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80『停学課題とマサカドクン』

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はるか ワケあり転校生の7カ月

80『停学課題とマサカドクン』




「ゲ、なに、これ!」

 停学課題の袋を開けてタマゲタ。反省文の原稿用紙二十枚、これはチョロい。
 あと国、数、英、そして、社会(細川先生の教科)。量がハンパじゃなかった。まるで、夏休みの宿題並だ。社会なんか、教科書百ペ-ジを写せ……。
 自分の停学二週間論が通らなかった細川先生の意趣返し……怒っても仕方がない。
 昼ご飯も晩ご飯も抜いてとりかかった。

 お母さんがパートから帰ってきても、わたしはまだ続けていた。

「はるか、食事もしてないの……」
「うん、でも、がんばらなきゃ、三日で終わらない……」

 お母さんが、鍋焼きうどんを作ってくれた。

 夜中の十二時をまわったころ、さすがに居眠りをしてしまった。
 カーペットの上で、腹這いになってやっていたのが良くなかったのかもしれない。

 カリカリ鉛筆を滑らせる音で目が覚めた。

 ボンヤリ目のピントが合ってくる……机に向かって、課題をやっている人の姿が見えた。
 軍足の靴下にモンペ……セーラー服にお下げ、襟に太い白線と細い白線が二本。チラッと見えるリボンは赤だ。

 ……マサカドクン?

――あら、起こしてしまったわね。

「あなた、普通にしゃべれんの?」

――やっとね。

「マサカドクンて、女の子だったの?」

――まあね、こうやって姿を取り戻すのに、十二年もかかってしまったけどね。

「十二年……」

――そうよ、あなたと将門さんのところで出会って十二年。

「わたしの課題やってくれてるの?」

――わたし、やりたくても、こういうのできなかったから楽しくて。さあ、はるかちゃんは寝て。わたし夜の間しか手伝えないから。


 そこで記憶が途絶えた。


「はるか風邪ひくわよ」お母さんが半天をはおって起きてきた。

「え……え、わたし……」

「めずらしく、机に向かってやってたのね」

「わたし……」

 課題は三分の一近くできていた。そして、そこに書かれている字は、紛れもなくわたしの字だった。

「タキさんがね、停学中のプレイスポットての教えてくれたわよ」

 眠そうに目をこすりながらメモをくれた。学校の先生に見つかりそうにない映画館やゲーセン。ごていねいに各館共通の割引チケットがついていた。

 わたしは課題の山を写真に撮り、「ご厚意には感謝しますが、こういう状況ですので」とメッセをつけて送信した。

「シャレのわからん学校やのう」

 と、折り返しの返事。タキさんも宵っぱりだ。

「やったね、こういう停学は、勲章ものだよ」

 と、真由さんからもメールがきていた。タキさんが伝えたんだろう。
 タキさんてば、停学をなんだと思ってるんだろう。オッサンたちの時代とは違うんだよ。
 しかし、ありがたい激励であることは確かだった。
 由香をはじめ、他の面々からも。
 停学中の生徒とは連絡禁止なんだけど、さすがにそこまでイイ子ちゃんをやろうとは思わない、みんなもわたしも。

 目覚ましがわりに、みんなに返事を打っておいた。

「稽古は大丈夫! 山中が代役に入ってくれている。早よ戻らんと役取られるで」

 タロくん先輩のメールは心強かった。稽古のことが一番気になってたから。
 そして、またひとしきり課題の山に取り組んだ。

 朝、目が覚めると、課題は半分近くできていた。

 わたしが自分でやったのか、あれからマサカドクンがやったのか……。
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