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025『ヤミの自習だって』
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
025『ヤミの自習だって』
小中学校では毎朝の朝礼があった。
登校して、時間になると担任の先生がやってきて、日直の確認やら諸連絡。
小学校では、そのまま一時間目の授業になって、中学では担任が帰った後一時間目の先生がやってきて授業になる。
ところが、1970年の宮之森高校は、その朝礼が無い(^0^;)。
みんな真面目だから、五分前には自分の席に座ってる。当然机の上には一時間目の用意。
ときどき予鈴が鳴ってから教室に入って来る子もいるけど――遅れたあ!――という感じでサッサと用意する。
人生斜めに生きてるような10円男でも、授業そのものに遅刻することは(いまのところ)無い。
そして本鈴が鳴って、平均すると1~2分で先生がやってきて、目出度くその日の授業が始まる。
国語の杉野先生は遅く来て早く終わる。
高校の授業って50分なんだけど、杉野先生の授業は40分あるかないか。
まあ、いいけど。
今日の一時間目は、その杉野先生の現国だ。
そろそろ5分というところで、廊下で気配。
杉野先生が、後ろのドアからオイデオイデをしている。
後ろの子が気づいて――なんですか?――すると、その子にゴニョゴニョ言って、その子が委員長の高峰君に声をかける。
高峰君が廊下に出ると、なんだかヒソヒソ話。
十秒くらいで話が終わって、戻ってきたのは高峰君一人。
「一時間目は杉野先生の御都合で自習になりました、各自静かに自習しておくようにとのことです」
え? ええ? という空気が広がる。
いきなり自習と言われてもどうしていいか分からない。なんせ、入学以来初めての自習。
現国でなきゃだめなのかなあ……他の教科でもいいよね……本読んじゃだめなのかなあ……そういう真面目な戸惑いが、微笑ましく広がる。
自習って言えばスマホでしょ! この時代じゃ手鏡にしか見えないんだし!
でも、さすがに教室では憚られる。
ロコや佳奈子のとこに行っておしゃべりしたいけど、席を変わるどころか立ち歩く人もいないしねえ……と、思ったら10円男が居ない。
どこに行ったんだ?
で、三分ほどで帰ってくると、なにやら高野君に話している。
なにか説得してるみたいなんだけど、高野君はにこやかに首を振って、10円男も自分の席に戻った。
「ねえ、高野君になに言って……ていうか、抜けてどこに行ってたのよ?」
休み時間に聞いてみる。
「杉野の自習はヤミだ」
「イヤミ?」
「ヤミ」
「闇?」
「モグリだ」
「なんで?」
たしかに杉野先生は度のきつい眼鏡で、笑う時に前の歯が二本目立つとこなんかモグリ⇒モグラってのを連想する。
「正規の自習は教務の黒板に書かれるんだ。全クラスの授業時程が升目になってて、教務が把握してるものは、ちゃんと書かれる」
「そうなんだ」
「で、他の教科の先生が空き時間だったら、交渉して授業をやってもらう」
「え、どうゆうこと?」
「つまり、六時間目の地理、高橋だろ。だから高橋に一時間目に来てもらったら、五時間目が終わった時点で帰れる」
「ええ、そうなの!」
わたしの声が大きかったのか、お仲間が集まってきた。
「それで、高橋、高橋先生に交渉に行ったんだ」
「どうだったんですか!?」
ロコが身を乗り出してきた。
「『ほう、加藤、今年は委員長か』ってイヤミ言われた」
「そうか、それで、高峰君に言ってたんですね」
「いやあ、委員長も知っててね、そもそも正規の自習じゃないから入れ替えは不可だって。もう一時間目に食い込んでたし、まあ、御節ごもっともではある」
「じゃあ、朝、職員室の前で確認した方がいいわねぇ」
たみ子さんが腕組みする。副委員長として期するところがあるようだ。
「お、頼もしいなあ」
「さ、次は芸術だから移動しよう」
真知子さんが理性を取り戻して、二時間目の美術教室に向かった。
間抜けなお話を一つ。
映画の帰りにレコードを買ったんだけど、うちにはレコードプレーヤーが無かった!
