40 / 170
040『サラダパスタとパストフィックス』
しおりを挟む
巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
040『サラダパスタとパストフィックス』
葦船の話で盛り上がった帰り道。
戻り橋を渡っていると、無性に志忠屋のサラダパスタが食べたくなる。
サラダパスタと銘打ってるけど、まあ、冷やし中華のパスタ版、志忠屋の夏の限定メニュー。
なんか秘密の薬味が入ってるとかで、ちょっとクセになる味。
ちょっぴり汗は出るけど、食べた後、半日ぐらいは元気でいられる。
戻り橋に差し掛かったところで、スマホが着信のシグナルを奏で、渡りながら見ると、音信不通と言っていいお母さんのボーナスが振り込まれ、わたしへのおすそ分けが振り込まれたというラッキーなお知らせ。それで、瞬間でサラダパスタが思い浮かんだわけ。
戻り橋を渡って、一つ上の寿橋を渡って戻る。
寿橋を渡れば令和の宮之森。
MS銀行でお金を下ろして角を曲がると、銀行の通用口から猫又のアイさんが出てくる。
志忠屋に入るまでは耳も尻尾も出さずに普通のOLさん。
でも、なにかあったんだ。
猫又さんたちにも慣れたので、その後ろ姿でただの昼食休憩じゃないことが分かる。なんとなくだけど。
「「サラダパスタ!」」
オーダーの声が揃って、アイさんはわたしに気づく。
ポニョン
気づくと同時に耳と尻尾が出る。
「メグリには隠す必要ないもんね(^_^;)」
「ネコミミの方がかわいいのにね」
「リアルじゃ出せないからね、志忠屋はくつろぐわあ……」
「ハローウィンは一晩中出しっぱなしやけどな」
「年に一回っすよ」
「おまえらのオカンの時代はハローウィンでも出されへんかった」
「ええぇ、それってGHQとかが居た時代でしょ」
「ここまで来るには先人の努力があったちゅうこっちゃ。ほら、感謝して食え」
ドン
「え、もうできたんですか!?」
サラダパスタは時間がかかる。ちょっと早すぎ。
「ちょっとだけ魔法をつことる」
「ええぇ、調理に魔法を使うって、志忠屋のコンセプトから外れてません?」
「サラダパスタだけや。その分値上げはしてへんし」
「「あ!?」」
二人でメニューに目を停めてビックリ、サラダパスタ以外は100円の値上げになってる。
まあ、よそのお店はとっくに上げてるしね。
「あっちゃの方は終わったんかい?」
「マイとミ―は、まだ向こう」
「なにか幽世(かくりよ)の仕事だったんですか?」
アイ・マイ・ミーの三人、表面はここらへんのOLだけど、本業は妖仕事の請負人。
「これですよ……」
アイが指を振るとパスタの上に大海原が現れて、見覚えのある船がノロノロと進んでいる。
「あ、葦船ラー号!」
「またPFの仕事かい」
「PFって?」
「パストフィックス、過去の修理っちゅう意味や」
「過去って修理できるもんなんですか!?」
「ちゅうか、ほっとくと変わってしまうもんがあってな。放置してると違う歴史が分岐してしまうんや」
「まあ、小さいのはほっとくけどね。滝さんが魔法でパスタ作っちゃうとかね」
「文句あんのんか」
「ああ、無いっす無いっす!」
「ほんで、なんかお節介してきたんか?」
「お節介はないでしょ。みんな世のため人のためなんすから」
「滝さん、ほんとはパスタフィックとか嫌いなんじゃないですか?」
「パストフィックスにゃ!」
「あ、それそれ(^_^;)」
「あ、まあな」
「でも、今度はなんにもしてないっすよ。前回は失敗したんで、まあ、念のために付き添ったんすけど、人間は自分たちの力だけで大西洋横断したニャ」
「うん……せやったら、なんでマイとミーは残っとんねん?」
「え、ああ、帰りですよ。帰り道で沈没しちゃいけませんからね」
「帰りは船ごと貨物で運ぶんやろ」
「う~~ん『家に帰るまでが遠足』的な?」
「その念の入れ方は特務がらみの仕事やなあ」
「え、あ……」
ほとんど食べ終わったパスタの上に制服姿のお祖母ちゃんが浮かび上がる。
「え、お祖母ちゃんが絡んでたんですか!?」
「あ、あはははは……」
そのあと、ドッとお客さんが入ってきたので、お勘定を済ませて店を出る。アイさんは、滝さんに言われて洗い物とセッティングの手伝いをやらされてる。
ちょっとオッサン一人で回すには大変、パートかバイトを雇えばいいのに。
そう思って寿橋を目指すと、向こうの方に蜃気楼みたいなのが湧いて、みるみる人の形をとって、こっちに向かって来る。
え……妖!?
