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007『ショーウィンドウの写真たちから』
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
007『ショーウィンドウの写真たちから』
「お祖母ちゃん、うちは写真館で写真とか撮ったことある?」
家に帰るまで、写真館のあれこれが頭に浮かぶ。
ショーウィンドウには、七五三の子どものや、袴姿の女子学生や、結婚式やら、記念の家族写真やら、人や家族の想いがこもった大小の写真たちが並んでいた。ドアの向こうにはスタジオが覗いていている。
写真なんて、スマホやデジカメでしか撮ったことが無いから、ちょっと新鮮。
半分以上はカラー写真なんだけど、白黒の写真もあった。昔の写真だからなのか、そういう仕様なのかは分からない。
令和の時代にも、わざとセピア色にしてレトロ感出した写真もあるしね。
……みんな真面目な顔で写ってた。校長室に並んでる歴代校長の写真みたい。
振り袖姿で微かに微笑んでる……いや、恥じらってる写真。これは見合い写真かなあ……いい感じ。
ちょっと上を向いてニコニコしている赤ちゃん。
あれは、カメラの後ろでお母さんとかがあやしてるんだろうなあ、写真屋さんも「ここからハトが出まちゅよお(^▽^)/」とか、赤ちゃんが笑った瞬間を見事にとらえてる。
B5くらいの小さな写真には梅沢ナントカさんみたいな役者さんの写真。女形さんなんだろうけど、とってもきれい。
自衛隊の隊員さんの写真。椅子に腰かけ、手は膝の上でグーにして、ちょっと凛々しい。
その横にも自衛隊……ちょっと制服が違う。え、昔の軍人さん?
1970年でも、戦後だよ、えと……25年は経ってる……割にはクリア。
下に『古くなったお写真の復元いたします』と張り紙、なるほど。
写真たちの間からスタジオや店内の様子が見える。
カウンターにはレトロなレジ。小さな写真を張ったパーテーションの後ろに手入れの行き届いた観葉植物。その向こうは薄暗くて、たぶんスタジオ。スタジオの全貌は見えないけど、ごっついスタンドの付いたカメラ。柄のところにライトが付いてアンブレラ式のレフ板? キャスター付きの衣装掛けには七五三の名残か子ども用の着物。床は、カメラの下から鈍色のパンチカーペット、天井には黒い骨組みがあって、小さなスポットライトがスタジオの奥を狙っている。
とっても雰囲気だった。
プロに撮ってもらう写真もいいなあと思いながら家路につく。
歩道に段差があるのも、不愛想な駅員にも、加速減速の度にガックンとくる電車にも慣れた。
わたしって順応性高いのかもしれない。
伝言板をチラ見すると―― 先に行く K ――が消えていた。
Kさんが確認したのか、6時間経ってしまったのか、1970年というのは想像力を掻き立てられるね。
で、家に帰ると「お祖母ちゃん、うちは写真館で写真とか撮ったことある?」と聞いてみたわけです。
「写真館?」
「うん、証明写真。説明会で写真館行って撮ってこいって、で、写真館下見したら、いい写真がいっぱいあって」
「ああ、昔はそうだったね……ええと……あったかなあ……」
お祖母ちゃんが指を振ると、あちこちの引き出しやら物入がゴソゴソ騒ぎだして一枚の写真を吐き出した。
「あ、見せて見せて!」
「ちょっと古いけどね……」
「え……どれどれ……おお!……て、なんかボケボケになったよ」
それは、ショーウィンドウで見た自衛隊の隊員さんに似た姿のお祖母ちゃん。椅子に掛けてオスマシなんだけど、数秒きれいに見えて直ぐにボケボケになってしまった。
「あ、間違えた!」
「なにぃ、この写真?」
「これはね……ちょっと危ない任務に就く前に撮る写真なんだよ」
「え、お祖母ちゃんて、ドジだから内勤だったんじゃないの?」
「最初からってわけじゃないさ。最前線のバリバリだったこともある」
「お祖母ちゃんも実戦部隊にいたんだ……でも、なんで、こんなにボケボケ?」
「これは魔法写真でね、魂ごと魔法少女を写すのよ。任務で殉職してもね、この写真があれば50%の力で蘇らせることができるのよ」
「ええ! 命が二つになるってこと!?」
「まあね、完全回復には時間がかかるけどね。お祖母ちゃんは仮死状態だったから、少しはは写真に残ったんだけど、完全に死んでしまったら、全部消えてしまう」
「そうなんだ……」
「ほら、これなんか、どうよ」
「どれどれ……わ、かわいい!」
それは、お仲間らしい四人といっしょに校庭みたいなところで撮った写真だ。
魔法少女のコスも初々しくて、入隊したての女性自衛官的緊張感の写真。
「ああ、でも写真館で撮ったんじゃないんだね」
「まあ、あんまり写真は撮らなかったからね。さあ、晩御飯にしよう、二回も説明会に行ったからペコペコだろ?」
「え、ああ……なんか、お腹空いたのも忘れるくらいかも」
「そう、今日は志忠屋に行くつもりだったんだけどねえ」
「え、それ先に言ってよ! ぜったい行くから!」
「じゃ、用意しといで、お祖母ちゃん予約しとくら」
「うん!」
長かった一日は、食べたいメニューのアレコレが頭に浮かんで目出度く終わりました。
