上 下
127 / 162

127『MITAKA特別講演会』

しおりを挟む
巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

127『MITAKA特別講演会』   




 久しぶりのMITAKAを階段教室でやってる。


 先日の世界史の授業、ツクツクボウシが鳴きやんだことから吉村先生が脱線。

 兵隊時代の話をしてくれて、みんな印象深かったので急きょMITAKAで講演してもらうことになったのだ。

「いやあ、階段教室いうのは大学以来ですなあ。むろん、学生でそっち側で、前に立って話すのは初めてです」

 事前に「どんな話をしてもらえますか?」と真知子が聞いたんだけど「まあ、思いつくままに(^_^)」ということで、黒板には十円男が『戦争を知らない子どもたちへ』とタイトルを書いて、ロコがお花を描いて、それらしい雰囲気。

「ええとぉ……戦時中の空襲いうと原爆とか東京大空襲ですが、この宮之森や大浜市にも空襲がありましたが、当時は大阪におりましたんで、大阪大空襲の話をします」

 そう言うと、先生は、黒板にサラサラと大阪の地図を描いた。

「当時は大阪城に第四師団が置かれて、外堀の南には第八連隊がありました」

 サラサラと天守閣の南東に師団司令部。内堀と外堀を跨いで連隊本部を書き入れた。

「僕は気象班やったんで、司令部の建物に居りました。司令部は天守閣を再建するときに……当時は城の中は陸軍の用地で、天守閣を再建するときに交換条件で師団司令部を作ったんですねぇ……あ、これです」

 先生が示してくれたのは、三階建ての異世界アニメに出てきそうな西洋のお城風。

「あ、『ゴジラの逆襲』に出て来た……」

 高峰君が呟いた。

 ゴジラと言えば『シン ゴジラ』と『ゴジラ-1.0』しか知らないわたしには、アニメの2クール目みたいで新鮮な響きがある。

「そうそう『ゴジラ』の二作目ですなあ、大阪城でナンチャラいう怪獣と大暴れする奴。あれにも出てましたなあ。あそこはGHQが居らんようになって、一時は警視庁が置かれましてなあ……」

「え、大阪に警視庁があったんですか?」

 四組の男子が声を上げる。

「うん、すぐに大阪府警と改めるんですがね、あのころは自治体警察いいましてねぇ……あ、いまでも言うか。けど中身は全然違って、アメリカの警察と同じでした。大阪で犯罪が起きてパトカーで追いかけますなあ、県境を超えて京都とか兵庫に行かれると捕まえられません」

 ビックリする声と笑い声が起こる。

「『青い山脈』いう古い小説が、映画にもなってますが、吉永小百合、浜田光男なんかの青春映画の走りですな。主人公を寺沢新子いう女子高生なんですが、ラストでリンゴの密輸、終戦直後は自治体やら国の許可なしに食料を県外に移送することは違法やったんです。家のためやったか友だちの家のためやったか、新子はリンゴをトラック一杯に積んで値段の高い県外に輸送するんです。密輸の女親分ですなあ。新子は警察に見つかってパトカーに追われるんですが、県境を越えると追うてこんようになります」

 アハハハ

 笑いが起こって、わたしは『ラピュタ』でシータと空賊の女親分を思い出した。

「それで、警察の予算も自治体から出るもんやから、小さな町では警察官の給料も払えません。当然、自治体によって給料も違いますしねえ」

「なんか、アメリカの保安官みたいですねえ」

 久々に出て来た佳奈子が面白がる。

「元々、GHQの指導でできた警察ですからね、モデルはアメリカです。あ、そうそう、大阪の大空襲は5月13日やったんですが、月の初めに東京の大本営から参謀飾緒付けたエライさんが来て『五月に大空襲がある模様だから対策するように』て注意しよったんです」

「事前に分かってたんですか!? あ、すみません(;'∀')」

 たみ子が、ちょっと大きな声を出して、自分で謝る。

「そらぁ、日本の軍隊もアホやないから知ってます。重要書類やら燃料やら大事なものは避難させんとあきませんからね。兵隊は、来たるべき本土決戦のために、空襲で死なすわけにはいきませんからね」

 ええぇ……

「それで、第四師団のエライサンは『大阪府民に伝えるべき!』やと言うたんですが、大本営は『軍機に属することだから一般には伝えてはならん!』と言うんですなあ。その言い争う声が廊下まで聞こえてきましてなあ、外の車寄せから大本営が帰りよるまで殺気だってました」

