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081『波音にハイジとシミジミ』
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やくもあやかし物語 2
081『波音にハイジとシミジミ』
ザザァァァァァ~~ ザザァァァァァ~~
キャミが乾いて、パンツもゴムのところが少し湿ってる程度に回復……手を伸ばしたら乾かしていた服も十分に乾いてる。そろそろ動き出さなきゃと思って……でも、体が動かない。
べつに呪いや魔法をかけられたわけじゃない。
ここで、もう一度服を着て前進しても、前進した先は果てしない大海原で、すぐにびしょ濡れ。
考えたら……考えなくても意味のないことをしていた。
天の川を渡る時もいろいろあったけど、なんといっても向こう岸が見えていたから考えることもできたけど、こうも果てしない海を見ていては考えるどころか気持ちが萎えて、膝を抱えたまま本格的に寝てしまいそうだよ。
「まあ、いいじゃねえか、考えが浮かぶまでこうしているしかねえ」
「まあ、そうだけどね」
ハイジは意外に落ち着いてる。大慌てでこっちにやって来て、勢い余って、ずっと向こうの海に落ちて来て魚雷みたいに泳いできたのが嘘みたい。
「スイス人は辛抱強いんだ」
「あ、うん……」
「いくらあせっても、羊の毛が早く生えるわけじゃねえし、牛がたくさん乳を出すわけでもねえからな」
「あ、そうだね」
ザザァァァァァ~~ ザザァァァァァ~~
「無理をしたらろくなことにはならねえ」
「う、うん」
「オンジが若いころに傭兵に行ったことがあるんだ」
「ヨーヘイ?」
「雇われの兵隊だ。命の保証はねえけど、給料がいいからな。時どき行ってたんだ」
「そうなんだ……」
「何回かいって給料も上がって、はりきって突撃してよ、敵をバンバンやっつけて、先へ先へ進んでると、仲間とはぐれてよ。それでも戦争慣れしてっから、敵がいるところの見当がついてバンバンやっつけてると、向こうからも走りながら撃ってくる奴がいてよ。銃を構えた者同士出くわしたら、その敵は同じ村の友だちだった」
「ええ!?」
「傭兵募集はいろんな国でやってからな、たまにそういうことがあるみてえだ」
「ええ……」
「だから、いまのスイスは憲法で傭兵に出ること禁止してんだ。2002年までは国連にも加盟してなかったしな」
「そうなんだ」
孫のハイジが生きてここにいるということは、その時生き延びたということで、その友だちは……聞いちゃいけないことなんだろうな。
ハイジは違う言い方をした。
「どうしていいか分からない時は、じっとしていろってオンジは言うんだ。やみくもに進んだら……そういうことになっちまうからよ」
ザザァァァァァ~~ ザザァァァァァ~~ ザザァァァァァ~~
ハイジが話し終わって、また打ち寄せる波の音だけが際立ってきた。
いつも子どもみたいに突拍子もないことを言ったりやったりするハイジが、シミジミ身の上話をするのは、この広々と果てしもない海と単調な波の音、そして、焚火の火でホコホコ温もったせいかもしれない。
ウフフフ……アハハハ……
「「え?」」
波音に混じる笑い声に、ハイジと同時に驚いた!
「この笑い声……」
「知ってんのか?」
「うん、魔王女のトバリと魔王子のトバルだ!」
フフフ……ハハハ……フフフ……ハハハ……フフフ……ハハハ……
「くそ、癇に障る笑い方だぜ!」
笑い声は、海の向こうから聞こえてくるような気がしたけど、さっきのハイジの言葉を思い出してジッとしてみる。
「やくも……これは、浜の向こうの方だ!」
「うん、わたしも、そう思う!」
そう、笑い声は海の向こうじゃなくて、浜に沿った遠い方から聞こえてくる!
「海はフェイントのフェイクだぞ!」
「うん、追いかけよう!」
ハイジと二人、左側の浜辺を走ったよ!
