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77『不幸が三つ重なった』

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はるか ワケあり転校生の7カ月

77『不幸が三つ重なった』



 いつの間に眠ったんだろう。

 気がついたら、ベッドに寄りかかるようにして眠っていた。
 肩に、毛布がかけてある……お母さんだ。

 わたしは、ついさっきみた夢を思い出していた。

 夢の中にカオル姿のマサカドクンが出てきた。
 グー像の前で、気を付けの姿勢でじっと前の方を見つめていた。
 まるで、これから教育勅語が奉読されるのを待っているように。
 マサカドクンは、等身大で、その映像はカメラが回るように、マサカドクンの周りを回っていた。
 よく見ると、マサカドクンのセーラー服は太い白線と、二本の細い白線。ネクタイも、カオルは白だが、彼女(?)は赤だ。
 なにか思い詰めたような顔をしている。どうしていいか分かっているのに、なにか大きなものに邪魔されて、それでもなんとかしたいというような……。

 今の女子高生はこんな表情はしない。

 と、思ったら、突然声も立てずに笑い出した。
 これって……心の底からの、本物のホンワカだ。
 今の女子高生は、この表情もしない、わたしも含めて。
 こないだ、見たときよりも、はっきりと女学生の有りようを受け取った。
 そして、最後に、彼女は拳を突き出して消えた。突然だったので表情は分からなかった。

 いったいあれは……マサカドクンて、いったい…………?

「はるか、冷めちゃうわよ!」
「あ、おでんだ」
 わたしは、食卓に着いてボンヤリとしていた。
「大阪に来て、最初のおでんだよ」
 おでんは、お母さんお得意の手抜き料理。なんせ、最初作っておけば具を足すだけで、何日も食べられる。
ま、いいけど。でも、大好きな竹輪麩(ちくわぶ)が無かった。
 久々に東西文化の違いを思い知った。


 八時過ぎには学校に着いた。

 グー像の前で立っていると、竹内先生がやってきた。

「なんや、だれかと待ち合わせか?」
「はい、ちょっと」
「ちょっと、顔が怖いで」
「ですか」
「まあ、アメチャンでも食べえや」

 わたしはもらったアメチャンを握ったまま待った。
 それから五分して、ヤツは現れた。予想はしていたが由香が横にくっついている。

「先輩とだけ話がしたいんだけど」
 そう言うと、由香は二三歩後ずさった。
「いったい、なんだよ。怖い顔して」
「これ」
 例のA4の封筒を差し出した。
「あ、きたのか! いやあ、まさかとは思ったんだけどな」
「他の人には見せない人だって言ったじゃない!」
「伯父さん、リタイアした人だけど、元は名プロディユーサー。はるかがプロの目から見てどう映るのか、それが知りたっくってサ」
「約束を破った!」
「そう怒るなよ。オレ、はるかの魅力はプロで通用するって思ったんだ。はるかは、こんな演劇部でたそがれてるやつじゃないって。でも、プロの世界はキビシイからさ。おれ自分の目の確かさも試したかったんだ。あんまし自信はなかったけど、オレにとっても、はるかにとっても、いい結果が出たじゃないか」
――こいつ、なんにも分かってない……怒りでうつむいてしまった。
「でも、よかったよ。はるかが認められて。白羽さんて、日本で五本の指には入るプロデューサーだからさ、それが、こんなに早くリアクション起こしてくれたんだから、やっぱり本物だよ、はるかは!」

 プツって音がして、わたしは切れてしまった。

 不幸が三つ重なった。

 まずタマちゃん先輩が側にいなかったこと。いたらルリちゃんの時のように止めてもらえただろう。
 次に、アメチャンを握っていたこと。アメチャンを握っていなければ平手ですんだだろう。
 もう一つは、わたしが手を挙げたとき、そこに由香の顔があったこと。

 気がついたら、生活指導の部屋にいた。

 由香は、わたしの手が出そうになって、間に入った瞬間だったらしい。
 わたしの横で、くちびるを切って、ホッペを腫らして座っていた。
 わたしは、正直に全てを話した。一方的暴力である。
 吉川先輩は「自分が余計なことをしたからだ」と弁護してくれた。

 慌てたのは、乙女先生と竹内先生。
 暴力行為は最低でも一週間の停学だ。

 どうしよう、コンクールに出られなくなってしまう……。

 足許から、後悔が這いのぼってきた。
 後悔は深まる秋の冷気に似ていた……。
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