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28『風呂上がり』
しおりを挟むはるか ワケあり転校生の7カ月
28『風呂上がり』
家に帰って、風呂上がり。
お母さん言うところの「ダルマサンガコロンダ」の練習のあと、あの憎ったらしいウィンクを思い出した。
とりあえず広辞苑をひいてみる。
「大明神と、大権現に差なんてあるのかなあ……〈様〉と〈殿〉の違いぐらいのもんじゃ……」なかった。
「明神」は、神さま一般への尊称。
「権現」は「仏・菩薩が衆生を救うために、種々の身や物を権(かり)に現すこと」とあった。
あのお地蔵さんの前でのことが思い出された。
「大権現」「置き換え」という言葉が重なった。
梅雨独特のどんよりした夜空の高安山に、そいつは静もっていた。
なにやら神さびて見えないこともない……でもね……。
「やっぱ、寝よう」
振り返ると、サッシのガラスに映っていた。ベランダの手すりに立って、目玉オヤジに手を合わせているマサカドクンが。
「勝手にしなさいよ!」
ピシャリとサッシを閉める。
「どーかしたぁ?」
間延びしたお母さんの声。それもシカトして、頭から夏布団をひき被るはるかであった。
それからの三週間は、文字通りの梅雨のような部活だった。
部員がそろわないのである。
一応オキテ通り連絡はしてくるのだけど、たいがいがメール。それも部活直前の連絡が多くなり、中旬以降は連絡無しのお休みもチラホラ出始めた。
むろん検定やら補習やらのやむを得ないお休みもあるのだけど、兼業部員がホイホイと他の部活に行ってしまう。
中には入部後、新たに漫研と生徒会の執行部に入っちゃうねねちゃんのような子もいた。
かわいいふりして、あの子、わりとやるもんだね……って、お父さんが昔、そんな歌を唄っていたっけ。
ルリちゃんは、放送部の他に軽音を兼ねていたが、演劇部を含めて、どの部活も休みがちなようだ。
そして、家庭事情もあるようで、親からは「部活をやるくらいなら、バイトでもやって家計を助けろ」とも言われている様子。
それなら、いっそ、部活を整理して、部活一つとバイトってことにすればいいのに。
もち、部活は演劇部一本にして欲しいけど。
栄恵ちゃんは梅雨空のようにドンヨリと曇りがちだ。
むろん部活に来るときは、オキテ通り「おはようございまーす!」と、高いモチベーションで、プレゼンのドアを開けて入ってくる。
稽古も熱心で、いつも何か工夫をして稽古にのぞみ、与えられたチャコという役に命を吹き込んでいた。
ただ、週に二度ほど「すみません、早引きさせてください」とうつむきながら帰っていく。部活以外で見かける栄恵ちゃんは梅雨空のようにドンヨリだ。
どうやら、自宅近くのコンビニでバイトを始めたようだ。
以上の情報は親友の聞き耳ずきん由香の情報。
由香は同じ放送部のよしみで、ねねちゃんについては生徒会室まで出向いて、生徒会長の吉川先輩とも話をしてくれた(ねねちゃんがいなかったため)
吉川先輩は、こう言ったそうだ。
「そうやったんか、オレからも一回話しとくわ。尻が落ち着かんいうのは、はた迷惑やし、本人のためにもならんさかいな。そやけど、言うとくけど、それだけ能力も高いし、意欲もある子やねんで。ただ、的が絞り切れへんねやろなあ……」
遠くを見つめるような横顔が、売り出し中のイケメン俳優向井ヒトシのようにステキだった(由香の感想)
大橋先生は器用な人で、休んだキャストの代役を一人でこなす。
タロくんの進一役を除いて女ばかりなんだけど、違和感がない。っていうか稽古のモチベーションは高くなる。表現も大きく、表情も豊かで的確。本役の子がやるよりもリアクションがしやすくなったりする。でも、さすがに、廊下を通る生徒たちは、先生の女役にクスクス笑っていく。
先生は、これだけ休みが多いのに叱るということをしない。
ただ、無届けで休んだ者には「昨日は、どないしたん……あ、そう。せやけどタロくんには言うといてな」それだけをコンニャク顔で聞く。
出席簿だけは毎回チェックして、一言二言指示をする。
乙女先生も、陰ながら見ているようで、ときには根城にしている司書室に呼び出し、カミナリを落としている。暗黙の内に二人の先生の間には役割分担ができているようだ。
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