1 / 95
1『転校初日』
しおりを挟む
はるか ワケあり転校生の7カ月
1『転校初日』
環状線Y駅を降りて見上げた空にはホンワカと雲ひとつ。
絵に描いたような五月晴れ!
「おーし、この調子でホンワカと!」
……と思っていたら、唐突に校門が目の前に立ちふさがった。
むろん開いてはいたけど印象はまさに通せんぼ。
言っとくけど、学校が駅前にあるわけじゃない。駅から三つ角を曲がるんだけど、緊張のあまりボンヤリしてた。で、ついでに言っとくけど、いつもボンヤリしてるわけじゃない。
今日は特別よ、ト!ク!ベ!ツ!!
転入試験で一度は来たんだけど、やっぱ緊張していたんだ。校舎のこととか全然おぼえていない。
わたし坂東はるかは、東京の荒川って下町から訳あって、この大阪の真田山学院高校に転校してきた。
この学校は、府立高校の中で、ただ一つ「学院」の名前が付く。元々は大正時代にできた私学なんだけど、第二次ベビーブームのころに、府が買収。有力国会議員が数人いる同窓会の強い意向で元の校名が残った。わたしの偏差値なら、他にも受けられる学校はあったんだけど、この「学院」という私学的な校名に惹かれて、ここを選んだ。
そして今日が、その真田山学院高校の生徒としての初登校。
登校たって、今日は中間テスト最終日の放課後。いろいろ説明うけて、校内を案内してもらったりするだけなんだけど……校舎を見上げただけで、わたしのホンワカはふっとんでしまう。
校門から校舎につづくネコのオデコほどのアプロ-チ。エレベーター無しの五階建てはいいとして、増改築を繰り返したあげくに奇怪に古ぼけて、あちこちシミと共に浮き出した血管のように壁面をはい回る配管。渡り廊下ってか、渡り校舎の下が薄暗いピロティーは年寄り妖怪のカナ壺まなこ。
もし、学校を人格化したら、実家の……いや、元実家の三軒となりは仲鉄鋼の偏屈ジイサンソックリ。そのピロティーの中から、あきらかにわたしをモノメズラシく見つめる生徒サンたちの視線……。
そりゃそうだろう、わたしはまだ東京の高校の制服のまんま、それがウサンクサゲというか怒ったような顔(わたしはビビると怒ったような顔になる)で校舎見上げてんだもん。
あ、校門の脇にマサカドクン!
こいつについては、後ほどくわしく述べます。ひとまず不思議な存在と思っていてください……。
「電話してくれたら校門まで迎えに行ったげたのに」
「いえ、こんなに校舎の中が複雑だとは思ってなかったもんですから……」
一通りの説明を受けたあとの、わたしの担任竹内先生と挨拶後の短いやりとり。
竹内秀哉先生。黒目がちの目の上に太筆で「一」を書いたような眉。終始わたしの目を見ながら笑顔を絶やさない。先生というより、商売人のオジサンのエビス顔なんだけど、わたしの仏頂面に続ける言葉も無いよ……その瞬間。
「アメチャン食べる?」
さすが大阪、鉄板の返し!
「失礼します」
ちょうどタイミングよく入って来たポニーテールに、先生はエビス顔を増幅。
「あ、ちょうどよかった由香! 彼女、東京から転校してきた坂東はるか君や、学校の中案内したってくれるか」
「はい、よろこんで、ころこんで!」
と、調子よくポニーテール。
これがわが親友鈴木由香との出会いではあった。
1『転校初日』
環状線Y駅を降りて見上げた空にはホンワカと雲ひとつ。
絵に描いたような五月晴れ!
「おーし、この調子でホンワカと!」
……と思っていたら、唐突に校門が目の前に立ちふさがった。
むろん開いてはいたけど印象はまさに通せんぼ。
言っとくけど、学校が駅前にあるわけじゃない。駅から三つ角を曲がるんだけど、緊張のあまりボンヤリしてた。で、ついでに言っとくけど、いつもボンヤリしてるわけじゃない。
今日は特別よ、ト!ク!ベ!ツ!!
