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75『もう一つのヘビーローテーション』

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はるか ワケあり転校生の7カ月

75『もう一つのヘビーローテーション』



 再びヘビーローテーションの日々が始まった。

 歌もばっちり台詞も完ぺき。感情も自然に湧いてくるようになった。『おわかれだけど、さよならじゃない』も、新大阪での経験が生きて、カタルシスになってきた。動きのほとんども、稽古の中で出てきた感情や表情に合ったものに置き換わっていた。

 でも、大橋先生はこう言うのだ。

「スミレとカオルが似てきてしもたなあ……」
「それって、だめなんですか?」
「人間と幽霊いう差ぁはありますけど。同じ世代同士やから、同じ感じになってきてもしゃあない……いうか、ええことちゃいます?」
「いや、やっぱり違う人格やねんから、違ごてこならあかん。だいいち時代性が出てけえへん。特にカオルなあ」
「わたしですか?」
「うん、ゼイタク言うてんねんけどな。やっぱし戦時中の女学生の匂いが欲しいな」
「匂いですか……」
「うん、ちょっとした仕草、物言い、表情とかにな。ま、もういっぺんやってみよか」
「はい」

 そして、さらにヘビーローテーション。

 わたしは戦時中女学生だった女流作家のエッセーや小説なんか読んでみたりした。
 佐藤愛子さんや田辺聖子さんの本なんか参考になったけど、つい中味の面白さにひっぱられ……「アハハ」で終わってしまう。

 もうコンクールの地区予選まで一ヶ月を切っていた。
 わたしたちから希望してテスト中も時間をきって稽古させてもらった。

 そんな五里霧中の中、こんなことがあった。

 学校で一回通しの稽古を済ませて、明日はテストの最終日、わたしがもっとも苦手とする数学がある。
 ベッドにひっくり返って……以前も言ったけど、家で本を読むときは、時に他人様にお見せできない格好をしております。
 もちろん頭は戦闘態勢、苦戦中ではありますが……。
 上まぶたと下まぶたが講和条約を結びそう……。
 鉄壁の防御を破り、y=sinθどもが足許から匍匐前進で、ベッドの下からはy=sin(θ+π/2)どもが攻め上ってくる。身体は金縛りにあったように動かない。
――ウウウ……ウ……と、わたしは苦悶の形相!
 あわや、本塁を抜かれようとした、その刹那。
 一匹の小さな白い狼のようなものが現れ、寄せ来る敵をバッタバッタと打ち伏せて、敵は無数のyや、θ、π、αなどに粉みじんになって消えていった。

 その白いものは、人のカタチをしていた。

――マサカドクン……?

 東京のホテル以来じゃないよ。大阪に来て、こんなに長いこと姿を見せないことってなかったじゃないよ。

 すると、マサカドクンは少しずつ姿を変えていった。
 四頭身の身体がスリムになっていき七頭身ほどになった。
 そして、少しずつピントが合っていくようにあきらかになってきた……。
 その姿はカオルそのものだった。
 そして、何かを伝えようとしているように胸に手を当てた。

 そして、何かを受け取ったような気がした……。
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