「あ、メグリちゃん、お店行ってたの?」
その女の人は親し気に話しかけてきた。
え、誰だろ?
「ランチタイムには間に合うようにって、近道したら、道に迷っちゃって(^_^;)」
「あ、はい……」
「お客さんいっぱい?」
「あ、ちょうど入れ違いに……」
そこまで言って、その人の笑顔で思い出した。
「ペコさん!?」
「あ、そうよね、立ち話してる場合じゃないわ。じゃあね(⌒∇⌒)」
後姿を見送りながら、今の今までペコさんのことを忘れていたのを思い出した。
多分、いや、間違いなく滝さんもアイさんも忘れていた。
いや、世界が分岐し始めていたんだ。ペコさんが存在しない世界に。
葦船ラー号は、世界と時空をぐるっと回ってこんなところにも影響を及ぼしていたのかもしれない。
家に帰ると、お祖母ちゃんが鼾をかきながら絶賛昼寝中だった。
彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ) 1年5組 クラスメート
辻本 たみ子 1年5組 副委員長
高峰 秀夫 1年5組 委員長
吉本 佳奈子 1年5組 保健委員 バレー部
横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
藤田 勲 1年5組の担任
先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
040『サラダパスタとパストフィックス』
葦船の話で盛り上がった帰り道。
戻り橋を渡っていると、無性に志忠屋のサラダパスタが食べたくなる。
サラダパスタと銘打ってるけど、まあ、冷やし中華のパスタ版、志忠屋の夏の限定メニュー。
なんか秘密の薬味が入ってるとかで、ちょっとクセになる味。
ちょっぴり汗は出るけど、食べた後、半日ぐらいは元気でいられる。
戻り橋に差し掛かったところで、スマホが着信のシグナルを奏で、渡りながら見ると、音信不通と言っていいお母さんのボーナスが振り込まれ、わたしへのおすそ分けが振り込まれたというラッキーなお知らせ。それで、瞬間でサラダパスタが思い浮かんだわけ。
戻り橋を渡って、一つ上の寿橋を渡って戻る。
寿橋を渡れば令和の宮之森。
MS銀行でお金を下ろして角を曲がると、銀行の通用口から猫又のアイさんが出てくる。
志忠屋に入るまでは耳も尻尾も出さずに普通のOLさん。
でも、なにかあったんだ。
猫又さんたちにも慣れたので、その後ろ姿でただの昼食休憩じゃないことが分かる。なんとなくだけど。
「「サラダパスタ!」」
オーダーの声が揃って、アイさんはわたしに気づく。
ポニョン
気づくと同時に耳と尻尾が出る。
「メグリには隠す必要ないもんね(^_^;)」
「ネコミミの方がかわいいのにね」
「リアルじゃ出せないからね、志忠屋はくつろぐわあ……」
「ハローウィンは一晩中出しっぱなしやけどな」
「年に一回っすよ」
「おまえらのオカンの時代はハローウィンでも出されへんかった」
「ええぇ、それってGHQとかが居た時代でしょ」
「ここまで来るには先人の努力があったちゅうこっちゃ。ほら、感謝して食え」
ドン
「え、もうできたんですか!?」
サラダパスタは時間がかかる。ちょっと早すぎ。
「ちょっとだけ魔法をつことる」
「ええぇ、調理に魔法を使うって、志忠屋のコンセプトから外れてません?」
「サラダパスタだけや。その分値上げはしてへんし」
「「あ!?」」
二人でメニューに目を停めてビックリ、サラダパスタ以外は100円の値上げになってる。
まあ、よそのお店はとっくに上げてるしね。
「あっちゃの方は終わったんかい?」
「マイとミ―は、まだ向こう」
「なにか幽世(かくりよ)の仕事だったんですか?」
アイ・マイ・ミーの三人、表面はここらへんのOLだけど、本業は妖仕事の請負人。
「これですよ……」
アイが指を振るとパスタの上に大海原が現れて、見覚えのある船がノロノロと進んでいる。
