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040『樺太の空を飛ぶ』
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やくもあやかし物語 2
040『樺太の空を飛ぶ』
おいしく樺太ランチをいただいて郷土博物館の外に出る。
「ちょっと高く飛ぶので息を合わせて」
少彦名さんが指を立てる。
「息を合わせるって?」
「1、2、3、でジャンプ。そのタイミングを合わせるんだ」
「は、はい」「う、うん」
デラシネと返事をすると、少彦名さんは狛犬の太郎と次郎に合図を送る。太郎と次郎は首だけこっちに向けて、顔が怖くて図体が大きいものだから、ちょっとおっかない。
「それ!」
「「えい!」」
グワーーーーーーッ!!
ジャンプすると同時に太郎の方が盛大に息を噴き出して、やくもたちを屋根の高さまで上げてくれて、すこし遅れて次郎が息を噴き出して、次に太郎、次郎と交互に息を噴き出し、あっという間に、ジェット機、いや、人工衛星が飛ぶくらいの高さに上げてくれた!
『すごいですね! わたしの力ではこの高さまでは無理でした!』
交換手さんが御息所の口を借りて感激する。
「でも、なんでコマイヌは互い違いでしか息を吐かないんだぁ、ジグザグに上がったから、ちょっとクラクラする」
デラシネが目を回しながら言う。
「申しわけない、阿吽の呼吸と云ってな、片方が口を開けている時、もう片方は閉じているものなんだ」
「そうか、まあ、上がってしまったからいいんだけどね」
『樺太の形がよく分かりますねえ』
「うん、それを見てもらうために高く上がったんだ」
「樺太って、大きいんですねえ……」
「ああ、北海道と同じくらいの面積だからね」
『真岡って、けっこう北の方にある感じだったんですけど、南ですねえ』
「交換手のころの日本領は南半分だけだったからね」
『そうですね、人間は、自分が住んでいるところを中心に考えますねえ』
「なんだか、美味しそうにも見える」
グルグルが落ち着くと変なことを言うデラシネ。
「え、島がか?」
「吊るしたシャケに見える」
『お昼にチャンチャン焼きを食べましたからね』
「島が食べ物に見えるのは平和で楽しいね」
「そうだな、やくも」
「ほんとうは、昔の樺太を見せてやれるとよかったんだけどな、まあ、逆にこういう樺太を見るのも悪くはない……ほら、あの海が狭くなったところが間宮海峡だ」
少彦名さんは、指で空中に字を書いた。
「……日本の名前が付いているのか?」
「ああ、間宮林蔵って人が発見したんだよね」
ちょっと得意になって知識をひけらかす。
「ああ、そうだ。それまで樺太は島なのか半島なのか結論が出てなかったんだ」
「半島?」
「ああ、カムチャツカ半島と区別がついてなかった」
「アハハ、バッカじゃない、どう見たって島だろぉ、カムチャツカ半島って、もっと東の方……あれだろ?」
身を乗り出して東の水平線のあたりの陸地を指さすデラシネ。
「ほぉーー」
「なに感心してんだ、こんなの中学レベルの地理だろがぁ!」
「あ、いや……」
「しっかりしろよ、王立魔法学校の生徒だろーが」
「あははは(^_^;)」
ほんとは、デラシネの伸ばした指と横顔がきれいで「ほぉーー」だったんだけど、言わない。
『そう、間宮林蔵が樺太を船で一周して島であることを確認したんですよね、女学校で習いました』
「え、だったら樺太は日本だろ?」
「え、なんで?」
「領土と言うのは、最初に発見した奴の国になるんだぞ、ヨーロッパじゃそうだぞ」
「あ、そろそろ下りるぞぉ」
質問には応えずに、少彦名さんは間宮海峡に近い小さな村を指さした。
ザザザーーー
地面をこするようにして下りてきて、自分たちが乗っていたのが芋の皮のようなボートであったことに気付いた。
『天乃羅摩船(アメノカガミノフネ )ですね』
「え?」
『ふふ、むかし習ったんです。少彦名さんは、これに乗って海の向こうからやってきたことに……あ、もう先に行ってますよ!』
少彦名さんといっしょに行ったデラシネがたぶん「早く来い!」というように腕を回してる。
「もう、先に行かないでよね」
「すまん、これを見せたくて焦ってしまった」
頭を掻きながら少彦名さんは太い二本の柱に挟まれた石板を示した。
『これは……間宮林蔵到達記念碑?』
石板は立派なのに、柱は枕木みたいに粗削りで武骨だ。
「ああ、古地図や間宮林蔵の残した資料を基に、林蔵がこの村に来たことを知った日本の関係者が残していったんだ。草に埋もれてしまいそうになったのを村人たちが補強して目の高さにしてくれたんだ」
ええ!?