☆彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
007『ショーウィンドウの写真たちから』
「お祖母ちゃん、うちは写真館で写真とか撮ったことある?」
家に帰るまで、写真館のあれこれが頭に浮かぶ。
ショーウィンドウには、七五三の子どものや、袴姿の女子学生や、結婚式やら、記念の家族写真やら、人や家族の想いがこもった大小の写真たちが並んでいた。ドアの向こうにはスタジオが覗いていている。
写真なんて、スマホやデジカメでしか撮ったことが無いから、ちょっと新鮮。
半分以上はカラー写真なんだけど、白黒の写真もあった。昔の写真だからなのか、そういう仕様なのかは分からない。
令和の時代にも、わざとセピア色にしてレトロ感出した写真もあるしね。
……みんな真面目な顔で写ってた。校長室に並んでる歴代校長の写真みたい。
振り袖姿で微かに微笑んでる……いや、恥じらってる写真。これは見合い写真かなあ……いい感じ。
ちょっと上を向いてニコニコしている赤ちゃん。
あれは、カメラの後ろでお母さんとかがあやしてるんだろうなあ、写真屋さんも「ここからハトが出まちゅよお(^▽^)/」とか、赤ちゃんが笑った瞬間を見事にとらえてる。
B5くらいの小さな写真には梅沢ナントカさんみたいな役者さんの写真。女形さんなんだろうけど、とってもきれい。
自衛隊の隊員さんの写真。椅子に腰かけ、手は膝の上でグーにして、ちょっと凛々しい。
その横にも自衛隊……ちょっと制服が違う。え、昔の軍人さん?
1970年でも、戦後だよ、えと……25年は経ってる……割にはクリア。
下に『古くなったお写真の復元いたします』と張り紙、なるほど。
写真たちの間からスタジオや店内の様子が見える。
カウンターにはレトロなレジ。小さな写真を張ったパーテーションの後ろに手入れの行き届いた観葉植物。その向こうは薄暗くて、たぶんスタジオ。スタジオの全貌は見えないけど、ごっついスタンドの付いたカメラ。柄のところにライトが付いてアンブレラ式のレフ板? キャスター付きの衣装掛けには七五三の名残か子ども用の着物。床は、カメラの下から鈍色のパンチカーペット、天井には黒い骨組みがあって、小さなスポットライトがスタジオの奥を狙っている。
とっても雰囲気だった。
プロに撮ってもらう写真もいいなあと思いながら家路につく。
歩道に段差があるのも、不愛想な駅員にも、加速減速の度にガックンとくる電車にも慣れた。
わたしって順応性高いのかもしれない。
伝言板をチラ見すると―― 先に行く K ――が消えていた。
Kさんが確認したのか、6時間経ってしまったのか、1970年というのは想像力を掻き立てられるね。
で、家に帰ると「お祖母ちゃん、うちは写真館で写真とか撮ったことある?」と聞いてみたわけです。
「写真館?」
「うん、証明写真。説明会で写真館行って撮ってこいって、で、写真館下見したら、いい写真がいっぱいあって」
「ああ、昔はそうだったね……ええと……あったかなあ……」
お祖母ちゃんが指を振ると、あちこちの引き出しやら物入がゴソゴソ騒ぎだして一枚の写真を吐き出した。
「あ、見せて見せて!」
「ちょっと古いけどね……」
「え……どれどれ……おお!……て、なんかボケボケになったよ」
それは、ショーウィンドウで見た自衛隊の隊員さんに似た姿のお祖母ちゃん。椅子に掛けてオスマシなんだけど、数秒きれいに見えて直ぐにボケボケになってしまった。
「あ、間違えた!」
「なにぃ、この写真?」
「これはね……ちょっと危ない任務に就く前に撮る写真なんだよ」
「え、お祖母ちゃんて、ドジだから内勤だったんじゃないの?」
「最初からってわけじゃないさ。最前線のバリバリだったこともある」
「お祖母ちゃんも実戦部隊にいたんだ……でも、なんで、こんなにボケボケ?」
「これは魔法写真でね、魂ごと魔法少女を写すのよ。任務で殉職してもね、この写真があれば50%の力で蘇らせることができるのよ」
「ええ! 命が二つになるってこと!?」
「まあね、完全回復には時間がかかるけどね。お祖母ちゃんは仮死状態だったから、少しはは写真に残ったんだけど、完全に死んでしまったら、全部消えてしまう」
「そうなんだ……」
「ほら、これなんか、どうよ」
「どれどれ……わ、かわいい!」
それは、お仲間らしい四人といっしょに校庭みたいなところで撮った写真だ。
魔法少女のコスも初々しくて、入隊したての女性自衛官的緊張感の写真。
「ああ、でも写真館で撮ったんじゃないんだね」
「まあ、あんまり写真は撮らなかったからね。さあ、晩御飯にしよう、二回も説明会に行ったからペコペコだろ?」
「え、ああ……なんか、お腹空いたのも忘れるくらいかも」
「そう、今日は志忠屋に行くつもりだったんだけどねえ」
「え、それ先に言ってよ! ぜったい行くから!」
「じゃ、用意しといで、お祖母ちゃん予約しとくら」
「うん!」
長かった一日は、食べたいメニューのアレコレが頭に浮かんで目出度く終わりました。
☆彡 主な登場人物
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