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4『「あんた」はしっくりこない』

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はるか ワケあり転校生の7カ月

4『「あんた」はしっくりこない』        



「なんや由香が図書室に来るやなんて、雪降るで……で、あんたは……どこの学校の子ぉ?」
「あ……」

 わたしはまだ東京の制服のまんまだ。

「あ、この子、東京から今日転校してきた、二年C組の、坂東はるか……」
「です……まだ、本は借りれませんか?」
「ああ、あんたが……」

 やっぱ、「あんた」はしっくりこない。チェシャネコはニンマリ笑って、こう言った。

「今日から、うちの生徒やねんさかい、図書カード……ここにクラスと……番号はまだわからへんねぇ。とりあえず名前だけでええよ……」
「すみません、これでいいですか?」
「ほい、どうぞ」

 わたしは、借りたばかりの本を抱えて、由香といっしょに南向きの窓ぎわ隅の席についた――ファイトォ、がんばろう――とテニス部とおぼしきさんざめきが、心地よく響く。

「あの先生、福田乙女先生。年齢不詳の図書室の主。神沼恵美子に似てるでしょ?」
「神沼恵美子?」
「なんや、知らんのん?」
「うん、なんだか、チェシャネコに似た人だけど」
「チェシャネコ?」
「なんだ、そっちも知らないんだ……『不思議の国のアリス』に出てくる、いつもニヤニヤしてるネコよ」
「プ……ああ、あれか。ジョニー・デップの映画にもあったよね。チェシャネコいうねんね!?」
「声大きいよ……」
「だれが、チェシャネコやねん」
「あ、福田先生!」

 東京弁で「先生」は「せんせぃ」あるいは「せんせぇ」と発音し、おおむねアクセントはなくて平板だけど、大阪弁の「先生」は「せんせ」で、「ぇ」も「ぃ」もちぎったように無い。アクセントは頭の「せん」にくるんだ……と、感心していると、チェシャ……福田先生は、ハートの女王のような顔になって宣告した。

「今日から、演劇部の指導に大橋先生が来はるよって、一時になったらプレゼンに行きなさい。坂東さんもよかったらいっしょに行ってみぃ」
「え、なんで放送部のあたしが演劇部に……」
「わたし、演劇部と放送部の顧問兼ねてんの。それに放送部も、アナウンスの訓練なんかせんとあかんでしょうが。ま、ここで会うたが……」
「百年目ですよねぇ……(^_^;)」
 と、由香。

 プレゼンとは、プレゼントではない。

 プレゼンテーション教室の略で、日頃から演劇部の稽古場になっている。普通教室二つ分をぶち抜いて、何年か前に作られた広い教室。ここをゼイタクにも実質二人の部員で使わせてもらえるのは、ひとえに、福田乙女先生のご威光によるものだということ。放送部と演劇部の微妙な関係。演劇部員二人の簡単なプロフィールなどとともに、五十メートルほどの廊下を歩くうちに由香がレクチャーしてくれた。

 やっぱ、由香は手際のいい子。

 いったい、これから何が起こるのだろうか……初登校の日。まだ一時間もたっていないのに次々におこることに、わたしの胸は高鳴ってきた。
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