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60『大丈夫か、はるか?』
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はるか ワケあり転校生の7カ月
60『大丈夫か、はるか?』
「視界没やったんだね」
東京のホンワカ顔で聞いた。
「あ、あれは、風がよかったんでな。はるかも元気に自立したようだし……お父さんが自慢できることってこれくらいだからな。オレはオレでやってるって、あんなカタチでしか示せなくってな……もっと早く連絡とりゃよかったんだけど、いろいろあってな」
……わたしは、そんなふうには受け取らなかった。家族再生へのお父さんの意思表示だと思ったんだよ……わたしって、まるでダメダメのオバカちゃん……。
「最近やっと落ち着いて、ね……」
にこやかにお父さんを見る秀美さんの目は、仕事仲間へのそれではなかった。
ぜんぜんの想定外だよ。
訳の分からない社交辞令みたいなことを言い合っているうちに、ホンワカが引きつりはじめた。
「じゃ、そろそろ時間だから」
「あら、そう」
「秀美さん、お父さんのことよろしく」
心にもないことを口走った。
「はい、まかせてちょうだい」
シゲさんや、仲鉄工のおじさんがかけてくれた声にもろくに返事もできないで図書館に戻った。
大橋先生の姿が見えない……こんなときに!
二階の児童図書のコーナーまで捜した。
念のため、一階の文化会館まで下りてみると、ちょうど先生が入ってくるのが目に入った。
「なんや、えらい早かったなあ」
「どこ行ってたんですか!」
「人多いさかいに、隣の神社 散歩してた」
「ちょっと、いっしょに来て」
「お、おい、はるか……」
先生を引っ張るようにして表通りまで出た。
運良くタクシーをつかまえられた。
「荒川の土手道、H駅の三百メートル手前のあたりまで」
それだけ言うと、わたしは無言になった。
先生も無言につき合ってくれた。
着くやいなや、わたしは転げ出すように、タクシーを降り、道ばたで、シフォンケーキをもどしてしまった。
「大丈夫か、はるか?」
「……大丈夫、ちょっと車に酔っただけ」
「真由のネーチャンの車でも酔わへんかったのに……ま、これで口ゆすぎ」
目の前にスポーツドリンクが差し出された。
土手を下りた。
先生はほどよい距離をとって付いてきてくれた。
写真と同じ景色。
青空の下に荒川、四ツ木橋と新四ツ木橋が重なって京成押上線が見える。
身体が場所を覚えていた。
そして、急にこみ上げてきた……。
「ウ、ウウ……ウワーン!!」
四五歳の子どもにもどったように、爆発的に泣いた。
「こんなの、こんなのってないよ。ないよ……ウワーン!!」
先生は、おそるおそる肩に手を置き、それから、不器用にハグしてくれた。
わたしが泣きやむまで、そっと、ずっと……。
このときの泣き方が、あとでわたしと先生の間で少し論争になった。
わたしは、かわいらしく子どものように「ウワーン」と泣いていたつもりだったけど。先生は動物のように「ウオー」と泣き叫んでいたという。
むろん、この論争は、この物語が終わってわたしが卒業するころのことではありますが……。
わたしには、このときの情緒的な記憶がない。
「このことも物理的にメモして残しときますね」
と、泣きじゃくりながら言ったら。
「今日のことはメモせんでええ、覚えとかんでもええ……」
と、先生が言ったから。
60『大丈夫か、はるか?』
「視界没やったんだね」
東京のホンワカ顔で聞いた。
「あ、あれは、風がよかったんでな。はるかも元気に自立したようだし……お父さんが自慢できることってこれくらいだからな。オレはオレでやってるって、あんなカタチでしか示せなくってな……もっと早く連絡とりゃよかったんだけど、いろいろあってな」
……わたしは、そんなふうには受け取らなかった。家族再生へのお父さんの意思表示だと思ったんだよ……わたしって、まるでダメダメのオバカちゃん……。
「最近やっと落ち着いて、ね……」
にこやかにお父さんを見る秀美さんの目は、仕事仲間へのそれではなかった。
ぜんぜんの想定外だよ。
訳の分からない社交辞令みたいなことを言い合っているうちに、ホンワカが引きつりはじめた。
「じゃ、そろそろ時間だから」
「あら、そう」
「秀美さん、お父さんのことよろしく」
心にもないことを口走った。
「はい、まかせてちょうだい」
シゲさんや、仲鉄工のおじさんがかけてくれた声にもろくに返事もできないで図書館に戻った。
大橋先生の姿が見えない……こんなときに!
二階の児童図書のコーナーまで捜した。
念のため、一階の文化会館まで下りてみると、ちょうど先生が入ってくるのが目に入った。
「なんや、えらい早かったなあ」
「どこ行ってたんですか!」
「人多いさかいに、隣の神社 散歩してた」
「ちょっと、いっしょに来て」
「お、おい、はるか……」
先生を引っ張るようにして表通りまで出た。
運良くタクシーをつかまえられた。
「荒川の土手道、H駅の三百メートル手前のあたりまで」
それだけ言うと、わたしは無言になった。
先生も無言につき合ってくれた。
着くやいなや、わたしは転げ出すように、タクシーを降り、道ばたで、シフォンケーキをもどしてしまった。
「大丈夫か、はるか?」
「……大丈夫、ちょっと車に酔っただけ」
「真由のネーチャンの車でも酔わへんかったのに……ま、これで口ゆすぎ」
目の前にスポーツドリンクが差し出された。
土手を下りた。
先生はほどよい距離をとって付いてきてくれた。
写真と同じ景色。
青空の下に荒川、四ツ木橋と新四ツ木橋が重なって京成押上線が見える。
身体が場所を覚えていた。
そして、急にこみ上げてきた……。
「ウ、ウウ……ウワーン!!」
四五歳の子どもにもどったように、爆発的に泣いた。
「こんなの、こんなのってないよ。ないよ……ウワーン!!」
先生は、おそるおそる肩に手を置き、それから、不器用にハグしてくれた。
わたしが泣きやむまで、そっと、ずっと……。
このときの泣き方が、あとでわたしと先生の間で少し論争になった。
わたしは、かわいらしく子どものように「ウワーン」と泣いていたつもりだったけど。先生は動物のように「ウオー」と泣き叫んでいたという。
むろん、この論争は、この物語が終わってわたしが卒業するころのことではありますが……。
わたしには、このときの情緒的な記憶がない。
「このことも物理的にメモして残しときますね」
と、泣きじゃくりながら言ったら。
「今日のことはメモせんでええ、覚えとかんでもええ……」
と、先生が言ったから。
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