転入試験で一度は来たんだけど、やっぱ緊張していたんだ。校舎のこととか全然おぼえていない。
わたし坂東はるかは、東京の荒川って下町から訳あって、この大阪の真田山学院高校に転校してきた。
この学校は、府立高校の中で、ただ一つ「学院」の名前が付く。元々は大正時代にできた私学なんだけど、第二次ベビーブームのころに、府が買収。有力国会議員が数人いる同窓会の強い意向で元の校名が残った。わたしの偏差値なら、他にも受けられる学校はあったんだけど、この「学院」という私学的な校名に惹かれて、ここを選んだ。
そして今日が、その真田山学院高校の生徒としての初登校。
登校たって、今日は中間テスト最終日の放課後。いろいろ説明うけて、校内を案内してもらったりするだけなんだけど……校舎を見上げただけで、わたしのホンワカはふっとんでしまう。
校門から校舎につづくネコのオデコほどのアプロ-チ。エレベーター無しの五階建てはいいとして、増改築を繰り返したあげくに奇怪に古ぼけて、あちこちシミと共に浮き出した血管のように壁面をはい回る配管。渡り廊下ってか、渡り校舎の下が薄暗いピロティーは年寄り妖怪のカナ壺まなこ。
もし、学校を人格化したら、実家の……いや、元実家の三軒となりは仲鉄鋼の偏屈ジイサンソックリ。そのピロティーの中から、あきらかにわたしをモノメズラシく見つめる生徒サンたちの視線……。
そりゃそうだろう、わたしはまだ東京の高校の制服のまんま、それがウサンクサゲというか怒ったような顔(わたしはビビると怒ったような顔になる)で校舎見上げてんだもん。
あ、校門の脇にマサカドクン!
こいつについては、後ほどくわしく述べます。ひとまず不思議な存在と思っていてください……。
「電話してくれたら校門まで迎えに行ったげたのに」
「いえ、こんなに校舎の中が複雑だとは思ってなかったもんですから……」
一通りの説明を受けたあとの、わたしの担任竹内先生と挨拶後の短いやりとり。
竹内秀哉先生。黒目がちの目の上に太筆で「一」を書いたような眉。終始わたしの目を見ながら笑顔を絶やさない。先生というより、商売人のオジサンのエビス顔なんだけど、わたしの仏頂面に続ける言葉も無いよ……その瞬間。
「アメチャン食べる?」
さすが大阪、鉄板の返し!
「失礼します」
ちょうどタイミングよく入って来たポニーテールに、先生はエビス顔を増幅。
「あ、ちょうどよかった由香! 彼女、東京から転校してきた坂東はるか君や、学校の中案内したってくれるか」
「はい、よろこんで、ころこんで!」
と、調子よくポニーテール。
これがわが親友鈴木由香との出会いではあった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦力外スラッガー
うさみかずと
ライト文芸
夢を諦めた青年と夢を追う少年たちの人生が交差した時、あっと驚く奇跡が起こったり、起こらなかったりするどたばた青春野球小説。
「お前桜高校の監督をやれ」その言葉がすべての始まりだった。
怪我のため春季リーグ戦のメンバー構想外となりそのまま戦力外の烙印を押されたと大学四年生の菱田康太は、荒田監督から唐突に命令された。
どうやら石坂部長が絡んでいるらしいがついでに教育サポーターとして学生に勉強を教えろだって注文が多すぎる。
面倒ごとは避けたいが石坂部長から大学と桜高校との指定校協定など大人の事情に板挟みにされしぶしぶグラウンドに行ってみれば部員が二人だけってどうゆうこと?
三校合同の連合チーム聞いてないよぉ。同級生にはからかわれ、初監督の初陣を飾った試合ではぼろ負け。それが原因でチームはバラバラ、
追い打ちをかけるように荒田監督から「負けたら卒業旅行はお預け」なんだって! ついに一度もレギュラーをとれなかった俺に何ができるっていうんだ!
「す、すげぇ~ こんなすごい人が監督なら甲子園だって狙える!」雄大頼むからそんな輝いた眼で見つめないでくれ。
かつてプロ野球選手を目指し夢半ばで破れた菱田康太。部員二人の野球部で甲子園を夢見続けていた少年雄大と体の大きさに半比例した気弱な太一。不良高校の総司や超進学校の銀二、個性豊かなメンバーを引き連れて康太たちは夏の大会を勝つことができるのか。
日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~
海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。
そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。
そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。
今日はパンティー日和♡
ピュア
ライト文芸
いろんなシュチュエーションのパンチラやパンモロが楽しめる短編集✨
おまけではパンティー評論家となった世界線の崇道鳴志(*聖女戦士ピュアレディーに登場するキャラ)による、今日のパンティーのコーナーもあるよ💕
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる