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74『文化祭と新カップル』
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はるか ワケあり転校生の7カ月
74『文化祭と新カップル』
文化祭がやってきた。
出し物について一悶着あった。
乙女先生は、リハを兼ねて『すみれ』を演ろうという。
大橋先生は、文化祭で本格的な芝居をやっても観てくれる者などいなく。雑然とした空気の中で演っても勘が狂うだけだし、演劇部はカタイと思われるだけと反対。
「文化祭というのんは文字通り『祭り』やねんさかい、短時間でエンタティメントなものを演ろ」
と、アドバイスってか、決めちゃった。
わたしは、どっちかっていうと乙女先生に賛成だった。部活って神聖で、グレードの高いものだと思っていたから。
出し物は、基礎練でやったことを組み直して、ショートコント。そしてAKB48の物まね。
こんなもの一日でマスター……できなかった。
コントは、間の取り方や、デフォルメの仕方。意外に難しい。
物まねの方は、大橋先生が知り合いのプロダクションからコスを借りてきたんで、その点では盛り上がっ た。ただ、タロくん先輩のは補正が必要だったけど。
振り付けはすぐにマスターできた。しかし先生のダメは厳しかった。
「もっとハジケなあかん、笑顔が作りもんや、いまだに歯痛堪えてるような顔になっとる」
パソコンを使って、本物と物まねを比較された。
一目瞭然。わたしたちのは、宴会芸の域にも達していなかった。
当日の開会式は体育館に生徒全員が集まって行われた。
校長先生の硬っくるしく長ったらしいい訓話の後、実行委員でもあり、生徒会長でもある吉川先輩の、これも硬っくるしい挨拶……。
と思っていたら、短い挨拶の後、やにわに制服を脱ぎだした。同時に割り幕が開くと、軽音の諸君がスタンバイしていた。
ホリゾントを七色に染め、ピンスポが先輩にシュート。
先輩のイデタチは、ブラウンのTシャツの上にラフな白のジャケット。袖を七部までまくり、手にはキラキラとアルトサックス。
軽音のイントロでリズムを作りながら、「カリフォルニア シャワー」
わたしでも知っている、ナベサダの名曲(って、慶沢園の後で覚えたんだけど)
みんな魅せられて、スタンディングオベーション!
でも、わたしには違和感があった。
――まるで自分のコンサートじゃないよ、軽音がかすんじゃってる。
会議室で、簡単なリハをやったあと、昼一番の出までヒマになった。
中庭で、三年生の模擬店で買ったタコ焼きをホロホロさせていると、由香と吉川先輩のカップルがやってきた。
「おう、はるか、なかなかタコ焼きの食い方もサマになってきたじゃんか」
「先輩こそ、サックスすごかったじゃないですか。まるで先輩のコンサートみたいでしたよ」
「そうやろ、こないだのコンサートよりずっとよかったもん!」
綿アメを口のはしっこにくっつけたまま、由香が賞賛した。もう皮肉も通じない。
「なにか、一言ありげだな」
さすがに先輩はひっかかったようだ。
「あれじゃ、まるで軽音が、バックバンドみたいじゃないですか」
「でも、あいつらも喜んでたし、こういうイベントは(つかみ)が大事」
「そうそう、大橋先生もそない言うてたやないの。はい先輩」
由香は綿アメの芯の割り箸を捨てに行った。
「わたし、やっぱ、しっくりこない……」
「まあ、そういう論争になりそうな話はよそうよ」
「ですね」
「こないだの、新大阪の写真、なかなかよかったじゃん」
「え、なんで先輩が?」
「あたしが送ってん……あかんかった」
由香が、スキップしながらもどってきた。
「そんなことないけど、ちょっとびっくり」
由香にだけは、あの写真送っていた。しかしまさか、人に、よりにもよって吉川先輩に送るとは思ってなかった。でもここで言い立ててもしかたがない。今日はハレの文化祭だ。
「あれ、人に送ってもいいか?」
「それはカンベンしてください」
「悪い相手じゃないんだ。たった一人だけだし、その人は、ほかには絶対流用なんかしないから」
「でも、困ります」
「でも、もう送っちゃった(^_^;)」
