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059『高校生集会に行った』

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

059『高校生集会に行った』   




 10月も末の日曜日、地元の奥宮駅から七つ向こうの谷口(やとぐち)駅に来ている。



 なんでかっていうと、ほら、高校生集会。

 MITAKAで盛り上がって――今度は高校生集会に行こう!――って話がまとまったでしょ。

 

 会場は県立大浜高校。

 大浜って言うのは、バイトでいってる結婚式場がある丘。そこを下った団地の先にある大きな街。

 位置関係でいうと、平仮名の『し』、『し』の頭のところに我が家の最寄りの奥宮駅。

 頭のところから二駅下りたところが学校がある宮之森駅。

 宮之森駅を出ると電車は大きな弧を描いて東に向かって『し』の底のあたりでスコーンと開けて海が見える。

 その大海原を右手に見つつ、三つ目の大きな駅が大浜駅。



 駅に着くと、いろんな制服の高校生が大浜高校を目指している。

 中三の時の模試を受けたのに似ている。



 大浜高校は県内有数の進学校で、なんか校門潜るだけで位負けしそう。

「昔のナンバースクールですからねえ……」

「ナンバースクール?」

「あ、昔は、県立一中とか第三高女とか番号ついてたんですよ。ちなみに大浜は県立一中ですからねグレードが違います」

 ロコは平気なようだ。

 他の子たちはどうしてるのかなあと思ったら、メガホン持って案内係やってる真知子が目についた。

「案内板で分科会の教室を確認してから入ってくださーい。校舎内は土足厳禁です、入り口で持参した上履きに履き替えてくださーい」

 慣れた口調で案内しながら矢印のプラカードを振っている。矢印の先には合格発表の時みたいな大きな張り紙の案内図がマジックで書かれている。

「サブカルチャーはあっちですね」

 ロコは、自分のは後回しにしてわたしの会場を探してくれる。

「じゃ、終わったら、またここで」

 

 政治活動とか安保問題とかは苦手なんで、サブカルチャーって令和のわたしでも付いていけそうな分科会を選んだ。

 他の分科会は普通の教室を使ってるんだけど、サブカルチャーのは視聴覚教室。

 視聴覚教室はおっきくて、マイクとかの放送設備もあるので、きっと他よりも参加者が多いのだろうと思った。



 てっきり、マンガ、アニメ、ライトノベル的なのが話題になるかと思ってた。



『新宿フォークゲリラ闘争の総括と展望』



 え、なに(;'∀')?



 上下可動式の黒板の隠れていた裏側のが下ろされると、物騒なタイトルが書かれている。

 いっしゅん頭に浮かんだのは、サバゲーみたいな戦闘服にヘルメット姿のゲリラたちが手に手にフォークを持って、こっちに襲い掛かって来る姿!

 え、サブカルの分科会だよね?

 プチパニックになっていると、ショートカットの大浜女子が制服の袖をまくって現れた。

「ここにいるみんなも承知している通り『新宿駅西口闘争』は当局の不当な弾圧により敗北し……」

『敗北って言うな!』『ナンセンス!』

「失礼、頓挫するに至った。しかし、我々の不屈の精神は、これを頓挫のままに置いておくことは思考を停止することだと思う。昨年の状況を振り返り総括して、新たなる地平を見出し、60年代を通して醸成されてきた我々の文化を失うことになると思う。ここには、この闘争を真に理解するに至っていない、ノンポリの諸君も多いとと思う。まずは映像資料によって事実を確認するところから始めたいと思う。上映時間は16分。実行委員の諸君は窓を閉め暗幕をひいてくれ」

 シャーー シャーー シャーー

 暗幕がひかれると、黒板の前にスクリーンが下ろされ、同時に照明が落ちて、スクリーンに映像が映された。



 友よ~ 夜明け前の闇~の中で~ 友よ~ 戦いのぉ~ 炎を燃やせ~♪



 なんか物騒な歌をアコステ持ったニイチャンたちがリードし、地下通路に集まった数百人、ひょっとしたらそれ以上の若者たちがスクラム組んで歌っている。

 場所は、なんか地下通路? ぶっとい柱が何本もあって、天井が低いんだけど、それなりに広さがある。

 カメラがパンすると、面積的には学校の体育館よりも広い。

 みんなふつうの服装なんだけども、ゼッケンとか付けたら、どこかの国の労働争議みたい。

 え、なんか行進してる。ヘルメット被ってる奴もいるし、なんか体育祭の日に10円男らがやってたデモの豪華版?

 歌も「インタナショナ~ル 我らが~もの~」なんて物騒になってきたしぃ。

 画面が切り替わると、機動隊が周囲を取り囲んで、隊長っぽい隊員がマイクを握った。

「君たちの行為は道路交通法に違反するだけではなく、東京都迷惑防止条例にも違反……すみやかに解散しなければ、我々は実力を持って、この新宿駅西口広場より君たちを排除する」

「ナーンセンス!」「帰れ、機動隊!」とかヤジが飛ぶ。

 上映はあっという間に終わって、明かりが点くと、会場は、ちょっと異様な雰囲気。

 なんていうんだろ、火が点きましたというか、体育祭で騎馬戦が始まる直前みたいな空気。

 それからは、使われてる言語が日本語であると言う以外には理解できない言葉が飛び交って、さらに高揚していく。

「では、これからジッセンに入るぞー!」

 大浜女子が拳を突き上げると、アンプに繋がったアコステを抱えたニイチャンが二人出てきて、大合唱になる。

 なんか、昔の若者の歌っぽいんだけど、一つも分からない。

 あ、知ってると思えたのは『今日の日はさようなら』一曲だけ。

 なんで知ってるんだろう?

 

 あ、そうか『エヴァンゲリオン』の挿入歌なんだ!



 でも、エヴァといえば『残酷な天使のテーゼ』でしょ!



 何曲も知らない曲が続いて思った。

 いろいろ言ってるけど、ようはみんなで歌いたかったんじゃなかったのかなあ?

 

☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
辻本 たみ子            1年5組 副委員長
高峰 秀夫             1年5組 委員長
吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
藤田 勲              1年5組の担任
先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組)

  
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