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064『三島事件とわたしたち』
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
064『三島事件とわたしたち』
図書室の窓際のテーブル。
そこに新聞のバインダーを四つ並べ、部活の佳奈子を除くお仲間四人で覗き込んでいる。
どのバインダーも、11月27日の日付。
「うわぁぁぁ」「気持ち悪いぃ」「ひどいねえぇ」「狂ってるぅ」「ひえぇぇぇ」
さっきから、同じような感想的悲鳴をあげまくり。
昼休みの図書室は、休憩を兼ねて入ってる生徒も多いので、多少の会話は大目に見てもらえる。
ほかの生徒や先生も、わたしたちが何を見ているのかは察しているから――さもありなん――と言う感じ。
新聞各紙は一面のトップと三面の大半を使って三島事件を書き立てている。
切腹! 狂気! 無残! 乱入! 割腹自殺! 美学崩壊!
そんな単語が特大の活字で書き立てられ、その下や横には三島と弟子の首が転がってる写真まで出てるしぃ(;'∀')。
令和の新聞だったら、こんな写真はぜったい載せられない。犯人に掛けられた手錠だって隠すよ。
こんなのを載せている新聞も、なにか狂気じみて見える。
ロコが最初に知らせてくれたときはピンとこなかった。
三島って名詞にはなじみがない。最初に浮かんだのは新幹線、たまに乗っても通過するだけの駅。
やっと思いついてスマホで検索すると、クッキリ眉毛の下でギョロリとした目がおっかない。
解説はめちゃくちゃ長くって、超有名な作家というか文学者なんだろうけど読む気がしない。
ノーベル文学賞にもノミネートされて世界的にも有名人。
作品はいろいろたくさんだけど、やっと『金閣寺』が聞いたことあるかなというレベルですよ、あたしは。
その三島由紀夫が盾の会の隊員二人を連れて、陸上自衛隊市ケ谷駐屯地を訪れた。東部方面総監という偉い人を人質に取って自衛隊の人たちに決起を促して演説した後、切腹。その首は弟子の隊員が軍刀で切り落とし、その弟子も切腹の上、もう一人の弟子に首を切らせたというショッキングな事件。
「これだけありましたよ!」
ドデン!
ロコがテーブルに十冊余りを載せたのは、どれも三島由紀夫の作品。
『潮騒』『憂国』『愛の渇き』『豊饒の海』『命売ります』『恋の都』『私の遍歴時代』『肉体の学校』などなど。
「あれ、金閣寺はないのね」
真知子が不思議がる。
「ああ、文庫のが二冊あるそうなんですけど、貸し出し中だそうです」
「やっぱり、意識の高い子がいるんだ」
たみ子が腕を組んで感心する。
「でも、うちぐらいだったら単行本があるんじゃないの?」
「はい、初版本があったらしいんですけど、十年も前に盗まれたんだそうです」
「ああ、値打ちあるもんねぇ」
「はい、金閣寺の初版本なんて万札五枚はしますからねえ」
真知子の質問もすごいけど、ロコの調査能力もたいしたものだわ。
「まあ、こんなことするような人がノーベル賞とらなくてよかったわよ」
「うん……でも、今の世の中三無主義とかもあるからねえ、こんな人も出てくる」
「切腹なんてもってのほか、腹は切るもんじゃなくて減るものよ」
「そうそう、学食いこうよ(^_^;)」
わたしの唯一の提案に、みんな同意して学食へ。
残り物のうどんをすすって話題はクリスマス。
「ねえ、学校でクリスマスやっちゃだめかなあ?」
お箸をおいて真知子が指を立てる。
「クリスマスですか!?」
眼鏡を曇らせたままロコが顔を上げる。
ププ( ̄m ̄〃)
「もう、笑わないでくださいよ」
「あ、ごめんごめん」
真知子が、わたしとたみ子の分も謝ってくれて本題に入る。
「文化祭とか体育祭で後夜祭やるかと思ったら無かったでしょ」
「ああ、うんうん、昔はやったらしいけど、ちょっと待って……」
おうどんの出汁を飲み干してたみ子が話を続ける。
「ファイアーストームやったらしいけど、あれやると、グラウンド傷むんだって。それに、煙とか灰とかも飛ぶし、消防のこともあってやらなくなったんだって」
「そうですよね、火を使うのは学校の許可難しいですよね」
「あ、そうか!」
「グッチはピンときたようね」
「うんうん、クリスマスツリーなら火は使わないよね!」
「中庭の楠でやれそう!」
たみ子もスイッチが入った。
「さっそく、あちこち打診してみましょう!」
「うん、まずは生徒会と先生たちだね」
三島事件はあっという間にどこかにいって、わたしたちはクリスマスのたくらみに熱中した。
帰り道、商店街を通ったら『三島由紀夫の本あります!』と本屋の前に張り紙がされて、入って直ぐのところに単行本やら文庫本が平積みになっていた。
電車に乗っても、みんな新聞を四つ折りぐらいにして三島事件の記事を読んでいる。
昭和45年だから、スマホなんて無いので本や新聞を読んでいるのは普通なんだけど、みんなが三島事件を読んでいるのは、ちょっと異様。
車窓からチラッと見えたガスタンクは、いつになく満タン状態。
でも、まあ、昭和の女子高生も図書室で新聞読み比べる程度、頭は早々とクリスマスモードになっちゃったし、寿川を渡ったころには令和の16歳に戻っていたよ。
☆彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ) 1年5組 クラスメート
辻本 たみ子 1年5組 副委員長
高峰 秀夫 1年5組 委員長
吉本 佳奈子 1年5組 保健委員 バレー部
横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
藤田 勲 1年5組の担任
先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組)
灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人
064『三島事件とわたしたち』
図書室の窓際のテーブル。
そこに新聞のバインダーを四つ並べ、部活の佳奈子を除くお仲間四人で覗き込んでいる。
どのバインダーも、11月27日の日付。
「うわぁぁぁ」「気持ち悪いぃ」「ひどいねえぇ」「狂ってるぅ」「ひえぇぇぇ」
さっきから、同じような感想的悲鳴をあげまくり。
昼休みの図書室は、休憩を兼ねて入ってる生徒も多いので、多少の会話は大目に見てもらえる。
ほかの生徒や先生も、わたしたちが何を見ているのかは察しているから――さもありなん――と言う感じ。
新聞各紙は一面のトップと三面の大半を使って三島事件を書き立てている。
切腹! 狂気! 無残! 乱入! 割腹自殺! 美学崩壊!
