74 / 95
74『文化祭と新カップル』
しおりを挟む
はるか ワケあり転校生の7カ月
74『文化祭と新カップル』
文化祭がやってきた。
出し物について一悶着あった。
乙女先生は、リハを兼ねて『すみれ』を演ろうという。
大橋先生は、文化祭で本格的な芝居をやっても観てくれる者などいなく。雑然とした空気の中で演っても勘が狂うだけだし、演劇部はカタイと思われるだけと反対。
「文化祭というのんは文字通り『祭り』やねんさかい、短時間でエンタティメントなものを演ろ」
と、アドバイスってか、決めちゃった。
わたしは、どっちかっていうと乙女先生に賛成だった。部活って神聖で、グレードの高いものだと思っていたから。
出し物は、基礎練でやったことを組み直して、ショートコント。そしてAKB48の物まね。
こんなもの一日でマスター……できなかった。
コントは、間の取り方や、デフォルメの仕方。意外に難しい。
物まねの方は、大橋先生が知り合いのプロダクションからコスを借りてきたんで、その点では盛り上がっ た。ただ、タロくん先輩のは補正が必要だったけど。
振り付けはすぐにマスターできた。しかし先生のダメは厳しかった。
「もっとハジケなあかん、笑顔が作りもんや、いまだに歯痛堪えてるような顔になっとる」
パソコンを使って、本物と物まねを比較された。
一目瞭然。わたしたちのは、宴会芸の域にも達していなかった。
当日の開会式は体育館に生徒全員が集まって行われた。
校長先生の硬っくるしく長ったらしいい訓話の後、実行委員でもあり、生徒会長でもある吉川先輩の、これも硬っくるしい挨拶……。
と思っていたら、短い挨拶の後、やにわに制服を脱ぎだした。同時に割り幕が開くと、軽音の諸君がスタンバイしていた。
ホリゾントを七色に染め、ピンスポが先輩にシュート。
先輩のイデタチは、ブラウンのTシャツの上にラフな白のジャケット。袖を七部までまくり、手にはキラキラとアルトサックス。
軽音のイントロでリズムを作りながら、「カリフォルニア シャワー」
わたしでも知っている、ナベサダの名曲(って、慶沢園の後で覚えたんだけど)
みんな魅せられて、スタンディングオベーション!
でも、わたしには違和感があった。
――まるで自分のコンサートじゃないよ、軽音がかすんじゃってる。
会議室で、簡単なリハをやったあと、昼一番の出までヒマになった。
中庭で、三年生の模擬店で買ったタコ焼きをホロホロさせていると、由香と吉川先輩のカップルがやってきた。
「おう、はるか、なかなかタコ焼きの食い方もサマになってきたじゃんか」
「先輩こそ、サックスすごかったじゃないですか。まるで先輩のコンサートみたいでしたよ」
「そうやろ、こないだのコンサートよりずっとよかったもん!」
綿アメを口のはしっこにくっつけたまま、由香が賞賛した。もう皮肉も通じない。
「なにか、一言ありげだな」
さすがに先輩はひっかかったようだ。
「あれじゃ、まるで軽音が、バックバンドみたいじゃないですか」
「でも、あいつらも喜んでたし、こういうイベントは(つかみ)が大事」
「そうそう、大橋先生もそない言うてたやないの。はい先輩」
由香は綿アメの芯の割り箸を捨てに行った。
「わたし、やっぱ、しっくりこない……」
「まあ、そういう論争になりそうな話はよそうよ」
「ですね」
「こないだの、新大阪の写真、なかなかよかったじゃん」
「え、なんで先輩が?」
「あたしが送ってん……あかんかった」
由香が、スキップしながらもどってきた。
「そんなことないけど、ちょっとびっくり」
由香にだけは、あの写真送っていた。しかしまさか、人に、よりにもよって吉川先輩に送るとは思ってなかった。でもここで言い立ててもしかたがない。今日はハレの文化祭だ。
「あれ、人に送ってもいいか?」
「それはカンベンしてください」
「悪い相手じゃないんだ。たった一人だけだし、その人は、ほかには絶対流用なんかしないから」
「でも、困ります」
「でも、もう送っちゃった(^_^;)」
「え……?」
「アハハハ……」
と、お気楽に笑うカップルでありました。