「あ、葦船ラー号!」
「またPFの仕事かい」
「PFって?」
「パストフィックス、過去の修理っちゅう意味や」
「過去って修理できるもんなんですか!?」
「ちゅうか、ほっとくと変わってしまうもんがあってな。放置してると違う歴史が分岐してしまうんや」
「まあ、小さいのはほっとくけどね。滝さんが魔法でパスタ作っちゃうとかね」
「文句あんのんか」
「ああ、無いっす無いっす!」
「ほんで、なんかお節介してきたんか?」
「お節介はないでしょ。みんな世のため人のためなんすから」
「滝さん、ほんとはパスタフィックとか嫌いなんじゃないですか?」
「パストフィックスにゃ!」
「あ、それそれ(^_^;)」
「あ、まあな」
「でも、今度はなんにもしてないっすよ。前回は失敗したんで、まあ、念のために付き添ったんすけど、人間は自分たちの力だけで大西洋横断したニャ」
「うん……せやったら、なんでマイとミーは残っとんねん?」
「え、ああ、帰りですよ。帰り道で沈没しちゃいけませんからね」
「帰りは船ごと貨物で運ぶんやろ」
「う~~ん『家に帰るまでが遠足』的な?」
「その念の入れ方は特務がらみの仕事やなあ」
「え、あ……」
ほとんど食べ終わったパスタの上に制服姿のお祖母ちゃんが浮かび上がる。
「え、お祖母ちゃんが絡んでたんですか!?」
「あ、あはははは……」
そのあと、ドッとお客さんが入ってきたので、お勘定を済ませて店を出る。アイさんは、滝さんに言われて洗い物とセッティングの手伝いをやらされてる。
ちょっとオッサン一人で回すには大変、パートかバイトを雇えばいいのに。
そう思って寿橋を目指すと、向こうの方に蜃気楼みたいなのが湧いて、みるみる人の形をとって、こっちに向かって来る。
え……妖!?
「あ、メグリちゃん、お店行ってたの?」
その女の人は親し気に話しかけてきた。
え、誰だろ?
「ランチタイムには間に合うようにって、近道したら、道に迷っちゃって(^_^;)」
「あ、はい……」
「お客さんいっぱい?」
「あ、ちょうど入れ違いに……」
そこまで言って、その人の笑顔で思い出した。
「ペコさん!?」
「あ、そうよね、立ち話してる場合じゃないわ。じゃあね(⌒∇⌒)」
後姿を見送りながら、今の今までペコさんのことを忘れていたのを思い出した。
多分、いや、間違いなく滝さんもアイさんも忘れていた。
いや、世界が分岐し始めていたんだ。ペコさんが存在しない世界に。
葦船ラー号は、世界と時空をぐるっと回ってこんなところにも影響を及ぼしていたのかもしれない。
家に帰ると、お祖母ちゃんが鼾をかきながら絶賛昼寝中だった。
彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ) 1年5組 クラスメート
辻本 たみ子 1年5組 副委員長
高峰 秀夫 1年5組 委員長
吉本 佳奈子 1年5組 保健委員 バレー部
横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
藤田 勲 1年5組の担任
先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜
あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。
そんな世界に唯一現れた白髪の少年。
その少年とは神様に転生させられた日本人だった。
その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。
⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。
⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる