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061『間人皇女の秘密を知って草原に』
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やくもあやかし物語 2
061『間人皇女の秘密を知って草原に』
「これが織姫さまよ」
しゃがんで手を合わせるわたし、ネルは片膝ついて手を組んで祈ってくれる。
同じように祈っても、わたしは傘地蔵に手を合わせる村娘みたいだけど、ネルは流浪の姫騎士が額づいているようでカッコいい。
御息所もわたしの膝小僧の上で手を合わせて、なんだか、ここからワンクール13回の異世界アニメが始まるみたいだよ。
「さあ、行きますか」
キーストーンを取り返す旅は、やっと天の川を超えたところだ。
ネルをうながして、先に進む。
「花がじゃまにならない?」
織姫さんからもらった花をポケットにさしているので、御息所には邪魔じゃないかしらと声をかける。
「ううん、とっても穏やかな気持ちになれて、いいぞよ」
「なんだか寝てしまいそうな顔をしているぞ……て、もう寝てるし」
「フフ、これから役に立ってもらうこともあるだろうから寝かせておこう(^_^;)」
すこし歩くとお花畑の丘のてっぺん。
「ここが鞍部だな」
「あんぶ?」
「あ、てっぺんのことだ。馬の鞍ほどに高くなったところで、山というほどには高くないところを指すんだ」
長身長の美少女エルフが含蓄っぽく言うとメチャクチャかっこいい。
御息所は花の茎にダッコするようにして寝ている。こいつも大人しく寝ているとフィギュアみたいでかわいいよ。
「しばらくは草原だね」
「ああ、彼方は霞んで見えないけど、気を引き締めていこう」
「おお(^〇^)!」
「もぉぉ、声大きい……」
「ごめん、起こしちゃったぁ?」
「…………」
「あ、また寝たぁ」
「起きてるわよ……」
「額田さんがな、花園の向こうは草原になっているけど、草原を抜けるまでは何と出会ってもやっつけてはいけないって言ってたぞ」
「え、なんでぇ?」
「それ以上は言ってくれなかった、なにか差しさわりがあるという感じだったぞ」
それは……言霊(ことだま)ということかもしれない。日本にいる時も、神さまやあやかしをハッキリ言わないのがあったよ。アレとかソレとか、かの者とかその者とか。いちばん強敵だった二丁目断層も思えば変な名前、ほんとうはあやかしのボスとして別の名前があったのかもしれない。
そう言えば、ポケットの御息所だって『六条の御息所』って言うだけで名前は知らないよ。交換手さんだって、ただ交換手さんだし。
「やくも、あんた大化の改新っていうのは知ってるわよね」
御息所が変な質問をする。
「え、ああ、中大兄皇子が藤原のナントカさんといっしょに蘇我のクジラ……じゃなくてイルカをやっつけたの。ムシゴハンだから……645年かな」
「よしよし。その中大兄皇子が後の天智天皇だというのも知っているだろう」
「もちよ!」
実は忘れてたけど。
「日本の古代のクーデターだろ!」
「おお、ネルえらい!」
「アニメで見た」
おお、アニメは偉大だよ。
「その中大兄皇子が天皇になるのは大化の改新の二十三年後なのさ」
「「ええ、23年後!?」」
「資格がありながら位に就かないのを称制っていうんだけど、歴史上二例しかないのよ。二十三年も位に就かなかったのは中大兄皇子一人だけだし」
「なぜだ?」
ネルは、自分のお父さんが人間と結婚して王位につけなかったんで気になるんだね。
ザワ
いっしゅん風が吹いて草原の草がざわめいた。
「天智天皇の妃は間人皇女(はしひとのひめみこ)というのは知ってるだろ」
「うん」
「あれは、天智天皇の妹なのよ」
「え!?」
ネルが目を剥く。
「あ、でもさ、あの時代って、腹違いの兄妹とかは結婚できたとかじゃなかったっけ」
「そうよ、伯父(あるいは叔父)と姪の結婚も珍しくなかったしね」
「だったら……」
「天智天皇と間人皇女は同腹の兄妹なのよ」
「「ええ( ゚Д゚)!?」」
ザワザワザワ……
「さすがに、みんなドン引きしたわ。だから間人皇女が亡くなるまでは天皇にはならなかった、なれなかった……」
ザワザワザワ……ザワザワザワ……ザワザワザワ……!
いっそう草原のざわめきが激しくなってきたよ!
