上 下
144 / 162

144『修学旅行・三日目だけど二日目のこと』

しおりを挟む
巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

144『修学旅行・三日目だけど二日目のこと』   




 二日目の昨日は嵐山・嵯峨野を経巡って、お昼を挟んで京都御所と二条城だった。

 バスを降りたら、まずは嵐山でクラス写真。

「え、直美さん!?」

 びっくりした。ガイドさんに案内された撮影場所には、我が雇い主の直美さんがカメラを構えて待っていた。

「忘れてもらっちゃこまるなあ、うちは宮之森御用達だぞ」

 直美さんは後半クラスに付いていたんで二日目まで見かけなかったんだ。

「東山界隈じゃ場所が無くてねぇ、最初から集合写真は嵐山って決まってたんだよ」

 ああ、そうだろうねえ、あのあたりで撮れるのは平安神宮か丸山公園だろうけど、8クラス500人近くを待たせておけるスペースは無い。

「バスの都合で後半クラスからだけど、前半もすぐだから、そのへんに居ててね」

「はーい」

 と返事しながらも佇んでしまう。他の子たちもそうなんだけど、松尾山、桂川とそれに掛かっている渡月橋、嵯峨野のお寺やお屋敷を一望にした中の島は絶景だ。
 令和のここいらは京都どころか日本観光のメダマになっていて、インバウンドの外国人でいっぱい。昭和の嵐山は、賑わっているとはいえ、まだまだ余裕で、すっかり寛いでしまう。

「あ、六組……」

 真知子が撮影準備の整った六組に目をとめた。

「「「「あ……」」」」

 わたしたちも声が揃った。最前列でしゃがんでいる子が佐伯さんの写真を構えている。

 そうなんだ、佐伯さんの命が助かったことは、まだ知らされていないんだ。

 助かったとはいえ、元通りに回復するかどうかは未知数だし、やっぱりあの話は校長先生と教頭先生のところで停めてあるんだ。

 何も言わないで三組の番がまわってくるのを待った。

「ほんとうは、お父さんが来るはずだったんだけどね……まあ、秋の関西も写真にはいい季節だからねぇ」

 うちのクラスを撮り終えると、フィルムを巻きながらポツリと直美さん。

 マスターは大正一桁生まれで、戦争で具合を悪くしたみたいで無理がきかない。まあ、だからこそ、わたしが雇われてるわけだけどね。

「まあ、わたしも楽しんでるから、グッチも楽しんできな」

「はい!」


 というわけで、お仲間と一緒に嵯峨野散歩。


「大覚寺の方まで行くと空いてますよ」

 ロコの提案で松尾山を左に見ながら北に向かう。

「左に行くと常寂光寺や野宮神社に落柿舎、見どころはいっぱいですが、人もいっぱいなんで、こっちが断然いいです!」

 他のグループたちが左右に散っていくのは、ちょっと心細いけど、ロコの調査能力には一目も二目も置いているので安心して進む。

「ほら、あれです!」

「「「おお……」」」

 わたしを除く三人がオッサンみたいな歓声を上げる。

「水戸黄門とかでよく出てくるよぉ~このへん~」

 たみ子が小手をかざして首を振る。

「そうねぇ、時代劇の定番ロケーションだねえ」

「ねえ、このアングルなんて旗本退屈男!」

「眉間の傷が目に入らぬかぁ」

「よ、早乙女主人之介!」「市川歌右衛門!」

「ああ、もう、さっさと入りますよぉ!」

 拝観料を払うと、清水寺とかとは違って靴を脱いで上がれる。

「ああ、なんか感激ねぇ、靴を脱いで上がれるなんて……」

「あちこちにお花が活けてあるょ~」

 佳奈子が指差した方を見ると、廊下や、開け放した畳の部屋やらに素人のわたしが見てもイカシタ生け花がある。

「これ、計算されてるねえ……思わない?」

 ナゾをかけるたみ子。

「え……あ、そうか」

 真知子が納得するけど、他の三人は???