☆彡主な登場人物
やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン 教頭先生
カーナボン卿 校長先生
酒井 詩 コトハ 聴講生
同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ ヒトビッチ・アルカード ヒューゴ・プライス ベラ・グリフィス アイネ・シュタインベルグ アンナ・ハーマスティン
先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子) トバリ(魔王女)
081『波音にハイジとシミジミ』
ザザァァァァァ~~ ザザァァァァァ~~
キャミが乾いて、パンツもゴムのところが少し湿ってる程度に回復……手を伸ばしたら乾かしていた服も十分に乾いてる。そろそろ動き出さなきゃと思って……でも、体が動かない。
べつに呪いや魔法をかけられたわけじゃない。
ここで、もう一度服を着て前進しても、前進した先は果てしない大海原で、すぐにびしょ濡れ。
考えたら……考えなくても意味のないことをしていた。
天の川を渡る時もいろいろあったけど、なんといっても向こう岸が見えていたから考えることもできたけど、こうも果てしない海を見ていては考えるどころか気持ちが萎えて、膝を抱えたまま本格的に寝てしまいそうだよ。
「まあ、いいじゃねえか、考えが浮かぶまでこうしているしかねえ」
「まあ、そうだけどね」
ハイジは意外に落ち着いてる。大慌てでこっちにやって来て、勢い余って、ずっと向こうの海に落ちて来て魚雷みたいに泳いできたのが嘘みたい。
「スイス人は辛抱強いんだ」
「あ、うん……」
「いくらあせっても、羊の毛が早く生えるわけじゃねえし、牛がたくさん乳を出すわけでもねえからな」
「あ、そうだね」
ザザァァァァァ~~ ザザァァァァァ~~
「無理をしたらろくなことにはならねえ」
「う、うん」
「オンジが若いころに傭兵に行ったことがあるんだ」
「ヨーヘイ?」
「雇われの兵隊だ。命の保証はねえけど、給料がいいからな。時どき行ってたんだ」
「そうなんだ……」
「何回かいって給料も上がって、はりきって突撃してよ、敵をバンバンやっつけて、先へ先へ進んでると、仲間とはぐれてよ。それでも戦争慣れしてっから、敵がいるところの見当がついてバンバンやっつけてると、向こうからも走りながら撃ってくる奴がいてよ。銃を構えた者同士出くわしたら、その敵は同じ村の友だちだった」
「ええ!?」
「傭兵募集はいろんな国でやってからな、たまにそういうことがあるみてえだ」
「ええ……」
「だから、いまのスイスは憲法で傭兵に出ること禁止してんだ。2002年までは国連にも加盟してなかったしな」
「そうなんだ」
孫のハイジが生きてここにいるということは、その時生き延びたということで、その友だちは……聞いちゃいけないことなんだろうな。
ハイジは違う言い方をした。
「どうしていいか分からない時は、じっとしていろってオンジは言うんだ。やみくもに進んだら……そういうことになっちまうからよ」
ザザァァァァァ~~ ザザァァァァァ~~ ザザァァァァァ~~
ハイジが話し終わって、また打ち寄せる波の音だけが際立ってきた。
いつも子どもみたいに突拍子もないことを言ったりやったりするハイジが、シミジミ身の上話をするのは、この広々と果てしもない海と単調な波の音、そして、焚火の火でホコホコ温もったせいかもしれない。
ウフフフ……アハハハ……
「「え?」」
波音に混じる笑い声に、ハイジと同時に驚いた!
「この笑い声……」
「知ってんのか?」
「うん、魔王女のトバリと魔王子のトバルだ!」
フフフ……ハハハ……フフフ……ハハハ……フフフ……ハハハ……
「くそ、癇に障る笑い方だぜ!」
笑い声は、海の向こうから聞こえてくるような気がしたけど、さっきのハイジの言葉を思い出してジッとしてみる。
「やくも……これは、浜の向こうの方だ!」
「うん、わたしも、そう思う!」
そう、笑い声は海の向こうじゃなくて、浜に沿った遠い方から聞こえてくる!
「海はフェイントのフェイクだぞ!」
「うん、追いかけよう!」
ハイジと二人、左側の浜辺を走ったよ!
☆彡主な登場人物
やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン 教頭先生
カーナボン卿 校長先生
酒井 詩 コトハ 聴講生
同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ ヒトビッチ・アルカード ヒューゴ・プライス ベラ・グリフィス アイネ・シュタインベルグ アンナ・ハーマスティン
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あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子) トバリ(魔王女)
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