上 下
14 / 95

14『高安山の目玉オヤジ』

しおりを挟む
はるか ワケあり転校生の7カ月

14『高安山の目玉オヤジ』


 家に帰ると、お母さんがやっとヒトガマシイ姿にもどって宅配ピザを食べていた。

「あ、娘をさんざんこき使っといて、そんなのありー!?」
「はるかの分もとってあるわよ」
「ピザは、焼きたてでなきゃおいしくないよ」
「だって、はるか遅いんだもん。わたし、夕べからなにも食べてなかったのよ」
「だってね……」
「いらないんだったら、食べちゃうぞ」
「いるいる!」

 にぎやかに母子で遅い昼食の争奪戦になった。
 わたしはピザで口のまわりをベトベトにしながら、午前中のあれこれを話した。お母さんに話すと、二倍にも三倍にも楽しくなる。それに笑っているうちに……。

「ハハハ……で、買い物のお釣りは?」

 敵は、その手には乗ってこなかった。

 仕方なく、左のポケットを探ると、例のチラシがクシャクシャになって、お釣りの封筒といっしょに出てきた。

『青春のエッセー大募集!』のキャッチコピーがチラシの上で踊っていた。というか、その下の、賞金五十万円に母子の目は釘付けになった。
「なーんだ、十八歳までか。ガキンチョ相手のA書房だもんね」
 空気の抜けた風船のようにお母さんは興味を失って、ピザのパッケージを片づけはじめた。
 わたしは、その下の、銀賞二十万円から目が離せなかった。東京の学校の学園祭でも準ミスだった。二等賞の銀賞なら手が届くかも……。

 洗濯物を取り込みながら高安山に目をやる。目玉オヤジが夕陽に照らされ神々しく見えた。
 パンパンと、小さく二礼二拍手一礼。

「南無目玉オヤジ大明神さま、われに銀賞を獲らさせたまえ」

 そんでもって……振り返ると、お母さん。

「わたしの原稿料を上げさせたまえ……」

 と、便乗していた。

 その夜は先生に言われたように、その日の出来事を物理的にメモった。そして、明くる日曜日になんとか段ボール箱を片づけ、やっと本格的に新生活が始まった。


 学校は順調だった。由香の他にも四五人の友だちができた。

「あんた」の二人称にも親密感を感じられるほどに大阪弁にも慣れた。

 イケメンのテンカス生徒会長吉川裕也は、二日に一度くらいの割りでメールをくれる。廊下とかで会ったら、短い立ち話くらはいするようになった。

 もちろん、今や親友となった鈴木由香とはしょっちゅう。

 演劇部は、最初十四五人いたのが八人にまで減ってしまった。残念ながら、その脱落組に由香も入っていた。

「うち魚屋やさかい夕方忙しいよって家のことはあたしがせなあかんねん。お姉ちゃんおるけど忙しい人やし……ごめんな。はるか」

 昼休みの中庭のベンチで、食後のフライドポテト(食堂の特製。百二十円)をホチクリ食べる手を休めて、由香がポツンと言った。

「いいよ、そんなこと。わたしだっていつまで続くか分かんないし(ほんとは、ほとんど首まで漬かりかけていたんだけど)クラブ違ったって親友は親友だよ」
「おお、わが心の友よ!」

 由香は、ジャイアンのようなことを言って抱きついてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

コミュ障引きこもりの僕が再就職したら天使のような人が集う超ホワイト企業でした

MIroku
ライト文芸
コミュ障、引きこもり、空想癖のあるニートが、親からの就職しろプレッシャーに負け、就活を始める。 就職した先は超ホワイト企業で、社長は何と誰もが知るあの人だった。 ホワイト企業で成長するサクセスストーリー

夢の国警備員~殺気が駄々洩れだけどやっぱりメルヘンがお似合い~

鏡野ゆう
ライト文芸
日本のどこかにあるテーマパークの警備スタッフを中心とした日常。 イメージ的には、あそことあそことあそことあそこを足して、4で割らない感じの何でもありなテーマパークです(笑) ※第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます♪※ カクヨムでも公開中です。

悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました

結城芙由奈 
恋愛
【何故我慢しなければならないのかしら?】 20歳の子爵家令嬢オリビエは母親の死と引き換えに生まれてきた。そのため父からは疎まれ、実の兄から憎まれている。義母からは無視され、異母妹からは馬鹿にされる日々。頼みの綱である婚約者も冷たい態度を取り、異母妹と惹かれ合っている。オリビエは少しでも受け入れてもらえるように媚を売っていたそんなある日悪女として名高い侯爵令嬢とふとしたことで知りあう。交流を深めていくうちに侯爵令嬢から諭され、自分の置かれた環境に疑問を抱くようになる。そこでオリビエは媚びるのをやめることにした。するとに周囲の環境が変化しはじめ―― ※他サイトでも投稿中

処理中です...