 大本営の秘密主義にもビックリしたけど、大阪の第四師団も意外に府民の事を思っているのでビックリした。

「それで、第四師団はどうしたんですか?」

「いや、軍機ですからね、府民に言うわけにもいかず、防空についての指導やら教練に力を入れました。まあ、これで悟ってくれいう感じでしょうなあ」

「それで、大阪大空襲はどれほどの被害が出たんですか?」

「ううん……4000人ぐらい死者がでましたかねえ……」

 4000……という数字に二種類の反応。

 多いというのと、逆に少ないという反応。

「東京大空襲は七万人死んだと聞いてます、空襲の規模が違ったんですか?」

 10円男が数字を挙げて質問する。学園紛争やってる時に少しは勉強したのかもしれない。

「規模は同じくらいです。B29は300機前後来ましたし、爆弾やら焼夷弾は2000トンぐらい落としていきました。あ、それと東京大空襲の七万いうのはあくる日に警察が把握した数なんで、その後に分かった分を合わせたら10万はいくでしょうねえ」

 10万……広島や長崎より多いよ、たぶん……。

「まあ、ただの伍長でしたからね、細かいところはわかりませんが、そんなもんです。そうそう、僕は気象班でしたんで、毎日司令部の屋上で、風向きやら気温やら日照を調べて上の方に報告するんです。まあ、日に三回ほど、あとは大学で気象学やってた班長、大尉なんですが、この人を中心に喋ってばっかりですわ。まあ、ヒマやったんですなあ。終戦の前の年ぐらいまでですが、暑くなってくると『吉村さん、ビール買うてきてくれませんか』と頼まれる。班長は会社で言う管理職なんで、公用の外出許可を出せるんです。それで、公用の腕章つけて、堂々とビールを買いに行ったこともありました」

「戦時中にビールがあったんですか?」

「あるとこにはあります。まあ、大空襲のまえぐらいまでは」

 じっさい現場にいた人の話だから面白く、下校時間いっぱいまで先生のMITAKA特別講演は続いた。



☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やくもあやかし物語

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
やくもが越してきたのは、お母さんの実家。お父さんは居ないけど、そこの事情は察してください。 お母さんの実家も周囲の家も百坪はあろうかというお屋敷が多い。 家は一丁目で、通う中学校は三丁目。途中の二丁目には百メートルほどの坂道が合って、下っていくと二百メートルほどの遠回りになる。 途中のお屋敷の庭を通してもらえれば近道になるんだけど、人もお屋敷も苦手なやくもは坂道を遠回りしていくしかないんだけどね……。

あまたある産声の中で‼~『氏名・使命』を奪われた最凶の男は、過去を追い求めない~

最十 レイ
ファンタジー
「お前の『氏名・使命』を貰う」 力を得た代償に己の名前とすべき事を奪われ、転生を果たした名も無き男。 自分は誰なのか? 自分のすべき事は何だったのか? 苦悩する……なんて事はなく、忘れているのをいいことに持前のポジティブさと破天荒さと卑怯さで、時に楽しく、時に女の子にちょっかいをだしながら、思いのまま生きようとする。 そんな性格だから、ちょっと女の子に騙されたり、ちょっと監獄に送られたり、脱獄しようとしてまた捕まったり、挙句の果てに死刑にされそうになったり⁈ 身体は変形と再生を繰り返し、死さえも失った男は、生まれ持った拳でシリアスをぶっ飛ばし、己が信念のもとにキメるところはきっちりキメて突き進む。 そんな『自由』でなければ勝ち取れない、名も無き男の生き様が今始まる! ※この作品はカクヨムでも投稿中です。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

まじぼらっ! ~魔法奉仕同好会騒動記

ちありや
ファンタジー
芹沢(せりざわ)つばめは恋に恋する普通の女子高生。入学初日に出会った不思議な魔法熟… 少女に脅され… 強く勧誘されて「魔法奉仕(マジックボランティア)同好会」に入る事になる。 これはそんな彼女の恋と青春と冒険とサバイバルのタペストリーである。 1話あたり平均2000〜2500文字なので、サクサク読めますよ! いわゆるラブコメではなく「ラブ&コメディ」です。いえむしろ「ラブギャグ」です! たまにシリアス展開もあります! 【注意】作中、『部』では無く『同好会』が登場しますが、分かりやすさ重視のために敢えて『部員』『部室』等と表記しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...