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56『女たちを送る・1』

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鳴かぬなら 信長転生記

56『女たちを送る・1』信長  




 女に生まれてきてよかったと思うぞ。


 俺の事ではない、市のことだ。

 横を歩いていてさえ感じる殺気。

 視野の端で捉えると、一見力が抜けているように見えるが、これは、目についたものを切り殺すための準備姿勢だ。

「目に入った者は殺す」と触れているようなものだ。

 これでは数丁先の敵でも太刀を抜いて矢をつがえるぞ。

 戦国の武将が務まるキャラではない。

 信玄や謙信の顔が浮かぶ。あいつらは自己韜晦の化け物だがな……辛うじて生徒会の石田三成……いや、あいつもろくな死に方をせずに転生してきたぞ。

 思うと、憐れな妹ではある。

「シイ(市の偽名)、もう、ここらで女たちは解放しよう」

「なぜ?」

「見れば、関門は、まだ開いている様子。街に入れば、女たちも自分で戻るだろう」

「家まで送り届ける」

「え、あ……」

「わたしどもは」

 女たちも、市の危うさが分かるのだろう、うんとは言わない。

「遠慮はするな、見届けなければ、わたしも落ち着かない」

「「「は、はあ」」」

「待て、シイ」

「ん?」

 パシーーーン!!

 思い切り張り倒した。

 ヒ!

 女たちは身を縮めるが、市は数歩タタラを踏んだだけで錫杖を構えて睨み返してくる。

「何をする!」

「そんな剝き出しの殺気では、すぐに怪しまれる」

「え……あ、そうだね。ちょっと持ってて」

「は、はい」

 女たちに錫杖と太刀を預けると、市は、思いがけぬことをした。

「えいッ!」

 気合いを掛けると、その場で、きれいな倒立をする。

 器用に衣の裾を股で挟んで乱れを防いでいる。

「それでは、血が上りませんか……」

 女たちの方が気を遣う。

「勢いを付けるのよ……」

「お顔が真っ赤に……」

 セイ!

 気合いを入れて体をしならせると、見事なバク転を決めて、着地した。

 パチパチパチ

 思わず、女たちと拍手をしてしまう。

 こいつ、新体操に向いているかもと思ったぞ。

「よし、これで血を下げた。いくよ」

 確かに、人が変わったようにゆったりとした。

「……少し、ここで待て」

「え?」

 俺は返事もせずに林の向こうに回って様子を窺っていた先駆けの二等伍長をぶちのめす。

 ドゲシ! ドガ!

 悲鳴も上げさせず、軍用の通行手形を召し上げて戻って来る。

「さすがあ!」

「「「おみごと、おみごと」」」

 パチパチパチ

 市が感心し、女たちが拍手する。

 こいつら、変わり身早すぎ(-_-;)。

「おまえたち、家はどこだ?」

「はい、西の指南街のほうです」

「指南街か、学者たちの街か」

 世間知らずの学者の娘たちが、荒くれの兵どもにたぶらかされたというところか。

 さっさと送り届け、うまくいけば、ぶっそうな外邑ではなく、女たちの家で、まともな寝床にありつけるかと再び関門を潜った。



☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 

 

 
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