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032『紫陽花の季節』

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

032『紫陽花の季節』   




 入学してから、今日で二か月。


 カレンダーが二回改まって、六月の第二週に入ろうとしている。

 商店街を抜けて学校までの家々の前や植え込みに紫陽花があるのに気付く。

 花をつける前の紫陽花は、ただの葉っぱの塊で、ツツジやさつき、バラに隠れてまるで存在感が無い。

 バラが古文の先生が余談で話してくれた卒塔婆小町(百歳の小野小町)のように茶色く萎びたころに、紫陽花の花は姿を現す。最初は地味で小振りな和菓子のようなのが、あっという間に豚まん、メロンパンくらいの大きさになって、梅雨本番。

 紫陽花だって名前の通り花なんだから、赤とか黄色とか青とかに染まればいいんだけど、ここらへんの紫陽花は、薄々緑か薄々紫。花言葉は『移り気』だから、そのうち変わらないかなあと、通学時のささやかな楽しみにしている。

「紫陽花の色って、土壌で決まるって言いますからね、ここいらは関東ローム層ですからね、リン酸系の肥料をたくさんやらなきゃまともに育ちませんよ」

 ロコは、情の無い説明でささやかな楽しみを萎ませてくれる。



 さて、二か月目の一年五組。



 最初は一時間目の予鈴が鳴るころには全員が教室に揃っていたんだけど、近ごろは本鈴が鳴っても空いている席がある。小中学校みたいに朝礼をやらないもんだから、だんだん横着になって来る。

 近ごろじゃ、先生たちも二三分遅れて授業にやってくる。「早く来ても、揃ってないだろ」という先生には、少々呆れた。生徒に規律を守らせるのは先生だ。守らせると言っても説教や嫌味を言うことじゃない。先生たちが時間を守ればいいだけの話だ。

「朝礼ぐらいやればいいのに」

 朝の無秩序に、ちょっとグチが出る。

「先生たちの朝礼が無いんだ、生徒に朝礼なんて無理だろうな」

 そう言いながら、委員長の高峰君は黒板の脇、日付と日直の名前を書く。いつもは、担任の藤田先生が前の日に書いておくんだけど、今日は忘れているんだ。

 で、今日の日直は時司……って、わたしのことじゃん!

 慌てて学級日誌をとりに行こうと廊下に出たら、ちょうど先生がやってくるところ。

 仕方ない、日誌は一時間目終わってから……て、一時間目は数学のはずなのに、やって来るのは古文の先生。

 古文は6時間目だぞ。

「ええと、話し通ってるよな、委員長?」

 わたしの疑問に気づいたのか、委員長に振るんだけど、先生が顔を向けているのは10円男の方だ。

 委員長の高峰君も不審に思って10円男に首を巡らす。

「あ、すみません、委員長に言ってる暇なかったんで、ちょっと代理でやりました」

 しゃーしゃーとぬかす10円男。

「しょうがないなあ、ま、そういういわけで、一時間目はわたしの古文だ」

 え、じゃ6時間目は? それって? ヒソヒソ声が上がる。

「先生休みで、カットカット」

 10円男が言うと、クラスの大半は紫陽花の花がいっぺんに色を変えたように喜んでいる。

 ボサボサの髪を搔きながらガハハと笑う10円男。

 高峰君はポーカーフェイスで古文の教科書とノートを出している。ポーカーフェイスだけど、あれは怒ってるよ。



 その日、五時間目で終わって帰り道、いつもの道に水たまり。一つ向こうの道から商店街に入ったら、須之内写真館の前。フラワーポットの紫陽花はきれいな赤色の花をつけていた。

「赤の紫陽花は『元気な女性』が花ことばです!」

 ロコが博識ぶりを発揮。わたしを元気づけてくれたのかもしれないけど、わたしは写真館のオネエサンの顔が浮かんだ。




☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子             1年5組 クラスメート
辻本 たみ子            1年5組 副委員長
高峰 秀夫             1年5組 委員長
吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
藤田 勲              1年5組の担任
先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長
須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館




  
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