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025『お風呂に現れたデラシネ』

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やくもあやかし物語 2

025『お風呂に現れたデラシネ』 




 え、ボディーソープだ!


 頭を三回ガシガシやって気が付いた。

 まだ馴染み切っていないボディーソープを拭ってお湯で流して、シャワーをジャブジャブ。
 子どものころ――ま、いいや――と思って、そのままシャンプーして髪がバサバサのガシガシになったことがある。
 だから、もったいないけど流してやり直し。

 両横にはネルもハイジもいるんだから言ってくれればいいのに……と思うのはわたしの我がまま。人が掴んだのがシャンプーかボディーソープかいちいち見てないよね。

 やっと洗ってシャワーで流すと……え、誰も居ない。

 振り返ると浴槽にも洗い場にも人の姿が無い。

 え……?

 ネルとハイジの他にも五六人は居たはずなのに。

 耳を澄ますと、隣の男風呂の方にも脱衣場の方にも人の気配がない。

 日本ではさんざんあやかし達に出会ったので、その経験から騒いだりはしない。こういう時にうろたえると、事態はややこしくなるばかりだからね。

 ザップーーン

 しばらくすると大きい方の湯船に水柱が上がってデラシネが上がってきた!

「チ、なんで落ち着いてんだぁ!」

「いったい、どこから?」

 福の湯は四方に結界が張られて、あやかしは入って来れないはずだ。

 それに、人が居なくなってるし。

「あたしを完全に封じることなんかできないのよ」

「それにしては時間がかかったわね。福の湯が開業してから一週間も経ってるわよ」

「こっちにも都合があるんだよ」

「で、なんの用?」

 いずれは現れると思っていた、会いたいわけじゃなかったから、少し邪険にしてさっさと済ませるにかぎる。サッと立ち上がって浴槽に浸かる。

「いさぎいいな」

「いやなことはサッサと済ませる主義なの」

「お、おう」

 横に並んでやると、微妙にたじろぐデラシネ。

「さっさと言いなさいよ、長風呂は嫌いなんだから」

 体格は、わたしの方が微妙に大きい。こういう時は居丈高に出て、先にマウントをとる。
 
 すると敵は半分お湯に隠れたわたしの胸を見る。

 ジィィィィィィ(¬_¬)  

 いっしゅんたじろいだけど顔には出さない。わたしの方が微妙に大きいのを知っているからだ。

「おまえ、胸を手術したな」

「え、そんなのしてないよ」

 胸を隠したくなる衝動をなんとか堪える。

「オッパイじゃない、中身の方だ」

「え?」

「ソウルコードが移植されてる」

「それがどうしたの」

 ソウルコードって、言葉の意味さえ分からないけど、ここで「なにそれ?」なんて聞いたらマウントをとられてしまう。

「ヤクモ、お前のソウルは規格外だ。だから、それを繋ぎとめておくコードは並のものではもたないんだと思う。だから、ここ一年くらい前に丈夫なコードに入れ替えられている……日本語では、たしか『タマノオ』だ……おまえが強いのは、これが原因……ほんとに記憶にないのか、大手術だったはずだぞ」

「知らないわよ」

「まあいい、実は仲直りして頼みごとがあったんだけどな。その傷を見てしまった、出直すよ」

 そう言うと、デラシネはゆっくりお湯に浸かって姿をくらました。


 脱衣場に上がると、ハイジやネルたちがスゥエットやパジャマで、髪を乾かしたりコーヒー牛乳を飲んだり寛いでいる。

「長湯だったなヤクモ」

「え、ああ、シャンプーとボディーソープ間違えちゃって」

「え、そんなのどっちでもよくね?」

「みんな、ハイジみたいな野生児とは違うんだよ」

「なんだってぇ!」

 髪を触ってみると、頭頂部のとこだけ少しパサついている。

 タオルで拭くふりをして胸を見ると、やっぱり傷跡なんかは無かった。





☆彡主な登場人物 

やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン  教頭先生
カーナボン卿     校長先生
酒井 詩       コトハ 聴講生
同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
先生たち       マッコイ(言語学)
あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン

 
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