みんなビックリした。
交換手さんも知らなくって、感動して涙ぐんでいる。
借りているのが1/12サイズの御息所なものだから、なんだか御息所がとても優しくなった感じで、ちょっと混乱(^_^;)。
デラシネは微妙にブスっとして、でも、わたしには分かったよ。
デラシネは感動すると、こういう顔になる。
それから、わたしたちに気付いて家から出てきた村の人たちと、陽が沈むころまでお話して、ヤマセンブルグに帰ったよ。
☆彡主な登場人物
やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン 教頭先生
カーナボン卿 校長先生
酒井 詩 コトハ 聴講生
同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名
040『樺太の空を飛ぶ』
おいしく樺太ランチをいただいて郷土博物館の外に出る。
「ちょっと高く飛ぶので息を合わせて」
少彦名さんが指を立てる。
「息を合わせるって?」
「1、2、3、でジャンプ。そのタイミングを合わせるんだ」
「は、はい」「う、うん」
デラシネと返事をすると、少彦名さんは狛犬の太郎と次郎に合図を送る。太郎と次郎は首だけこっちに向けて、顔が怖くて図体が大きいものだから、ちょっとおっかない。
「それ!」
「「えい!」」
グワーーーーーーッ!!
ジャンプすると同時に太郎の方が盛大に息を噴き出して、やくもたちを屋根の高さまで上げてくれて、すこし遅れて次郎が息を噴き出して、次に太郎、次郎と交互に息を噴き出し、あっという間に、ジェット機、いや、人工衛星が飛ぶくらいの高さに上げてくれた!
『すごいですね! わたしの力ではこの高さまでは無理でした!』
交換手さんが御息所の口を借りて感激する。
「でも、なんでコマイヌは互い違いでしか息を吐かないんだぁ、ジグザグに上がったから、ちょっとクラクラする」
デラシネが目を回しながら言う。
「申しわけない、阿吽の呼吸と云ってな、片方が口を開けている時、もう片方は閉じているものなんだ」
「そうか、まあ、上がってしまったからいいんだけどね」
『樺太の形がよく分かりますねえ』
「うん、それを見てもらうために高く上がったんだ」
「樺太って、大きいんですねえ……」
「ああ、北海道と同じくらいの面積だからね」
『真岡って、けっこう北の方にある感じだったんですけど、南ですねえ』
「交換手のころの日本領は南半分だけだったからね」
『そうですね、人間は、自分が住んでいるところを中心に考えますねえ』
「なんだか、美味しそうにも見える」
グルグルが落ち着くと変なことを言うデラシネ。
「え、島がか?」
「吊るしたシャケに見える」
『お昼にチャンチャン焼きを食べましたからね』
「島が食べ物に見えるのは平和で楽しいね」
「そうだな、やくも」
「ほんとうは、昔の樺太を見せてやれるとよかったんだけどな、まあ、逆にこういう樺太を見るのも悪くはない……ほら、あの海が狭くなったところが間宮海峡だ」
少彦名さんは、指で空中に字を書いた。
「……日本の名前が付いているのか?」
「ああ、間宮林蔵って人が発見したんだよね」
ちょっと得意になって知識をひけらかす。
「ああ、そうだ。それまで樺太は島なのか半島なのか結論が出てなかったんだ」
「半島?」
「ああ、カムチャツカ半島と区別がついてなかった」
「アハハ、バッカじゃない、どう見たって島だろぉ、カムチャツカ半島って、もっと東の方……あれだろ?」
身を乗り出して東の水平線のあたりの陸地を指さすデラシネ。
「ほぉーー」
「なに感心してんだ、こんなの中学レベルの地理だろがぁ!」
「あ、いや……」
「しっかりしろよ、王立魔法学校の生徒だろーが」
「あははは(^_^;)」
ほんとは、デラシネの伸ばした指と横顔がきれいで「ほぉーー」だったんだけど、言わない。
『そう、間宮林蔵が樺太を船で一周して島であることを確認したんですよね、女学校で習いました』
「え、だったら樺太は日本だろ?」
「え、なんで?」
「領土と言うのは、最初に発見した奴の国になるんだぞ、ヨーロッパじゃそうだぞ」
「あ、そろそろ下りるぞぉ」
質問には応えずに、少彦名さんは間宮海峡に近い小さな村を指さした。
ザザザーーー
地面をこするようにして下りてきて、自分たちが乗っていたのが芋の皮のようなボートであったことに気付いた。
『天乃羅摩船(アメノカガミノフネ )ですね』
「え?」
『ふふ、むかし習ったんです。少彦名さんは、これに乗って海の向こうからやってきたことに……あ、もう先に行ってますよ!』
少彦名さんといっしょに行ったデラシネがたぶん「早く来い!」というように腕を回してる。
「もう、先に行かないでよね」
「すまん、これを見せたくて焦ってしまった」
頭を掻きながら少彦名さんは太い二本の柱に挟まれた石板を示した。
『これは……間宮林蔵到達記念碑?』
石板は立派なのに、柱は枕木みたいに粗削りで武骨だ。
「ああ、古地図や間宮林蔵の残した資料を基に、林蔵がこの村に来たことを知った日本の関係者が残していったんだ。草に埋もれてしまいそうになったのを村人たちが補強して目の高さにしてくれたんだ」
ええ!?
みんなビックリした。
交換手さんも知らなくって、感動して涙ぐんでいる。
借りているのが1/12サイズの御息所なものだから、なんだか御息所がとても優しくなった感じで、ちょっと混乱(^_^;)。
デラシネは微妙にブスっとして、でも、わたしには分かったよ。
デラシネは感動すると、こういう顔になる。
それから、わたしたちに気付いて家から出てきた村の人たちと、陽が沈むころまでお話して、ヤマセンブルグに帰ったよ。
☆彡主な登場人物
やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン 教頭先生
カーナボン卿 校長先生
酒井 詩 コトハ 聴講生
同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
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