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72『ヘビーローテーションにも慣れてきて』
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はるか ワケあり転校生の7カ月
72『ヘビーローテーションにも慣れてきて』
「わあ、メッチャかわいい!」
その一言で、モニターの三分の二は由香が引き受けてくれた。
「……いけてるかなァ」
意外にも、タキさんがその気になった。
東京に行ったときに借りたお金を、お母さんから借金して返しに行ったとき、半分怒られるかなあと思いながら、黒地に紙ヒコーキのチェック柄のシュシュを渡してみた。
常連さんで、近所のラジオ局のオネエサンが「いいよタキさん!」と言ってくれたからだけど。
でも、このときに瓢箪から駒。
「ねえ、首のバンダナと揃えたら、ええかもよ!」
と、ラジオ局のオネエサン。
「バンダナとのセットなあイケルかもなあ……イテテ」
お父さんは、三週目の三分の一部分荷重歩行練習(ま、松葉杖です)に入っていた。
タキさんのシュシュのポニーテールの写メは、由香やタマちゃん先輩のそれといっしょに東京に転送され、NOTIONSのホームページに載せられ、世界中にばらまかれ、この物語が終わるころには、ポニーテールの志忠屋で名前が通り、テレビの取材がくるほどになった。もちろんシュシュとバンダナのセットでね。
お父さんのヘビーローテーションにも慣れてきた。
最初はトイレの介助なんか、父娘共に抵抗があったけど、三週目に入って、トイレもお父さん一人でできるようになり、大助かりなような、寂しいような。この日は洗濯物が溜まっていたので部活は休んだ。
「はるかといっしょに、こんな長時間いたの初めてだな」
「うん、こんなにおしゃべりしたのも」
「叱れっぱなしだったけどな」
「文句言われっぱなしだったけどね」
暮れなずむ病院の屋上は、もう秋を感じさせる。今年の秋は早そうだ。
三週間前、わたしはここで、開いた心の傷を持てあましていた。
寄り添うお母さんの顔をまともに見ることもできなかった。
今は、静かでしみじみとしている。
なんだろう、この穏やかさは……。
三週間前は、半分強がりで、
『おわかれだけど、さよならじゃない』ってフレーズ気に入ってるって言った。
今は、ほとんど素直にそう思える。
「はるか、お母さんに似てきたな」
「ゲ……」
「ハハハ、その『ゲ……』ってのもいっしょだ。あいつは受け流すのがうまい」
「陰じゃ、泣いてたんだよ」
「知ってるよ、それくらい。でも最後は受け流すんだ。倒産したときも……今度のことも。女の強さかな。男はダメだ」
「どうして?」
気の早いなんかの葉っぱが、ソヨソヨと落ちてきた。
「男は、受け流せない。力をこめて受け止める……そして枯れ葉のように心に積み重ねてしまうんだ」
「わたし受け流せなかったよ……だから、あんなタクラミ」
「そりゃあ、まだ子どもだもの。いや、子どもだった。この三週間で、はるかははるかに強くなった」
「プ……おやじギャグ」
「揚げ足とんなよ。たまたまだよ、たまたま」
「そっか、たまたまなんだよね。人生も、たまたまが積み重なって変わっていくんだね」
気の早い落ち葉を指でクルリと回した。
「あれだよな、目玉オヤジ大明神は」
「ちがうよ。目玉オヤジ大権現」
「ん、どこが違うんだ?」
「ちがうったら、ちがうの……」
お父さんが目をパチクリさせた。
72『ヘビーローテーションにも慣れてきて』
「わあ、メッチャかわいい!」
その一言で、モニターの三分の二は由香が引き受けてくれた。
「……いけてるかなァ」
意外にも、タキさんがその気になった。
東京に行ったときに借りたお金を、お母さんから借金して返しに行ったとき、半分怒られるかなあと思いながら、黒地に紙ヒコーキのチェック柄のシュシュを渡してみた。
常連さんで、近所のラジオ局のオネエサンが「いいよタキさん!」と言ってくれたからだけど。
でも、このときに瓢箪から駒。
「ねえ、首のバンダナと揃えたら、ええかもよ!」
と、ラジオ局のオネエサン。
「バンダナとのセットなあイケルかもなあ……イテテ」
お父さんは、三週目の三分の一部分荷重歩行練習(ま、松葉杖です)に入っていた。
タキさんのシュシュのポニーテールの写メは、由香やタマちゃん先輩のそれといっしょに東京に転送され、NOTIONSのホームページに載せられ、世界中にばらまかれ、この物語が終わるころには、ポニーテールの志忠屋で名前が通り、テレビの取材がくるほどになった。もちろんシュシュとバンダナのセットでね。
お父さんのヘビーローテーションにも慣れてきた。
最初はトイレの介助なんか、父娘共に抵抗があったけど、三週目に入って、トイレもお父さん一人でできるようになり、大助かりなような、寂しいような。この日は洗濯物が溜まっていたので部活は休んだ。
「はるかといっしょに、こんな長時間いたの初めてだな」
「うん、こんなにおしゃべりしたのも」
「叱れっぱなしだったけどな」
「文句言われっぱなしだったけどね」
暮れなずむ病院の屋上は、もう秋を感じさせる。今年の秋は早そうだ。
三週間前、わたしはここで、開いた心の傷を持てあましていた。
寄り添うお母さんの顔をまともに見ることもできなかった。
今は、静かでしみじみとしている。
なんだろう、この穏やかさは……。
三週間前は、半分強がりで、
『おわかれだけど、さよならじゃない』ってフレーズ気に入ってるって言った。
今は、ほとんど素直にそう思える。
「はるか、お母さんに似てきたな」
「ゲ……」
「ハハハ、その『ゲ……』ってのもいっしょだ。あいつは受け流すのがうまい」
「陰じゃ、泣いてたんだよ」
「知ってるよ、それくらい。でも最後は受け流すんだ。倒産したときも……今度のことも。女の強さかな。男はダメだ」
「どうして?」
気の早いなんかの葉っぱが、ソヨソヨと落ちてきた。
「男は、受け流せない。力をこめて受け止める……そして枯れ葉のように心に積み重ねてしまうんだ」
「わたし受け流せなかったよ……だから、あんなタクラミ」
「そりゃあ、まだ子どもだもの。いや、子どもだった。この三週間で、はるかははるかに強くなった」
「プ……おやじギャグ」
「揚げ足とんなよ。たまたまだよ、たまたま」
「そっか、たまたまなんだよね。人生も、たまたまが積み重なって変わっていくんだね」
気の早い落ち葉を指でクルリと回した。
「あれだよな、目玉オヤジ大明神は」
「ちがうよ。目玉オヤジ大権現」
「ん、どこが違うんだ?」
「ちがうったら、ちがうの……」
お父さんが目をパチクリさせた。
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