そんな単語が特大の活字で書き立てられ、その下や横には三島と弟子の首が転がってる写真まで出てるしぃ(;'∀')。
令和の新聞だったら、こんな写真はぜったい載せられない。犯人に掛けられた手錠だって隠すよ。
こんなのを載せている新聞も、なにか狂気じみて見える。
ロコが最初に知らせてくれたときはピンとこなかった。
三島って名詞にはなじみがない。最初に浮かんだのは新幹線、たまに乗っても通過するだけの駅。
やっと思いついてスマホで検索すると、クッキリ眉毛の下でギョロリとした目がおっかない。
解説はめちゃくちゃ長くって、超有名な作家というか文学者なんだろうけど読む気がしない。
ノーベル文学賞にもノミネートされて世界的にも有名人。
作品はいろいろたくさんだけど、やっと『金閣寺』が聞いたことあるかなというレベルですよ、あたしは。
その三島由紀夫が盾の会の隊員二人を連れて、陸上自衛隊市ケ谷駐屯地を訪れた。東部方面総監という偉い人を人質に取って自衛隊の人たちに決起を促して演説した後、切腹。その首は弟子の隊員が軍刀で切り落とし、その弟子も切腹の上、もう一人の弟子に首を切らせたというショッキングな事件。
「これだけありましたよ!」
ドデン!
ロコがテーブルに十冊余りを載せたのは、どれも三島由紀夫の作品。
『潮騒』『憂国』『愛の渇き』『豊饒の海』『命売ります』『恋の都』『私の遍歴時代』『肉体の学校』などなど。
「あれ、金閣寺はないのね」
真知子が不思議がる。
「ああ、文庫のが二冊あるそうなんですけど、貸し出し中だそうです」
「やっぱり、意識の高い子がいるんだ」
たみ子が腕を組んで感心する。
「でも、うちぐらいだったら単行本があるんじゃないの?」
「はい、初版本があったらしいんですけど、十年も前に盗まれたんだそうです」
「ああ、値打ちあるもんねぇ」
「はい、金閣寺の初版本なんて万札五枚はしますからねえ」
真知子の質問もすごいけど、ロコの調査能力もたいしたものだわ。
「まあ、こんなことするような人がノーベル賞とらなくてよかったわよ」
「うん……でも、今の世の中三無主義とかもあるからねえ、こんな人も出てくる」
「切腹なんてもってのほか、腹は切るもんじゃなくて減るものよ」
「そうそう、学食いこうよ(^_^;)」
わたしの唯一の提案に、みんな同意して学食へ。
残り物のうどんをすすって話題はクリスマス。
「ねえ、学校でクリスマスやっちゃだめかなあ?」
お箸をおいて真知子が指を立てる。
「クリスマスですか!?」
眼鏡を曇らせたままロコが顔を上げる。
ププ( ̄m ̄〃)
「もう、笑わないでくださいよ」
「あ、ごめんごめん」
真知子が、わたしとたみ子の分も謝ってくれて本題に入る。
「文化祭とか体育祭で後夜祭やるかと思ったら無かったでしょ」
「ああ、うんうん、昔はやったらしいけど、ちょっと待って……」
おうどんの出汁を飲み干してたみ子が話を続ける。
「ファイアーストームやったらしいけど、あれやると、グラウンド傷むんだって。それに、煙とか灰とかも飛ぶし、消防のこともあってやらなくなったんだって」
「そうですよね、火を使うのは学校の許可難しいですよね」
「あ、そうか!」
「グッチはピンときたようね」
「うんうん、クリスマスツリーなら火は使わないよね!」
「中庭の楠でやれそう!」
たみ子もスイッチが入った。
「さっそく、あちこち打診してみましょう!」
「うん、まずは生徒会と先生たちだね」
三島事件はあっという間にどこかにいって、わたしたちはクリスマスのたくらみに熱中した。
帰り道、商店街を通ったら『三島由紀夫の本あります!』と本屋の前に張り紙がされて、入って直ぐのところに単行本やら文庫本が平積みになっていた。
電車に乗っても、みんな新聞を四つ折りぐらいにして三島事件の記事を読んでいる。
昭和45年だから、スマホなんて無いので本や新聞を読んでいるのは普通なんだけど、みんなが三島事件を読んでいるのは、ちょっと異様。
車窓からチラッと見えたガスタンクは、いつになく満タン状態。
でも、まあ、昭和の女子高生も図書室で新聞読み比べる程度、頭は早々とクリスマスモードになっちゃったし、寿川を渡ったころには令和の16歳に戻っていたよ。
☆彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ) 1年5組 クラスメート
辻本 たみ子 1年5組 副委員長
高峰 秀夫 1年5組 委員長
吉本 佳奈子 1年5組 保健委員 バレー部
横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
藤田 勲 1年5組の担任
先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組)
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