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050『妖怪くわせもの・2』

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やくもあやかし物語 2

050『妖怪くわせもの・2』 




 くわせものが飛び出してしまうと、食堂のドアも窓も開くようになった。

――しっかり掴まれ!――

 ミチビキ鉛筆が叫ぶ!

 わたしは右手で鉛筆を、左手で、その鉛筆を握る右手を掴んで前に突き出す。

 ピューーン!

 甲高い音をさせて、鉛筆は自動的に開いた窓からわたしを引っ張ったまま飛び出していく。

 やくもぉ!!

 別の窓から、ハイジとネルが顔を出してわたしを呼ぶ。くわせものの影響は長続きはしないようだ。

 ゴオオオオ!

 くわせものが旋回して食堂の窓を舐めるように低空飛行、食堂のみんなは悲鳴を上げて頭を引っ込める。やつは、渋谷の3D広告、サイネージっていうんだっけ。あそこの定番の三毛猫の首くらいの大きさになって飛んでいる。

 そんなに大きいと三毛猫でもおっかないのにピエロの顔だよ、あんなのが傍に来たらおしっこチビルくらいに怖いよ。

 グゴオオオ!

 こんなのどうやってやっつけるんだ……と、思ったら、鉛筆が勝手に動き出す。

「ウワア、あ、ちょ、ちょっとぉ!」

 鉛筆は、わたしを引っ張ったまま空中に字を書き始めた。

 鉛筆のくせに、太くておっきい字!

――ティターニアに手伝ってもらって!――

 鉛筆も自分一人じゃ苦しいんだ。

 え、え、どうするどうする(;'∀')

 空から見てても分かるくらい、地上のみんなも焦ってる感じ。

 みんな森の住人たちを敬遠してきたからね、自信が無いんだ。

 思い余って、ネルとハイジが窓枠に足を掛ける。あの二人は森の住人とも多少は近い。

 ムギュ!

 飛び出すかと思ったら、だれかに踏みつけられたようにペシャンコになる二人。みんなは妖に一発喰らったのかとのけ反るけど、やくもには分かったよ。

 デラシネが二人を踏み越えて森へ駆けていく!

 だいじょうぶかな、森のみんなとは、まだ和解できてないよぉ。

――かまうな、行くぞ!――

「鉛筆のクセにえらそー」

――おもいやりを構えろ――

「え、あ、うん」

 おもいやりは樺太旅行に行ったお礼にデラシネがくれたフィギュアのパーツみたいに小さな槍。これは破魔矢みたいな縁起物だと思ってた。あるいは――人にはおもいやりを持って――的ないましめ、あるいは、デラシネなりの感謝の気持ち的な。

――分析してる場合ではない、構えて!――

「うん!」

 うんとは言ったけど、鉛筆に掴まりながらはやりにくい。

――しかたがない……えい!――

 ガクン

 衝撃があったかと思うと、鉛筆は魔法使いのホウキほどになってわたしを乗せていく。

 ガツガツガツ! ムシャムシャムシャ! ハグハグハグ!

 くわせものは結界に食らいついて食べ始めている。

「あいつ、自分でも食べるんだ!?」

――感心してる場合じゃない!――

「う、うん!」
 
 ビューーン

 鉛筆は旋回しながら速度を上げ、わたしは、アニメの勇者みたいに姿勢を低くして、くわせもののコメカミ目がけて突きかかる。

 プチュ

 少しは手ごたえがあるんだけど、やつが逃げる方が早い!

 くそ!

 やつが齧ったところはほころびが出ている。

 結界は外からの攻撃には強いけど、中から蝕まれると弱いんだ。

 ザザザザザーー

 下の方から音がしたかと思うと、無数の葉っぱが森の方から飛んできて、結界の傷口を覆って修復にかかる。

 そうか、これがティターニアたち森の住人たちの協力か。

 でも、補修だけでいっしょに戦ってくれるわけではないようだ。

 仕方がない!

「いくよ!」

――おお!――

 鉛筆といっしょに人馬一体という感じで追いかける!

 えい! とー! それ! そこだ! ウリャー! キエエエ!

 いろんな掛け声で、くわせものに襲いかかる!

 プチュ プチ プツ プシュ プチュ

 確実に手ごたえはあるんだけど、決定打にならない。

 小さな傷はすぐになおしてしまうくわせもの。

 だめだ、こっちが先にバテてしまう。

 五六回攻撃したところで息切れがしてきて、空振りが増えてくる。

 ドザザザザザーー!!

 ひときわ大きな枯れ葉のかたまりが上がってきたかとおもうと、それは、くわせものの背後で弾けて、中から大きな剣を構えたデラシネが現れた!

 セイ!

 ビシュッ! ドシュッ!!

 十文字に大剣を振るうとくわせものは大きく口を開けてのけ反った!

 かなり効いてる!

「トドメだ!」

 デラシネは空中で二回転すると、そのままの勢いで大剣を振りかぶった!

 ギャアアア!!

 断末魔の叫びをあげたかと思うと、くわせものは無数のポリゴンぽいものに分解し、消滅していった……。

 そして、消滅するくわせものに目を奪われているうちに、デラシネの姿も消えてしまっていた。

 

☆彡主な登場人物 

やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン  教頭先生
カーナボン卿     校長先生
酒井 詩       コトハ 聴講生
同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの
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