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097『こじれた運命』

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

097『こじれた運命』   




 良かった半分、凹んだ半分で家に帰る。


 良かったのは池田すみ子さんを無事にTテレに送り届けたこと。

 凹んだのは授業に遅刻して花園先生に叱られたこと。


 帰りに早乙女さんの家の前を通ると、家の前にはテレビの中継車とテレビ局のロゴの入ったバンが停まっている。近所の人も遠巻きに見ていて、ただごとじゃない。

 一瞬、間に合わなかったのかと思った。

 やっぱりお爺さんがお婆ちゃんを殺してしまって、マスコミが取材に来てる!?

 アハハハ  カメラテスト  いいですか?  いつでもぉ  お元気だなあ早乙女さ~ん

 明るい声がしてチラ見すると、わたしでも知っているバラエティーのMCがマイクをお婆さんに向けている。

 お婆さんは、お婆さんなんだけど、ペットの犬を抱っこしながら受け答えする姿は若やいで大女優の貫録。


 そうか、うまくいったんだ。お婆さん、池田すみ子さんは無事にオーディションに通って女優の道に進んで大成したんだ(^▽^)。

 MCのおじさんが「お元気の秘訣は?」とか「いちばん思い出に残る作品は?」とか笑顔で聞いている。

 門柱の表札は『早乙女』ではなくて『池田』になっている。

 そうだよね、芸能人、それも大スターともなれば、芸名で表札なんか出さないよね。本名の『池田』で出すのが当たり前だよね。

 見物のご近所さんの声も聞こえてくる。

「お元気ねえ」「デビュー50ッ周年だもんねぇ!」「53年よ、主演をとってから50年」「毎年ぃ?」「毎年よ、もう100本になるって!」「すごいわねえ……」「でも、暮らしは普通っぽいわねえ」「中古でしょ、お宅は?」「いえいえ、裏の三軒も……」「え、あのお屋敷ぃ?」

 最後の一言に興味が湧いて、裏の通りに行ってみる。

 わ!?

 ビックリした。

 裏は70坪くらいの家が三軒あったはずなんだけど、大きなお屋敷になっている。出入り口は小さな御勝手口みたいなのがあるっきりで、あとはガレージのシャッター。なるほど、普通の皮を被った豪邸なんだ。

 よしよし(^▭^)。

 安心して家に帰ると、お祖母ちゃんはまだ帰っていない。

 
 一時間近くたってお祖母ちゃんは帰ってきた。


「ああ、くたびれたぁ~~~~」

「遅かったじゃない、お祖母ちゃ……どうしたの?」

 お婆ちゃんの髪は半分以上白髪になって、顔のしわが倍くらいになっている。

「メグリ、あんた余計なことしたでしょ」

「なによ、余計なことって」

 ちょっとムカついた。

「早乙女さんのお婆ちゃんの人生変えちゃったでしょ……」

「え、ああ! テレビが取材に来てすごかったんだよぉ!」

「ああ……いいことした気でいるんだ」

「え、なによ、それ!?」

「もう二時間も前に帰ってきたんだけどね、家に入ったらグラッてきたのよ」

「どこか悪いの?」

「ちがうわよ、運命線やら時空線がグチャグチャになって歪んでしまってたのよ」

「え……なんで?」

「無理な運命操作やると、歪が出るのよ……」

 魔法少女のスマホを出していろいろチェックするお婆ちゃん。

「お婆ちゃんち、苗字は池田だったろ」

「ああ、うん。大女優だから、芸名とかは……」

「池田すみ子は、結婚しなかったし、子どもも孫も居なくなった。そうなっちゃったのよ、メグリの介入で」

「それって……」

「旦那も含めて16人に影響が出て、うち10人は生まれてこないことになったのよ」

「え、ええ(꒪ꇴ꒪〣) !?」

「それで、お祖母ちゃん、過去に行って修正して戻ってきたところなのよ」

「ご、ごめん……あ、でも二時間ほどで片が付いたのよね?」

「バカモン!」

「ヒ!」

「行ったり来たりで合計120年もかかってしまった!」

「え、そうなの(;'∀')?」

「須世理姫も悪気はないんだろうけどね……お社も氏子も無くして百年も経つからねえ……まあ、お会いしたらよろしく言っといてぇ」

 そう言うとお祖母ちゃんは、部屋にいって、そのまま寝てしまった。


 明くる朝、起きて一階に下りると、いつものお祖母ちゃんに戻って、日本中晴れて憲法記念日の5月3日。

 顔も洗わずに表に出て三軒隣りを確認する。

 よかったぁ、表札は『早乙女』に戻ってるし、家の中には人の声がしてるし。

「あら、時司さんの娘さん?」

「あ?」

 振り返ると池田すみ子……いや、早乙女のお婆ちゃん。

「お家から出てくるの見えたから」

「あ、はい、三軒隣りの時司です」

「やっぱりそうなのね、ご挨拶遅れてごめんなさい。こんど越してきた早乙女です。あらためてご挨拶にうかがうけど、どうぞよろしくね」

 品のいい笑顔を残して家に入るお婆ちゃん。

 
 なんとか無事に連休の半ばが過ぎていったぁ。




☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
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