「あちこちにあるけど、視界に入るのは一つだけになってる」

「うん」

「「「あ、ああ」」」

「さすがに、嵯峨御流の家元ですぅ!」

 ロコが感嘆の声を上げるけど、たみ子が言わなきゃ気が付かなかっただろうね。

 理論家のたみ子や真知子が感覚的に感心して、感覚派のロコが後れを取るのは見ていて面白い。

「寝殿造りで言ったら渡殿だよね」

 生け花に感心した建物から屋根付きの廊下かカギ状に向こうとあっちの建物に繋がっていて、女子高生の知識では寝殿造り。

 なんだか源氏物語の中にいるみたいな感じで渡殿を進んで行くと、ほんとうに寝殿造りのところに出てきた!

「「「「「おお……( ゚Д゚)!」」」」」

 またも五人で感動。

 縁側も軒も思い切り広くて深くて、建物と縁側は壁とか障子とかじゃなくて……なんといったかなぁ、これは?

「半蔀(はじとみ)ですよぉ!」

 そう、上下に分かれていて、上は車のハッチバックみたくに上下にスィングして、下の方は取り外しができるようになっている。

 なんだか、紫式部とかが出てきそうな設えだよ。

「金閣寺も半蔀だよね」

「おお、左近の橘、左近の梅ですよぉ!」

 庭には白砂が敷いてあり、正面には檜皮葺のごっつい門がある。

「ええとぉ……」

 すごい勢いでノートを繰るロコ。

「ここは宸殿と言って、後水尾天皇から下賜された本物ですよ! あっちの門は勅使門と言って、天皇か天皇のお使いをお招きする時以外はひらかれないんですよ」

「なるほど、それで菊の御門が付いてるんだ」

「「「「なるほどぉ」」」」

 なっとくして、それから、しみじみする。

「半蔀に蝉の金具がついてる」

「え……ほんとだ」

 半蔀は金箔が貼ってあって、どの半蔀にも二匹ずつ金の蝉が付いている。

 さすがのロコでも、これは分からないようだ。

 昨日の疲れもあって、いつの間にかコクリコクリとしてきた。

 すると、目の端っこに見えていた勅使門が音もなく開いてくるではないか!

 ちょ、ちょ(''◇'')。

 わたしの興奮が伝わって、みんなも目を覚まして、開き始めた勅使門に釘付けになった。

 そして、現れたのは……黒の半纏にちり取りと竹ぼうきを持った掃除のおじさんだった(^_^;)。

 無敵のおじさんに感動して大覚寺を後にする。

 お昼は大覚寺の東にある大沢の池のほとりで、配給されたお弁当を広げる。

 お弁当はアイデアだ。

 観光地だから食堂とかにはことかかないんだけど、どこに行ってもけっこうな人。それに、みんな仲間同士で食べたいから探すだけで時間がかかる。

 帰りは野宮と常寂光寺、竹林を抜けて大河内山荘に足を延ばし、芝生に座って眼下の桂川や京都の景色を見て過ごした。


 一時半に集合場所に戻ってバスに乗車。


 そして、金閣寺と二条城……も話したいんだけど、またこんどね(^_^;)。




☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やくもあやかし物語

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
やくもが越してきたのは、お母さんの実家。お父さんは居ないけど、そこの事情は察してください。 お母さんの実家も周囲の家も百坪はあろうかというお屋敷が多い。 家は一丁目で、通う中学校は三丁目。途中の二丁目には百メートルほどの坂道が合って、下っていくと二百メートルほどの遠回りになる。 途中のお屋敷の庭を通してもらえれば近道になるんだけど、人もお屋敷も苦手なやくもは坂道を遠回りしていくしかないんだけどね……。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

龍帝皇女の護衛役

右島 芒
ファンタジー
最年少で『特技武官』になった少年「兵頭勇吾」は学園に通いながらある任務に就いていた。 それは一人の少女を護る事。しかしただの護衛任務ではなかった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

まじぼらっ! ~魔法奉仕同好会騒動記

ちありや
ファンタジー
芹沢(せりざわ)つばめは恋に恋する普通の女子高生。入学初日に出会った不思議な魔法熟… 少女に脅され… 強く勧誘されて「魔法奉仕(マジックボランティア)同好会」に入る事になる。 これはそんな彼女の恋と青春と冒険とサバイバルのタペストリーである。 1話あたり平均2000〜2500文字なので、サクサク読めますよ! いわゆるラブコメではなく「ラブ&コメディ」です。いえむしろ「ラブギャグ」です! たまにシリアス展開もあります! 【注意】作中、『部』では無く『同好会』が登場しますが、分かりやすさ重視のために敢えて『部員』『部室』等と表記しています。

処理中です...