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生
古田 織部 茶華道部の眼鏡っこ
宮本 武蔵 孤高の剣聖
二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ
今川 義元 学院生徒会長
坂本 乙女 学園生徒会長
曹茶姫 魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
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