74『文化祭と新カップル』
文化祭がやってきた。
出し物について一悶着あった。
乙女先生は、リハを兼ねて『すみれ』を演ろうという。
大橋先生は、文化祭で本格的な芝居をやっても観てくれる者などいなく。雑然とした空気の中で演っても勘が狂うだけだし、演劇部はカタイと思われるだけと反対。
「文化祭というのんは文字通り『祭り』やねんさかい、短時間でエンタティメントなものを演ろ」
と、アドバイスってか、決めちゃった。
わたしは、どっちかっていうと乙女先生に賛成だった。部活って神聖で、グレードの高いものだと思っていたから。
出し物は、基礎練でやったことを組み直して、ショートコント。そしてAKB48の物まね。
こんなもの一日でマスター……できなかった。
コントは、間の取り方や、デフォルメの仕方。意外に難しい。
物まねの方は、大橋先生が知り合いのプロダクションからコスを借りてきたんで、その点では盛り上がっ た。ただ、タロくん先輩のは補正が必要だったけど。
振り付けはすぐにマスターできた。しかし先生のダメは厳しかった。
「もっとハジケなあかん、笑顔が作りもんや、いまだに歯痛堪えてるような顔になっとる」
パソコンを使って、本物と物まねを比較された。
一目瞭然。わたしたちのは、宴会芸の域にも達していなかった。
当日の開会式は体育館に生徒全員が集まって行われた。
校長先生の硬っくるしく長ったらしいい訓話の後、実行委員でもあり、生徒会長でもある吉川先輩の、これも硬っくるしい挨拶……。
と思っていたら、短い挨拶の後、やにわに制服を脱ぎだした。同時に割り幕が開くと、軽音の諸君がスタンバイしていた。
ホリゾントを七色に染め、ピンスポが先輩にシュート。
先輩のイデタチは、ブラウンのTシャツの上にラフな白のジャケット。袖を七部までまくり、手にはキラキラとアルトサックス。
軽音のイントロでリズムを作りながら、「カリフォルニア シャワー」
わたしでも知っている、ナベサダの名曲(って、慶沢園の後で覚えたんだけど)
みんな魅せられて、スタンディングオベーション!
でも、わたしには違和感があった。
――まるで自分のコンサートじゃないよ、軽音がかすんじゃってる。
会議室で、簡単なリハをやったあと、昼一番の出までヒマになった。
中庭で、三年生の模擬店で買ったタコ焼きをホロホロさせていると、由香と吉川先輩のカップルがやってきた。
「おう、はるか、なかなかタコ焼きの食い方もサマになってきたじゃんか」
「先輩こそ、サックスすごかったじゃないですか。まるで先輩のコンサートみたいでしたよ」
「そうやろ、こないだのコンサートよりずっとよかったもん!」
綿アメを口のはしっこにくっつけたまま、由香が賞賛した。もう皮肉も通じない。
「なにか、一言ありげだな」
さすがに先輩はひっかかったようだ。
「あれじゃ、まるで軽音が、バックバンドみたいじゃないですか」
「でも、あいつらも喜んでたし、こういうイベントは(つかみ)が大事」
「そうそう、大橋先生もそない言うてたやないの。はい先輩」
由香は綿アメの芯の割り箸を捨てに行った。
「わたし、やっぱ、しっくりこない……」
「まあ、そういう論争になりそうな話はよそうよ」
「ですね」
「こないだの、新大阪の写真、なかなかよかったじゃん」
「え、なんで先輩が?」
「あたしが送ってん……あかんかった」
由香が、スキップしながらもどってきた。
「そんなことないけど、ちょっとびっくり」
由香にだけは、あの写真送っていた。しかしまさか、人に、よりにもよって吉川先輩に送るとは思ってなかった。でもここで言い立ててもしかたがない。今日はハレの文化祭だ。
「あれ、人に送ってもいいか?」
「それはカンベンしてください」
「悪い相手じゃないんだ。たった一人だけだし、その人は、ほかには絶対流用なんかしないから」
「でも、困ります」
「でも、もう送っちゃった(^_^;)」
「え……?」
「アハハハ……」
と、お気楽に笑うカップルでありました。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる