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052『ブラウニーの右手と左足』

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やくもあやかし物語 2

052『ブラウニーの右手と左足』 




 いい匂いは食堂への途中、いつもは閉めきりのドアからだよ。

 観音開きの片方が小さく開いていて、鼻歌といっしょに匂いが漏れてくるんだ。

『おや、食いっぱぐれたのかい?』

 人の良さそうなオバサンの声がして、足を止めるとすき間の向こうのオバサンと目が合う。

 目が合うと、こんどはお玉を持ったままの手でオイデオイデする。

「ちょうどできたところだから食べておいきよ」

「えと、ここは?」

「元々の食堂さ。いまの食堂ができてからは使われなくなったんだけどね、くわせもののお蔭で、食堂はあんな状態だろ。それで、急きょこっちを使えるようにしてるわけ」

「あ、そうなんだ」

「あたしは、家事妖精のブラウニー。この学校や宮殿ができたころから住み着いて、いろいろお手伝いしてるのさ」

「あ、わたし一年生のやくもです」

「やくも、いい名前だ。よろしくね」

 握手……すると違和感。

「あ、ごめん。右手は義手なんだよ、左足は義足でね。むかし、侵入してきた魔ものにやられてね、オーディンが森の木を削って作ってくれたのさ。あのころのオーディンは不器用で完全というわけにはいかないんだけど、まあ、なんとか台所仕事をこなすぶんにはね……さ、できたてのスープとシュガートースト。味は濃いめだけど、あれだけ戦ったあとなんだから、これくらいのがいいさ」

「ありがとう、ブラウニー。いただきます」

「スープ熱いから、冷ましながらね……あ、そうだ、レシピを書き留めておかなきゃ。鉛筆貸してくれる?」

「え、あ、どうぞ」

「ありがとう、すぐに返すからね……」

 スープに気を取られ、わたしは違う方を渡してしまった。

 ビシ!

 ウギャアア!!

 なにか電気みたいなのが走ったかと思うと、ブラウニーは尻餅をついて、鉛筆を持っていた右手をプルプルと痙攣させている。

 ブラウニーの足元に落ちているのはおもいやりの方だ!

「ごめん、間違えた!」

「お、お逃げ、これは右手が悪さをして……るんだから……」

 ビシビシ!

 ブラウニーの肘と膝のところがスパークしたかと思うと、右手と左足が体から分離して窓を突き破って出て行ってしまう!

『アップ、お、追うぞ!』

 ミチビキ鉛筆が、やっと水から上がってきた人みたいに息を継ぐと、くわせものの時と同じように、わたしを引っ張っていく!

 窓から飛び出す時にチラッと見たら、ブラウニーは口の形だけで『ごめんね』と言った。

 悪いのは、義手と義足、あるいは、そこに取りついた何者かだ!

『右手の奴、オレを受け取ったら握りつぶすつもりだったんだ。やくも、よくぞ間違えてくれた!』

「あ、あ、そうなんだ(;'∀')」

 くわせものをやっつけてホッとしたばかり。本日三回目の戦闘モードに、すぐには切り替えられないわたしだった。

 

☆彡主な登場人物 

やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン  教頭先生
カーナボン卿     校長先生
酒井 詩       コトハ 聴講生
同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精)
  
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