「え……?」
「アハハハ……」
と、お気楽に笑うカップルでありました。
74『文化祭と新カップル』
文化祭がやってきた。
出し物について一悶着あった。
乙女先生は、リハを兼ねて『すみれ』を演ろうという。
大橋先生は、文化祭で本格的な芝居をやっても観てくれる者などいなく。雑然とした空気の中で演っても勘が狂うだけだし、演劇部はカタイと思われるだけと反対。
「文化祭というのんは文字通り『祭り』やねんさかい、短時間でエンタティメントなものを演ろ」
と、アドバイスってか、決めちゃった。
わたしは、どっちかっていうと乙女先生に賛成だった。部活って神聖で、グレードの高いものだと思っていたから。
出し物は、基礎練でやったことを組み直して、ショートコント。そしてAKB48の物まね。
こんなもの一日でマスター……できなかった。
コントは、間の取り方や、デフォルメの仕方。意外に難しい。
物まねの方は、大橋先生が知り合いのプロダクションからコスを借りてきたんで、その点では盛り上がっ た。ただ、タロくん先輩のは補正が必要だったけど。
振り付けはすぐにマスターできた。しかし先生のダメは厳しかった。
「もっとハジケなあかん、笑顔が作りもんや、いまだに歯痛堪えてるような顔になっとる」
パソコンを使って、本物と物まねを比較された。
一目瞭然。わたしたちのは、宴会芸の域にも達していなかった。
当日の開会式は体育館に生徒全員が集まって行われた。
校長先生の硬っくるしく長ったらしいい訓話の後、実行委員でもあり、生徒会長でもある吉川先輩の、これも硬っくるしい挨拶……。
と思っていたら、短い挨拶の後、やにわに制服を脱ぎだした。同時に割り幕が開くと、軽音の諸君がスタンバイしていた。
ホリゾントを七色に染め、ピンスポが先輩にシュート。
先輩のイデタチは、ブラウンのTシャツの上にラフな白のジャケット。袖を七部までまくり、手にはキラキラとアルトサックス。
軽音のイントロでリズムを作りながら、「カリフォルニア シャワー」
わたしでも知っている、ナベサダの名曲(って、慶沢園の後で覚えたんだけど)
みんな魅せられて、スタンディングオベーション!
でも、わたしには違和感があった。
――まるで自分のコンサートじゃないよ、軽音がかすんじゃってる。
会議室で、簡単なリハをやったあと、昼一番の出までヒマになった。
中庭で、三年生の模擬店で買ったタコ焼きをホロホロさせていると、由香と吉川先輩のカップルがやってきた。
「おう、はるか、なかなかタコ焼きの食い方もサマになってきたじゃんか」
「先輩こそ、サックスすごかったじゃないですか。まるで先輩のコンサートみたいでしたよ」
「そうやろ、こないだのコンサートよりずっとよかったもん!」
綿アメを口のはしっこにくっつけたまま、由香が賞賛した。もう皮肉も通じない。
「なにか、一言ありげだな」
さすがに先輩はひっかかったようだ。
「あれじゃ、まるで軽音が、バックバンドみたいじゃないですか」
「でも、あいつらも喜んでたし、こういうイベントは(つかみ)が大事」
「そうそう、大橋先生もそない言うてたやないの。はい先輩」
由香は綿アメの芯の割り箸を捨てに行った。
「わたし、やっぱ、しっくりこない……」
「まあ、そういう論争になりそうな話はよそうよ」
「ですね」
「こないだの、新大阪の写真、なかなかよかったじゃん」
「え、なんで先輩が?」
「あたしが送ってん……あかんかった」
由香が、スキップしながらもどってきた。
「そんなことないけど、ちょっとびっくり」
由香にだけは、あの写真送っていた。しかしまさか、人に、よりにもよって吉川先輩に送るとは思ってなかった。でもここで言い立ててもしかたがない。今日はハレの文化祭だ。
「あれ、人に送ってもいいか?」
「それはカンベンしてください」
「悪い相手じゃないんだ。たった一人だけだし、その人は、ほかには絶対流用なんかしないから」
「でも、困ります」
「でも、もう送っちゃった(^_^;)」
「え……?」
「アハハハ……」
と、お気楽に笑うカップルでありました。
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