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79『俺たち以外の紙飛行機』
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鳴かぬなら 信長転生記
79『俺たち以外の紙飛行機』信長
天下三分の計……話だけなら眉唾だ。
しかし、天下の諸葛茶孔明ならば信じていい。
人物で判断しているんじゃない、孔明の履歴だ。孔明の行動は常に『防衛』に軸を置いている。
仕掛けてきた敵の弱点を見抜き、そこを突いて、崩れが見えてくれば策を持って、完膚なきまでに敵を打ち砕く。
『赤壁』の戦いなどがいい例だ。
曹操が、地を轟かすような大軍と、長江の水面を覆いつくすような水軍で攻めてきたからこその戦いだった。
気象・戦術・呪術の三つで味方の心を収れんし、火攻めによって連環の計を打ち砕き、曹操の本軍が崩れるとみるや、これを果敢に攻め立て追い詰めて、自害させる寸前まで持って行った。曹操の追撃を関羽ではなく張飛にやらせていれば曹操の首は取れていた。関羽の強さは比類のないものだが、情や自他の行動の美しさに酔って大局を見誤るところがある。光秀をマッチョにしたような奴だ。
光秀のことは、もっと……いや、そのことはいい。
孔明は、防戦という局面からでしか攻勢には出ない。主の劉備玄徳と同様に義を重んずる、あるいは義の体裁が整はなければ仕掛けてはこない。
その孔明が『天下三分の計』に膝を打ったのだ。当分……十年以上は扶桑(転生国)に攻めてくることはあるまい。
「シイ、このことを直ぐ、転生に伝えろ」
「うん、分かった!」
シイ(市)は、懐から飛行神社のお御籤用紙を取り出して、手短に書くと、渡殿(渡り廊下)の窓から投げた。
「いつ見ても、忠八の紙飛行機はきれいに飛ぶなあ……」
俺は、物事に正確さと効率を求めるが、その条件を満たしているのであれば、美しさを大事にする。
紙飛行機は、二度ほど風を読むように頭を振って、ちょうどよい上昇気流を掴むと、一気に空に駆け上って視界没になった。
「さて、茶姫が待っているだろ」
「うん、そろそろ出発の準備だしね」
近衛騎士の制服をビシッと決め、渡殿に吹きこむ朝の風を楽しみながら茶姫の坊に向かった。
え?
驚いた、俺たちのものではない紙飛行機が、庭の上を飛んでいる……いや、すぐに墜ちた。
「あーあ、うまくいかない」
茶妃・大橋が、可愛く口をとがらせながら、次の紙飛行機を折っている。
「コウチャン、それ……」
シイが指差すが、後の言葉が続かない。
「あ、おはよう、ニイチャン、シイチャン!」
「なにしてんの?」
「うん、ここに来て、紙の鳥が飛んでるのを見かけてね。わたしも真似してるの」
こいつ……!?
「遠目だから、よく分からなかったけど、なにか字が書いてあってさ、ひょっとしたら思う人に気持ちが伝わるんじゃないかと思って……」
「へ、へえ、楽しいことやってるのねぇ!」
「なんて書いてるんだ?」
「大したことじゃないわよ、沢山書いたら、あんな風には飛ばないだろうから『おはよう』とか『おやすみなさい』とか。こんな些細なことでも、孫策さまは喜んでくださると思うのよ」
「「…………」」
「どう、あなたたちもやってみる?」
ちょっとまずいことになってきたぞ……。
「茶姫、すぐにたとう、大橋の奴、かなりの事を知ってる!」
「なに、タメ口で。その制服着てる限りは、わたしの近衛騎兵でしょ」
「言ってられないのよ、孫策に紙飛行機まで飛ばしてるしぃ!」
「……そう……よし、大橋よりも先に建業(呉の都)に行こう!」
俺たちは、劉備玄徳への挨拶もそこそこに、成都を出発した。
☆彡 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹(三国志ではシイ)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生
古田 織部 茶華道部の眼鏡っこ
宮本 武蔵 孤高の剣聖
二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
今川 義元 学院生徒会長
坂本 乙女 学園生徒会長
曹茶姫 魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)
諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
79『俺たち以外の紙飛行機』信長
天下三分の計……話だけなら眉唾だ。
しかし、天下の諸葛茶孔明ならば信じていい。
人物で判断しているんじゃない、孔明の履歴だ。孔明の行動は常に『防衛』に軸を置いている。
仕掛けてきた敵の弱点を見抜き、そこを突いて、崩れが見えてくれば策を持って、完膚なきまでに敵を打ち砕く。
『赤壁』の戦いなどがいい例だ。
曹操が、地を轟かすような大軍と、長江の水面を覆いつくすような水軍で攻めてきたからこその戦いだった。
気象・戦術・呪術の三つで味方の心を収れんし、火攻めによって連環の計を打ち砕き、曹操の本軍が崩れるとみるや、これを果敢に攻め立て追い詰めて、自害させる寸前まで持って行った。曹操の追撃を関羽ではなく張飛にやらせていれば曹操の首は取れていた。関羽の強さは比類のないものだが、情や自他の行動の美しさに酔って大局を見誤るところがある。光秀をマッチョにしたような奴だ。
光秀のことは、もっと……いや、そのことはいい。
孔明は、防戦という局面からでしか攻勢には出ない。主の劉備玄徳と同様に義を重んずる、あるいは義の体裁が整はなければ仕掛けてはこない。
その孔明が『天下三分の計』に膝を打ったのだ。当分……十年以上は扶桑(転生国)に攻めてくることはあるまい。
「シイ、このことを直ぐ、転生に伝えろ」
「うん、分かった!」
シイ(市)は、懐から飛行神社のお御籤用紙を取り出して、手短に書くと、渡殿(渡り廊下)の窓から投げた。
「いつ見ても、忠八の紙飛行機はきれいに飛ぶなあ……」
俺は、物事に正確さと効率を求めるが、その条件を満たしているのであれば、美しさを大事にする。
紙飛行機は、二度ほど風を読むように頭を振って、ちょうどよい上昇気流を掴むと、一気に空に駆け上って視界没になった。
「さて、茶姫が待っているだろ」
「うん、そろそろ出発の準備だしね」
近衛騎士の制服をビシッと決め、渡殿に吹きこむ朝の風を楽しみながら茶姫の坊に向かった。
え?
驚いた、俺たちのものではない紙飛行機が、庭の上を飛んでいる……いや、すぐに墜ちた。
「あーあ、うまくいかない」
茶妃・大橋が、可愛く口をとがらせながら、次の紙飛行機を折っている。
「コウチャン、それ……」
シイが指差すが、後の言葉が続かない。
「あ、おはよう、ニイチャン、シイチャン!」
「なにしてんの?」
「うん、ここに来て、紙の鳥が飛んでるのを見かけてね。わたしも真似してるの」
こいつ……!?
「遠目だから、よく分からなかったけど、なにか字が書いてあってさ、ひょっとしたら思う人に気持ちが伝わるんじゃないかと思って……」
「へ、へえ、楽しいことやってるのねぇ!」
「なんて書いてるんだ?」
「大したことじゃないわよ、沢山書いたら、あんな風には飛ばないだろうから『おはよう』とか『おやすみなさい』とか。こんな些細なことでも、孫策さまは喜んでくださると思うのよ」
「「…………」」
「どう、あなたたちもやってみる?」
ちょっとまずいことになってきたぞ……。
「茶姫、すぐにたとう、大橋の奴、かなりの事を知ってる!」
「なに、タメ口で。その制服着てる限りは、わたしの近衛騎兵でしょ」
「言ってられないのよ、孫策に紙飛行機まで飛ばしてるしぃ!」
「……そう……よし、大橋よりも先に建業(呉の都)に行こう!」
俺たちは、劉備玄徳への挨拶もそこそこに、成都を出発した。
☆彡 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹(三国志ではシイ)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生
古田 織部 茶華道部の眼鏡っこ
宮本 武蔵 孤高の剣聖
二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
今川 義元 学院生徒会長
坂本 乙女 学園生徒会長
曹茶姫 魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)
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