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074『宮之森連隊戦友会』

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

074『宮之森連隊戦友会』   




 震度5という地震は初めてだ。


 三つになるかならないかで東日本大震災に遭ってるんだけど記憶がない。

 まあ、たかだか16年の人生だからね。

 震源地の能登半島ではかなりの被害が出て、輪島では火事が起こった。

 道路は寸断されて、駆けつけた消防団は二つしかなくって、おまけに陸地が隆起して川や海から水を取ることも難しく、ほとんど自然に燃え尽きるのを待つしかない状態だったってニュースでやっていた。

「お祖母ちゃん、魔法少女は地震を防いだりとかはできないの?」

 テレビの中継を観ていて、思わず聞いてしまった。

 お祖母ちゃんは、それには応えずに、肩を寄せて十年ぶりぐらいに頭を撫でてくれるだけ。

 自分でも分かってる。これは質問じゃなくて、ほとんど悲鳴だったんだ。

 明くる二日には羽田空港で日航の飛行機と海上保安庁の飛行機が衝突。

 空港のカメラとかが撮っていて、まるで映画の特撮シーンみたいに鮮明で、それが何度も何度も流されて、ちょっとトラウマ。
 日航の300人以上の人たちは奇跡的に全員無事、海上保安庁の人たち5人が亡くなった。


 四日の日には橋を渡って1971年でアルバイト。


 写真館のアルバイトも、もうニ十回以上。そのほとんどが結婚式場の撮影。
 時々、お葬式や会社とかの行事の記念写真。

「今日はね、戦友会の記念写真だよ」

 ホンダZのハッチバックに機材を載せながら直美さん。

「戦友会?」

 ちょっとピンとこない。

「うん、宮之森連隊の」

「宮之森レンタイ?」

「うん、伯父さんが居た連隊なんだけどね、その縁で毎年呼んでもらえるの」

「えと、レンタイって?」

「え、ああ、そこから分からないか(^_^;)」

 レンタイと言われると連帯という漢字に変換してしまう。アクセントでは変態と同じだもんね(^・^;)。

 会場の大浜の旅館に着くまで「わたしも詳しくないんだけどねぇ」と言いながらあれこれ教えてくれる。
 その伯父さんの上にもう一人伯父さんが居て、上の伯父さんは海軍でパイロットをやっていたそうだ。


「いやあ、直美ちゃん、今年も世話になるよ(^▽^)」


 応対に出てきた幹事のオジサンは、まだ五十がらみで頭もフサフサ。
 まだ、戦後26年だから、そんなものなんだけど、令和で生きてると戦争にいった人って若くても90代後半だから、勘が狂う。

「じゃあ、お酒が入る前にシャンとしたところを撮りましょう!」

「アハハ、去年は揃うの待ってから撮ったから出来あがっちゃってたからねえ。おーい、みんな先に撮るぞぉ!」

 中に呼びかけて、大広間に100人近くのオジサンが集合。

「まず、黙祷します。三列横隊、並べ!」

 オジサンが掛け声をかけると、意外な機敏さで並ぶ。右手を腰に当てチマチマと間隔を正していくところなんか、軍隊式なんだろうけど、ちょっと可愛い。そして、並んだ向きは、なぜか斜め。

 それで、なんと黙祷は二回行われた。

 最初は、戦死した仲間たちと戦後病気とかで亡くなった仲間たちへの黙祷。

 斜めなのは靖国神社の方角を向いているからなんだそう。なるほど。

 あれ?

 二回目はオジサンの号令で、全員回れ右。

「三河地震犠牲者の霊に黙とうを捧げます……黙祷!」

 え、三河地震?

「じゃあ、お写真撮らせていただきます」

「写真撮影隊形に並べ!」

 これもオジサンの号令でキビキビと並んで、結婚式場の撮影よりも早く済んだ。


「三河地震ってなんですか?」


 いっしょに飲んでけと言われ「いやあ、まいったなあ」と笑顔で一杯だけビールで乾杯……と思ったら、ほとんど一本と日本酒に付き合う直美さん。わたしは、さすがにオレンジジュース。
 
 これは運転代行頼まなきゃ……と思ったら、まさかの飲酒運転!?

 この時代は少将のアルコールは平気みたい(^_^;)

 で、車が走り出してから聞いた。

「うん、終戦の年の1月13日に三河地震があってね、大勢人が亡くなったのよ。戦時中だからいっさい報道はされなかったんだけど、宮之森の兵隊さんたちはみんな救援に駆り出されたんだって」

「そんな地震があったんですか?」

「うん、前の年の昭和19年にも大きな地震があって、戦災もあって、ここいらは踏んだり蹴ったりみたいだったって言うわよ」

「そうだったんですかぁ……」

「東京から疎開に来て、東京の家は無事だったけど、地震で亡くなった小学生とかね……」

「そうなんですか……」

「教頭先生居たの気づいたぁ?」

「え?」

「教頭先生、兵隊だったのよ宮之森連隊の」

「え、そうだったんですか!?」

「メグッチ、公式にはバイトの許可とってないでしょ」

「え、許可いるんですか!?」

「生徒手帳に書いてある」

「そうだったんですかぁ」

 ちょっとヤバイかなあ。

「アハハ、守ってる子なんて半分も居ないけどね。まあ、気づかれなかったってことよ。めでたしめでたしぃ(#^_^#)でOKよ!」

 あ、酔ってる。

 帰り道は、なんと交番のお巡りさんにも挨拶するしぃ。

 いやはや、昭和の宮の森は平和に年が明けた。
 



☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
辻本 たみ子            1年5組 副委員長
高峰 秀夫             1年5組 委員長
吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
藤田 勲              1年5組の担任
先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部)
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
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