☆彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
宮田 博子 1年5組 クラスメート
辻本 たみ子 1年5組 副委員長
高峰 秀夫 1年5組 委員長
吉本 佳奈子 1年5組 保健委員
横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
加藤 高明 留年してる同級生
藤田 勲 1年5組の担任
先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野
須之内写真館 証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館
025『ヤミの自習だって』
小中学校では毎朝の朝礼があった。
登校して、時間になると担任の先生がやってきて、日直の確認やら諸連絡。
小学校では、そのまま一時間目の授業になって、中学では担任が帰った後一時間目の先生がやってきて授業になる。
ところが、1970年の宮之森高校は、その朝礼が無い(^0^;)。
みんな真面目だから、五分前には自分の席に座ってる。当然机の上には一時間目の用意。
ときどき予鈴が鳴ってから教室に入って来る子もいるけど――遅れたあ!――という感じでサッサと用意する。
人生斜めに生きてるような10円男でも、授業そのものに遅刻することは(いまのところ)無い。
そして本鈴が鳴って、平均すると1~2分で先生がやってきて、目出度くその日の授業が始まる。
国語の杉野先生は遅く来て早く終わる。
高校の授業って50分なんだけど、杉野先生の授業は40分あるかないか。
まあ、いいけど。
今日の一時間目は、その杉野先生の現国だ。
そろそろ5分というところで、廊下で気配。
杉野先生が、後ろのドアからオイデオイデをしている。
後ろの子が気づいて――なんですか?――すると、その子にゴニョゴニョ言って、その子が委員長の高峰君に声をかける。
高峰君が廊下に出ると、なんだかヒソヒソ話。
十秒くらいで話が終わって、戻ってきたのは高峰君一人。
「一時間目は杉野先生の御都合で自習になりました、各自静かに自習しておくようにとのことです」
え? ええ? という空気が広がる。
いきなり自習と言われてもどうしていいか分からない。なんせ、入学以来初めての自習。
現国でなきゃだめなのかなあ……他の教科でもいいよね……本読んじゃだめなのかなあ……そういう真面目な戸惑いが、微笑ましく広がる。
自習って言えばスマホでしょ! この時代じゃ手鏡にしか見えないんだし!
でも、さすがに教室では憚られる。
ロコや佳奈子のとこに行っておしゃべりしたいけど、席を変わるどころか立ち歩く人もいないしねえ……と、思ったら10円男が居ない。
どこに行ったんだ?
で、三分ほどで帰ってくると、なにやら高野君に話している。
なにか説得してるみたいなんだけど、高野君はにこやかに首を振って、10円男も自分の席に戻った。
「ねえ、高野君になに言って……ていうか、抜けてどこに行ってたのよ?」
休み時間に聞いてみる。
「杉野の自習はヤミだ」
「イヤミ?」
「ヤミ」
「闇?」
「モグリだ」
「なんで?」
たしかに杉野先生は度のきつい眼鏡で、笑う時に前の歯が二本目立つとこなんかモグリ⇒モグラってのを連想する。
「正規の自習は教務の黒板に書かれるんだ。全クラスの授業時程が升目になってて、教務が把握してるものは、ちゃんと書かれる」
「そうなんだ」
「で、他の教科の先生が空き時間だったら、交渉して授業をやってもらう」
「え、どうゆうこと?」
「つまり、六時間目の地理、高橋だろ。だから高橋に一時間目に来てもらったら、五時間目が終わった時点で帰れる」
「ええ、そうなの!」
わたしの声が大きかったのか、お仲間が集まってきた。
「それで、高橋、高橋先生に交渉に行ったんだ」
「どうだったんですか!?」
ロコが身を乗り出してきた。
「『ほう、加藤、今年は委員長か』ってイヤミ言われた」
「そうか、それで、高峰君に言ってたんですね」
「いやあ、委員長も知っててね、そもそも正規の自習じゃないから入れ替えは不可だって。もう一時間目に食い込んでたし、まあ、御節ごもっともではある」
「じゃあ、朝、職員室の前で確認した方がいいわねぇ」
たみ子さんが腕組みする。副委員長として期するところがあるようだ。
「お、頼もしいなあ」
「さ、次は芸術だから移動しよう」
真知子さんが理性を取り戻して、二時間目の美術教室に向かった。
間抜けなお話を一つ。
映画の帰りにレコードを買ったんだけど、うちにはレコードプレーヤーが無かった!
☆彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
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ペコさん 志忠屋のバイト
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辻本 たみ子 1年5組 副委員長
高峰 秀夫 1年5組 委員長
吉本 佳奈子 1年5組 保健委員
横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
加藤 高明 留年してる同級生
藤田 勲 1年5組の担任
先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野
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