☆彡主な登場人物
やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン 教頭先生
カーナボン卿 校長先生
酒井 詩 コトハ 聴講生
同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫
061『間人皇女の秘密を知って草原に』
「これが織姫さまよ」
しゃがんで手を合わせるわたし、ネルは片膝ついて手を組んで祈ってくれる。
同じように祈っても、わたしは傘地蔵に手を合わせる村娘みたいだけど、ネルは流浪の姫騎士が額づいているようでカッコいい。
御息所もわたしの膝小僧の上で手を合わせて、なんだか、ここからワンクール13回の異世界アニメが始まるみたいだよ。
「さあ、行きますか」
キーストーンを取り返す旅は、やっと天の川を超えたところだ。
ネルをうながして、先に進む。
「花がじゃまにならない?」
織姫さんからもらった花をポケットにさしているので、御息所には邪魔じゃないかしらと声をかける。
「ううん、とっても穏やかな気持ちになれて、いいぞよ」
「なんだか寝てしまいそうな顔をしているぞ……て、もう寝てるし」
「フフ、これから役に立ってもらうこともあるだろうから寝かせておこう(^_^;)」
すこし歩くとお花畑の丘のてっぺん。
「ここが鞍部だな」
「あんぶ?」
「あ、てっぺんのことだ。馬の鞍ほどに高くなったところで、山というほどには高くないところを指すんだ」
長身長の美少女エルフが含蓄っぽく言うとメチャクチャかっこいい。
御息所は花の茎にダッコするようにして寝ている。こいつも大人しく寝ているとフィギュアみたいでかわいいよ。
「しばらくは草原だね」
「ああ、彼方は霞んで見えないけど、気を引き締めていこう」
「おお(^〇^)!」
「もぉぉ、声大きい……」
「ごめん、起こしちゃったぁ?」
「…………」
「あ、また寝たぁ」
「起きてるわよ……」
「額田さんがな、花園の向こうは草原になっているけど、草原を抜けるまでは何と出会ってもやっつけてはいけないって言ってたぞ」
「え、なんでぇ?」
「それ以上は言ってくれなかった、なにか差しさわりがあるという感じだったぞ」
それは……言霊(ことだま)ということかもしれない。日本にいる時も、神さまやあやかしをハッキリ言わないのがあったよ。アレとかソレとか、かの者とかその者とか。いちばん強敵だった二丁目断層も思えば変な名前、ほんとうはあやかしのボスとして別の名前があったのかもしれない。
そう言えば、ポケットの御息所だって『六条の御息所』って言うだけで名前は知らないよ。交換手さんだって、ただ交換手さんだし。
「やくも、あんた大化の改新っていうのは知ってるわよね」
御息所が変な質問をする。
「え、ああ、中大兄皇子が藤原のナントカさんといっしょに蘇我のクジラ……じゃなくてイルカをやっつけたの。ムシゴハンだから……645年かな」
「よしよし。その中大兄皇子が後の天智天皇だというのも知っているだろう」
「もちよ!」
実は忘れてたけど。
「日本の古代のクーデターだろ!」
「おお、ネルえらい!」
「アニメで見た」
おお、アニメは偉大だよ。
「その中大兄皇子が天皇になるのは大化の改新の二十三年後なのさ」
「「ええ、23年後!?」」
「資格がありながら位に就かないのを称制っていうんだけど、歴史上二例しかないのよ。二十三年も位に就かなかったのは中大兄皇子一人だけだし」
「なぜだ?」
ネルは、自分のお父さんが人間と結婚して王位につけなかったんで気になるんだね。
ザワ
いっしゅん風が吹いて草原の草がざわめいた。
「天智天皇の妃は間人皇女(はしひとのひめみこ)というのは知ってるだろ」
「うん」
「あれは、天智天皇の妹なのよ」
「え!?」
ネルが目を剥く。
「あ、でもさ、あの時代って、腹違いの兄妹とかは結婚できたとかじゃなかったっけ」
「そうよ、伯父(あるいは叔父)と姪の結婚も珍しくなかったしね」
「だったら……」
「天智天皇と間人皇女は同腹の兄妹なのよ」
「「ええ( ゚Д゚)!?」」
ザワザワザワ……
「さすがに、みんなドン引きしたわ。だから間人皇女が亡くなるまでは天皇にはならなかった、なれなかった……」
ザワザワザワ……ザワザワザワ……ザワザワザワ……!
いっそう草原のざわめきが激しくなってきたよ!
☆彡主な登場人物
やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン 教頭先生
カーナボン卿 校長先生
酒井 詩 コトハ 聴講生
同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫
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