やくもあやかし物語・2

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
上 下
38 / 84

038『廃墟と少彦名』

しおりを挟む
やくもあやかし物語 2

038『廃墟と少彦名』 




 あ……


 御息所が戸惑いの声をあげて視界が開けた。

 いつもだったら『ええっ!?』とか『ギョエー!?』とか品のない声を上げる御息所なんだけど『あ……』と上品な声。

 そう、今の御息所は交換手さんのスピーカーというかインタフェイスを兼ねているからね。今の上品な『あ……』は交換手さんの声なんだ。

 わたしもデラシネも「え?」と思ったよ。

 1941って番号を回したから、とうぜん1941年に飛んだんだと思ったよ。


 着いたところは、なんか、大きな工場の廃墟だ。

 昔は五階建てぐらいだったんだろうけど、所どころ床が抜けていて、最上階の屋根まで見通せる。壁もいたるところ抜けたり欠けたり、床はボロボロのコンクリートで、機械が据え付けてあったんだろう、土台が剥き出し。瓦礫やら草やらコケやらカビみたいなのも生えていて、ゾンビ映画とかのロケにはいいけど、思念だけとは言え地球の裏側からわざわざ見に来るものじゃないよ。

『す、すみません、なにか手違いのようです(;'∀')』

 めずらしく交換手さんが狼狽えている。


「申しわけない、交換手」


 声がして振り返ると、壁の崩れたところにミノムシみたいなのが立っている。

『あ、少彦名さん!』

 ミノムシはすくなひこなというらしい。

『少彦名と言えば、大国主の国造りスタッフ。それがどうして? ちょっと体つきも大きすぎるし! あんた、ほんとうに少彦名!?』

 御息所が自分の声で責め立てる。

「ああ、あんたは、ただのスピーカーじゃないみたいだなぁ」

『六条御息所よ、本来は東宮妃だからね、感謝しなさいよ』
『あとは、わたしがやりますから(^_^;)』
『そう、じゃあ、よろしくね。わたしはもう出てこないから!』
『はい、すみみません』

「説明してよ、わけ分からんからぁ!」

「まあまあ(^_^;)」

 デラシネが切れかかって、なだめるわたし。

『少彦名さんは樺太神社の神さまだったんです。樺太神社はもうありませんけど、日本にはまだ樺太に住んでおられた方もいらっしゃいますし、訪れる日本の方々もいるので、現地の案内人として残っておられるんです』

「本来は親指ほどの背丈しかないんだけどな、樺太は草深い、見失われては困るんで、このサイズで出てくるんだ」

 元のサイズだったら御息所とも仲良くなれたかもしれないかなぁ。

「で、ここはいったい何なの? こんなもの見せるために、ここまで連れてきたの!?」

「まあ、話を聞こうよデラシネ」

「すまんなあ、今のロシアは、ちょっとごたついていてなあ。いつものように昔へ飛ぶことができないんだ。あ、ここは真岡にあった製糸工場の跡でなぁ、コンタクトしやすいんで、こっちに来てもらったんだ」

『ええと、昔の真岡や樺太を偲ぶところはないんでしょうか?』

「希望通りのところは無理だろうが、あんたの頼みだ。ちょっと考えてみよう」

『すみません、お手数をかけます』

「なあに、わざわざヤマセンブルグから来たんだ、歓迎はするよ」

 グゥ~~~~

「お、なんだ腹が減ってるのか?」

「あ、お昼食べる前にこっちにきたからかなぁ、思念体でもお腹が空くんだね(#^_^#)」

「そうか、二人とも思念体なんだ。それならもてなしようもあるというもんだ」

「え、なんか食べさせてくれるのかぁ!?」

「え、デラシネってリアルにご飯食べるの?」

 いつもは食堂で食べるフリだけしている。

「うん、じつは、どっちでも……というか、思念体ならリアルには食べられないだろう?」

「まかせておけ、これでも元は樺太の一の宮、それくらいは造作もない。行くぞ!」

 少彦名がクルっと回って風が起こったかと思うと、辺りが真っ白になったよ。



☆彡主な登場人物 

やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン  教頭先生
カーナボン卿     校長先生
酒井 詩       コトハ 聴講生
同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...